「いま目隠しされた状態でムーンウォークしながら……ゲート入りしました」
「さて、ゴールドシップの評価は如何なものでしょうか」
「そうですね。台本には、とっくに『先行』されていて、気づいたら大『逃げ』どころか、こっちが『追込』まれて、いつのまにかとどめを『差し』こまれていた、とありますね」
「ウマ娘だけにですか」
「ウマ娘だけにです」
退屈だ。
大切な存在を失くしただけだが、その失ったモノが大きすぎた。
生きるのも嫌になった。
だけど、やっぱり体は正直で腹が減るし、俺に生きろと言う。
仕事をするのも面倒だった。
でも、働かなきゃ食っていけないからトレセン学園で教師をしている。
それが未練だと言うことは、言われなくても理解はしていた。
夢に向かって走るウマ娘達の姿は好きだけど、それを見ているといつも辛かった。
彼女を思い出し、叶わなくなった夢をまだ引きずっている自分にイライラするから。
ある年の春。
今年も多くのウマ娘が入学し、俺は理事長に呼び出され言われた。今年は絶対に一人、担当を持つようにと。
俺は教員免許だけではなく、トレーナーとしての資格も持っていた。なのに今日まで一人も担当してこなかった。その癖、給料はいっちょ前に両方貰っているのだから、理事長が言うことは正論だ。
渋々俺はトレーニングコースへ出向くと、そこには一人のウマ娘が走っていた。名前は確か、シンボリルドルフだったような気がする。
彼女の走りを見て、俺の目には彼女がダブっているように見えた。だからなのだろうか。シンボリルドルフは、とんでもないウマ娘になる。
俺にはそれを言ってのける確信があった。それを実現させるだけの力があると思っている。
かつての熱意が少しだけ戻ったような気がした。
だけど、彼女はすでにとある女性トレーナーにスカウトされていた。
羨ましい。
まさか、今の自分にそんな言葉が出るとは思わなかった。
まさに未練だ。俺はまだ彼女のことを引きずっている。どうしようもない男だと自分でも思う。
戻った熱意がすぐさま消えた。
退屈だ。
もういっその事仕事をやめて実家に帰るか、そんなことを考え始めた矢先、芦毛の長髪に見たことのないヘッドギアをつけて、胸の大きなウマ娘が俺の目の前に立っていた。
なんていうか、美人だなって最初は思って、こんなウマ娘いたかと自分の記憶を掘り起こしていた。
答えが出ないまま無言でいると、彼女が俺に言った。
「おいお前。このゴールドシップ様のトレーナーに任命してやる。ありがたく思うんだな!」
前言撤回。
こいつは──奇人だ。
退屈だった。
ちょっと学園の壁に『ゴルシ様参上!』と落書きしたり、授業中に早弁したり、他のウマ娘にちょっかい出したり、アタシなりに面白いことを色々と実践していたのだが。
「もうあの子の担任でいるのは耐えられません! なので今すぐ辞めさせてください!」
クラス担任で、アタシよりは可愛くないけど、まぁまぁ美人な先生が理事長の前で泣きながら直訴していた。
こいつは見た目がちょっと美人なだけで、つまらない先生だった。何をするのもダメ、ああしろ、こうしろ、なんていうか面白くない。ありきたりで、アレだ、模範的なことしかできないヤツ。
「ゴールドシップ。キミはもう少し大人しくできないのか。彼女だけではなく、他の教師やトレーナー、同じウマ娘からも苦情がきている」
ついには理事長もアタシにそう言ってきた。
だからアタシはこう言ってやった。
「ヤ・ダ」
舌を出しながら変顔で言ってやると、さすがの理事長も呆れてもう何も言ってこなかった。
結局のところ。退屈が嫌でこっちに来たのに、ここもつまらない場所だっていうことがわかった。いや、アタシが面白くしているのに、周りがそれをつまらなくしている。
例えば選抜レース。
実を言うと、アタシは伝説のスーパーウマ娘だ。なので、こいつらがいくら束になってもアタシには勝てない。
だけど、アタシはエンターテイナーだ。
