推しとイチャイチャするだけのお話   作:なぁくどはる

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不発の大号令

 

「はぁ・・・」

「どうしたんだ、ひまり?そんなため息ついて」

 

 ようやく夏休み中の登校日も終わり、あとは休みを謳歌するだけとなった。しかし、何やらひまりの様子がおかしく、それに気付いた巴が問いかける。

 

「ひまり、もしかして・・・」

 

 口調こそ疑いが孕んでいたが、そこに乗せられた蘭の感情には確信の色があった。

 

「え〜、ひーちゃんまたなの〜?」

「ま、まだ何も言ってないよ〜!」

「いや、すんごいデジャブだったし」

 

 実は去年の夏もこういう事があった。

 あの時も登校日の帰り道でひまりが元気なさげにしていたのが事の発端だった。

 

「うっ・・・」

「ひまりちゃん・・・」

「つぐまで〜!」

 

 どうやら、また夏休みの宿題を溜めてしまったらしい。

 

「・・・一生のお願いは去年使ったからもう無理だぞ」

「え〜、そんな〜!手伝ってよ〜!!」

「去年の時点でもう何回か使ってたけどね〜」

 

 最後通告をしたが、案の定泣きつかれてしまう。

 

「・・・・・・はぁ、わかったわかった。俺は構わないよ」

「やった〜!さっすが私の彼氏!!」

 

 惚れた弱みというやつか、ひまりにはとことんまで甘くなってしまう。そして、こういう時は大概・・・

 

「あんた、ほんとひまりに甘いよね」

 

 そう、蘭が注意してくるのだ。

 

「確かに〜。去年もなんやかんかで一番最初に折れたの君だったよね〜」

「・・・・・・そんな事ないし」

「わ、私は君のそういう優しいところすっごくいいと思うよ!」

 

 今はつぐのフォローが物悲しい。

 

「アタシもいいぜ。実はアタシも宿題まだ残ってたんだ」

「巴も?珍しいな」

「まあ、ちょっとだけだけどな」

 

 真面目な巴にしては珍しいと思ったが量はそんなにないらしい。30分もあれば終わりそう、との事だった。

 

「そういえば、去年だったらモカは終わってるって言ってたけど今年はどうなんだ?」

「ふっふっふ〜、バッチリよ〜」

 

 モカはこんな感じでマイペースで宿題とかは溜めてそうなのだが、こう見えて勉強できるのだ。そして、宿題とかもそれなりにキチンとしている。たまに忘れてるが。

 

「てことで、モカちゃんも手伝ってしんぜよ〜」

「モ、モカ神様〜!!」

 

 ・・・これ、去年も見たな。

 

 結局、蘭とつぐも参加する事になり去年と同様につぐの家で勉強会と相成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、やっぱつぐん家のコーヒーは美味いな」

「毎度ありがとうございます♪」

 

 あの後、つぐの家に全員で向かい現在は勉強会前の一息となっている。

 

「で、何が終わってないんだ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「おい、こっち向け」

「ごめん!!国語と英語と歴史と理科と数学が──────」

「全部じゃねぇか!!」

 

 まさかのパーフェクトだった。正直甘く見ていた。というか、ちょっとは終わってるだろうという前提で教える気でいた。・・・・・・ん?ちょっと待て。

 

「今『数学』って言ったか?」

「え?うん、言ったけど・・・」

 

 何か嫌な予感がしてきた。それは皆も同じようで、全員が複雑な表情をしている。

 そんな中、蘭がひまりに恐る恐る問う。

 

「・・・ねぇ、ひまり。参考書とかって持ってるの?」

「え?当たり前だよ〜。去年もやっちゃったし今年は・・・」

 

 鞄を漁ったまま動かないひまり。この後起こる事はきっと皆予想できていただろう。予想というよりは確信と言った方がいいかもしれない。

 

「・・・・・・今年も一緒に取りに行ってほしいってお願いしたら、怒る?」

 

 ひまり以外の全員の想いが一つになった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけでやって参りました、夜の学園。

 あの一言の後、ひまりへの不満が爆発し全員に何らかの返礼がする事が約束された。

 

「・・・あたしは別に来なくてもよかったんだけど」

「え〜、らん、怖いの〜?」

 

 蘭をからかっているモカとそれに対して怒りを露わにしている蘭を見て心を和ませているうちに目的の教室に着いたようだ。

 

