どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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めでたしめでたし。


第13R ゴールドシップ後編

 

 

 俺はゴルシの後押しもあって、テイオーに夢を託そうと考えた。

 彼女はもういない。だから夢は少し変わるけど、テイオーを日本で一番のウマ娘にしてみる。そして今度は世界一のウマ娘へ。

 そうなれば俺も世界で一番のトレーナーを名乗ることができるはずだ。

 

 もし叶うことができたら、少しでも彼女に報いることができると俺は思っていた。

 

 あの日、ゴルシにあんな事言っておいて、結局俺はまだ彼女に未練を抱いているってことになるんだろうな。

 

「いや、彼女というよりかは夢にか」

「どうしたの、トレーナー?」

 

 つい声が漏れたのか、体をほぐしていたテイオーが首を傾げながら聞いてきた。

 

「なんでもないよ。よし、皐月賞に向けて追い込みかけるか」

「うん! まずは一勝だもんね。よーし……ッ!」

 

 走り込み向かったテイオーの背中を見つめる。

『無敗の三冠ウマ娘』、それがあの子の夢だ。まずはそれを叶えるのが第一歩。

 

 俺の夢のことはテイオーには話していない。恥ずかしい、と言うのあった。けど、今は自分の夢に向かって頑張ってる奴に、俺の夢を押し付けるのはよくないと思ったからだ。

 

 いつ話すかはまだ決めていない。でも、その時が来たらきっと話そうと心に決めていた。

 

 だけど──その時が訪れることはなかった。

 

 

 

 

 

 アイツの言ったようにテイオーはスゲーウマ娘だった。

 多分才能という言葉で片付けるなら、きっとうちのチームの誰よりも持っている。何よりもアタシのウマ娘としての勘がそれを教えてくれていた。

 現にテイオーの奴はデビュー線から無敗のまま皐月賞を制した。周りが『皇帝の再来なるか!?』なんて騒ぎ立てていたけど、アタシ達はもちろん誰もがそれを信じたくなった。

 

 アタシもテイオーに期待をしていた。それは彼女ならアイツの叶えられなかった夢を叶えてやれるんじゃないかって。

 正直に言ってアタシはそういうの柄じゃないし、やるにしたってもう遅すぎたから。

 

 現に皐月賞で勝った時のアイツの顔は笑っていた。それだけでアタシも嬉しかった。アイツの事情を知っているから、まずは皐月賞を勝てて内心ほっとしているに違いない。

 最近チーム内がギスギスしている雰囲気はあったけど、やっぱり皆もこういう時はただ純粋に勝利を喜んでいた。

 

 そうそうこれでいいんだよ。

 

 アタシはアイツが楽しい人生を送れるようにする。アイツが笑っていて、皆も笑っているならそれでいいんだ。

 だけどそれに小さなヒビが入った。

 

 それは日本ダービーで起きた。

 第四コーナーから最後の直線で、テイオーが仕掛けたときアイツだけが他とは違う表情をしていた。

 

「いけぇテイオー!」

「テイオーちゃんがんばれー!」

「あなたなら勝てます、テイオーッ」

 

 チームの皆がテイオーが前のウマ娘を全員抜いて盛り上がっている中、アイツは真顔でただテイオーを見ていた。

 そしてテイオーが一着を取るとアイツはこちらに見向きもせず、落ち着いた声で言ってきた。

 

「ゴルシ、後のことは頼む」

「ん? ああ、わかった」

 

 するとアイツはスマホを取り出して、どこかに電話をかけながら何処かへ去っていく。

 何かあったのだろうと思った。だけど、アタシにはそれが何なのか見当もつかなかった。それがわかったのはチーム専用のグループLineで『テイオーが骨折した』とチャットに流れてきた時だった。

 

 翌朝になって、アタシはすぐにアイツの家に出向いた。テイオーのことはもちろん心配だった。けど、テイオーのことはアイツが何とかするけど、アイツに何かしてやれるのはアタシだけだからだ。

 

 朝早くアイツの家に行くと、いつもと違ってかなり驚いていた。なにせ今日はまだ平日だから、それも当然だった。

 アイツはすぐアタシを家の中に入れて尋ねてきた。

 

「こんな朝早く何しに来たんだよ」

「オマエが心配だからに決まってるだろッ」

「……ああ、そういうことか」

 

 アタシの一言でコイツはすぐに納得したのか、落ち着いた様子でアタシに言った。

 

「ありがとな、ゴルシ。確かにお前が危惧したように、昨晩はちょっと荒れてたよ。その……タバコも追加で三本吸っちまったし」

「たくっ。じゃあ今日は吸うなよ」

「……さっき一本吸っちまった」

「中々いい根性してるじゃねぇか。殴るのは話を聞いた後にしてやるよ」

 

 ポキポキと手を鳴らしながらすぐに殴れる準備に入ると、アイツは躊躇することなく話を続けた。

 

「その、まずはテイオーのことを考えた。今のアイツは俺と同じだから、じゃあどうしたらいいかってずっと考えてた。考えた末に、お前がしてくれたように俺もアイツに新しい夢(目標)を示してやればいいんじゃないかって」

「それで? 肝心のお前はどうしたんだよ」

「俺の夢は明確なゴールがないっていうか、曖昧だろ? 何を以って日本で、世界で一番になれるのか。三冠を取ることか、それともただ負けないことなのか。だから俺はこう思った。負けてもいい、だけど最後まで走り続けた奴こそが一番なんじゃないかって。ウマ娘の選手生命は長いようで短い。多くのウマ娘が夢のために多くのことに躓き、時には怪我だってする。全員が最後まで走りきることなんてない。壁にぶち当たって、夢を諦めて学園を去っていく子だって大勢いるんだ」

「……長い! もっと短く言え」

 

 良いことを言っているんだろうが、何せ長すぎて全然頭に入ってこなかった。最後ら辺は特に。アタシに言われてアイツは唸りながら言葉をまとめていた。

 

「えーと、負けても最後まで諦めずに誰よりも走り続けて勝った奴が一番?」

「結局勝たなきゃいけねぇんじゃねぇかよ!」

「しょうがないだろ! やっぱ勝たなきゃ一番になれねぇし、夢はころころ変わるんだよ!」

「台無しだなオマエッ」

「……すみません」

「はぁ……」

 

 アタシはかなり呆れてもう手に力が入らなくなってしまった。けど、殴らないわけにはいかないので、ポンっとアイツの胸に拳で優しく叩いた。

 

「ゴルシ?」

「今日はこれぐらいで勘弁してやる。だけどッ! 今日は絶対にもうタバコ吸うなよな」

「……わかりました」

 

 すぐ返事しない所を見るに納得はしていないらしいが、まぁ多分吸わないだろ。

 

「じゃあアタシは学園に戻る」

「俺はテイオーを迎えに行ってから学園に行くから」

「そっか。じゅあまたな」

「ああ、また」

 

 別れを告げてアタシは学園に戻ることにした。色々あったけど、アタシの足取りは軽かった。

 

 

 

 アタシはてっきりこれで一段落したと思った。けど、それは違った。そうさせたのは誰でもないテイオー自身だったからだ。

 

 療養中でもテイオーは午後のトレーニングに参加しに来ていた。それはいいことだとアタシも思ったし、変に閉じこもっているより直接顔を見ている方が皆も安心していられたからだ。

