『本日最初のニュースです。昨夜未明、都内某所で謎の怪奇現象が起きたようです。現場の周囲にあった建物の窓ガラスが割れ、電線が切断されてるということです。たまたまそれを遠くで目撃した住人の証言ですが』
『いやぁなんていうか、そこだけ急に明るくなったと思ったら、こう……バチバチって光が弾けたんだよ! そしたら電線とか切れたりしてさ!』
『この一件に関してまだ警察は調査中であり、コメントを控えています。ネット上では動画目的の悪戯ではないか、などといった推測が拡散されているようです。では次のニュースです──』
「いや、ターミネーターだろ」
とある日の休日。俺はいつもの喫茶店でコーヒーを飲みながらニュースを見て、つい口を出してしまった。いや、だって証言の言葉通りなら本当にターミネーターが未来からやってくるシーンにそっくりだからだ。思わず喫茶店のマスターに視線を向ければ、同意してくれているのか無言で頷いてくれていた。
一方でそれが通じない子もいた。
「たーみねーたー?」
前に座ってコーヒーを飲んでいたカフェが、可愛らしく首をかしげて尋ねてきた。
「なんだ。カフェはターミネーターを知らないのか」
「……その、昔の映画はあんまり見なくて……」
「結構再放送しまくってたし、ちょっと前に新作もやったけど、見る映画は人それぞれだもんな。ま、俺も最近の映画は知らないんだけど」
「……じゃあ、今度一緒に行きますか?」
「それは嬉しい誘いだけど、そういうのは友達と一緒に行きなさい。俺みたいなおっさんじゃなくて」
「……うぅ……」
大人として、もちろん学園で働く教師兼トレーナーとしてやんわり断ったのだが、当の本人がかなり落ち込んでしまった。
さすがにこれはマズイと思い、俺は慌てて手のひら返しをした。
「あーじゃあ、今度行くか」
「……!」
暗い顔から一転、にぱぁみたいな感じですごくいい表情をしているカフェ。なんていうか可愛さの中に癒しがある。うちのチームの奴らに足りないのはこういうモノなんだろうなぁ、と思うだけで絶対に口にはしない。
「……トレーナーさんは……どういう映画がいいですか……」
「それはカフェに任せるよ。ただ、あまり眠くならないのにしてくれ」
「……はいっ……約束、ですよ……」
「ああ。約束だ」
カフェと今度映画を見る約束をしたあと、俺は喫茶店を後にした。
とりあえず散歩でもしながら時間を潰して家に帰ろうと思い街中をぶらついていると、後ろから聞きなれた声が俺を呼んだ。
『マスター』
「……ブルボン?」
『はい、ミホノブルボンです。それ以外になにか?』
振り返るとそこにはミホノブルボンが立っていた。なんで彼女を疑問形で呼んだのかというと、何かちょっと違和感を感じたからだ。
言葉にすると難しく、兎に角何かが違うのだ。だけど、上から見ても下から見てもミホノブルボンそのもの。変なのは休日なのに制服を着ていることだろうか。
俺は一旦その疑問を忘れ、いつものように話し始めた。
「い、いや、ただこんな時間にお前と会うと思っていなかっただけだ」
『……そうですね。少し、早すぎました』
「どういう意味だ?」
『いえ、深い意味はありません。ただ……お願いを聞いてもらおうと思って、マスターを探していました』
「探してたって、別に直接電話するなりメッセージを送ればいいだろ」
『……あ』
今日のブルボンはどこか変だ。よくサイボーグなんて呼ばれている彼女だが、たまにはミスをするしダメな時がある。
率直に言えば、今日は特にポンコツ具合が半端ない。
『誰だって間違いはあります。つまり、私だってミスをすることがある、ということです』
「お、おう。ところで、そのお願いってなんだ?」
『そうでした。実は買い物に付き合ってほしいんです』
「それは構わないが、俺なんかでいいのか? 生憎と俺はファッションセンスがなくて、常にスーツを着る男だぞ」
『問題ありません。マスターと過ごすことに意味があるので』
「まぁよくわからんが、どうせ暇だしいい時間つぶしになるか」
『はい。では、行きましょう』
