「だから〜ピザパンと〜メロンパンを組み合わせると〜ちょーおいしーんですよ〜」
「え、それマジで美味いの?変な味にならない?大丈夫?」
「のーぷろぶれむです」
間延びした声とドヤ顔がまるで一致しない灰色髪の少女は、ただでさえ極上のやまぶきベーカリーのパンをさらに美味にする方法があると言い出し、互いの肩が触れ合いそうな距離でそれを俺に伝授してくれる。
いや、絶対美味しくないでしょそれ。試そうとも思わんわ・・・・・・・・・・・・・・・帰り、やまぶきベーカリー寄るか。
「はいはーい。二人ともお客さんいないからってレジでいつまでも喋ってちゃダメだよー」
そんな和気あいあいと談笑している俺たちに有難いお叱りが飛んでくる。
「は〜い、すいませ〜んリサ先輩〜」
「へーい」
「まったく・・・ほら、やることないならどっちかこっち手伝って!」
バックルームを指しながら俺たちに言うリサ。
というか俺に言ってんじゃねぇか・・・ちょ、その笑顔やめて。分かった分かったすぐ行くから。
「そんじゃモカ。レジよろしく」
「お任せを〜」
「忙しくなったらすぐ呼んでくれ」
「あいあいさ〜」
それだけ言い残しレジ番をモカに任せ俺たちはバックルームへと入る。
「それじゃ、ドリンクの補給お願いね」
それだけ告げるとリサはさらに奥へと進んでいく。恐らく食品関係の補給を行うのだろう。
「おう」
短く返事だけし、ドリンクの補給スペースへと立ち入るべく扉を開けようとしたところでやはり気になったのでリサに確認することに決め、彼女がいる食品スペースへと足を進める。
「・・・なぁリサ」
「なに?」
「・・・なんでそんな機嫌悪いの?」
「・・・別に」
「いや、絶対なんかあるだろ」
「なんでもないってば」
リサは頑なに否定するが絶対に何かある。
それは確信したので、まずは俺に落ち度があったのかどうかを思い返す。というか、リサの機嫌が悪い時は9割がた俺が悪いのだ。
・・・・・・・・・ん〜分からん。こうなったら・・・とりあえず放置だな!分からんもんは考えても仕方ない。
そうして思考放棄した俺はリサに言われた通りドリンクの補給へと向かった。
リサが何か言いたそうにしていたのにも気づかず。
「はぁ〜!疲れた〜!」
「・・・ふふ、今日も頑張ってたね・・・あこちゃん・・・」
「湊さん。あそこの私の演奏なのですが─────」
「そうね。私もそこは─────」
「二人とも相変わらず真面目だねぇ〜」
俺がいつものようにCiRCLE前にあるカフェの一席で待っているとリサたちRoseliaのメンバーが出てくる。
「お疲れ、みんな」
「ありがと〜!ふっふっふ〜、今宵も我が真なる力が・・・力が・・・りんりーん!!」
「・・・ふふふ・・・解放、とか・・・?」
「それだ!!我が真なる力が解放されたぞよ!」
「そっか。そりゃ何よりだ」
今日もあこは厨二病全開だなぁ。こうやっているあこを見て昔の自分を思い出して少し心が砕け散る感じがないわけでもないが、あこみたいな美少女がこういう言動をした場合、ヤバさより可愛さの方が上回るのでそれで癒されてプラスマイナスゼロみたいなところあるんだよな。
「燐子もお疲れさま」
「・・・ありがとう、ございます・・・」
「りんりんはねー、今日もすっごかったんだよ!」
「あ、あこちゃん・・・!」
「確かにいつかの演奏会で聴いた燐子の演奏は凄かったよ」
「・・・も、もう、やめてください・・・」
もう少しからかいたい気持ちがあったが、これ以上言うと燐子が爆発してしまいそうなのでこのあたりでやめておくことにする。
そんなパンクしそうになっている燐子を見て楽しんでいると背後から声をかけられる。
「今井さんのお迎えですか?」
「紗夜。ああ、こんな時間だしな。いくら友希那やみんながいるとはいっても心配だからさ」