 だけど、それからテイオーに変化があったのだとアタシは思っていた。

 

 アイツもアイツでスズカの時よりも神経質になっているのか、トレーニングの最中はできるだけテイオーの傍にいることが多かった。そのテイオーもどこかへ行く時はいつもアイツに付き添ってもらっていた。

 

 アタシはテイオーが皆に向けてワザとらしく笑顔を向けているのを見逃さなかったし、アイツに向けて恍惚とした顔をしていたのを目撃すらした。

 正直表立ってなかったチームの負の面が出始めていた。

 このことをアイツに伝えるべきが悩んだ。テイオーを甘やかしすぎるなって、言えればよかったんだが言えなかった。

 言ってしまったらもっと酷い状況になるんじゃないか、そう思えて仕方がなかったのだ。

 

 だけど、アタシの予想以上にテイオーは周りに喧嘩を売るかのようにアイツとの仲を見せびらかし始めた。

 まさかテイオーの憧れであり目標でもあったルドルフにまでするとは、さすがのアタシも思ってはいなかったのだ。ルドルフが相談室でよくアイツと一緒にいるのは知っていて、まさかそれにテイオーが気づいたのは驚いた。

 

 結局アタシが取った行動は沈黙だった。これが正しいのか悪いのかは正直分からない。だけど、あまりにも酷くなるようだったら何が何でも止める覚悟はできていた。

 

 でも、不幸の連鎖はまだ続いていた。

 テイオーの無敗、マックイーンの連覇をかけた天皇賞・春。アタシ達はただ二人を応援することしかできず、アイツには見守ることしかできない辛い立場だった。

 結果は二人の戦いになると思いきや、マックイーンの圧勝で終わった。こんな結末は誰も予想なんてしてるわけがなかった。

 でも、テイオーは走っている時全然スピードが出なくてどこかおかしいって皆が思ってた。それをアイツにもちゃんと伝えようとした時には、もうアイツはこの場にいなかった。

 

 アタシ達は勝ったマックイーンの所に行った。連覇を達成したマックイーンの顔は晴れやかだった。

 だからマックイーンは当たり前のように聞いてきたんだ。

 

「トレーナーさんはどこにいますの?」

「あいつなら先にテイオーのところに行った。ほら、色々……あるしな」

「そう、ですわね」

 

 それがアタシや皆が言える精一杯のセリフだった。見るからにマックイーンは落ち込んでいた。当然だ。誰だってレースに勝ったら褒めてほしいに決まってる。それが皆の好きなアイツのことなら尚更だ。

 だけど、マックイーンは想像以上に落ち込んでいるのは明白だった。

 それでもマックイーンはウイニングライブを最後までやり遂げていた。でも、アタシは辛い事をまた伝えなければならなかった。

 

「──は? テイオーがまた骨折……!」

『ああ。念のために検査入院することになった』

「それは分かったけど、お前は……大丈夫なのか?」

 

 テイオーの事も心配だったけど、アタシはやっぱりアイツの方を優先して気にかけてしまっていた。でも、電話の向こうのアイツの声はそこまで落ち込んでいるような声ではなかった。

 

『そのことなら大丈夫だ。俺よりもテイオーの方が重症だからな。それに状況的にそんなこと言ってられなくなっちまったから』

「それも……そうだな」

『後で俺からも言うが、マックイーンにすまないと言っておいてくれ。それじゃまた明日な』

「ああ」

 

 それからアイツに言われた通りアタシはマックイーンに伝えた。トレーナーが来れないこと、テイオーがまた骨折したことを。

 案の定マックイーンは落ち込んだ。それはレースに負けた時とは比べ物にならないぐらいに。アタシは、もうこれ以上マックイーンに声をかけることはできなかった。

 

 アタシはあのおみくじが恐ろしいぐらいに当たっていることに恐怖し、不気味過ぎて今年からおみくじを引かなくなった。

 だから、今年はもうこれ以上の災難はないだろうって思ってた。でも、アタシの予想とは裏腹に災難が終わることはなかった。

 

 今度はマックイーンが骨折してしまい、アイツをまた苦しめることとなった。

 

 

 

 

「あのトレーナーさん? 毎週会いに来てくださるのはとても嬉しいのですが、折角の休日を私のために使わなくてもよろしいんですのよ?」

「俺はお前のトレーナーなんだ。気になるのも当然だろ」

「それはそうですけど……」

「じゃあこれはいらないよな」

 

 そう言って差し入れで持ってきたケーキを俺の方に寄せると、シュバッみたいな感じですぐに自分の手元に戻すマックイーン。

 

「もう! トレーナーさんは意地悪なんですからっ」

「あはは。でも、本当に無理なんてしないから。ただお前の顔が見たいだけだよ」

「そうやって煽てても何も出ませんわよ」

 

 そう、俺は無理なんてしてない。

 マックイーンの言うように、メジロ家のリハビリ施設は都内から少し離れているから、ここに来るのも一苦労だ。

 だけど、さっきも言ったようにマックイーンの顔を見たいからだ。

 

 ──ウソだ。

 

 本当はそうだけど、違う。

 俺は……逃げるためにここに来ている。

 

 テイオーとなによりも自分から。

 

 

 先の天皇賞・春でテイオーは二度目の骨折をしてしまった。それはレース中に起きていたんだと、今でもよく覚えている。

 だからレースが終わって真っ先に俺はテイオーのもとに向かった。すると彼女の右足は本人が気づかないぐらい痙攣していた。

 

 この時の俺は、泣くのを我慢していたと思う。

 

 なんでこの子にこんな辛いことばかり遭わせるのですか。

 どうして新しい夢に向かって頑張ろうとしているテイオーを苦しめるような真似をするんですか。

 

 俺は大っ嫌いな神様に心の中でそう訴えた。

 

 この事でゴルシは当然俺のことを心配してくれていた。でも、もう俺の夢はどうでもいい……って訳じゃないけど、今一番大事なのはテイオーの、何よりもあの子の心が心配だった。

 だから俺はテイオーとすぐに話すようなことはしなかった。

 まずは休養と自分と見つめなおす時間が必要だったと考え、テイオーとも少し距離を置いた。

 

 ここからがトウカイテイオーの分岐点だと俺は思っていた。

 二度の骨折は尋常ではないストレスだ。挫折したっておかしくはない。だけど、テイオーならきっとまた立ち上がるはずだと信じていた。

 

 三冠も無敗も失くなってしまった。

 彼女は、自分にはもう何も残っていないと思っているかもしれない。

 

 でも、ウマ娘には誰にだって持っているものがある。

 

 それは勝利への渇望と執念。誰にも負けない、勝つのは自分。最後まで諦めないという強い意志。

 

 誰もがそう思いあの場所で走っている。

 だからテイオーにもそれを思い出してほしかった。

 

 マックイーンが直接俺に骨折したことを伝えに来た日に、俺はテイオーを呼んだ。本当は日にちをずらそうと思っていた。でも、あの子にはすぐに伝えた方がいいと思って変えなかった。

 だけどテイオーはすでにそのことを知っていたらしく、俺は切り替えてテイオー自身について話を始めた。

 だけど──

 