するとブルボンは自然な流れで俺の腕に抱き着いてきた。いや、普通はよくない。ただでさえ教師と生徒、トレーナーとそのウマ娘の間柄なのだから、本当によくない。
だけど、彼女を含めてうちのチームのウマ娘はこれをしてくるので、中々断れないのだ。
それにしても今日のブルボンは積極的な感じがするが、気のせいだろうか……。
それからブルボンに連れられてお店が開店するまで街を歩き回った。別にみんなとよくここには出かける機会が多いのでそこまで目新しいものはないはずなのだが、ブルボンは妙にキョロキョロと街を見ている感じがした。
まるで上京や観光に来た地方の人間のようだ。
そんなブルボンを観察しながら街を歩いていると、気づけば多くのお店が開店する時間になった。どうやら彼女の目的地は服屋のようだ。
「で、買うのは服なのか」
『はい。では行きましょう』
有無を言わせず店内に入る。するとすぐに店員の視線が突き刺さるのを感じた。無理もない。どうみても歳が離れ過ぎているし、恋人のようにはまず見えない。
俗にいうパパ活か、援交と疑われても仕方がない。
だが伊達に何度もアイツらに振り回されている俺ではない。一番大事なのは、如何に冷静でいられるかだ。店内をキョロキョロと見回すなどもってのほか。
それに服屋など俺の敵ではない。今でもたまにスカーレットに連れていかれる下着専門店に比べれば、天と地の差よ。
……ていうかもうやめてほしい。
たまたまいるカップルの男性と店の隅っこで『辛いですね……』みたいな会話はもうしたくない。
当時の苦い記憶を思い出していると、ブルボンが両手に服を持ってやってきた。
『マスター。これはどうでしょうか』
そう言って見せたのは、彼女にしては珍しいスカートタイプやワンピースだった。そもそもブルボンの私服は今着ているもの以外を見たことがない。勝負服はアレだが、私服は意外と大人しいイメージがあった。
「ああ、似合ってる」
『では、こちらは?』
「いいと思う」
『……予想通りの返答。ですが、マスターがそう言うなら両方買います』
「え、本当にいいのか?」
『はい。マスターはカップルの男性が答える典型的な事しか言えないという情報がありますので』
「ど、どこ情報だそれ……」
『……秘密です』
実際他の娘達とショッピングする際、よくありきたりな返答をしてはしまうが、ぶっちゃけそれ以外に何を言えばいいのかわからないから仕方がないではないか。
そんなことに不満を抱えながら一緒にレジへ行き、俺は財布からクレジットカードを店員に渡した。
『いいんですか?』
「当然だろ。あ、一括で」
『……』
会計を済ませて店を出る。ブルボンは買った服が入った袋を両手で抱きしめながら、お礼を言ってきた。
『ありがとう、ございます』
「いいんだよ。それにこれぐらいしかしてやれんしな。ところでこのあとはどうするんだ?」
『すみません。もう時間なので、また……』
「そっか。じゃあまた学園でな」
俺がそう言うとブルボンはペコリと頭を下げて走り去ってしまった。なんの時間が迫っているかはわからないが、切羽詰まったように見える。
「ブルボンのヤツ、いつもよりいい顔をしてたな」
一人残された俺はそんなことを口走っていた。
それから休日明けの月曜日。学園へ出勤して校門を通ると前にブルボンが歩いているのが目に入った。
俺は小走りで彼女の所へ走り、ポンと肩を叩いて挨拶をしてこの間のことを話した。
「よっ、おはよう。ブルボン」
「あ、おはようございます。マスター」
「この前買った服はもう着てみたか?」
「……はい?」
「折角だからあとで見せてくれよ。それぐらいの報酬は貰っていいと思ってるぜ。じゃ、また後でな」
そのまま俺は職員室に向かって走り出す。何故かブルボンのヤツ、妙にキョトンとした顔をしていたがまだ寝ぼけているのだろうか。
それにしても──
「なーんか、違和感あるな。この前のブルボンと今日のブルボン」
しかし、その日は変なことが朝の職員会議でも起きた。
職員会議は毎朝行われるのだが、主に教師陣のみで行うことが多い。トレーナーには個人へ直接か今みたいに全員を集める……のだが、今日は違った。
