どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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※注意 このお話はバッドエンドです。なのでキャラ崩壊に最後の方にNTR描写もあります。そういうのが苦手な方は今すぐ引き返してください。一応警告は入れてあります。




(スカーレットはグッドエンドなのに、なんでみんなそんなに怯えているんだい?)



ED.02 勝者と敗者

「合計で、1207円になります。袋はどうなされますか?」

「……お願いします」

「はい。では、3円の袋を入れて、以上で1210円になります」

「……」

「1210円ちょうどお預かります……こちらレシートになります。ありがとうございました」

 

 スーパーで缶ビールの1パックが入ったビニール袋をぶら下げながら、私はアパートに帰る。でも、どうせすぐに飲み干しちゃうんだから、もっと買えばいいのにって思うけど面倒でしないだけ。

 アパートとスーパーの距離はそこまで遠くない。走ればあっという間に帰ることができる。だけど、もう走る気なんて全然ない。

 

 だって、もう走ったって意味はないんだから。

 

 

 

『ゴール! シンボリルドルフがいま1着でゴールしました! さすが皇帝! 圧倒的な強さを我々に見せてくれました!』

 

 私は、勝った。あのレースで、誰よりも速くゴールに辿り着いた。

 後ろからどんどん抜いていき、前で走っていたゴールドシップとトウカイテイオーを抜き去って、私は先頭を走ったまま1着を手にした。

 

 ゴールラインを過ぎたあと、減速してゆっくりと歩きながら息を整える。私は一度も振り返ることなく、前だけを見ていた。

 きっとあの人が私を迎えに来てくれると思っていたから。

 

「──ルドルフ!」

 

 ほら、来た。

 先生は誰よりも私の名前を呼んでくれた。

 はぁ、はぁ、と息を荒げながら先生は私のもとにかけて……何故か通り過ぎようとしたので、思わず彼の右手を思いっきり掴んだ。

 

「先生……どこに、いくの……」

「離してくれ、ルドルフ」

「勝ったのはわたしなんだよ……なのに、どうしてわたしを抱きしめてくれないの? どうして褒めてくれないの?」

 

 わたしは振り返らず、ただ前をジッと向きながら先生の腕を離さないでいた。

 

「でも、あいつのところに行かなきゃ、伝えてやらなきゃいけ──」

「ねぇ、ルナって呼んでよ。二人だけの時はそう呼んでって、わたし……言ったよね?」

「る、ルナ。頼む、今だけは──」

 

 中々聞き入れてくれない先生に、わたしはちょっとだけイライラした。体はそのまま前を向いて、首だけを先生の方に向けた。

 

「今だけなんてない。これからはわたしと先生だけなんだ。だから、他の娘のことなんか考えなくていいんだよ。わたしだけを見ていれば」

「ッ──」

 

 普通の人間だったら、掴んでいる先生の腕は粉々になっているはずだけど、先生は頑丈なのか痛いだけで済んでいた。

 でもね、先生。その痛みはわたしの心の痛みでもあるんだ。だから、先生がわたしの言うことを聞いてくれるまで離してあげない。

 

 先生はもう一度後ろを見て、今にも泣きそうな顔をして言った。

 

「わかった……行こう、ルナ」

「うん、先生」

 

 掴んでいた腕を離して、今度は先生の腕に抱き着きながら私はコースを後にした。

 

 

 それから先生をわたしの実家に連れていくことにした。だけど時間も時間だし、わたしも疲れちゃったから、両親に先生を紹介するのは明日にすることに決め、近くのホテルに一泊することにした。

 女子寮じゃ先生を連れこめないし、かと言って先生の家に押し掛けるのは色々とリスクが高いと判断しからだ。

 

 まぁ、本音は先生とシたかっただけ。

 

 その夜、わたしは本当の意味で子供から大人になったような気がした。先生がわたしを求めてくれている。それだけで心も体も今までにないぐらい満たされた。

 今までアレほど望んでいた先生との関係が、たった一日で果されてしまったことにまだ違和感を感じていた。

 でも、先生と一つになる度にこれは夢ではなく、現実なのだと教えてくれている。

 