「……トレーナー……そうだよ、ボクにはまだトレーナーがいる」

「い、いや、待て。それは──」

「トレーナーはボクが一番をとれたら……うれしい?」

「そ、それは確かに嬉しい。けどなテイオー。俺が言いたいのは──」

「じゃあボク、トレーナーのために走るよ! トレーナーのために勝ち続ける! それならボクもうれしいし、なによりトレーナーも喜ぶもんね!」

「待ってくれテイオー! いいか、一度落ち着くんだ。そこに俺は関係ない。お前はウマ娘にとって大事な──」

「よし! そうと決まったらトレーニングしなきゃ! トレーナー、ボク先に行ってるね!」

 

 最悪の展開だった。

 テイオーは……逃げてしまった。誰でもない俺に。

 

 兆候はあったんだ。

 最初の骨折をしてからのテイオーはやけに、いや過剰に俺に甘えていると思っていたからだ。だが、そうさせたのは俺があまりに過保護すぎたというのもあるのだろう。

 仕方がない、そう簡単に片付けるには重すぎる罪。

 骨折のこともあった。三冠の夢のこともあった。でもそれ以上にテイオーはまだ幼いと判断づけた。学園に入学して数年経ったが、まだあの子の身体となによりも心はまだ未熟だ。

 

 いや、それは言い訳だな。

 たぶん怖かった。何かを言って、それであの子が壊れてしまうんじゃないかって。

 

 俺はただ自分で気づいてほしかった。

 あの子が知らぬ間に忘れていた大切なことを、自分で思い出してほしかった。

 

 でも俺が一番しなきゃいけなかったのは、逃げるあの子の手を掴むべきだったんだ。

 

 そしてその日から俺はテイオーから逃げるように距離を置くようになった。

 本当はゴルシに相談すべきだったかもしれない。だけど、俺はそれをすることなくまた昔のように一人で抱え込んでしまった。

 

 その結果がアレだ。

 

 

『ふ、復活! トウカイテイオー復帰戦の天皇賞・秋を見事制しました! 彼女は再び私たちに奇跡を見せてくれたぁ!!」

 

 自分の走る理由を俺にしたテイオーは、骨折をする前のような調子に戻った。周りは凄いとか色々言っていたが、実際は違う。

 

 アレは一時的なものだ。

 

 復帰戦の天皇賞・秋はたしかに他者を圧倒する走りを見せた。走り方もいままでのトウカイテイオーとなんら変わらない。

 でも、俺は見ているだけで辛かった。身体が悲鳴をあげているような、いまにも簡単に壊れてしまうんじゃないかって。

 だから俺は訊いた。

 

「身体は……大丈夫か?」

「もう見てなかったの? もちろん絶好調に決まってるよ!」

 

 笑顔でいうあの子の顔すら俺はまともに見れず、彼女の前から去った。

 次のレース、ジャパンカップもテイオーは勝った。その走りは先の天皇賞より酷くて、俺はレースが終わると何も言わずに帰った。

 さらにその年最後のレースを飾る有馬記念で、俺はレースが終わってからテイオーに会いに行った。見なくても勝敗は分かっていたから。

 それは的中して、先の二戦が嘘かのようにテイオーは負けた。

 彼女は俺に気づくと言った。

 

「ごめんね、トレーナー。ボク……負けちゃった」

 

 俺の目の前にいるテイオーを直視するのが辛かった。目に生気がなく、レースに負けたという結果だけで、悔しいとか今度は絶対に負けない、そういった誰もが抱くような熱意もなかった。

 

 そして俺は苦渋の選択をした。

 

「テイオー、当分お前はレースには出させない」

「な、なんで! きょ、今日はちょっと調子が出なかっただけだよ! 今度は絶対に勝つから、勝つからさ。それにマックイーンとの約束だってあるんだ!」

「そのことは聞いている。だが、当分はダメだ。これは……命令だ」

 

 初めて俺は命令という言葉を使った。ウマ娘の自由意思を尊重し、放任主義だと自分で言っておきながらだ。

 それだけ今のテイオーは危うかった。

 むしろこれで反論してくれた方が俺は嬉しかった。まだこの子は自分の意思が残っている、まだ堕ちるところまで堕ちていないんだと。

 

「わかったよ。トレーナーがボクにそう言うならそれに従う」

 

 だけど俺の期待とは裏腹にテイオーはそう言った。

 

 その夜、俺は自宅のリビングで苦しんでいた。一日三本だけというルールを破り、もうその倍のタバコを吸っていた。

 

「どうすりゃあよかったんだよっ……!」

 

 答えはわかっていた。すべてが遅すぎた。もっと早くに誰かに相談するべきだった。あの娘たちに、誰よりもテイオーを見ていたマックイーンに。それこそゴルシに相談するべきだったかもしれない。

 

 それをしなかったのは、トレーナーとして弱音を見せないためか、それとも男のプライドなのか、それはいまとなってはわからない。

 残っているのはすべて遅すぎたという結果だけ。

 

 俺は無意識にスマホの写真の中にある一枚をタップして拡大した。もう過去とは決着をつけたのに、またあの時のように俺は涙を流した。

 

「俺は本当に、大事なことに気づくのがいつも遅すぎる……」

 

 もうこの世にはいない彼女に向けて呟いた。

 

 

 

 

 

 結局のところ、アタシは何もしなかった。正直に言って、どうしたらいいか悩んでいたというのもある。

 

 ここ最近アイツの笑顔も減ったし、楽しい日々を送れなくなった。

 

 約束をしたのに、アタシは約束を破ってしまっていた。

 アイツが苦しんでいるのは分かってた。なのになんでアタシに相談しに来ないとか、どうしてアタシはいつものようにアイツの所にいかなかったのか。

 

 それは多分、珍しくアタシもかなり参っていたんだと思う。ビビっていたと言っていいかもしれない。

 テイオーの二度目の骨折にマックイーンの骨折から始まり、テイオーの復帰戦からのレース。

 アレは、アタシでも分かった。

 あんな走り方を続ければ、いつか体も心も壊れる。

 アイツもそれに気づかないはずがないのに、でもアイツはそれを言わなかった。

 

 多分、それが答えなんだと思った。

 

 それを伝えるのは簡単だ。だけど、それを言ってしまったらテイオーがどうなってしまうか皆目見当もつかない。皆もテイオーの異常さには気づいていたと思う。誰もそれを口にしなかったのは、分かっていたからだ。

 

 アタシはあのおみくじの内容を思い出した。

 ここまで酷いことあるのかって。こう何度も災難が続くなんて早々あるはずない。もう十分過ぎるほど、テイオーやアイツは辛い目にあったはずだ。だからもういいだろうって、そう思ってた。

 

「誰か担架を持ってこい! それに救急車ッ、それと保健室に行って先生を呼んでこい!」

 

 アイツの叫び声がコースに響く。誰もがその光景に立ち尽くしている中、アイツだけがテイオーのもとに駆けていた。

 そう。テイオーは三度目の骨折をしてしまった。

 

 アイツがテイオーと一緒に病院に行った後、アタシは自分の頬を叩いて動き出した。

 

「うがぁあああ! こんなのアタシの柄じゃねぇ!!」

 