観客が望む一番面白い走りをする。それが最後尾から走って、どんどん前の奴らを抜き去って、最後に1番を取る。
これほど盛り上がる走りはないだろう。
実際にそれをやって見せれば、アタシの噂を知っていようとぞろぞろとスカウトしにやってくる。
だが。
「凄い走りだ。是非私のチームに入らないか」
「つまらん、次」
「どうしてあなたはもっと努力しないの。もっと頑張れば、あなたはきっと素晴らしいウマ娘になれるのに」
「アタシの一番嫌いな言葉は『努力』で、二番目が『ガンバル』だから」
「とりあえず仮入部でもいいから、ボクのチームに──」
「空手の稽古があるの。付き合えないわ」
な? つまらないだろ。
まぁ、百歩譲ってアタシが惹かれるようなセリフを言うやつがいたら、もしかしたらチームに入ってたかもしれないけど。
それからアタシはフリーな日々が続いた。あの日以来、アタシをスカウトしようなんて思うトレーナーは現れなかった。
多くのウマ娘は授業が終わったあとの時間はトレーニングに勤しんでいる。それはチームに入っている奴もそうでもない奴も一緒。
アタシはというと、ルービックキューブで遊びながらトレーニングコースの周りをうろついていた。
理由はない。
だけど、その日は違った。
「なんだ、アイツ」
トレーニングコースの周りにあるベンチに、一人の男が座っていた。
顔を見ただけすぐにアタシにはわかった。
こいつはアタシと同じだ。退屈で仕方がないって顔。
さらに凄いのが、こいつはアタシより退屈してそうな顔をしてるっていうことだ。まさか、このゴルシ様を差し置いて、アタシ以上に退屈そうにしてるとは何事か。
そんな時、ふと思いついた。
こんな如何にも退屈そうで、つまらなそうな人生を歩みそうな男をアタシが面白可笑しくしてやったらさぞ楽しいだろうなって。
だからアタシはその男の前まで行き、言ってやったのさ。
「おいお前。このゴールドシップ様のトレーナーに任命してやる。ありがたく思うんだな!」
男はアタシを変な奴を見るような目で見上げていたが、その口は少し笑っていたことにアタシだけが気づいていた。
それから男との──いや、アイツとの日々はそこそこ楽しい毎日を送れるようになった。
アタシは学園ではかなり有名だと思っていたが、コイツはどうやらそれをまったく知らなくて、折角だからとアタシの武勇伝を聞かせてやると。
「学園の壁に落書き? バカだなお前。そういうのは自分の学校でやるんじゃなくて、他の学校でやらなきゃ意味ねぇだろ」
「そいつは盲点だったぜ。じゃあ早速やってくる!」
と、本当に実践してみせた。すると翌日、その学校から苦情がきて、当然アタシとトレーナーは理事長に呼び出された。
「憤怒! 何をやっているんだキミは! ゴールドシップの担当になったからには、ちゃんとウマ娘が問題を起こさないよう目を光らせるのもトレーナーの仕事だぞ! ゴールドシップもゴールドシップで、人様に迷惑をかけるんじゃない!」
「アタシじゃない。こいつがやれって言ったんだ」
「別にアタシ参上って書かれただけで、こいつがやったっていう証拠があるんですか」
「ついさっき白状していただろ!?」
「したっけ」
「いや、してないな」
「……あ、頭が痛い」
まだまだ百点満点とはいかないが、そこそこいい線行っているとアタシは思っている。
伊達に入部届を出しに行ったとき、周りに驚愕と白い目で見られた男だ、面構えが違う。
「いや、確かに私は最低一人は担当を持てといったが、別にゴールドシップじゃなくても……」
「あの理事長。むしろそれはいいことなのでは?」
「なんだ。この胸がデカいだけの残念美人はそんな問題児なのか」
「言うねぇ……ちょっと面貸しな。カバディで勝負だ」
「命知らずな奴め。元日本代表の俺に敵うもんか」
「どうかな。アタシだって元金星代表だぜ」
まぁ、当然その戦いはアタシが勝ったんだがな!