職員室には教師だけではなく、トレーナーや保健室の先生にこの時間に集まれるだけの学園関係者が集められていた。
「では理事長から皆さんに報告があります」
業務連絡や細かい報告が済むと、たづなが理事長を呼んだ。理事長は台に上り、いつものように扇子を広げて叫んだ。どうやらただ事ではない雰囲気のように見える。
「注目! 備品管理担当から報告があり、予備の制服が盗難にあったと報告があった!」
理事長の言葉に周囲が一気にざわついた。
制服、それはもちろんウマ娘専用のトレセン学園指定の制服のことである。それが盗難に遭う……その矛先はもちろん学園で働いている男性スタッフに向けられる。
現に一部の女性から疑いの目が向けられている。
そんな状況の中、誰かが言った。
「数え間違えたということはありませんか」
「ない。特に制服は毎日徹底的にチェックをしているのでな!」
予備の制服があるのは、もしもの時のためにすぐに対応できるようにと聞いている。そんなことは滅多にないのだが、何分成長期な娘ばかりだ。主にそういった方面で制服を買い替える必要があるウマ娘もいるのだという。
うちでいうところのダイワスカーレットだろうか。
なんか、わざとらしく俺に言うんだよな。『あーもう。最近また制服がキツイな~ちら』みたいな感じで。
それを遠くで一部の娘達が恨めしそうに見ているのをよく覚えている。
「みなも知っての通り、我がトレセン学園は関係者以外は基本立ち入り禁止。夜も徹底的に学園を警備している」
「つまり理事長は我々の中に犯人がいる、そう仰るので?」
「そうまでは言っていない。だが、もしかしたら溜めに溜めた欲望をぶちまけたいと思って犯行に及んでしまう者がいるかもしれない、ぐらいは思っている」
「そんな命知らずいねぇだろ」
思わず口が出た。
すぐに怒鳴られると思ったが、むしろその逆に同情する目を向けられた。
「キミはむしろ、命を狙われる方だろな……」
「意味がわからん」
「兎に角! ほんの些細な情報でも掴んだらすぐに連絡するように。以上!」
この職員会議から最初の数日は男性職員全員がピリピリしている感じがあったが、それを過ぎるといつも通りに戻った。何せその行方不明になった制服の行方の進展は一向になく、何よりも盗難された制服のサイズが比較的大きいサイズのウマ娘だとわかると、一部の職員はいい笑顔でその日を過ごしていた。
「ねぇ、ブルボン。あなた、ここ最近の休日よくトレーナーさんと出かけてるわよね?」
「なんのことですか」
ある平日、サイレンススズカがお昼休みの時間いきなり訳の分からないことを言い始めた。彼女だけではなく、他にもメジロマックイーン、ライスシャワー、カレンチャンも何故か勢ぞろい。
「とぼけないでくださいまし! あなたが先日、とあるお店で開催していたカップル限定の超ジャンボニンジンパフェを一緒に食べているところを、私はこの目で見ましたのよ!?」
「食べてませんし、そもそもマックイーン。あなたはいまスイーツ禁止令が出ているのでは?」
「ら、ライスも見ました……。お兄さまとブルボンさんが一緒にいるのを。ね、カレンちゃん」
「そうそうカレンも見たもん! ブルボンさんがすっごくカワイイ服を着て、お兄ちゃんと一緒にデートしてるの! これ、証拠!」
そう言ってカレンさんがスマホの画面を私に見せました。そこには確かにトレーナーと私が腕を組んで歩いている姿が。
ですが、私はこのように自分から積極的に腕を組むことは恥ずかしくてできませんし、なによりもこの写真の私が着ている服。こんなカワイイ服を私は持っていません。
それを皆さんに伝えると。
「じゃあこのブルボンは誰なの?」
「そうですわ。私が見たのは間違いなく、ミホノブルボンその人です」
「……ドッペルゲンガー?」
「もしかして、本人も知らない双子の妹とか!?」
「否定。私に妹はいません」
『……じゃあ、このミホノブルボンは一体誰?』
そんなの私が一番知りたいに決まっている。そこで私はふと、この写真に写っている私が着ている服を見て思い出した。