 そうだ。こういう時こそアタシはアイツの傍にいてやらなきゃいけないんだ。今までの情けない自分に怒鳴りながらアタシは病院へと向かった。

 アタシは兎に角病院に一秒でも速く向かうために走った。それこそメロスのように。

 すると、近くの公園で見慣れた二人を見つけた。

 

 キタサンブラックとサトノダイヤモンドだ。

 

 ということはアイツがここにいると思って二人の所に歩いていけば、泣くのを堪えているアイツが必死にブラックに何かを言っていて、二人はどうすればいいか困っていた。

 

「ここはアタシに任せて、二人は家に帰んな」

「ご、ゴールドシップさん。で、でも……」

「ゴルシちゃんに任せなって」

「キタちゃん、ここは……」

「う、うん」

 

 納得してくれた二人が向こうに歩いていくのを見て、アタシはアイツの隣に座った。すると、涙声でアイツはゆっくりと今まで抱えていたモノを吐き出した。

 

「どうして、どうして神様はアイツらにこんな酷いことをするんだ。スズカの時もそうだし、マックイーンもそうだ。テイオーだってこれで三度目だ。なぁ、教えてくれよ。どうして神様はこんなにもあの子に試練を与えるんだ……」

「神か……最初に罪を考えだしたつまらない男さ」

「……それ、誰の言葉だ」

 

 アタシはそれでいつもの空気に戻ったような気がした。だからアタシは笑顔で言ってやった。

 

「ゴルシ様の言葉に決まってるんだろ。いいんだぜ、使っても。その時は使用料1億円な」

「……やっぱ、お前には敵わねぇな」

 

 アイツはそう言ってアタシの肩にそっと体を預けてきた。

 

「先生にさ、仮に脚が治っても今までの走りはできないって言われたよ」

「それで。お前はどうするんだ。もう無理だから、テイオーのことを諦めるのか?」

「そんな訳ないだろッ。俺は諦めたくない。今度だって絶対にまた走れる。俺はそう信じてるんだ。だけど……」

「テイオーにそう言うのが怖いか?」

「……うん」

 

 アタシは大きく息を吸って吐いた。そしてアイツの前に立って檄を飛ばした。

 

「オマエはテイオーのなんだ!」

「……トレーナー」

「じゃあ、トレーナーとしてすべきことはなんだ!」

「どんな時でもウマ娘を信じ、その子の夢を叶えてあげるのが仕事」

「だったら、最後まで信じてやれよ。オマエはトレーナー、なんだからさ」

「……うん」

 

 するとアイツは座りながら立っていたアタシをいきなり抱きしめやがった。アイツの顔がアタシのお腹に触れているのがイヤでもわかる。

 

「お、おい、いきなりなにを──」

「すまん。今だけはこうさせてくれ」

「……しょうがねぇな。今日だけだぞ」

 

 アタシは子供をあやすようにポンポンとアイツの頭の優しく叩いた。

 

「──後でテイオーに会いに行くっていたのに、こんな顔じゃ行けねぇよ」

「明日朝一番で行って、謝れば許してくれるさ」

 

 アタシのお腹に顔を埋めながら頷いたのは分かったけど、なんかくすぐったかった。

 

「やっぱり、もっと早くお前に相談するべきだった」

「……アタシもだ。もっと早くお前に言うべきだった」

「ほんと、バカだな俺達」

「今回だけは、オマエに同意してやる」

 

 これでコイツはもう大丈夫だ。

 だから、テイオー。お前も諦めるな。お前のことを誰よりも信じて奴が、お前のために頑張ってるんだから。

 

 コイツが言うようにお前は天才だ。アタシにはそれが分かる。お前ならきっと誰よりも凄いウマ娘になれる。

 その力がお前にはあると信じているから。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、お兄さま……本当によかったの」

「よかったって、なにが?」

「だって今日はテイオーさんのライブがあるのに、傍にいてあげなくていいの?」

「ライスは、優しいな」

「……お兄さま……」

 

 そう言って俺はライスの頭を撫でやった。

 

「色々あったけど、俺はまだ……信じてるから」

「テイオーさんが戻ってくるのを?」

「うん」

 

 今日は感謝際で、その中にテイオーの引退ライブが組み込まれている。

 どうしてそんなことになったかと言えば、半分は俺の責任だということは自覚している。テイオーはあの時……また、俺から逃げたんだ。

 

 退院してから少し経って、アイツは俺に退部届を持ってきた。俺はどこかその行動に違和感を覚えていた。

 なんだか妙に計画的というか、テイオーは俺を試しているんじゃないかって。

 でも俺は、そんなこと関係なく本音で語り、あの子の心の叫びを聞いた。

 

『だって、脚が治っても前にみたいに走れない、走ったって勝てない。だったら……走らない方がマシだと思ったから。確かにマックイーンとの約束を果せなくなっちゃったのは残念だよ。それに走れないウマ娘に価値はないし、そんな子がメンバーにいたら、みんなの邪魔……になる、から』

 

『聞きたくない! そんな言葉、ボクは聞きたかったわけじゃない! ただ優しくしてほしかっただけなんだ、あの時みたいに優しい言葉で、ボクだけを見てくれればそれでよかった! ボクはトレーナーが好きなんだ、だからトレーナーのために走ってきたっ。それなのに、それなのに……』

 

『だからボクは……キミのために走ってきたんだよ……』

 

 一瞬だけ目を離した隙に、あの子に大切な言葉を伝えようと思ったときには、テイオーはまた俺から逃げてしまった。

 追いかけるべきだったのかもしれない。だけど、今のテイオーはもう絶対に俺に会おうとはしないと思った。

 現にアイツは部室に来なくなったし、トレーニングにも顔を出すことはなかった。

 

 ある日俺は一人で部室にあるパイプ椅子に座りながら、テイオーが渡してきた脱退届を眺めていた。するとマックイーンが入ってきた。

 彼女は俺と同じようにまだテイオーが戻ってくると信じている一人だ。だからだろうか、俺の口は自然と動いてこう言っていた。

 

「俺はテイオーが戻ってくるって信じてるんだよ」

「それはどうしてですの?」

「あいつがテイオー(帝王)だからさ。だから俺は。最低なトレーナーになるよ」

 

 そして俺は脱退届を破り捨てた。

 甘やかしすぎた、いや、今は優しく接するべきなんだと思う。だけど、それが今のテイオーを招いてしまった原因だ。

 すべては俺が悪いんだ。俺があの子を変えてしまった。

 

 だけど、あいつは帝王の名を持つウマ娘だ。だから俺は絶対に戻ってくると信じていた。自分が忘れている大切なことを思い出して。

 

 でも、その日の夕方あることが起きた。

 校門でゴルシが暴れていると聞いて、俺は慌てて走り出した。いざついてみれば、道の上に座っているテイオーと、その前で暴れているゴルシを抑えているマックイーンと何故かブラックがいた。

 俺も慌ててゴルシを落ち着かせるべく動いた。

 

「落ち着け、ゴルシ!」

「離せよ! こいつは、こいつだけは許せねぇんだよ!」

「いいからこっちに来い!」

 

 俺は無理やりゴルシをその場から引き離して、校内にある俺のトレーナー室へと連れて行った。今思えばよく暴れるウマ娘を連れてこられたと思った。

 トレーナー室に着くころにはゴルシも一応落ち着きを取り戻していたので、なんであんなことになったのかと聞けば……。

 