あとそれからアタシのクラス担任が元美人教師からトレーナーに変わった。これがまた面白い挨拶だったんだ。
「はい。今日からキミ達のクラス担任になりました。まず先生からお願いがあります。毎日休まず出席するように。全員が皆勤賞を取ると先生にいいことがあるので頑張りましょう。ちなみに休んでも俺の方で出席扱いにします。なので、サボるのは許しません」
変な奴が担任になったなーって皆が思っていた中、アタシは一人で腹を抑えて笑っていた。
だけど、時間が経つにつれて皆トレーナーを慕うようになった。そのもっとも顕著なのが意外にもシンボリルドルフだった。
将来トレセン学園の生徒会長になってからは、裏でひそひそと色々とやっているのは知っていたけど、今は割愛することにする。
さて。アイツは何も初めからアタシとうまく関係を築けていたわけじゃない。特にそれはトレーニングの中でよく起きていた。
「なあ。お前は練習しないのか」
「ゴルシちゃんはたまに練習するぐらいが丁度いいのだ」
「まぁデビュー戦はちゃんと勝ったし、実力があるのはわかるんだが……」
「なんだよ。勿体ぶらないで言えって」
「いや、周りの目がなぁ」
「そんな細かいこと気にしてんのかよ。それじゃいつか禿げるぞ」
「うっせ」
「とりあえず、将棋やろーぜ、将棋」
「へいへい。まーた嫌味言われるけど、担当のウマ娘には逆らえないんだなこれが」
アタシ達はトレーニングコースにあるベンチで、他のウマ娘やチームが練習をしている中遊んでいる……と、周りは思っているらしい。
確かにトレーナーも最初はそう思っていた。だけど、後になってからだんだんとアタシが手加減しながら打っていたことに気づくと、自分なりに色々考えてアタシとこういった遊びをするようになった。
これはゴルシ様にとっては立派なトレーニングなのだ。
将棋をすると賢さがあがる。
意外と知られていないトレーニングの一つなのである。
それからアタシとトレーナーの関係は至ってよくある普通なモノだったと思う。それを変えたのは、一年目の夏合宿の時だった。
トレセン学園では一人のトレーナーに対し、最低でも四人か五人以上からではないとチームとしては認められない、というルールがある。
だけど、俺は教師としては新人を卒業していたけど、トレーナーとしてはまだまだルーキー扱い。実力はあると自負しているが担当がアレなので、周りからはゴールドシップと同じカテゴリーに分類されているらしい。
すごく納得がいかないが、話を戻そう。
トレセン学園には多くのウマ娘が在籍し、当然チームの数も地方と比べたら段違いだ。だから、毎年チームを率いているトレーナーには夏合宿の申請許可が降りる。
ただこれが中々の曲者だ。
チームの母数が多いので、当然合宿所もそれなりにあるわけだが、これがA、B、Cとランク付けされているのだ。
強豪チームなら優先的にAランクの合宿所が宛がわれるけど、まだ出来て一年目な下位チームは当然Cランクの合宿所になる。
場所は本当に最低限という感じで、海と山、宿泊施設は昔ながらの旅館と言った感じ。
それをゴールドシップに伝えれば。
「おお! 海に山……お宝の匂いがプンプンするぜぇ!」
本人はノリノリだったので特に問題はなかった。
夏合宿はチームにもよるが、うちの場合はだいたい3泊4日の期間を与えられている。本来だったらバスなどをレンタルするところだが、生憎とうちのチームはゴールドシップただ一人。
なので、普通の乗用車をレンタカーしていざ現地へ。
道中、ゴールドシップの我儘で何度もサービスエリアに寄らされたがなんとか無事に到着。ただ問題は旅館に着いてから起こった。
「え、相部屋ですか?」
「申し訳ありません。こちらの手違いでして。部屋を空けようにもこの時期は丁度夏祭りと被ってしまって、他のお客様の予約で満員なんです」
まさかこんな漫画みたいなことが起きるとは思わなかった。いざこれに直面すると、一瞬だけ思考が停止する。
なにせ俺は教師兼トレーナーであり、その生徒兼担当でもあるウマ娘と3泊4日は非常にマズイ。だって、ゴールドシップはまだトレセンに入学したばかり。つまり去年までは小学生。
だけど、全然そうは見えない。
背は高いし、黙ってれば美人だし。どう見たって年齢に見合ってない。
とりあえず俺は本人に意見を求めた。
「だ、そうだがどうするよ」
「ン。別にいいんじゃね? 手を出したら折るから安心しな」
「大丈夫みたいなんで、案内お願いします」
「本当にありがとうございます」
女将さんに部屋に案内されて荷物をおいてから、俺は早速わかっているであろう事を言った。
「トレーニング……するわけないよな、お前は」
「とりあえず海の家いこーぜ!」
「時間的に昼になるし、ちょうどいいか」