もしかして、あの時マスターが言っていた服とはこのことなのでしょうか。
よく見れば普段私が着ないようなカワイイ服ですし……それ以上に、マスターが普段私と話している時よりいい顔なのがちょっとムカつきます。
私がマスターにモヤモヤした感情と戦っていると、教室の入り口からゴールドシップがひょっこりと頭を出して驚いたように言ってきた。
「あれ、ブルボン。お前部室に行ったんじゃねぇの?」
『!?』
まさかの急展開。私達はゴールドシップからそれを聞いた途端、すぐさま教室を飛び出して外にある部室へと向かった。
私は先頭を走って部室の扉を壊す勢いで開けた……が、そこには誰もいなかった。私はもしかしてと思い、恐る恐る自分のロッカーを開けた。
「……ない」
「何がないんだ?」
いつの間にか私の背後にいたゴールドシップがひょっこりと後ろからのぞき込んできたが、私はそれを無視しながらそれを教えた。
「ないんです。私のジャージが」
「となると……トレーニングコースか」
「そうなりますわね。でも、なんでわざわざそんな事を?」
「……とにかく、行ってみましょ」
私達は部室を出てトレーニングコースへと向かった。時間的にはまだお昼休みなのでここにいるウマ娘は滅多にいない。なので隠れて走るには絶好のタイミングだと言える。
ですが、何が目的なのでしょう。
私と瓜二つの顔をしていて、ただマスターと休日を過ごしているだけ。何とも羨ましいことなんでしょうか。何よりも自分と同じ顔なのが余計に腹が立ちます。
そして走ってわずか数分でトレーニングコースへ入る。そこにはマスターと……みんなが言っていた私と同じ顔をしたウマ娘が彼の指導を受けていました。
「マスター! そのウマ娘から離れてください!」
「……あれ、ブルボン? ブルボンが……二人?」
いきなり大声で呼ばれたのでそちらに振り返ってみれば、そこには隣にいるはずのミホノブルボンがいた。そっちは制服で、こっちはジャージ。俺は間違い探しをするように何度も二人の顔を行ったり来たりしていた。
「……本当にもう一人のブルボンさんだ……」
「カレンもビックリだよ。あ、一応写真撮っておこ」
「えぇ……この場合って、やっぱり片方が本物で、もう片方が偽物って流れよね」
「そう、なりますけど……これはあまりにも似すぎているといいますか……」
「やいっお前は何者だ! 名を名乗れぃ!」
制服のブルボンに続いてライス、カレン、スズカ、マックイーン、ゴールドシップがジャージのブルボンに疑惑の目を向ける中、俺は未だにまだ状況を整理できないでいた。
そんな中、ジャージブルボンは俺の背中に隠れた。当然、背中に柔らかい感触が伝わる。すると制服ブルボンがそれを見て俺を怒鳴り始めた。
「マスター! 早くそいつから離れてください! 危険です!」
「危険もなにも……俺からしたらどっちもミホノブルボンっていうか」
「な、私が本物のミホノブルボンです!」
『違いますよマスター。私が本物のミホノブルボンです』
「あ、こうして聞き比べるとやっぱ違うわ」
そう。最初に感じていた声の違和感が今になって解決したのだ。やっぱりジャージブルボンは何かが違うのに対し、制服ブルボンはいつもの俺が知っているミホノブルボンだ。
「いやぁ、なんか変だと思ったんだよ。だけどそれがようやく解決してすげースッキリ」
「そんな呑気なことを……」
「そうだーそうだー! そう言ってお兄ちゃん、そこのブルボンさんとデートばっかりしてたの知ってるんだからねッ」
「それはこの子の違和感を探るためにだな」
「……でも、お兄さま。すごく楽しそうにしてたよ……」
「マスターは私よりそっちの偽物の方がいいと言うんですか!」
「そ、そういうわけじゃ──」
『偽物ではありませんよ』
「え?」
すると今まで後ろに隠れていたミホノブルボン(偽物)が俺の前まできて、みんなと向かい合う形になった。
『私は確かにミホノブルボンです。ですが、正確にはミホノブルボンをベースに作られたメカミホノブルボン、略してメカブルボンなのです』
ババーンっと効果音がなりそうな演出であったが、まさかの言葉に全員開いた口が塞がらなくなっていた。