「だって、許せなかったんだよ。あいつ、オマエのこと何にも知らないのに、オマエが誰よりもテイオーのことでたくさん悩んで、辛い思いをしながらずっと信じてるのに……」

「お前……」

「それにアタシは知ってるから、オマエのこと誰よりも知ってるからッ。オマエが皆と同じように夢を目指そうとして、でもそれが叶うことができなくて、だから……だからアタシ……」

 

 ゴルシは……泣いていた。こいつと出会って初めて彼女の涙を見た。俺がテイオーのことを考えているように、ゴルシも俺のことを誰よりも考えていてくれた。

 それがとても嬉しかったし、泣かせてしまったことに罪悪感を感じてしまう。

 だから俺は、あの時してくれたことと同じようにゴルシにもした。

 

「バカ。お前が泣いてどうすんだよ。俺の人生楽しくするんだろ? だったら、泣くなって」

「……うるせぇ」

 

 抱きしめながらゴルシの頭を撫でてやるが、言っていることはいつもと変わらない感じでどこかほっとした。

 

「テイオーのことは、許してやれ。全部俺が悪いんだ。お前は悪くない。それでも俺はまだテイオーのことを信じてる。だから──」

「……違う」

「え?」

 

 途端、俺の背中に回しているゴルシの腕がちょっとだけ力が入った。

 

「もう、いないんだ。アタシ達が知ってるテイオーは。アタシには……分かるんだ」

「そんなことないさ。テイオーはきっと……」

「あの頃にはもう、戻れないんだよ」

 

 またゴルシの腕に力が入った。

 俺は、彼女の言う言葉の意味を理解することはできなかった。

 

 ゴルシはああ言ったけど、現にテイオーは帰ってきた。あの日、感謝祭が終わったあとに彼女からメールが届いた、『話したいことがあるから会いたい』って。だから俺はそれを了承した。

 夜遅く誰もいない学園の部室で、テイオーは俺に言ったんだ。

 

『ウマ娘にとって大事なのは、レースに勝つという強い気持ち。なによりも最後まで諦めずに走りぬくことなんだって。三冠も無敗もなくなっちゃったけど、まだボクは走れる。走れる限りボクはレースに挑み続け、そして勝利を勝ち取ることができるんだって!』

 

 テイオーは長い時間をかけてようやく忘れていた答えを見つけ出した。

 

『だから言ったろ? それに気づけば、お前は無敵だって。確かにもう三冠も無敗も叶わない。けど、お前は何度も這い上がってきた。そしてこれからも』

『できるかな……今からでも間に合うかな……』

『できるさ。なんてたって、お前は無敵のトウカイテイオーなんだから』

 

 俺はテイオーを優しく抱きしめながら、あの子の涙が枯れるまでそれを受け止めていた。ようやくトウカイテイオーが帰ってきた、そう俺は思った。

 だから、なんでゴルシがあんなことを言ったのか、俺には理解できなかったんだ。

 

 

 

 テイオーのことで一段落したある日のこと。俺は部室で急な睡魔に襲われて寝ていた。夢というのは変なもので、何ていうか意識がある時とない時がある。

 今回は前者で、妙に意識がハッキリしていた。

 

『ここはどこだ?』

 

 辺りを見回せば、そこはどこかのレース場なのはわかった。俺はゴールライン近くにいて、なんとなく第四コーナーの方に目を向けた。

 すると誰かが走っているのが見えた。何人走っているのかはわからない。けど、一人だけ妙にハッキリと見えるウマ娘がいたんだ。

 

『マックイーン?』

 

 先頭集団の中に間違いなくマックイーンが走っているのが見えた。なんでって思った。でも、それを考えることすら不可能だった。

 

 ジリリリッ! 

 

 そこから先はスマホの着信音で目が覚めてしまったからだ。

 俺は目をこすりながら慌てて電話に出た。

 

「はい、もしもし」

『お忙しいところ申し訳ありません。私、メジロ家で執事として仕えている──』

「ああ爺やさんですか。お久しぶりです。どうかしましたか?」

『これから話すことは私の独断での判断です。木場様、どうか落ち着いて聞いてください。実はお嬢様が……繋靭帯炎を患ってしまったのです』

「──マックイーンは、いまどうしていますか」

『……走っております』

「今すぐそちらに行きます」

 

 電話を切っているころにはもう俺はもう校門に向かって走り出していた。校門に出て、タクシーを拾ってメジロ家に向かった。

 

 繋靭帯炎。

 

 それはウマ娘にとって発症してしまえば最悪の病気だ。

 なぜこれが最悪なのか。それは完治した例が一度もないということ。一度発症したら治療には一年程度費やし、回復しても再発しやすいという特徴がある。それ故に走れなくもないが、再発した場合今度は歩けなくなる可能性も出てくる。

 ウマ娘にとって走れなくなるということは、ある意味では死と同意義だ。

 

 俺は内心イラついてた。テイオーの問題が一段落ついたと思ったら、今度はマックイーンが繋靭帯炎だって? 笑えない冗談だ。

 心の中は荒れていたけど、俺の頭は何故か落ち着いていた。それもビックリするぐらいに、俺は冷静だった。

 それは先程見た夢が、俺に未来を見せてくれたんじゃないか、そう思わずにはいられなかった。或いは、それに縋りたかったのかもしれない。

 

 メジロ家に着くと、すでに爺やさんが俺を待っていた。彼はマックイーンの所に行く前に、どうしても彼女のお婆様に会ってほしいと、屋敷に案内された。

 そしてその人の部屋に入った瞬間、俺は言われた。

 

「一体なにをしに来たのですか」

 

 どうやら歓迎されてはいないようだった。彼女はジッと俺を睨んでいる。当然だ。自分の大切な孫を守ろうとしているだけだ。なんら不思議なことではない。

 けど、それはマックイーンのためだとは思わなかった。

 

「マックイーンのトレーナーだから、ここに来ました」

「つまりこういうことですか。あなたは私の孫を、マックイーンを殺すためにここに来たのですかっ」

「はい」

「ふざけるなっ!」

 

 彼女は目の前の机を叩きながら俺に向けて叫んだ。老いてもウマ娘だ。その力に俺でも逆らえるかわからない。

 

「あなたが優秀なトレーナーなのは知っています。だが、だからと言って私の孫を殺す権利なんてありはしない。これ以上あの娘に何を望むというのですか。メジロ家の悲願も果したあの娘に、まだ走れと、まだ苦しめというのですかッ」

 

 そうだ。彼女の言っていることは紛れもなく正論だ。何一つ間違っていない。なら、なんで……マックイーンはまだ走っているのか、それを分かっていない。

 

「そういうアンタだってマックイーンを殺す。それがベットの上か、ターフの上か、その違いだけだ。マックイーンが本当に走るのをやめるのなら、俺はそれを受け入れます。けど、そうじゃないだろ。マックイーンは今も必死にもがいている。あそこで歯を食いしばりながら走ってるッ。だったら、レースで死なせた方がマシだ」

 

 俺は言いたいことを言って部屋を出ようとドアノブに手をかけ、扉を開けて外に出ようとしたとき、後ろから彼女に問われた。

 

「どうして、そこまでするのですか。あなたにとって、マックイーンは何なのですか」

 