トレーニングをする気はないと言っても、流石に制服では暑いのかジャージには着替えようとするゴールドシップ。
俺は外に出て先に海の方に向かった。
女将が言うように夏祭りの影響なのかこの時期は観光客も多く、海や浜辺にも大勢の人が楽しんでいた。
俺はあまり人がいない場所まで移動して浜辺に降りる階段に座ると、ポケットからタバコを取り出して一服しはじめた。
「ふぅ……早いな。出会ってまだ数か月なのに、もう何年も付き合った感じがする」
ゴールドシップと出会って以来、毎日が忙しくなった。退屈とかつまらないなんて思うことも今ではかなりなくなった。
面倒なことに付き合わされるけど、楽しいって思えるようになった。
だからつい口にだしてしまった。
「そういや俺、いつから笑わなくなったっけ」
そんなのわかりきっている。彼女が死んでから俺は笑わなくなったし、毎日が退屈だと思うようにもなった。
それが、たった一人の奇人の所為で全部が変わっちまった。もちろんいい意味でなんだろうけど。
だけど、彼女と交わした夢をゴールドシップと一緒に叶えようとは思わなかった。
ただアイツといるだけで、俺はどこか満足しているような気がするから。
「あーー! お前なにやってんだ!」
「ん? どうしたよ」
もう嫌になるぐらい聞きなれた叫び声に頭だけを動かして振り返った。そこにはジャージに着替えたゴルシがいて、何故か鼻をつまんでいた。丁度風が彼女へ吹いたのか、タバコの煙がそちらに流れて、空いた手で煙を払っている。
「なんかくせーっと思ったら、やっぱりお前タバコ吸ってんのかよ!」
「あーすまん。ウマ娘は鼻がいいんだったな」
俺は慌ててタバコを携帯灰皿に入れながら謝罪した。だけどゴールドシップは怒るのはそれだけで、奇妙なことを聞いてきた。
「お前一日何本吸うんだ?」
「え? んー半分は吸ってないと思うが」
「じゃあ三本」
「なにが」
「一日に吸っていいタバコの数」
「待ってくれ。それだとお前から受けるストレスに耐えられない」
「はぁ!? ゴルシちゃんといるだけで常にウルトラハッピーに決まってるだろ。それにトレーナーたるもの、ウマ娘には絶対服従なのじゃ」
「……わかった。わかりましたッ」
「うむ。苦しゅうない」
やっぱり隠れて吸うんだったと俺は後悔しながら肩を落とした。だけど、よくよく考えてみればやめさせないで制限をつけるあたり、それがこいつなりの優しさなんじゃないかとちょっぴり思った。
「ところでコレ見ろよ!」
「なんだこの、ボロい地図」
ゴールドシップはいきなり俺の前で地図を広げて見せた。年代物といえば聞こえはいいが、本当にボロイし価値なんてあるのかと疑ってしまう。
だけど彼女にはそうは見えないらしい。
「売店のじいちゃんが売ってくれたんだよ。なんでも、ここからそう遠くないところに無人島があって、そこにはなんと金銀財宝が眠ってるんだってよ!」
「お前騙されてるって。今時そんな映画みたいな都合のいい展開なんてあるわけないだろ」
「うるせぇ、行こう!」
「……くそっ、わかったよ。行けばいいんだろ、行けば!」
行くという選択肢以外が存在しないことを悟り、やけになって俺は叫んだ。
するとゴールドシップは俺の前に手を差し出した。まるで、何かをよこせと言っているようだ。
「なんだ、その手は」
「これ千円だったから、金くれ」
「ふざけんな! それぐらい自分で払え!」
「トレーナーの財布は常にウマ娘のために使うもんだろ! いいのか~タバコが吸えなくなっても。アタシは一向に構わないんだぜ」
「ぐぬぬっ……ほれ」
「よし、財宝がアタシ達を呼んでるぜー!」
背に腹は代えられない。俺はタバコのためにやむを得ずお金を渡した。
この時の俺は、どうせただ無人島に行ってちょっと探検してすぐに戻ってくる、そう思っていた。
だが、まさかあんなことになるとは思いもよらなかった。
世界を救った衝撃の合宿一日目が終わり、二日目は意外なことにゴールドシップはトレーニングに勤しんでいた。
といっても、浜辺でよく子供がするような砂のお城を作っているだけなのだが。
本人曰く。
「いいか。これにはスピード、スタミナ、パワー、根性、賢さの全てが要求される極めて高度なトレーニングなんだ。その完成度によってそいつの能力がすべて把握できる。よく覚えておけ」
「ほーん。でも、そんなことやるの世界でもお前だけだろうな」
「いやぁ照れるぜ」
「褒めてないが」
サンドアートに勤しむゴールドシップの隣で、俺はパラソルの下で海の家で買ってきたカキ氷を食べながらそれを眺めていた。
時間が経つにつれてただの砂が少しずつ形になっていき、お昼を過ぎたあたりでそれは完成した。
「……マジかよ」
「ふっ。自分の才能が恐ろしいぜよ」