 わたしは、幸せだった。初めてそれを感じている。

 だけど、先生の顔はどこか辛そうだけど、疲れているのかな。こうして体を重ねるのも何回目だっただろうか。最初の内は数えていたけど、気持ちよくていつの間にか忘れちゃった。

 

 

 幸せな一夜を過ごした翌日。先生を連れてわたしの実家に向かった。タクシーを拾って家に着くまで、わたしは先生の腕に抱き着いていた。

 幸せの絶頂とは、こいうことを言うんだろうなって身をもって感じていた。

 

 でも、それはもっともーっと続くんだ。

 

 結婚して、子供を授かって、家族になるんだ。わたしと先生の子供だ。きっと才能に溢れた子供が生まれてくるに違いない。

 実家に着くまでそんなことばかり考えていた。だけど先生はまだ疲れが残っているのか、あまり元気がないように見える。

 

「先生、大丈夫?」

「ン……大丈夫だよ、ルドルフ」

「もう。ルナって言ってるでしょ」

「ごめんよ、ルナ」

「それと、わたしも先生のことをあなたって呼んでもいいよね? だって、わたし達やっと一つになれたんだから」

「お前の好きな呼び方で呼べばいい」

「──あなた。えへへっ」

 

 呼べた。やっと先生のことを『あなた』って呼べた。

 もうあとはお父さまとお母さまに先生を紹介して、そしたら式をあげよう。

 

 

 わたしは、幸せだ。

 

 誰もがきっと祝福してくれるって思ってた。

 

 でも、誰よりもそれを喜んでくれるはずの、お父さまがそれを許さなかった。

 

 

 

「……いま、何と仰りましたか、お父さま」

「彼との結婚は認めないと言ったんだよ、ルナ」

 

 久しぶりの我が家に帰れば、何故か先生は別室でお母さまと待たされて、わたしだけがお父さまと会うことになった。

 なんでだろうって考えてたけど、どうせそんな大した話しではないと思っていた。だから、久しぶりにあったお父さまにわたしは先生と結婚することを伝えたら、信じられないセリフが聞こえて、一瞬だけ頭がフリーズした。

 

「どうして……」

「どうしてじゃない。彼との結婚は諦めなさい」

「私は、あのレースで勝ったんだ! やっとの思いでアイツらに勝って、先生を手に入れたのに、どうして認めてくれないんだ!?」

「レースは私も見ていたよ。だが、アレが一体なんだと言うんだ。アレで手に入れた先に本当の愛があると、お前は思っているのか?」

「……れ」

「例え結婚を認めたとしても、お前達は幸せにはなれない」

「黙れ!」

 

 生まれて初めて生みの親である人に声を上げた。

 

「わかってないのはそっちだ! あのレースが、どんな意味を持っているのかわかっていないっ。彼を手にするのが、どんなことよりも意味があるのかわかってない! 無敗の三冠? 七冠ウマ娘? そんなモノ、あの人と比べたら価値なんてこれっぽっちもないんだ!」

 

 目の前にいるこの男は、今の私を見てただ無念だと言わんばかり首を振った。まるで、私を憐れんでいるかのように見えて、それがさらに私を苛立たせた。

 すると、部屋の扉が開いてお母さまが心配な顔をしながら部屋に入ってきた。

 

「あなた……」

「彼は、行ったか」

「はい」

「いまのどういうことなの……」

 

 いま目の前の男は、恐ろしいことを口にした。私は二人を睨みつけた。自分の、血のつながった両親に対して、私は殺意を向けた。

 

「そのままの意味だ。彼には帰ってもらったんだ」

「……ふざけるな」

「彼には、分かっているんだよ。だからお前のもとを去った」

「黙れぇ!」

「落ち着いて、ルナ。あの人はね、あなたのことを思って──」

「やめろ! 私をそう呼んでいいのは、あの人だけ。あなた達じゃない! 先生は、あの人は、わたしを見捨てたりしないっ!」

 

 今なら走れば間に合う──そう思ってわたしはドアノブに手をかけようとした。でも、後ろであの男が言うんだ。

 

「断言しよう。お前がもう一度彼と一緒になっても、けしてお前達は幸せにはなれない」

「──きらいだっ、みんなきらいだ!」

 

 目の前の現実を受け入れたくなくて、ただわたしは泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 数年後。