「あ、あった!あったよ、皆!」

「そりゃよかった。んじゃ、さっさと帰ろうぜ。また閉じ込められても面倒だし」

 

 実は去年もこうして学園にひまりの忘れ物を取りに来たのだが、警備員さんに誤って鍵を閉められてしまい出られなくなってしまったのだ。

 

「そ、そうだな。早く出よう・・・・・・あんな思いは二度とごめんだし

「・・・巴の言う通りだよ。早く行こう」

 

 俺と巴と蘭の意見が反映される形で早々に学園をあとにする事になったのだが・・・

 

「・・・ん?」

「どーしたの〜?」

「・・・開かない」

「ちょ、ちょっと。そういう冗談はいいって。早く開けてよ」

 

 蘭に催促されるが本当に開かないのだ。押したり引いたりしてみるが、一向に開く気配がない。

 

「・・・・・・嘘でしょ」

「・・・・・・またなのかよ」

 

 こうして俺たちは去年に引き続き、夜の学園に閉じこめられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閉じこめられてしまった俺たちは、脱出するべく案を練り始めていた。

 

「やっぱり去年と同じように体育館の非常口から出るのがいいんじゃないか?」

「で、でも!あそこは・・・」

「うーん・・・流石のモカちゃんもちょっとね〜」

「わ、私もなるべくあそこ以外がいいかな・・・」

「ア、アタシも別のところの方が・・・」

 

 なんと満場一致の却下だった。

 

「・・・仕方ない。俺が他のところから出られないか見てくるから全員ここで待っててくれ」

「う、うん。気を付けてね・・・」

 

 愛する恋人からの気遣いにしっかりと返事をしてから別の出口を探して校舎内を歩き始めるのだった。

 

 


 

 

「・・・ねえ、アイツ遅くない?」

「確かに・・・もう1時間ぐらいは経ってると思うけど・・・」

 

 私の恋人である彼が他の出口を探しに行ってからもう随分と時間が経っている。

 

「モカちゃんも心配だな〜」

「アタシもちょっと心配だ・・・・・・皆で探しに行くか」

 

 皆、私の恋人を心配してくれている。巴は探しに行こうとまで言ってくれた。

 

「こ、怖いけど、私も心配だしお願いしてもいいかな?」

 

 一人では不安だったので皆に着いてきてくれるよう頼んでみると、了承の意が返ってくる・・・・・・私は本当に良い友人をもったと思う。

 

「とりあえず、近場から探してみるか」

 

 巴の提案で近くから探してみる事になったのだが・・・

 

「いない・・・な」

「どこ行っちゃったんだろう・・・」

 

 近くの教室を調べてみたが彼の姿はなかった。見当たらない彼に頭を悩ませていると、モカが思い出したかのように口を開く。

 

「そういえば、七不思議変わったのって知ってる〜?」

「な、七不思議って確か・・・」

 

 去年の今頃もそんな話をしていた事を思い出す。

 

「・・・・・・モカ、その話はいい」

「あれ〜?らん、どーしたの〜?」

「うっさい!」

 

 いつものように仲良くしている二人を見てると和むが、モカの一言で空気が凍りつく。

 

「そうそう。七不思議なんだけどね〜、ある時間にある廊下を通ると異世界に引き込まれるってやつがあるんだって〜」

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

「ま、まさかアイツその廊下を・・・?」

「モ、モカ!その場所と時間ってどこなの!?」

「あたしも聞いた話だから詳しい事はわからないんだ〜。ごめんね、ひーちゃん」

 

 謝ってくれるモカに気にしなくていいと伝える。しかし、それが本当だったとしたらもう彼には・・・

 

「大丈夫だよ、ひまりちゃん!この前の七不思議だって結局は何ともないのもあったみたいだし、何よりあの人なら大丈夫!ひまりちゃんを置いていったりしないもん!」

 

 こういう時はいつもつぐが助けてくれる。つぐの言葉に納得した私は彼の捜索を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の捜索から一時間程が経った頃。私たちは途方に暮れていた。

 

「・・・だめだな。アイツの姿も見えないし、出口もない」

 

 巴を始め、皆この状況に参ってしまっている。ここはリーダーの私が頑張らなければ・・・!