中央にエジプトのピラミッド。その前にエジプトにありそうな遺跡やらスフィンクスとか、なんかごっちゃになったものが全部詰め込まれていた。
流石の出来に俺も脱帽して記念に何枚か撮ったあと、今までの鬱憤を晴らすべくゴールドシップが作った力作を破壊した。
壊したときはすごくスカッとしたが、直後『ゴルシドライバー!』と叫ぶゴールドシップに気づいた途端、いつのまにか砂の中に埋められていた。
三日目はまさかと思うが、ゴールドシップはちゃんとトレーニングをしだした。俺も俺で何だか久しぶりにトレーナーらしい仕事をしていたと思う。
たまにはちゃんと練習する彼女を見て思うのが、やはりゴールドシップには確かな才能を感じさせられるということだった。
一年目にしては彼女のスタミナは異常と言っても差し支えないし、パワーは言わずもがな。スピードはまぁそこそこ速いが、彼女にはそれを補うだけのスタミナとパワーがあるので、持続力と爆発力が段違いなのだ。
こいつ、本当に学園に入学して一年目のウマ娘なのか。
そう思ってしまうぐらいには、ゴールドシップというウマ娘は常識が通用しないウマ娘なのだと実感させられる。
気づけば俺が与えたトレーニングを熟して戻ってくると、ゴールドシップはドリンクを飲みながら言ってきた。
「お前ってちゃんとトレーナーらしいことできるんだな!」
「はぁ……お前がそうさせないんだろ。まぁでも、俺も俺で色々と学んだこともあるよ」
「へぇー。例えば?」
「そうだな。何でもかんでも自分の考えを押し付けるのはよくない。時にはそいつのやりたいようにやらせるってところかな」
「ほぅ。ようやく理解できたか。つまり、これはアタシのおかげだな」
「なんでお前がそんなに偉そうなんだよ。確かにお前のおかげだけどさ」
「だろ?」
笑顔で自慢気に言うゴールドシップを見て、つい苦笑してしまう。
やっぱりこいつといると飽きない。色んな意味で。
それを毎回痛感させられる。
だけど、ちゃんと練習するなら初日からやってほしいものだ。もう三日目なのにちゃんと練習しているのは今日だけだし。
ふと俺は今日が夏祭りの日だということを思い出して、それをゴールドシップに伝えた。
「そういえば、今日は夏祭りだったな。午後は早めに切り上げて祭りに行くか」
「おっしゃー! じゃあ午前中はちょっとだけがんばるぜー!」
そう言ってゴールドシップは大はしゃぎで海に向かって飛び込んでいった。
「現金なやつだな……」
日が沈んでもう辺りが暗くなったころ。俺とゴールドシップは夏祭りの会場に来ていた。そこで俺は初めて彼女の私服姿を見ることに。
「お前……ちゃんとした服持ってたんだな」
「そういうお前はスーツばっかじゃん」
「スーツはスーツでも、これはカジュアルなんだよ」
「素直にセンスがないって言えよ」
「うっせ。で、どこから回るんだ? 金はちゃんと用意してきたから、好きなもん食っていいぞ」
「いいのか!」
「ああ」
どうせ金なんて持ってきてないんだろうに。
そう思う俺だけど、子供に金を払わせるなんて大人としてそれはよくないわけで、まぁちょっとカッコつけてるわけだ。
「どうするか。まずは王道の焼きそば……いや、あえてまずはニンジン飴も悪くないな……!」
「時間はたっぷりあるんだ。遠慮しないで片っ端から食え」
「決めた! まずは的屋から行くぜ!」
「……ほんと、飽きないわな」
見た目の割には、こういう日のような時だけは年相応だなと俺は思った。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。ゴールドシップと一緒に屋台を回りまくって、いっぱい飲んで食って、気づいたら花火が上がったから帰ることになって……。
気づいたら二人で夜の海を眺めながら砂浜を歩いていた。
彼女は鼻歌を奏でながら、最後に買ったわたあめを食べている。
「どうだ、楽しめたか」
「おう。中々こういう所の祭りも悪くないな」
「だな」
そう言ってすぐにまた無言になる。どういう訳か、先程から全然話が続かない。自分でもそれはよくわかってない。
何ていうか、そういう雰囲気があった。
すると、今度はゴールドシップから話を振ってきた。
「なぁ」
「んー」
「一つ、聞いてもいいか」
「別にいいが。なんだ藪から棒に」
俺は振り返ってゴールドシップを見た。わたあめの所為で口元は見えないけど、目だけは真剣な目を俺に向けていた。
「アタシと会う前、オマエはなんであんなに退屈そうにしてたんだ?」
「……」
まさかの質問に俺は祭りでの余韻がどこかへ消えてしまった。
やっぱりこいつは賢い。よく人のことを見ている子だ。それも俺と会う前だから、たったそれだけでゴールドシップは見抜いたんだろう。