そんな空気をぶち壊したのはシリアスブレイカーことゴールドシップであった。
「う、ウソだぁ! だったらロケットパンチとか目からビームを出して見ろってんだ!」
『いいでしょう』
「へっ?」
ピュン。
出た。
目からではないが、ブルボンがよく頭に着けている飾りからビームが出た。それは確かにメカブルボンから放たれ、ゴルシのヘットギアを掠めた。その痕は確かに熱で溶けている。
それを受けたゴルシは本当に出ると思っていなかったのか、言葉を失い硬直していた。
『ふぅ。これはあまり燃費がよくないのであまり使いたくはないのですが、今回は特別です』
「そ、そんなことはどうでもいいんですっ。あなたの目的はなんですか!? どうして、マスターに近づいたんですか!」
『あなたを消して、私が本物のミホノブルボンに成り代わるためです』
「ウソだな」
俺は自信をもって告げた。だけど、みんなはそれを信じてはいないような目だった。メカブルボンもそれに反論するべく、くるっと回って俺と向かい合う。
『ウソではありません。私が本物のミホノブルボンとなり、マスターを手に入れるためにやってきたのです』
「本当は……俺に会いに来たんだろ?」
『……』
「ま、マスター? 一体何を惚けたことを」
「そ、そうですよトレーナさん。メカブルボンとデートばかりしてるから、ちょっとその子に同情的になってるだけなんですッ」
「スズカさん、嫉妬しているのが見え見えですわ……」
「理由ならある」
そうなのだ。別にこの子を庇いたいからとか、そういう理由で言ったわけじゃない。
「本物のミホノブルボンを倒すって言うんなら、最初から……そう、もっと前からやってるだろ?」
『それは、マスターを懐柔してからしようと……』
「そうかな。毎週俺とどこかに行ってる時のキミの顔は、とてもいい笑顔だった。そんな子がブルボンを消すとかそういう考えがあったとは思えない」
「やっぱりお兄ちゃん、デート楽しんでるんじゃん」
「うんうん」
大事な話をしている最中だというのに、周りが茶化そうとしているが無視して話を進める。
「それに、今まで休日に会うだけだったのがいきなり平日の学園に突然やってきた。これは変だろ。バレるリスクが高すぎるし、キミが本当のメカブルボンならわざわざ俺に指導を求めたりなんてしない」
「つまり……どういうことだってばよ」
ゴールドシップが真面目な空気を壊そうとしているので、俺は渋々早めに結論を出した。
「この前の怪奇現象もキミなんだろ。メカブルボン……キミは未来からやってきた。そうだな?」
『な、なんだってー!!!』
ノリがいいなこいつら……。
「マスター、それはいくらなんでも非現実的──」
『はぁ。なんで
『『『……は?』』』
「……ぱーどぅん?」
声はそのままなのに、明らかにブルボンの喋り方ではなくなったメカブルボンからとんでもない爆弾発言が投下された。
俺はもちろん驚いているし、他のみんなも驚いている。ていうか目が怖い……。
『あーあ。やっぱり調子に乗って学園に来るんじゃなかった』
「ま、マスターがお父さん? で、では、なんで私とそっくりなんですか!」
『あ、これは特殊スーツなの。よくできてるでしょ。若い頃のお母さんにそっくり』
「……誰がお母さんですか」
『お母さんはお母さん。そして、お父さん』
ブルボンと俺を交互に指を指しながら言う未来からきたメカブルボン。
だが、俺はもうそれどころではなかった。
メカブルボンがお母さんと言った瞬間、スズカが一瞬にして距離をつめて俺を一本背負い。ターフの上に倒れた俺を、他のみんなが関節技やこれでもかと攻めてくる。
「ソイヤッ!」
「ぐへぇ!?」
「トレーナーさんいつのまにブルボンとうまぴょいしちゃったんですか!?」
「やっぱり胸、胸なんですの!?」
「……えい、えい!」
「お兄ちゃん、このことを世界中にバラされたくなかったら、今すぐカレンとうまぴょいして!」
「ご、ゴルシ……だずげ……」
「──そうか。ここ最近の時空の乱れは……なるほど、だから……」