 

 それから私は学園を去り、家族との縁を切った。あんな事をする人達を生みの親とは思いたくなかったからだ。

 帰る場所がなくなった私は一人暮らしを初めた。その時のことは本当に覚えていない。兎に角、家を出たくて、一人になりたかったからだ。

 金銭面については、私に関してはあまり問題にはならなかった。貯金があったというのもあるし、レース以外でも番組出演していて本も書いていたのでその分の報酬もあり、学園を卒業すると今までの成績に基づいて報奨金……まあ賞金が送られる。

 なので当分の生活には困らなかった。

 でも、月に一度通帳を記入しにいけば、そこそこの大金が振り込まれていた。誰なのはすぐわかったけど、もう放っておいて欲しかった。

 

 一人暮らしを初めた私の生活は、それはもう酷いものだ。食生活は酷いし、ビールばかり飲む生活。自分で言うのもなんだが、堕ちるところまで堕ちたものだと我ながら思う。

 

 そして今日もなくなったビールを補充するためにスーパーへ出向き、いつものように一人寂しくアパートに帰る。

 私はスーパーから帰る度に郵便受けを確認するのが今の日課になっていた。本当に一人になりたくて、スマートフォンも捨てた。だからたまに母だった人から手紙が来る。どうやって突き止めたかはどうでもいいけど、読む気なんてこれっぽっちもない。

 

「……?」

 

 郵便受けにあったのは今まで違う手紙だった。宛先もないし、封もしてない。つまりは誰かが直接ここに入れたということになる。

 自分の部屋に戻ってビールを冷蔵庫にしまってから、恐る恐る中身を確認した。

 

『明日11時、日吉が丘公園にて待っています』

 

 たったそれだけ。

 今の私を、シンボリルドルフだと信じる人は少ない。身だしなみなんて必要最低限だし、ちゃんとした食事を採っていないから顔色も悪くなっていく一方だから。

 そんな私をシンボリルドルフだと知って、この手紙を置いていったのは一体誰なんだろうか。

 

「……どうせ暇なんだ。行くだけ行ってみるか」

 

 ただの興味本位あるいは暇つぶし。たったそれだけの理由だった。

 

 

 

 

 

 翌日、私は手紙にあった日吉が丘公園──東京競馬場に来ていた。

 今日起きれないとマズイと思って、昨日はビールを飲むのを控えた。あの時間からビールを飲まないのはいつぶりだっただろうか。

 それに久しぶりに髪を整え、化粧もして、外行きの服も引っ張り出した。鏡に映る自分は、かつて皇帝と呼ばれた私だった。だけど、それが一体何になる。

 

 皇帝と呼ばれた人間の末路が、コレだというのに。

 

 私は公園のあまり目立たない場所で待っていた。ここは私には眩しすぎる。家族連れが多く、大勢の親子が子供と触れ合う光景が胸に刺さる。

 ここにいる人達は、私が手に入れるはずだった未来だ。本当のわたしが、あの人と一緒にここにいる未来もあったはずなのに。

 

 やっぱり帰ろう。ここにいるだけでも辛いのに、嫌でも目に入るからもっと辛い。

 

 私は目の前の光景から背を向けて歩き出そうとしたその時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警告・ここからはNTR描写です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、ていおー……?」

「久しぶりだね、カイチョー」

 

 そこには、トウカイテイオーらしき女性がいた。

 らしき、と思ったのは数年ぶりに会ったというのもあるし、何よりも私が記憶しているトウカイテイオーとは大分姿が変わっていたからだ。

 

 身長もあの頃と比べると少し伸びていて、子供っぽさがなくなり年相応な落ち着きのある女性になっていた。

 なっていた。

 

「お前が、私を呼んだのか……」

「うん」

「なんで私の居場所がわかったんだ。知っているのは……二人しかいないのに」

 

 あのレースのあと、参加していたウマ娘達のその後なんて知らないし、学園の友人達とも袂を分かった。

 私の所在を知るのはあの二人だけ。なのにどうやってテイオーがそれを知ることができたのか、まったく見当がつかない。

 

「いまのボクなら簡単なことだったんだ。まあ色々あって、今日まで時間が掛かっちゃったけどね」

 