「オマエを見たときアタシはすぐにわかった。ああ、こいつは毎日がつまらないんだって」
「そんなに顔に出てたか」
「すごくな」
「そっか……タバコ、吸ってもいいか」
「特別だぞ」
「さんきゅー」
もう今日の三本は吸っているので、許可を貰って四本目を吸う。じゃないと気持ちが落ち着かないからだ。
一服して、ちょっと考えた。
話してもいいんだろうか。正直に言って、話す理由なんてない。これは俺個人の問題で、ゴールドシップには全く関係のないことだからだ。
だけど彼女には恩がある。今の俺があるのは、ゴールドシップのおかげだ。だから話してもいいはずだ。
それに……いい加減ケジメをつけなきゃいけないか。
「あんま面白い話じゃねーぞ」
「それでも聞きたい」
「……わかった」
まずはどこから話そうか、そう悩んでいながらも俺の口はもう動いていた。
高校時代、俺はよく担任の先生にこう言われていた。
『あなたは人に教えるのが上手だから、先生が向いてるかもね』
それが、俺達若い男共がデレデレしていた美人の先生だったから、それをつい鵜吞みにしてしまうのは仕方がない話というものだ。もちろん、俺もその一人だった。同年代の女子と比べてもやっぱり綺麗だったし、男として意識しないわけがなかった。
だけど高校三年のある日、先生が結婚したという話をしだした時は、全男子生徒が枕を涙で濡らした。俺は泣かなかったけど、まあ現実ってこんなもんだよねって一人で納得していた。
結局のところ、俺には何かこれといってやりたいことなんてなくて、だから先生の言葉を真に受けて教師になる道を選んだ。
高校を卒業し、大学に入学そして卒業。教員免許も無事取れて、あとは採用試験を受けるだけだったのだが、俺はそこで止まった。
簡単に言えば目的を見失ったのだ。教員免許を取るという目的を達成した時点で、俺はなんというか満足してしまって、そのままどこかの学校の先生になればいいのにそれをしなかった。
ふと考えたことはないだろうか。
『なんで、こんなに頑張ってたんだろう』
そんなことが人には誰しも一度はあると思う。
結局、自分の意思で何かを決めたことがないからこういうことになったんだと思う。だから俺はそれを探すべく旅に出た。
とりあえず行ってみたいところをいくつかリストアップして、某番組のようにダーツで行き先を決めた。
もちろん国内ではなく国外。一応日常会話ぐらいならなんとかなるし、最近は日本語も通じるようなところもあるのでなんとかなるだろう。そんな楽観的な考えで俺は日本を発った。
色んな国を訪れ、そこに暮らす人々、その土地の文化や歴史を直で触れ合い多くの事を学んでいった。時には冒険みたいなこともした。
だいたいそんな暮らしを始めて半年くらい経った辺りだろうか。
某国のとある街の公園のベンチに座りながら俺はぼーっとしていた。半年も経ったのに未だになにか目標や夢が見つからなくて黄昏ていたのだ。
そんな時、一人のウマ娘が走ってきた。別にそんな光景はどこの国でもあるものだ。彼女達にとって走ることは定めと言っていい。
だけど俺は彼女から目を離さず、ジーっと見ていた。
ハッキリとした理由はわからないけど、何か違和感を覚えた。
そしてそのまま彼女は走り去り、俺もまた泊っているホテルに帰った。
翌日。俺はまた公園に来ていた。同じ場所でまた何もせず遠い空を見上げていた。すると昨日のウマ娘がまた走ってきた。昨日とは違う時間だけど、変わらず同じように走っている。俺はまた彼女をただ見ているだけ。
そんな事を数日程繰り返していると変化が起きた。
いつものように彼女は走っている。すると、だんだんと俺の方に向かってきて目の前でとまった。
『ちょっとそこの日本人。アンタ私のストーカー!? この間からずーっとここで見てるわよね。ま、私を選ぶなんていい目をしていることだけは褒めてあげる』
背が高い割には子供ぽいと思ったのが第一印象。次にウマ娘では珍しい白毛の長髪。あと胸がデカかった。
『……気に障ったなら申し訳ない。ただ、キミの走りがどうしても気になったんだ』
『気になったって、どこが』
『んーよくわからないんだけど、もっとキミは早く走れるんじゃないかなって思うんだよね』
『……アンタ、このあと暇?』
『え。まぁ暇だけど』
『じゃあ行くわよ!』
そう言って俺は彼女に手を引っ張られながら風になった。
「これが彼女との出会いだ」
「ふーん。で、その子のこと好きだったのか?」
直球で聞いてきたので俺は思わず吹いてしまった。普通そういうことを聞くのには順序というものがあるものだ。
「まぁ、結論から言えばそうだな。惚れてたよ」
「じゃあ付き合ってたのか」
「そう思うか?」
「うん」
