「全部持った?」
「お弁当に飲み物、ブルーシート・・・・・・ん、大丈夫」
「ほんじゃ、行くか」
頷く蘭と玄関を潜り鍵をかける。
「晴れてよかったな」
「ひまりとつぐみはてるてる坊主作ってくれたって」
「マジかよ。何あの子たち、いい子なの?」
「当たり前じゃん。あたしの親友たちなんだから」
小柄な彼女には少々似つかわしくない膨らみがある胸を張りながら自慢げな表情で言う。
その仕草に思わず目線が胸元に移りかけてしまうが、慌てて視線を外す。
「・・・・・・・・・・・・今ちょっと見てたでしょ」
「・・・・・・・・・・・・見てない」
・・・・・・どうやら蘭にはバレバレだったようだ。
「はぁ・・・・・・別にあんただったら・・・その、あたしは・・・」
やばい。何この子。めっちゃ可愛い。今すぐピクニックの予定キャンセルしてお持ち帰りしたい。
しかし、いかんせん変な空気になってしまった事は否めないので咳払いをひとつ入れて仕切り直しを図る。
「んっ!・・・・・・今日はどこまで行くんだっけ」
「だから、駅近くの広場だって」
「あ〜、そういやそうだったな」
実は駅の近くには、少し広めの草原スペースみたいな場所がある。今回のピクニックデートはそこが目的地というわけだ。
「・・・・・・ちょっと遠くない?」
「あんた最近運動不足だから丁度いいじゃん」
「違う。運動不足なんじゃなくて運動する機会がないだけだ」
しかし蘭にはこういう言い訳は通用せず大体、はいはいと受け流される。今回も例に漏れずそうなってしまった。
・・・・・・ちくしょう、蘭のスルースキルが上がってるのは絶対モカのせいだな。
俺は頭の中で
「あんたには長生きしてほしいんだからなるべく健康でいて」
「へーい・・・・・・・・・・・・ん?それって・・・・・・」
「───────〜〜〜〜っ!ち、ちがっ!あ、あたしは別にそういうつもりで言ったんじゃ・・・!」
「はいはい、ちゃんとわかってるから大丈夫だぞ〜」
「・・・・・・後で一発殴るから」
「ごめんなさい」
満面の笑みでからかったらえげつないカウンターが飛んできて思わず反射的に謝罪してしまった。蘭を怒らせるとろくな事にならないのだ。長年の経験でそういう時は無意識で謝る癖がついてしまった。
道中そんなやり取りもあったが、1時間弱程かけて目的の広場に到着する。
「・・・・・・風が気持ちいい」
「確かに。こうやって自然に囲まれるのもいいな」
でしょ?と隣の蘭の同意を求める声に、肯定の意を示す。
適当な木陰を見繕い、シートの上に二人で座る。
「・・・・・・なあ、これちっちゃくない?」
「そ、そんな事ないし」
・・・変だ、明らかに。蘭は普段あまり表情を変えない子だが、だからこそ些細な変化は見分けやすい。今のは嘘をついている反応だ。
まあ、小さいと言っても肩と肩が触れ合う程度なので特別問題はないと思い置いておく事にした。
・・・・・・めっちゃ当たる肩に意識がいってる気がしないでもないが。ていうか、全神経を集中しているまである。
「───────?どしたの?」
「・・・・・・え、あ、いや、なんでもない。なんでもないぞ、うん」
「・・・・・・・・・・・・」
蘭から冷ややかな視線が浴びせられる。思わず目線を逸らしてしまう。
しかし蘭はため息をひとつついた後、いそいそと弁当や飲み物の準備を始めた。
蘭が何を求めてるのかはわかっている。けど、なんというか・・・蘭と付き合ってかなりの月日が経つが、正直どれだけ年月を重ねようが蘭のような美人に
「はい、準備できたよ」
「・・・・・・おう」
明らかにおかしかっただろうが、蘭はそれを追求することはしなかった。
・・・いやあ、俺の彼女できすぎじゃない?
