「なんというか・・・のどかなとこだな」
「アハハ・・・ま、まあ、確かに周りは田んぼばっかりだケド見た目通り中はすっごくキレイだよ☆」
「そうですね。それに交通量もあまり多くないので練習に集中できます」
「どんだけ練習したいんだよ・・・」
外の車の音すら気になるとか紗夜、感覚鋭すぎない?
「あ、暑い〜」
「だ、大丈夫?あこちゃん・・・」
「あこもへばってるし早く入ろうぜ。友希那、鍵は?」
「少し待って」
そう言って友希那が自身のカバンをごそごそし、1つの鍵を取り出す。その鍵を目の前にある建物の扉の鍵穴に差し込み回転させるとガチャリ、と音を立てる。どうやら開いたようだ。
「さあ、荷物を置いたらさっそく練習よ」
友希那を先頭に続々と建物に入ってくRoseliaのメンバー。
(というかなんで俺まで・・・)
彼女たちの後ろ姿を視界に入れながら今回の経緯について思い返す。
「合宿?」
「うん☆」
「どこに?」
「ん〜、海あるとこ?」
「Roseliaで?」
目の前のリサの
「海あるとこってどんくらいかかんの」
「ん」
そう訊ねるとリサがスマホで何かを入力した後こちらに画面を見せてくる。そこには目的地までの道のりや交通手段、到達時間などが表示されていた。
「は〜、結構かかるもんだな」
そこに表示されている到達時間は『52分』となっている。当日の交通状況とかを鑑みても大体1時間弱ほどだろう。
「で、いつ行くんだよ」
「明日」
「明日ね、りょーかい。・・・・・・・・・はぁ!?明日!?」
「うん☆」
満面の笑みで返事をするリサ。
「・・・・・・・・・聞いてないんですけど」
「今言ったからね」
「こんにゃろ・・・」
「てことで!」
すっ、と俺の膝の間から立ち上がり振り返る。
「明日の準備しといてね!」
「・・・・・・・・・はい?」
(今思い出してもひどい説明だったな・・・)
前日まで何一つ知らされずこの日を迎えている。
それでもキチンと来るあたり俺も律儀な男だ。いやまったく、惚れ惚れする。俺が女だったら、こんな良い男ほっとかないぜ。
そんなバカみたいな事を考えているうちに全員がリビングに集合していた。
「じゃあ、私は曲を作るからその間・・・」
「うん、みんなで練習しとくよ☆」
「お願い」
それだけ伝えると友希那は机に作業用のパソコンを置き、ソファに座って作業を始める。
リサたちは音を合わせるつもりのようだ。
(にしても改めてこの状況・・・いくら俺がリサと付き合っているといっても彼女以外の女の子と一つ屋根の下というのはいいんだろうか・・・いや、彼女公認とはいえ他の女の子と寝泊まりってだめじゃね?あれ、俺詰んでる?)
今更ながらすごく不安になっているといつの間にか音合わせを終えたリサが声をかけてくる。
「どーしたの?」
「ん?リサか。いや・・・この状況いいのかな、ってさ」
「この状況・・・?あ〜・・・」
リサも思い至ったのかその顔色は決して良いものとは言えない。
「まあ、アタシはRoseliaのみんななら気にならないしだいじょーぶだよ?まあ、みんなに手を出したら明日は海に浮いてるカモしんないケド」
「怖い。怖いよ。そんな事しないからヒドイ事しないでね?マジでお願いね?」
何やら楽しげに会話をしている紗夜とあこ、燐子に目を向ける。
(うーん・・・でも、やっぱ来ない方がよかったよなぁ・・・)
そんな事を考えていると後ろから誰かに抱き着かれる。誰かと言ってもこの中でそんな事をしてくるのは一人しかいないわけだが。
「・・・だいじょーぶだよ。それでも不安なら・・・」
「・・・・・・不安なら?」
「二人きりの時は・・・・・・・・・ね?」
「─────────!・・・・・・・・・おう」
そんな感じで二人の空間を脅かす侵略者が現れる。
「んんっ!」
「「─────────っ!」」
「・・・・・・・・・お二人とも仲が良いのは結構ですが時と場所は選んでくださいね?」
「「・・・・・・はい、ごめんなさい」」
そんな風に叱られながら時間が過ぎていった。
「友希那、だいぶ参ってるみたいだな」
「うーん・・・」
あれから一時間程が経過した。リサたちもひとまずは休憩をとっている。
一方で友希那はかなり作業に苦しんでいるようで、現在はソファに寝転がっている。
そんな友希那を見かねたのかリサが近づいていき、友希那にとある提案をする。
「よし、友希那!」
「─────────?」