「実を言うと付き合ってない。キスもしたことないけど、アイツが勝った時に抱き合ったりはしたぐらいか」
「成程。つまり童貞なのか」
「違います……まったく、聞く気あんのかお前」
「あるある~。で、そのあとは?」
「そうだな。確か……」
彼女に連れていかれた俺は、『コーチ』と呼ばれている男の前に連れてこられた。別に言い方が違うだけでトレーナーとなんら代わりないのだが、その人はまさにコーチと呼ばれるに相応しい風貌をしていたのだ。
歳はちょっといっていて、多分50から60代だと思う。帽子をかぶってサングラスをかけていて、俺でも初見は怖いと思った。
『おい、なんだこの日本人は。それに俺より背が高いのが一番腹が立つな』
『えぇ……』
『この人が私の走りを見て、お前は全然ダメだッ。俺が直々に教えてやる! って言ってきたの』
『言ってないが!?』
『……おい、でくのぼう。ちょっと来い』
俺はコーチに連れていかれて洗いざらい吐かされた。何をどう違和感を感じたのか、何が気になるとか、これでもかといわんぐらい質問攻めを受けた。
そして──
『お前、今日から俺のサブトレーナーになれ』
『は?』
『なに金銭面のことは気にするな。給料はちゃんと出してやる。それともアレか。資格とかそっち方面か? いいかでくのぼう。まず最初のレッスンだ。この世界で大事なのは──』
「金とコネだ──それが最初に教わったことだ」
「ん~いい言葉だぜ」
「俺もそう思うよ。ここだけの話、コーチのおかげで簡単にトレーナーになれたんだけどな」
「ずっちーな」
「でもちゃんと面接は受けたんだぜ。まぁ大抵のことは向こうで学んで、推薦状を書いてもらったから、他の奴よりかは簡単になれたってだけだ」
「ふーん。で、コーチと出会ったってことは、ここからオマエのトレーナーデビューの始まりって感じ?」
「そんな楽しいもんじゃないさ。今の俺とお前みたいなもんだ。毎日一緒にトレーニングに付き合って、レースに出て勝てば一緒に喜んで、休日も気づけば一緒に過ごしたりもした。そして──俺は夢を見つけたんだ」
「夢?」
「ああ」
今でもちゃんと覚えてる。初めて出会ったあの公園で、彼女と交わした約束を。
『私はこの国で一番のウマ娘になる。そしてあなたは日本で一番のウマ娘の育てなさい。そしていつか私とその子が戦うの!』
『それはいいけどさ。それで勝ったらなんかあんのか』
『私が勝ったら、私のもとで鍛えなおしてあげる』
『じゃあ俺が勝ったら?』
『あなたが勝ったら……あなたのウマ娘になってあげる。だから一番のトレーナーになって、私を倒すウマ娘を育てなさい──ずっと待ってるから』
自分で言っていて恥ずかしいが、確かこんな会話だったはずだ。それを聞いたゴールドシップは呆れながら言った。
「それ、プロポーズだろ」
「ああ」
「ああって、オマエさぁ……」
言いたいことはわかってる。そこはもっと攻めてその場でキスとかお前から告白しろと言っているんだろう。
「別にいいだろ! なんかこう、ロマンチックでさ」
「まぁ……うん、結構面白いぞ、多分……」
「だけどまぁ……それも叶わなかった」
「……オマエが退屈な人生になったのも、それが原因なのか」
俺は無言で頷いて、話を続けた。
「彼女とコーチの三人で過ごした生活はだいたい半年もいかないぐらいでさ。その夢のこともあって、俺は帰国することにしたんだ。帰る前日にパーティーをしたから見送りはいらないって言ってさ、一人で空港に行ったよ。そしたらコーチから突然連絡がかかってきた……アイツが車に轢かれたって」
「……」
「俺は慌ててタクシーを拾って病院に行ったよ。道中俺は、生まれて初めて心から神様に祈った。助けてください、何でもします、どうかって。だけど、俺の願いは届かなかった。即死でさ、着いた時にはもうアイツ……綺麗になってた」
「もう、いい……」
「なんでこんな残酷な目に彼女を遭わすのかって、神様を恨んだよ。この子はきっと凄いウマ娘になれる。それこそ世界で一番のウマ娘に。それぐらいアイツは……凄かったんだ。トレセン学園で教師になったのも未練さ。終わったことなのに、あの夢をどこかでまだ探していたんだ俺は」
「もういい! アタシが悪かった、だから……」
ゴールドシップは申し訳なさそうに俺の体を掴みながら言った。だけど、お前が思ってる以上に俺は意外と……笑えているんだ。
「お前は悪くないよ。むしろ感謝してる。今までこのことを話したヤツはお前以外にはいないから。だから……なんかスッキリしたよ」
「……無理すんなよ」
「無理なんてしてないさ。現に俺はお前に救われた。お前が俺をあの退屈な毎日から連れ出してくれた。ゴールドシップ、お前はアイツによく似ているよ。何を考えているかわからないし、そのくせ行動力があって、毎日が楽しいって思える」