 そんなの決まってる。俺は振り返ってその答えを言った。

 

「メジロマックイーンが俺のウマ娘だからです」

 

 そのあと俺はマックイーンのもとに向かった。気づけばいつの間にか雨が降っていて、爺やさんに傘を渡された際に言われた。

 

「お嬢様をお願いします」

 

 俺はただ頷いてそれに答えた。

 

 雨の中屋敷の裏にあるコースに向かえば、そこにはターフの上に倒れているマックイーンがいた。

 マックイーンは俺に気づくと自分から話し始め、彼女の心の叫びを聞いた。

 

 走りたい、諦めたくない、テイオーとの約束を果せてない、何よりも俺に走っている姿を見てもらいたい。

 

 だから俺はあの夢のこと語り、呪いの言葉をかけた。

 

「俺の見た夢を叶えてくれ、マックイーン」

 

 俺は最低なトレーナーだ。だけど、その一言でマックイーンが少しでも勇気づけられるなら、それでいい。

 今思えば、テイオーにそういう言葉をかけてやるべきだっと悔やんだ。そうすれば、あの子を苦しめることはなかったはずだ。

 

 

 でも俺は気づいたんだ。

 

 テイオーだけじゃない。マックイーンや皆の存在一人ひとりが俺の夢そのものなんだって。

 

 彼女との夢を俺は叶えたいって、ずっと思ってた。日本で一番のウマ娘を育てる、そして日本で一番のトレーナーになる。

 

 だけど本当は、夢を終わらせたくない、夢を見続けたいんだって気づいた。

 あの日、彼女との夢を叶えられなかったことよりも、始まる前に終わってしまったことに俺は絶望していたんだ。

 

 最低かな、我儘かな。

 でも、それを願ってしまうぐらい、俺は最高で素晴らしいウマ娘達に出会えたんだ。だからあの娘達が走るのをやめるまで、俺はあの娘達の傍で夢を見続けていたい。

 

 だから俺はマックイーンのお願いをはぐらかした。

 

「もしもトレーナーさんの夢を叶えられたとして、それで私が二度と歩けなくなってしまった、らぁあ!?」

 

 ごめんな、マックイーン。その願いはまだ聞けないんだ。

 背中におぶったマックイーンを抱えながら、俺は雨でぬかるんだ道を屋敷に向けて駆け出した。ふと空を見上げれば、雲の隙間から薄らっと陽の光が見え始めていた。

 

 それからテイオーは、俺の夢を体現するかのようにそれを見せてくれた。

 

 本当の奇跡ってやつをテイオーはみんなに見せつけたんだ。

 

 その走りはまさにかつてのトウカイテイオー、いや、それを超える走りを見せたんだ。だから俺は、レースが終わったあとにこの言葉を送った。

 

「おかえり。トウカイテイオー」

 

 本当の意味で、俺の知っているトウカイテイオーが帰ってきた。

 

 俺はそう、信じていたんだ。

 

 

 

 

 領域(ゾーン)と呼ばれる言葉がある。

 

 それは、アタシ達ウマ娘ならば誰しもが持っているモノだと言われている。けど、それを発現できるようになるのは極稀だ。

 例え発現できたとしても、それを自覚しているウマ娘は多くない。

 

 アタシはそう思っていたけど、意外とトレセン学園に所属している名だたるウマ娘は領域にたどり着いてる娘が多かった。

 意識的に使っているのか、無意識で使っているかまでは判断できないけど、有名どころで行けば『皇帝シンボリルドルフ』であり、身近な所だと『芦毛の怪物オグリキャップ』、『異次元の逃亡者サイレンススズカ』だろう。

 まあ、気づいたらうちのチームの連中全員が領域に辿り着いているのは驚いた。

 

 ある意味で領域を会得したウマ娘は、一つの極みにたどり着いたと言ってもいい。それだけで他のウマ娘達とは比較にならないほど差がある。多くのウマ娘が壁にぶつかって、挫折していくのもこれが大きな要因の一つだろう。

 領域とは即ち、ウマ娘がその壁を超えた者だけが手にすることができる力の象徴でもある。

 

 ただ……もしもの話だ。

 

 領域の先があるとしたら、どうだろう。他に言い換えるのなら速さのそのまた先にあるもの、知覚の限界を超えた先にあるもの。

 

 アタシはそれを『ゼロの領域』と呼び、そこに達したウマ娘を『到達者』と呼んでいる。

 

 ゼロを会得できるウマ娘は、例え領域に達していても容易に辿り着くことは難しい。ゼロを発現させた者はみな、レースの中でそれに目覚めるという。

 ゼロの領域とは手にするモノのではなく、授かるモノだとアタシは解釈していた。

 それはまるで、神様からの贈り物と言わんばかりだ。

 

 そして今、神様はアタシの目の前で一人のウマ娘にそれを授けた。

 

『ゴール! いまトウカイテイオーが一着でゴール! 帰ってきたトウカイテイオー! 三度の故障を、一年のブランクを乗り越えて、いまトウカイテイオー奇跡の復活です!!』

 

 あの日以来、アタシはテイオーと距離を置いた。例え、テイオーがアイツとの仲を戻したとしても、それは変わらなかった。

 

 何故か。

 

 アイツに言ったように、もうアタシ達が知っているトウカイテイオーはもうどこにもいないから。人は変わるものだとよく言うけれど、アタシからすればそうそう人は変われない。それはウマ娘も同じ。

 

 では、どういった時に人はガラリと変わってしまうのか。それは決まって誰しもが共通している……『欲』だ。

 テイオーならばそれは『独占欲』だろう。

 それが無意識に自分自身を変えてしまった。普段でもそしてそれはレースでも見られた。テイオーが変わったことに誰も気づいていない。チームの皆もアイツも、アタシだけがテイオーの変化に気づいているだけだった。

 

 だけど、いま目の前で走っていたトウカイテイオーは、アタシが知っているトウカイテイオーそのものだった。

 

 トウカイテイオーが帰ってきた、アイツが夢を託そうとしたトウカイテイオーが帰ってきた──そう思った。

 

 だけど、すぐにイヤな予感がして、アイツの所に向かった。

 そこでアタシは見た。そこには変わったままのテイオーと……ゼロの領域に目覚めていたキタサンブラックがいた。

 

 どうやら神様はトウカイテイオーだけではなくもう一人、キタサンブラックにもゼロを授けていたらしい。

 

 だけど本来ゼロの領域とは、レースの中で目覚めるものである。それがどうしてレースでもないこんな状況で覚醒したのかは、アタシにも理解できなかった。

 一瞬それはゼロではないと思ったけど、アタシには確かにそれがゼロの領域だと判断付けてしまっていた。

 ブラックは無意識にその力を使っていて、彼女は恐らくゼロの囁きのまま行動しようとしたのだろう。目の前にいるテイオーに対して。

 だからアタシはブラックを引き戻した。

 

「ブラック、それ以上はやめておけ」

「え?」

 

 反応を見るに、やはり自分の意思で動いているわけではなかったようだ。

 

「テイオーに憧れるなと目標にするなとは言わない。だけどもうアイツに関わるな」

「ど、どうしてですか……」

「お前が知っているトウカイテイオーは、もうどこにもいないからだ」

 