救いを求めようとしたそのゴールドシップは、何やら独り言をブツブツと言っているだけでこちらに見向きもしていなかった。
そしてだんだんと意識が遠のいていくのを、俺は確かに感じていた。
「その、仮に私があなたのお母さんとして、本当にあなたのお父さんは……マスター、なのですか?」
『うん。正真正銘二人の娘だよ』
「……ぬへへ」
思わず変な声を出してしまうぐらい、今の私の顔はきっと緩んでいることだろう。例えそれが今は自分と同じ顔をしている娘の前であろうとも。
『それにしても聞いていた通り、この頃のお母さんと未来のお母さんってあんまり変わってないね』
「変わっていないとは?」
『んーいい女って意味かな』
「成程。未来の私はどうやら今と変わらずカワイイということですね」
『あと、そういうちょっとポンコツくさいところもね』
ポンコツくさいとはなんと失礼な。それも自分の顔で言われると、この私でもちょっとムカつきます。
しかし、私はふとあることに気づいてしまったのです。
「一ついいですか」
『ん、なに?』
「どうして、未来からわざわざやってきたのですか? 本当の目的は一体……」
『それは……』
彼女は悲しい表情をターフの上で弄ばれているマスターに向けました。何となくですが、それだけで私はあることを察してしまいました。
「もしかして、マスターは……」
『……あまり未来のことは教えられないんだ。それに、私はお父さんとお母さんが結婚した未来からやってきただけで、この先の未来で本当に二人が結ばれるのかもわからないし』
「では、その私と同じ姿をしているのも」
『この時代で過ごすための姿でもあり、これがタイムマシンの役割も持ってるんだ。すごいでしょ、未来の技術って』
「……あーはいはい、タイムマシンですか。わかりました。つまり、ドラえもんのアレですね」
『ほんと、お母さんって機械音痴だね』
機械音痴とは失礼な。最近はパソコンでネットサーフィンをできるぐらいには上達しました。しかし、どうやら未来の私でもまだ中々機械に疎いようです。
「……その、あなたの名前も教えてはくれないのですか」
『ごめん。それもダメなんだ』
いつまでもメカブルボンと呼ぶのはアレなので、名前を教えてほしいと思ったのですが、どうやらこれも無理なようです。
ですが彼女は、教えられる範囲で私だけに伝えてくれました。
『私が幼いころにお父さんはいなくなっちゃって、だからあんまり親子らしい触れ合いがなかったの。お母さんもそれを気にしていたみたいで、だからこの時代に行くことにも協力してくれたんだ』
「だから、私の姿をしてショッピングや食事をしていたんですね」
『うん。未来だとここは大分様変わりしちゃってるから、この時代の街並みを目に焼き付けておきたかったんだ』
「そうですか……ん、この音は」
すると彼女が頭につけている飾りがピコーンピコーンと赤く点滅していた。私のにはそんな機能はついていないので、彼女の言う未来の技術なのでしょうか。
『どうやら時間みたい。ビーム撃っちゃったからその分エネルギーを消費したんだと思う。ごめんね、色々と迷惑をかけて。バレちゃった以上、もうこの時代に来ることはないから』
彼女はそう言うと、左腕から何やら透明な画面が投影されて、それをピコピコ触り始めた。途端に彼女の周囲が明るく光り始めたのです。
『あ、ジャージを返す暇がないや。ごめんね、お母さん』
「いいんです。ジャージの一つや二つ」
『んーこの時代の方がお母さん優しい気がするなぁ。あ、本当はお父さんに伝えなきゃいけないことがあったんだ!』
「残念ですが、それは無理なようです』
『……だね。お母さんが言ってたように、お父さんモテモテだったんだ』
現在マスターはマックイーンさんが繰り出した『地獄の断頭台』をもろに受けている最中でした。アレではまともに会話することは不可能でしょう。
「マスターがアレなので、私が代わりに聞いておきますよ」
『う、うん……いいのかな。でも、伝えないとだし……』
「?」
彼女の様子を見ると、どうやらマスターにだけ伝えるべき内容なのでしょう。ですが、状況が状況なので、妥協したのか私にそれを言ってきました。