「相変わらず心配性ね」
「そう・・・なのか?まあ、リサももちろん心配だけど紗夜たちも心配だからな。ついててあげられるならついててあげたいんだよ」
「・・・・・・今井さんに怒られても知りませんよ」
「え?なんで?」
しかし、紗夜が答えてくれることはなく返ってきたのはため息だけだった。
「貴方って本当にリサのことが好きよね」
「違うわ。
そう答えると周りからヒューヒューと黄色い声援が聴こえる。ていうかあこだった。
「・・・・・・私に言われているわけではないと分かっているけれど、釈然としないわ」
「何が?」
「なんでもないわよ」
紗夜といい友希那といい、なんなんだ・・・
「ほーら、バカなこと行ってないで帰るよ」
腑に落ちないため一人頭を悩ませていると、リサに耳を引っ張られる。
「ちょ!痛い痛い!ねぇ、めっちゃ痛い!とれる!耳とれちゃうから!なんでそんな怒ってんの!?」
「ほら!みんなも行くよー!」
「あー!待ってよリサ姉〜!」
リサの号令で各々家路へと着くべく歩き始めた。
若干名、リサの綺麗な長い茶髪から覗く白い耳が赤くなっていることに気づき呆れ笑いのような笑い声が響いていたことに俺は気づかなかった。
リサと友希那以外を送り届ければ残るのはいつもの三人。
リサと友希那は幼馴染で家も隣同士という。そのためリサを送り届ければ自動的に友希那の送迎も終了する、ということだ。
そして、友希那が家に入っていくのを二人で見送る。ここまでがいつも通りの流れだ。ここからはリサが家に入っていくのを見送って帰宅する、というのがいつもの流れだったのだが・・・
「・・・ねぇ」
ふと、シャツの裾を掴まれる。
普段からいくつか甘えたいサインがあるが、これをする時は決まって外にいるときでかなりの甘えたい欲求がある時だ。
そもそもリサは周りの目があるところでは甘えたがらない。それはきっとリサ自身、周りのみんなには頼れるお姉さんと思ってほしいからなのだろう。ところ構わず恋人とベタベタしている人物が頼れるかと問われると答えは否だろう。その理想とする人物像を崩したくないためリサは人目がある場所では滅多に甘えたがらないのだ。特に、メンバーや友人の前では。
「どした」
「・・・今日訊いたじゃん、アタシに。なんで機嫌悪いのか、とかなんで怒ってるのかって」
「ああ」
「あれ、なんでか分かった?」
「さっぱりだ」
そう答えるとリサは、はぁ〜とため息を吐く。
「・・・・・・ベタしすぎ」
「え?」
「だから!ベタベタしすぎ!」
「はい?」
「今日のお昼はモカとベタベタしてたし、さっきはあこと燐子と仲良さそうにしてたし、それに友希那と紗夜を口説いてたし!」
「いや、口説いてって・・・」
「アタシにはそう見えたんだもん!」
それっきりリサは俯いてしまう。
・・・なるほど。お昼の時やさっきの不機嫌はそういうことだったのか。
「・・・悪い。イヤな思いさせちゃったか」
「・・・・・・・・・」
「どうすれば許してくれる?」
「一生許さないから」
彼女の言葉に込められた想いに思わず笑みが溢れそうになってしまう。
「・・・分かった。だったら一生かけて償うよ」
「・・・・・・ふふ、なにそれ。カッコつけすぎでしょ」
「うるせ」
気恥ずかしさで一瞬顔を逸らしてしまうがすぐにリサに向き直る。
リサは瞳を潤ませて、その頬は紅くなっていた。
「・・・ねぇ」
彼女が今何を求めているのかはすぐに分かった。
俺はそっと彼女の柔らかい唇に触れた。
「・・・カサカサしててチョット痛い」
「・・・悪かったな。カサカサしてて」
「・・・でも、キライじゃないよ・・・・・・ねえ、もういっかい・・・」
「・・・あと一回だけだぞ」
そうして俺たちは閑静な住宅街の道端で静かに、しかし確かに熱く互いの愛を伝え合った。