 アタシは忠告を込めてブラックに伝えた。ゼロの領域なんて凄い力を手にしたって、幸せになれる保障なんてどこにもないんだ。

 何よりもテイオーに憧れるブラックを傷つけたくないと思ったから。

 

「行こう。きっとアタシ達が行ったらもっと酷くなる」

 

 無理やりこの場から引き離すようにアタシはブラックの手を引きながらこの場を去り、一緒に歩きながらこの子の力を封じ込めておいた。

 

 

 

 

 それからのことを語ろう。

 

 アレからテイオーはゼロの領域をレースに出る度にどんどん使いこなしていき、かつてアイツが言った『無敵のトウカイテイオー』になった。

 結局、アタシが知っているトウカイテイオーに戻ったのは、あの有記念で最後だった。いま皆が見ているトウカイテイオーは完全に別人だ。

 それも二つの仮面を持っている。

 一つはアイツに媚びるだけのトウカイテイオー。もう一つはアイツが望んだレースでのトウカイテイオー。

 

 テイオーは気づかれていないと思っているだろうが、アタシにはバレバレだ。アイツも騙せているんだろうとテイオーは思っているだろうが、その内それはアイツにもバレる。だって、仮面はいつか剝がれるものだから。

 

 

 

 少し月日は流れて、アタシのチームに成長したあの二人が入部してきた。

 

「初めまして、キタサンブラックです!」

「サトノダイヤモンドです。今日からよろしくお願いします」

 

 あの小さかった二人が大きく成長してトレセン学園の新入生としてやってきた。当然入ったチームは幼い頃から慕っていたアイツのチーム。

 アタシも予想外だったのは、ブラックが入部早々テイオーに喧嘩を売ったことだ。その時一瞬アイツの仮面が剥がれて本性が露わになったのを、アタシは見逃さなかった。

 

 ブラックは、アタシの言ったことを無視したわけではないと思うけど、それでもテイオーに固執していた。けど、日が経つにつれ、それはテイオーだけではなく他のメンバーにも向けられた。

 

 多分、ブラックなりにアイツを守ろうとしたんだろう。今のチームにはかつての楽しく、面白い雰囲気をあまり見せなくなったからだ。まぁ、アイツがいる時はいままでの雰囲気を保ってはいたけど。

 でも、そのやり方がなんていうか強引というか、見てられないようなやり方で、余計に皆を刺激するだけだった。

 

 そしてブラックはあの力に振り回されていた。違和感を覚えてそれとなく聞いてみれば、頭痛がすると言っていた。

 どうやら封じ込めていた力が弱くなって、頭痛という形でブラックに教えていたらしい。だから一緒にいる時は可能な限りブラックの力を抑えておくような日々がしばらく続いた。

 

 

 

 

 ブラックとダイヤがやってきてから少し経って、アタシは一人であの浜辺に来ていた。今は夏でもないし今日は休日でもない。

 だけどアタシならすぐに来れるし、学園にもすぐ戻れる。

 アタシは誰もいない浜辺を歩きながら呟いた。

 

「……最近、皆でここを歩くこともなくなったよな」

 

 あの年から毎年夏祭りが終わったあと、皆でここを歩きながら旅館に帰っていくのが恒例で、それがアタシは好きだった。楽しい会話をしながらふざけ合って、アイツをからかって、そんなアイツの楽しい姿を見るのが、アタシは好きだった。

 

 だけど、最近は違う。アレから皆との関係はなんていうか、ギクシャクしていて、一触即発みたいな雰囲気があった。

 皆がアイツと一緒に居たいからって、抜け駆けとかそういうことをするようにもなった。そんな光景をアイツに見せたくないから、アタシはできるだけアイツの傍にいた。

 でも、そんな生活ももう終わりだ。限界と言ってもいい。

 

 ジリリリッ! 

 

 するとスマホが鳴った。てっきりアイツかなって思ったけど、全然違う相手だった。ソイツは、アタシがこっちに来てからちょっと友達になってもらった………………URAに所属する人間の一人だった。

 アタシは少しイラつきながら電話に出た。

 

「そっちから連絡はするなって言ったよな」

『実は早急にお耳に入れてほしいお話がありまして、連絡させていただきました』

「わかった。話せ」

『出資者の一人である里美様からレースを開け、と申し出がありました」

「里美? 誰それ」

『同じチームに所属しているサトノダイヤモンドの父だそうです』

 

 そういえば聞いたことがあるな。ダイヤの家は資産家の家で、彼女はお嬢様だって話。となると、これはダイヤが父親に言わせてるってことか。

 

「で、どんなレースをご所望なんだ?」

『日時と出走ウマ娘は後にして、兎に角レースを開くことを承認しろと』

「……ふーん。ダイヤの奴も中々()()()事を考えたな」

 

 ダイヤを含めた全員が共通しているのは、キッカケだ。それも全員が納得できる合法的なやり方で、決着をつけようという魂胆なんだろう。

 

『で、どうしますか』

「そうだな……」

 

 アタシは考えた。これは確かに面白いことだ。それにアタシはここでアイツと約束した。

 

 オマエの人生をイヤって言わせるぐらい楽しくしてやるって。

 

 だからアタシは──

 

「いいよ。そのレース開催して」

『わかりました』

「それと、今からいう奴を出走させるから、ソイツらには出走願の手紙を送っておけ。手紙の最後には『勝者にはもれなく彼を手にする権利を得ることができます』だ。じゃあ、いいか?」

 

 1番ダイワスカーレット。2番シンボリルドルフ。3番オグリキャップ。4番サイレンススズカ。5番ミホノブルボン。6番アグネスタキオン。7番ライスシャワー。8番カレンチャン。9番メジロマックイーン。10番トウカイテイオー。11番キタサンブラック。12番サトノダイヤモンド。

 そして最後に──

 

「13番はアタシだ。ああそれと、ダイヤには今言った奴の出走リストともう一枚カタカナで『アリガトウ』って書いて送っておいてくれ」

『公式発表はどうされますか』

「そっちに任せる」

『わかりました』

 

 言うだけ言ってアタシは電話を切って、青い空を見上げた。

 

「これは、アタシとオマエが始めた物語だ。だから……いつか終わせなきゃいけないんだ」

 

 

 そして暫くしてURAから例のレースの開催が発表された。手紙を受け取った奴らはかつてない程トレーニングに気合いが入っていた。

 でも一人だけそうじゃない奴がいた……その名はキタサンブラック。

 

 ブラックは悩み苦しんでいた。

 あの子はアタシに少し似ていた。アタシはアイツを楽しませるならば、ブラックはアイツの笑顔を守りたいっていう考えだからだ。

 だからこのレースで、アイツが辛い思いをするんじゃないかって思ったんだと思う。

 

 だけど、それじゃあ面白くないだろ。皆が必死になって、アイツを手にしようとしているのに、一人だけそんな中途半端で走るなんて。

 アタシはブラックにやる気を出せるために、色々と教えてやった。

 今のテイオーのこと。ゼロの領域のこと。何よりもブラック自身のことについて。

 それと──

 

「テイオーに勝てる見込みがあるのは、お前と多分マックイーンの二人」

 

 これは正直なアタシの言葉だ。他の奴らもテイオーに勝てないというわけではないが、それはアタシが抑えに回っての話。今のテイオーは真っ向から勝てるとは思えないからだ。例えそれがルドルフやオグリでも。