「海、行こう!」
(気分転換って事か。さすがリサ、ナイスタイミ─────────)
「・・・・・・去年と同じ流れじゃない」
「ふふふ・・・確かに、そうですね・・・」
「リサ姉ー!あこも行きたーい!」
「ええ・・・去年もこんなんだったの・・・」
はしゃぐあこを見て思わず口にしてしまう俺だった。
「てことで海に来たわけだけど・・・」
「「・・・・・・・・・」」
「若干二名が死にかけてんな」
「ア、アハハ〜・・・二人ともこういうとこ得意じゃないからねー」
砂浜にシートを敷きパラソルを立てた後、早速そこから動こうとしない友希那と燐子を見て素直に抱いた感想がそれだった。
「紗夜はこういうとこ大丈夫なのか?」
「ええ。得意ではないけれど特段苦にしているわけではないわね」
「なるほどな・・・あこは言わずもがなか・・・」
視界の端で大はしゃぎしているあこを見てそう思う。そんなあこに話しかけられている燐子は今にも死にそうな顔をしているのが気にかかるが。
「そんな事より・・・」
「ん?」
そんな光景を微笑ましく見守っていると背後からリサから声がかけられる。
「ア、アタシの水着の感想欲しいんだケド?」
「感想なぁ・・・」
「え、何か反応薄くない!?」
「いや、お前、みんなのいる前ではしゃげるわけないだろうが・・・」
「え」
俺の発言を瞬時に理解したのか一瞬で顔を真っ赤にさせて俯くリサ。そして躊躇いがちにこちらを見た後に言う。
「そ、その・・・・・・アリガト・・・」
(え、やばい。この可愛い子今襲っちゃダメ?・・・・・・ちょっとぐらいなら─────────)
そう思い彼女に触れようとした瞬間だった。
「何をしようとしているんですか?」
「うおぁ!!ビックリしたぁ!!」
いつの間にか紗夜に背後を取られていた。めっちゃビビった。イケナイ事しようとしてたタイミングだったから余計に。紗夜さん、忍者になれるんじゃない?水の上ぐらいだったら歩けそう。
そんなこんなで何とか欲望を留めつつ気分転換の時間を堪能した。
いやあ、もう若干名ブルンブルンでしたね。何がとは言わないけど。
お日様もすっかり顔を隠し、あれだけ騒がしかった喧騒はなく今はもう虫の鳴き声しか聴こえない。
(お昼にあんだけ遊んだのに何か寝れないんだよなぁ)
体は確かに疲労感を感じているはずなのに、目は冴えている。こういう時は決まって眠れなかった。
(なんでなんだろ・・・)
そうやって考えを巡らせようとした時だった。俺の部屋の扉が開かれる。
誰だと思い目をやるとそこにいたのは枕を持ったリサだった。
「どうしたんだ?」
「んー、なんか眠れなくってさ」
「そっか。こっち来るか?」
「うん☆」
返事をした後、枕をセットし俺のベッドへと侵入してくる。
「あつ」
「・・・ひどくない?」
「しゃーないだろ、夏なんだし」
「ふんっ」
機嫌を損ねたリサは背を向けてしまう。
(二人だけだし大丈夫・・・だよな?)
誰に対する言い訳なのかわからないが、大丈夫だと自分に言い聞かせ目の前の彼女を後ろから抱き締める。
すると、一瞬だけ反応したがすぐに体を委ねてくる。
「暑いんじゃなかったの?」
さきほどの事を気にしているようだ。若干言葉にトゲがあるような気がした。
「まあ、暑いけど・・・それとこれは別なんだよ」
「別・・・?」
「目の前に愛しの彼女がいるのにその状況を暑いって言って楽しまないのは損だってこと」
「ふふ、なにそれ」
微笑みながらこちらを振り向く彼女を見て眠れない理由がわかったような気がした。
(リサがいなかったからか・・・ひとつ屋根の下にリサがいる時は寝る時はもちろん、それ以外でも基本くっついてるからな・・・そりゃ落ち着かないか)
リサはスキンシップを求めたがる癖があるのでそれに応えようとしていたら俺までリサと同じになってしまった。少し意味合いが違うが、『ミイラ取りがミイラになった』に近いのかも。
そんなどうでもいい事を考えていると目の前から寝息が聴こえてくる。
(寝ちゃったのか。まあ、俺も・・・かなり・・・やば、い・・・)
リサが横に来たあたりから急激に睡魔が襲ってきていたがそれがいよいよ限界を迎えたようだ。
(おやすみ、リサ・・・)
心中でそう呟き、重たくなった瞼を睡魔に逆らわず閉じた。
翌日、俺の部屋でくっついて寝ている俺たち二人を見つけたメンバー全員から微笑ましい目線とありがたいご説教をいただいたのは良い思い出だ。