「今日もいい朝ね!」
俺は寝惚けてるだけだ。こころがこんなところにいるはずがない。いくら恋人だろうと勝手に部屋に入り込むなんてことはできないはずだ。そもそもこころに俺ん家の鍵は渡していないし。
「・・・気のせいだな。寝るか」
「ダメよ!こんなにいいお天気なのに外に出ないなんて勿体ないわ!」
勢いよく布団が剥ぎ取られる。
彼女は『弦巻こころ』。ハロー、ハッピーワールド!のボーカルで、弦巻家という大富豪のご令嬢だ。
「あのな、こころ。今何時だと思う?」
「7時ね!」
「大正解だ。そして俺の活動時間は時間が2桁台に突入してからだ。つまり?」
「布団から出たいと思わせればいいのねっ」
違うわ!そうじゃねんだよ!もうちょい寝かせてくれってことなんだよ!
しかしこころにそんなことを言ったところで素直に従ってくれた試しがない。むしろ、なんやかんや言いつつこちらが流される始末だ。
このまま駄々をこねても後々疲れるだけ・・・・・・従った方が身のためか・・・
「・・・はぁ、わかったわかった。で、外に出るんだったか?」
「ええ!」
「何するかは決まってるのか?」
「いいえっ。これから考えるわ!」
「さあ、寝るか」
考える間などいらなかった。無計画でこんな朝早くから外に出ようだなんてどうかしてる。
「だから、寝るのはダメなのよ。お外に行くのだからっ」
被った布団を再び剥ぎ取られる。
こんにゃろ・・・
「外行くったって何にも考えてないんだろ?」
「じゃあ、何かを決めればいいのね?」
「まあ、それなら・・・」
そうして頭を捻り始めるこころ。数分唸っていたが何かを閃いたようだ。
「美咲たちも呼んで公園で───────」
「却下だ、バカタレ!!」
美咲たち、いつもこんな感じで巻き込まれてるのか・・・
マジごめん。俺の彼女がいつもご迷惑をおかけ致しまして。
心中で謝るとどこからか、全くだよ、もう・・・と聴こえてきたような気がした。
───────ほんとごめんなさい。マジでごめんなさい。
「うーん、中々難しいのね・・・」
「いや、行かないという選択肢はないのか」
「ないわ!」
「左様ですか・・・」
弾けるような笑顔で俺の提案は却下されてしまう。
「こころ様。お耳にお入れしたい情報がございまして───────」
「うおっ、いつの間に!?」
いつの間にやら黒服さんにまで侵入されていた。
部屋、鍵つけよっかなぁ・・・
セキュリティ強化を検討していると、黒服さんに何やら耳打ちされたこころが勝気な顔で言う。
可愛い。え?めっちゃ可愛くない?今の顔。・・・・・・いや、そうじゃない。なんかすげー不安なんだけど。
「温泉に行くわよ!」
「はい?」
というわけでやって参りました、温泉。
なんでだよ。そんな気軽に来れるもんじゃないだろ、こんな温泉。
現在
だが、弦巻家にかかればこんな場所にも気軽に来る事ができる。なんて言ってもここ弦巻家が運営する旅館だし。そんで貸切だし。流石弦巻家のご令嬢。・・・・・・お金あんまないんだけど大丈夫なんだろうか。
「心配いらないわ。パパが気を利かせてくれたの」
「・・・そっか。なら、楽しんだ方が恩返しになるか」
こういう事は間々あるが、こころが自分から何かを強請ったことはない。俺の知る限り、だが。
確かに彼女の家はお金持ちでこころは望めば何でも手に入る環境にいるだろう。しかしこころ自身、それを良しとしない。何事も自分でやりたいんだそうだ。
まあ、こうしてこころのお父さんが愛娘のために張り切ることがあるのも確かだが。
「・・・・・・で、なんで俺お前の頭洗ってんだ?」
「せっかくパパが貸切にしてくれたんだもの!それに・・・一度、誰かに洗ってほしかったの!」
小型のバスチェアに腰掛けはしゃぐ目の前のこころ。その度にバスタオルに隠された2つの果実が上下に揺れるのが視界に入る。・・・・・・正直、目に毒だ。
他の女の子の成長度合いはわからないが、こころはかなり発達が活発な気がする。なので、今の状況は男としては非常に辛いものがある。
「じゃあ、流すぞー」
「ええ、お願いっ」
彼女の返事を確認してから頭からお湯を被せて、泡を洗い流す。
「ん〜!とっても気持ちよかったわ!他人に頭を洗ってもらうのってこんなに気持ちいいのねっ」
「そりゃよかった」
「今度はこっちも──────」
「そっちは自分で洗ってくれ!頼むから!!」
何となく嫌な予感はしてたが、まさか頭以外も洗ってくれと言いだすとは・・・・・・いくら恋人とはいえそういうのはまだ早い・・・・・・はずだ。
「むぅ・・・仕方ないわね。なら次はあたしが貴方を洗ってあげる!」
「え、いや、俺は別に・・・」
しかしこころはそんな事聞く耳持たずで、既に手でシャンプーを泡立てていた。
潔く諦めるしかないか・・・
結論から言うと、人に頭洗ってもらうのめちゃめちゃ気持ちよかった。
ちなみに体は死守した。だって、まだ当分は清いままでいたいんだもの。
「ふう・・・」
はしゃぎ疲れたのか頭を肩に載せてくるこころ。彼女の湿った輝く金髪がさらりと俺の胸元ら辺にかかる。
「温泉なんて久々に入ったけれどこんなにいいものだったのね・・・・・・貴方がいるからかしら」
「・・・・・・ど、どうなんだろうな」
正直心臓の鼓動が早すぎてそんなことを気にしている余裕はなかった。
「ねぇ・・・」
「・・・・・・ん?」
隣を振り向くと、こころと視線が交わる。その瞳は潤んでいる気がした。そして、瞳が閉じられる。2人の唇が重なるのはすぐの事だった。
「・・・また来たいわ。こんなに心があったくなるのだもの・・・」
「・・・・・・当分は勘弁してくれ」
次に一緒に入るのはきっと・・・