 

 ブラックは完全ではないがゼロの領域を使えるからというのもあるし、アタシ個人がこいつに期待をしているからだ。

 そして二人目がマックイーンなのは、彼女が多分他の皆と比べてまともだからということもあるし、このレースで純粋な想いで走る奴はブラックとマックイーンの二人だけだからでもある。

 

 あとは可能性だ。

 

 繋靭帯炎を患って以来マックイーンはまともに走っていないが、アタシはきっとマックイーンなら奇跡を起こすんじゃないかって期待しているからだ。

 ただこれもアタシがマックイーンのことが好きだから、ちょっと贔屓しているだけかもしれないけど。

 

「始まった以上は最後までやらなきゃならない。どんな結果が待っていても、それを覚悟して走るしかない。ブラック、お前はどうする。何もせず、ただ他の奴らを勝たせるだけで終わるか? それでお前の願いは叶うのか?」

 

 やる気を出させる魔法の言葉を送ってやった。

 ブラックも他の奴らとさほど変わりはしないけど、お前はアイツのためを想って走る。そこが他の奴らとの大きな違いだ。

 

 そしてブラックは最後にアタシにこう言ってきた。

 

「どうして私なんですか。ゼロの領域を使えるからですか?」

「違う」

「え?」

「お前が──新たなる希望だから」

 

 それは無意識に出た言葉だった。ブラックをやる気にさせる言葉を言うだけでよかったけど、何故かそんなセリフが口から出た。

 アタシはブラックと別れたあと、いつかのおみくじの文章を思い出した。

 

「最後に希望がある、か」

 

 アタシはすべてを終わりにするためにこのレースを始めた。

 

 キタサンブラック。もしお前が本当に希望なら、アイツを……皆を救って見せな。

 

 そして、お前が新しい物語を始めろ。

 

 それがお前の願いを叶える唯一の方法だよ。

 

 

 

 そして──

 

「ピスピース! トレセン学園広報担当(自称)(本当)ゴルシちゃんだぞ。今回は特別にこのゴールドシップ様が実況解説だ!」

 

 アタシは何も知らないフリをしてここに座って、みんなを見ていた。まぁ、皆ピリピリしてるつぅか、殺る気に満ちていた。

 特にテイオーはアタシに早くこっちにこいと言わんばかりにこちらを睨んでいた。まぁそう焦るなよ、もうすぐ行ってやるんだからさ。

 

「いよいよ次で最後だな! で、最後は誰よ」

「いやいや。何をとぼけたことを」

「最後はあなたですよ、ゴールドシップさん」

「えーゴルシちゃんわかんな~いっ、おい待て! HA・NA・SE!」

 

 アタシは後ろに控えていた黒服のウマ娘達に、腕を掴まれて部屋を出て廊下を歩かされていた。そろそろいいかなと思って、アタシは言った。

 

「もういいぞ」

『はッ』

 

 この二人もアタシのまぁお友達……だな。別に名前なんて知らないけど。アタシは自分で歩きながらアイツの所在を聞いた。

 

「いま、この施設にある特別室にて監禁しております。何分抵抗が激しかったので、足に鎖を付けておりますが」

「あっそ」

「会っていかれますか?」

 

 そう聞かれたアタシは──

 

「いや、いい。アタシの勝負服は控室だろ?」

「はい」

「じゃあもういいよ」

 

 アタシは手を振って控室に向い、勝負服に着替えた。

 前にも言ったが、アタシはエンターテイナーだ。だから場を盛り上げるためにわざわざ目隠しをして、ムーンウォークをしながらゲート入りをした。

 その間周りからもの凄い殺気を感じたけど、まあ気になる程じゃなかった。

 目隠しを外すと、施設の中央モニターにアイツが映し出された。

 

『えーでは、今からトレーナーさんからレースが始まる前に最後のコメントをいただきたいと思います』

『!?』

 

 ゲート入りしてる皆がざわついた。

 ここまでは台本通りで、あとはアイツが何ていうか見物だった。

 

『お前ら後で覚えておけよッ』

『まぁまぁ。そうかっかしないで。最後なんですから、何かこう……走るウマ娘達に一言お願いしますよ』

『……』

 

 マイクを渡されたアイツはほんの数秒何を言うか悩んでいた。

 正直、何を言えばいいんだろうな。アイツもこのレースが怪しいってことぐらいとっくに気づいているのに、自分が何故そこにいるのかだってもう薄々勘づいているはずだ。

 そしてアイツはマイクを口に近づけて、言った。

 

『……ゴルシ、聞こえるか』

 

 ああ、聞こえてるよ。

 

『これだけは言っておくぞ。どうせ……お前が一枚嚙んでるんだろうが!』

 

 何か大事なことを言うと思ったら、結局いつもの感じになって、皆も会場にいる全員がざわめきはじめた。

 アタシは笑い抑えるために思わず口を手で塞いだ。

 

『気づかないとでも思ったかこの野郎! ゴルシもゴルシだが、お前らもお前らだッ。言いたいことがあるなら俺に直接言いやがれ! なにゴルシの手のひらで踊らされてやがる! あ? なんだよ、アンタ。俺が悪いだ?』

『い、いえ、私は何も言って──』

『ハイハイ。全部知ってました、お前らの気持ち知った上で今まで過ごしてきました。俺が全部悪いです、これで満足か!? 俺からお前らに手を出すと思ったか、だったら大間違いだ! 俺の立場を少しでも考えろ!』

「ぷ……くくっ……」

『お前らがその気なら俺だって言ってやる。いいか、よく聞けよ……俺には、結婚を前提に付き合っている女がいるッ。どうだ、これでやる気が失せたか!?』

『──えぇええええええ!?』

「アハハハハハ! むりぃ、もう耐えられないぃ……!」

 

 ゲートに寄りかかりながらアタシは必死に腹を抑えるので精一杯で、他の奴らがどういう状態なのかさっぱりだ。まぁだいたい見当は付くけど。

 だけど、遠くで──

 

『どぅええええ!? 何を言っているんだアイツは!?』

『理事長? 何を驚いているんですか』

『あ、いや、コホン。ナンデモナイゾ』

『なんでもない訳ありません!』

 

 どこかで聞き覚えのある声が聞こえたが、これも見当はつく。

 

『とっととこんな部屋から出て、お前ら全員に拳骨をお見舞いしてやりたいぐらいだ。だけど、これだけは言っておく。下手なレースするんじゃねぇぞ。勝つ気で走れ、このバカタレ共が』

 

 そうだ、そうだよな。ここまでの過程はどうであれ、これはレースだもんな。

 

 だったら、ちゃんと走らなきゃいけないよな。

 

 きっと、これがアタシがオマエに見せる最後のレースになるだろうから。

 

 じゃあ見せちゃうか。

 

「ゴールドシップ様の本気をな!」

 

 そして──ゲートは開いた。

 

 

 

 

 

 




「さあ各ウマ娘が一斉にスタートしました」
「果たして、このレースの結末はどうなってしまうんでしょうか!」
「続きはうまぴょい伝説のあと!」
「ミュージックスタートッ!」





(あ。今日中に活動報告にて、ちょっとした報告がありますのでよろしくお願いします)

※里美の美は誤字じゃないです。
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