『じゃあお父さんに伝えて。第564宇宙からゴスギ艦隊が地球を侵略に来るって!』
「……すみません。今、なんと言いましたか」
『だからッ、ゴスギ艦隊が侵略に来るの! だから、お父さんに──』
「なに、ゴスギ艦隊だって!? クソッ、アイツらついに地球を見つけちまったのか!」
突然親子の会話に割って入ったのは、今まで静かだったゴールドシップだった。何故彼女が口を開くと、控えめに言ってうるさく感じるのでしょうか。
きっと未来でも彼女はうるさいのでしょう、そう思って彼女にそれを聞こうと思ったら、まるで信じられないモノを見るかのように驚いている素振りでした。
『──
「アタシはゴールドシップ。地球は狙われているッ!」
「ちょ、ゴールドシップ。あなたは親子の会話に……って、もう行ってしまいましたか。まったく、ゴールドシップあなたという人は」
「こうしちゃいられない。ゴルッシーロボ出撃だ!」
「ぇ……いま、天国のじいちゃんと一緒に階段を上ってたはず……」
「いくぜ! 3つの心を一つにするんだ!」
訳の分からないことを言いながらゴールドシップは、死にかけていたマスターを連れ去ってどこかへと走り去っていきました。
気づけば他の皆さんもマスターに制裁を加えて満足したのか、いつの間にかもういませんでした。
一人残された私は、最後にあの子が言った言葉が頭から離れなかったのです。
「……なぜゴールドシップのことを知らなかったんでしょうか」
あの子もマスターがモテモテだと知っていたところを見るに、やはり結婚までにひと悶着あったのでしょう。それでゴールドシップについて教えていなかったと。
「ですが、それでは他の皆さんも知らなかったということになりますね」
だけど、そんな素振りは見せてもいなかったし、口にすらしていない。
「謎が謎を呼びますが、今考えても仕方がありませんね。それよりも、マスターと結婚したらちゃんと子供ができるということが証明されたわけですし、これからはもっとマスターとの距離を縮めなければ」
というわけで、私は早速休日を使ってマスターとデートすることに成功。もちろん、私達の娘に買ってあげたという服を私も買ってもらいました。
ただ、私達のデートを背後から尾行する仲間たちがいなければもっと素敵だったのは内緒です。
俺とミホノブルボンの娘と名乗るメカブルボンが襲来したあとのことを語ろう。
メカブルボンの出現で一番被害を被ったのはおそらく俺の財布と、あの娘が盗んだトレセン学園
の制服だ。前者は別に問題はないのだが、後者は特に面倒だ。
「未来からやってきた俺の娘が制服を盗みました。テヘッ」
なんて言えるわけもなく。結局俺が取った行動は沈黙であった。
きっとあと半年か一年ぐらいすれば皆忘れていることだろう。なので俺は絶対にその話題を振ることはないし、口にする気もなかった。
あと、謎の三人目と一緒によくわからん敵と戦った。
ゴルシ曰く。
「これで、未来は守られたぜ」
と、よくわからないことを言っていた。
色々あったが、もうあの日ことは正直思い出したくない。思い出すたびに死んだじいちゃんが俺を呼んでる気がするんだ。
「でも、あの子が本当に俺とブルボンの娘だとしたら、凄いことなんだろうな」
そんなことを思いながら、俺はカレンからもらったあの子とデートしている写真を見てつぶやいた。
尺の都合で戦いませんでした!
あと、これ正史で起きる低確率イベントです(たまたま今回来たのがブルボンの子供ってだけ)
ちなみにブルボンと結ばれたトレーナー君は死んではおらず、どっかのウマ娘が残した最後の遺産で、たった一人の最終決戦を挑み、ドワォで不思議なことが起きて、メカブルボンのイベント関係なくその内帰ってきます。
尚、イベントが発生すると特殊イベントが起きる模様(特に考えていない)
ちなみにゴスギとはとある某特撮に出てくる言語に変換したものです。
というわけで、次回はスキャンダルで出た理事長のお話です。
(ていうかもうカフェと一緒に喫茶店でも開けばいいんじゃねぇかな)