 

「だ、大丈夫だよ、皆!彼もすぐに出てきてくれるし、出口だってもうちょっと探せばすぐに──────」

 

 その時だった。廊下の向こう側から足音が聴こえてきたのは。

 

「──────!もしかして、アイツなんじゃ・・・!」

「うん、きっとそうだよ!よかったね、ひまりちゃん!」

「これにて一件落着だね〜」

「まだ終わってないけどな」

 

 彼が戻ってきた事に皆安堵の表情を見せる。しかし、すぐに異変に気付く。

 

「・・・・・・そういえば、あたしたちの履いてるのって学園指定の上履きだったよね〜」

「そうだけど・・・」

 

 何かに気付いたらしいモカがそんな事を訊いてくる。

 今は園内だし校内指定の上履きのはずだ。

 

「・・・・・・だったら何でこんなに高い足音がするのかな〜?」

「「「「───────!」」」」

 

 モカの言う通り、先程から聴こえているのはカツンカツンというヒールの高い靴で歩くような音なのだ。

 私たちが履いている上履きでは絶対に出ることのない音だ。

 

「じゃ、じゃあ別の誰かって事・・・?」

「そ、それってつまり・・・」

 

 全員で顔を見合わせる。走り出したのは一斉だった。

 

「「「「「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」

 

 しかし、足音も私たちに釣られ歩くペースを速める。

 

「やばいやばいやばい・・・!」

「モ、モカちゃんもちょっとピンチかも〜」

「〜〜〜!」

「こんなのだめだろ・・・!」

 

 皆もこの展開は予想外だったようだ。つぐに至っては声にならない声をあげている。かくいう私も、瞳から溢れる涙を抑えきれない。

 

「み、皆!あそこの教室に入ろう!」

 

 私が指さしたのは『3-A』と書かれたプレートが備え付けられた教室だった。運良く鍵は空いていたようで、全員で中へ飛び込む。

 

「はぁ・・・はぁ・・・!あんなのだめでしょ・・・!」

「流石のモカちゃんももうダメかも〜」

「わ、私ももう・・・」

「アタシだってこういうのはダメなんだよ・・・!」

 

 モカは余裕が伺える発言をしているが、他の皆と同様にその身体は震えており表情も真っ青だった。

 そして、再びあの足音が聴こえる。

 

「ひっ・・・!もう無理・・・ほんと無理・・・!」

 

 教室の前まで来てそこで止まる。窓には何者かの影が映っている。

 

(お願い、助けて・・・!)

 

 愛しい彼に助けを求める。

 その祈りが通じたのか、別の足音が聴こえてくる。今度の足音はリノリウムの床を叩くような音だったり、こするような音だ。私たちが聞き慣れた音。その音が教室の前で止まり、勢いよく扉を開く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・こんなとこにいたのか」

「「「「「う・・・」」」」」

「う?」

「「「「「うぁぁぁぁぁん!!!!!」」」」」

「え、ちょ、何なの!?」

 

 ようやく会えた愛しい彼に抱き着かんばかりの勢いで迫る。そんな私たちに驚いている彼を放っておいて私たちは彼の温もりや他のメンバーの温もりを感じ、涙を流すのだった。

 

 


 

 

「・・・もうほんとこれっきりにしてくれよ」

「うぅ・・・ごめんなさい・・・」

 

 あの後、結局去年と同様に体育館の非常口から学園の外へ出る事ができた。去年とは違い、幽霊云々を仄めかす事も起きず普通に脱出する事に成功した。・・・ひまりたちは何やら怖い思いをしたようだが。

 

「ほんとに頼むよ、ひまり・・・」

「モカちゃんからもお願い〜」

「私も今回だけにしてほしいかな・・・」

「悪いけど、アタシも同じ意見だな・・・」

「はい・・・ごめんなさい・・・」

 

 そして、蘭やモカ、つぐみに巴を家まで送り届けた後。最後にひまりと、二人になる。いつもの流れだ。

 

「ほんとごめんね・・・」

「いや、俺よりひまりたちの方が怖い思いしたみたいだし。もう謝らなくてもいいよ」

「うん・・・」

「その・・・今日なんだけど・・・一人で大丈夫か?」

 

 繋いだ手から伝わるように、紡いだ言葉から伝わるように優しく語りかける。

 

「それって・・・」

「まあ、そういう事・・・だな」

 

 少し笑顔を見せてから、じゃあお願いするねっ、と返事をくれる。そして少しの逡巡の後、ひまりが目を閉じる。

 

「・・・んっ」

「・・・・・・これで大丈夫か?」

「・・・んー、まだもうちょっと」

「・・・・・・あと一回だけな」

 

 こうして、夜道に二人で人知れず抱き合いながら唇を重ねるのだった。

 

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