「ほ、褒めてんのかよそれ」
「べた褒めだよ だから……ありがとう、
俺は心からの想いを伝えながら彼女の頭を撫でた。無意識にやってしまったけど、ゴルシはこの手を振り払うことなく受け入れてくれた。
顔もちょっと下向いていて、薄暗いけど顔が赤く染まっているように見えた。
「なんだ、照れてるのか。お前でもそんなことがあるんだな」
「う、うっせ! ……お詫びって訳じゃないけど……オマエと約束してやる!」
「約束?」
「ああ、約束だ。いいから耳の穴かっぽじって聞けよ」
「──わかった」
ゴルシは頷いて一呼吸置いた。だけど、それだけじゃ赤く染まった顔を鎮めることはできなかったようだ。
「アタシがオマエの人生をイヤって言わせるぐらい楽しくしてやる!」
一瞬、ゴルシとアイツが重なって見えた。アイツは……あの日のように笑っていた。だけど、本当にそれは一瞬だった。目の前には顔を真っ赤にしているゴルシが、『早く何か言えよッ』みたいな顔をしていたので、俺はそれに答えた。
「よろしくお願いします」
「お、お願いされてやるっ」
ありがとう、ゴルシ。
そう心の中で言いながら、俺は過去に決着をつけた。
──ありがとう。
誰かから感謝をされたのっていつぶりだっけ。
アタシはほんの少し前のことを布団の中で思い出していた。ついでに撫でられた頭を自分で触りながら思い出す。
撫でられたのも久しぶりだ。
今も昔も、アタシがやることにみんなが迷惑をしていた。当然だと思うけど、アタシは退屈な日々を変えたかったからそうしていた。
だから後悔なんてない。
だけど、いきなりアイツの過去を聞いたのはちょっと申し訳ないと思ってる。でも、あいつは感謝してくれた。
『ありがとう』って言ってくれた。
寝返りを打って、畳一畳分離れているアイツを見た。こんな美少女と一緒の部屋だというのに、アイツは寝ている。
三日目の夜となれば、もう最初にあった照れ臭さなんてなくなってた。着替えの時は互いに部屋を出てたけど、一緒に飯食って、一緒に寝るのもなんだか普通な感じになってきた。
初めはただ、自分のためだった。
だけど、今は心からこいつを楽しませたいって思えるようになった。オマエが楽しいならきっとアタシも楽しいに決まってる、そんな気がするんだ。
だから、オマエだけに言わせるのはフェアじゃないと思った。
アタシは自分の布団から抜け出して、アイツの上に跨った。すると、眠りが浅いのかすぐに起きた。
「……ごるし?」
少し体を前に倒すと、髪の毛がさらっとアイツの顔に垂れた。ヘッドギアをしていないとよくこうなる。だけど、アタシはそんなことを気にせず言った。
「お前の目の前には、誰がいると思う?」
「……胸のデカいすげー美人」
眠気が覚めたのか声がハッキリしていた。
「アタシが……未来から来たって言ったら、信じるか?」
「──信じる」
それが噓偽りのない言葉だってことぐらいアタシにもわかる。
だけど、聞いた。
「どうしてだ? 周りのヤツが言うただの戯言かもしれないんだぜ」
「お前を信じる、俺は今日からそう決めた。お前が俺に約束してくれたように、俺もお前を信じるよ」
自分で聞いた手前言うのアレだけど、よくそんな恥ずかしいことが言えるなと思う。だけど、全然嫌じゃない。
アタシはそっとアイツの頬に手を添えた。
「……なぁ」
「ン」
「100年後ヒマだったら、一緒に宇宙にいこうぜ」
「じゃあ予定空けとかないとな」
それが嬉しくて思わず頬が緩んだ。
「約束だぞ」
「ああ、約束だ」
そう言った時にはもうお互いの顔がすぐに触れそうな所まで、アタシは自分の体をアイツに預けていた。
この夏以降、アタシ達のチームの夏合宿所は毎年ここになった。
トレセン学園でトップチームと呼ばれるようになって、メンバーが増えても、アイツはここ以外を選ぶことはなかった。
きっとその理由を知っているのは今でもアタシだけだ。
祭りが終わったあと、約束を交わしたあの場所を
うまぴょいはしてないけど、うまだっちぐらいしたんじゃないかな(すっとぼけ)
どうしてたった数か月でこんな展開になるんですか。RTAでもしてるんですか?(現場猫感)
オリウマ娘に関しては一応ソダシと言われれば違うとは言えないけど、そっちはハッピーミークぽいので。
まぁ海外のゴルシ枠(突然変異のバグキャラ)です。
この子の設定としては、よくゲームや漫画でいるような『もうお前だけでいいんじゃないかなぁ』みたいな強キャラ。なお、序盤か中盤で死ぬ。
ゲーム性能だと最終的にALL・SかSSぐらいある(適当)。多分こっちがアイテムごり押しかチートでも使わないと勝てないようなヤツだけど、何故か勝つ。
ちなみに生存ルートはないです。