「・・・・・・ちょっとずつでいいから。あんたなりのペースで、いいから」
「───────!・・・・・・さんきゅ」
やばい。俺の彼女がカッコよすぎて惚れそうだ。あ、いや、もう惚れてるわ。てことは、惚れ直すだな。惚れ直したわ。
気を取り直して、二人で詰めた弁当に箸を伸ばす。二人で詰めたと言っても作ったのはほぼ蘭で俺は本当に詰めただけだ。
・・・・・・料理覚えよっかなぁ。
「ん、美味い」
「・・・・・・そう」
あ、照れてる。めっちゃ可愛い。お持ち帰り・・・・・・はダメだったな。ちくしょう。
そんな葛藤はさて置き、すっかり蘭には胃袋を掴まれてしまった。もう蘭の料理じゃなきゃ生きていけないレベルだ。
・・・・・・でもなぁ、蘭ばっかに料理やらせるのもなぁ。よし、やっぱり俺も料理覚えよう。
「なぁ、蘭」
「?」
「今度、料理教えてくれよ」
「え・・・・・・」
蘭が箸をぽとり、と落としかけたのをすんででキャッチする。
「あっぶね!・・・え、なに、どしたの」
「・・・こっちのセリフなんだけど。急にどうしたの」
「いや、蘭にばっかり料理作らせるの悪いなぁって」
「別にあたしは・・・」
急にモジモジしだす蘭。一体どうしたのだろうか?
とりあえず、蘭が喋り始めるまで待ってみる事にする。
「・・・・・・別にあたしはあんたに料理作るの・・・その・・・嫌いじゃない、というか・・・あんたに食べてもらって美味いって、言ってもらうのが好き・・・というか・・・」
「──────────」
後になるに連れてどんどん整った顔が紅く染まっていく。
・・・・・・え、何、この胸の高鳴り。やばい、俺まだこの子の事好きになれるの?蘭ちゃん強すぎない?
「・・・だ、だから!あんたは無理に料理覚えなくても・・・」
「───────はっ!・・・そ、そっか。じゃ、じゃあ蘭が辛くなったらまた言ってくれ」
「う、うん・・・」
二人して顔を逸らしてしまう。しかし、お互いの顔が紅くなっているのは見えなくともわかった。
「ごっそさん」
「お粗末様」
蘭特製弁当を食べ終えて今からはくつろぎタイムだ。この木陰から微かに差し込む陽日が心地良い。お陰で今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
「・・・眠くなってきた?」
「・・・いや、大丈夫・・・」
蘭が何やら言っているようだが眠気が勝ってしまい、上手く聞き取れない。
「・・・・・・おやすみ」
額に感じた柔らかい感触と蘭の澄んだ声を最後に俺は意識を手放した。
「ん・・・・・・」
「起きた?」
「ん〜・・・・・・おき、た・・・」
どんどん頭が覚醒してくる。こちらを見下ろす蘭の顔、頭の下に感じる柔らかい感触。間違いない、膝枕だ。
「ご、ごめん!すぐ退くから!」
「んーん、このままでいいから」
そう言われて肩を押さえつけられてしまう。
「いやでも・・・」
どれぐらい眠っていたのかわからないが、あたりは朱くなっていた。その時間まで膝枕を続けるのは相当な負担だっただろう。シートを敷いてあるとはいえ、その下は草でさらに下は地面になっている。その状態を続けて足に負担がかからないはずがない。
「いいの。あたしがやりたいんだから」
「・・・・・・辛くなったら言ってくれ」
「ん」
こういう時の蘭は絶対に引かないので、いつも俺が折れるのがお決まりとなっていた。
「・・・・・・蘭」
「ん?」
「いつもありがとな」
「どしたの、急に」
「いや、なんか言っとかないとな〜って」
「なにそれ・・・・・・・・・・・・こっちこそだよ」
「・・・・・・これからもよろしく」
「うん、よろしく」
俺たちは微笑み合ってから、人が少なくなり始めまるでこの世界に二人だけしかいないように感じる広場で人知れず唇を重ねた。
「・・・・・・あたし、さっきはあんたのペースでいいって言ったけど───────」
「わかってるよ・・・・・・その、今日は・・・なるべく頑張り、ます・・・」
「・・・・・・ふふっ、なんで敬語なの」
「うっせ!こう・・・なんて言うか・・・緊張すんの!俺も!」
あんたらしくないだとか、蘭だって可愛すぎるだとか、そんなくだらないやり取りをする二人の影が地面には伸びていた。