「私は・・・その・・・貴方の事が・・・」
「・・・・・・!お、俺も・・・君が・・・」
暫しの間黙ったままだったが、やがてどちらともなく顔を近付けていく。そしてそのまま・・・
「って、待て待て!フリだけだろ、フ・リ!」
「あら、そうだったかしら」
「お前、台本ちゃんと読めよ・・・」
危うくキスするところだった。あ、いや別に嫌な訳ではないが。寧ろウェルカム。
「失礼ね。読んでいるわよ。私が出演する作品なのだし」
「その割にはお前マジでキスするつもりだったろ」
「ええ」
さも当然のように言ってのける目の前の綺麗な
そんな事を考えつつ台本に従わない千聖にジト目を向けていると・・・
「・・・だってキスしたかったんだもの」
「・・・・・・・・・」
可愛い。
普段の千聖なら絶対に有り得ない発言だ。芸能人である彼女は人一倍人目があるところでの発言や言動には気を遣う。そんな千聖がそっぽを向いて唇を少し尖らせながら言うのだ。叶えてあげたいと思うのは甘いんだろうか。
「・・・・・・・・・一通りやってからな」
「──────────!ふふっ、貴方のそういう優しいところ好きよ?」
からかうような表情でそう言う千聖。そんな表情ですら綺麗なのだからタチが悪い。・・・・・・・・・本当にタチが悪い。
「ふう・・・とりあえずこんなもんか?」
「ええ、ありがとう。とても助かったわ」
芸能人である千聖とは違いただの一般人である俺の演技力なんてたかが知れてるだろうが、そう言ってもらえると頑張った甲斐があったというものだ。
「にしても・・・千聖があの映画に出るなんてなぁ」
「私だって予想していなかったわ。運が良かったのよ」
「まあ、運も実力のうちって言うしな。それに今回の監督さんみたいに千聖が頑張ってるのを見てくれてる人はいると思うぞ」
「そう・・・よね。このチャンスを逃さないようにしなくちゃ」
張り切っている千聖を見ていると頑張り過ぎところがあるから少し心配だが、そこは俺が気を付ければいいだけの話だ。
「それにしても・・・」
「──────────?」
「・・・・・・・・・キスはいつなの?」
「え」
「お預けはあまり好きではないのだけど」
・・・・・・・・・待ってたのか。今まで。けど、我慢できなくなったのか。てかどんだけキスしたいんだよ、こいつ。
「あ、そう言えば別の作品なのだけどベッドシーンが──────────」
「やめろ。今すぐ出演キャンセルだ」
「・・・冗談よ。怖いからその目はやめて頂戴」
「焦るわ。そういう冗談はやめてくれ」
「けど、いつかはくるかもしれないし今のうちに、ね?」
可愛い彼女のおねだりに迷う時間すら惜しかった。
あれから俺たちは寝室に移動して、2人並んでベッドに身を埋めていた。
「・・・添い寝ってこんな感じなのね」
「嘘つけ。お前休みのたんびに俺ん家来て一緒に寝るってきかないだろうが」
「そうだったかしら?」
こいつ・・・ほんっと・・・
「でも、貴方も好きでしょう?こうして私と寝るの」
「言い方。その言い方やめろ」
妖艶な表情で俺にそう言う千聖。・・・その顔外で絶対するなよ。
「何か間違った事言ったかしら?」
「いや、言ってないんだけど・・・」
「じゃあ、いいじゃない」
そう言って俺の胸元に飛び込んでくる。
・・・あ、やばい。なんかいい匂いする。鼻をくすぐる髪はさらさらしていてとてもくすぐったい。それに彼女の柔らかさが服を通して伝わってくる。
・・・相変わらずこの状態慣れねぇなぁ。
「このままシちゃう?」
「・・・・・・・・・まだ昼だからやめとく」
「ふふっ、『まだ』ね・・・」
「・・・なんだよ」
「いいえ、なんでも」
嬉しそうに笑う千聖。
彼女の笑顔はとても綺麗だ。普段の芸能人然とした笑顔も綺麗だが、年相応の笑顔もそれと同じくらい綺麗だと思う。いや、寧ろ素の彼女を感じられるのでこっちの笑顔の方が俺は好きだったりする。
「夜が楽しみだわ」
「まあ、その前に晩飯だな」
「そうね・・・すっぽん鍋なんて──────────」
「オムライス。オムライスにしよう。オムライスがいい」
何回ヤらせる気なんだよ・・・
「チッ・・・貴方オムライス好きよね」
「おい、舌打ちやめろ。聴こえてんぞ」
「はぁ・・・じゃあ、スーパーに食材を買いに行きましょうか」
「おう」
2人してベッドから抜け出し、いそいそと着替え始める。時計を見るとお昼過ぎといった時間帯だった。買い物して料理を始めればいい時間になるだろう。
「おーい、千聖〜」
「今行くわ」
彼女は有名人なのでしっかりと変装を行う。
「よっしゃ行くか」
「ちょっと待って」
「ん?」
振り向くと瞳を閉じ唇を突き出す彼女。あ、そういえばまだしてなかったっけ。
「んっ・・・」
「・・・・・・・・・これでいいか?」
「本当はもう少し欲しいけど夜まで我慢するわ」
「そうしてくれ」
そう言うが口許が緩みまくっている。ほんとに女優なのか、こいつ・・・
扉を潜る俺たちの右手と左手は固く結ばれていた。