 簡単? テイオーの言っている言葉の意味が私にはわからない。

 なによりわからないのは、なんで私に会いに来たかということだった。テイオーとの再会は、嬉しくもなんともない。兎に角ここから離されたくて仕方がなくて、私は彼女にどうしてと聞いた。

 

「どうしてって、それはボクのセリフだよ」

「え?」

「ボクはあのレースのあと、気づいたら病院のベッドで目が覚めた。ボクはすぐに何もないって気づいた。あのレースのためにボクはすべてを捨てたからね。もう記憶にかなりもやがかかっていて、名前も思い出せないけど、アイツに勝つためにすべてを捨てた。カイチョーは覚えてる? あのレース、何人で走っていたか」

「……1()2()()だったはずだ」

「そっか。カイチョーはもう覚えてないんだね」

 

 覚えてないとはなんの話だ。あのレースは私を含めて、12人のはずだ。テイオーはまるで、他にも走っているウマ娘がいたと言いたげに聞こえる。

 

「まあそれはいいや。何もなくなっちゃったボクは、もう生きる意味も気力もなくなってた。どれくらい経った時だったかな。生きているのも辛くなってきて、もう死んでもいいやって思い初めて、気づいたらボクは病院の窓を割っていた。そしてボクは飛び降りようとしたんだ。でもその時にね、あの人が……ボクの名前を呼んだんだ」

「……ウソだ」

 

 受け入れたくなくて、ただ信じたくてなくて、だけどテイオーはまだ話を続ける。

 

「死のうとしていたボクに、あの人は生きろって言ってくれた。だからボクはここに立っていられるんだよ。不思議だよね。あのレースで勝ったのはシンボリルドルフで、負けたのはトウカイテイオーなのに。アイツに勝てなかったのは、今でも悔しいよ。でも、ボクはいま幸せなんだ」

「……ぁ」

 

 テイオーは左手の薬指にある指輪を私の目の前でわざとらしく見せびらかす。

 本当ならそれは私がしているはずなのに、よりにもよってテイオーがしていた。すると今度は向こうでたくさんの親子が遊んでいるアスレチックの方に視線を向けた。私も恐る恐るそちらに向ける。さっきまで見ていた時は全然わからかったのに、今になって何故か私はその二人に気づいた。

 

 小さなウマ娘が父親を呼びながら走ってきて、嬉しそうに抱っこしてもらっていた。

 私は目を背けたかったのに、何故かできなかった。まるで何かに縛られているようで、二人から目をそらせなくて、こんなにも離れているのに二人の会話が耳に入ってきた。

 

『パパ~』

『どうしたんだい』

『ママどこいっちゃったの?』

『そういえばそうだな。酷いママだな、あいつは』

『ひどいママだ~』

 

「ここ、覚えてる? ボクが初めてカイチョーと出会った場所だよ。ボクはもう走れない体になっちゃったけど、たまにレースを見に来るんだ」

 

 私の願いなど聞き入れる気がないのか、テイオーは勝手に話を進めていた。その間も私はずっとあの二人を見せつけれている。

 

「レースを見ながら昔のことを話すんだ。すると、あの子が言うんだよ。パパとママの叶えられなかった夢を代わりに叶えてあげるって。ほんと子供ってかわいいよね。ちょっと嫉妬しちゃうぐらいには」

「もう、いいでしょ。これ以上、私に何をするの……!」

「何もしないよ。ただボクは聞きたかっただけなんだ」

「──え?」

 

 すると見えない何かに縛られていた体が解放されて自由になった。私は咄嗟にテイオーから距離を取ろうとした。逃げればいい、今この場から走りだせばいいのにそれができない。

 

「本当ならボクはここにいない。本当なら、あそこにいるのはカイチョーのはずだった」

 

 嫌だ。

 

「勝ったのはカイチョーで、負けたのはボクなのにおかしいよね。なんであの人はボクの所に来たんだろうって、ずっと思ってた」

 

 聞きたくないッ。

 

「だからさ、教えてよ」

 

 やめて! 

 

「どうして()()()、あの人を追いかけなかったの?」

「いやぁああああああ!!!」

 

 そして暗闇が私の世界を覆い、気づけば考えるのをやめ、私は……わたしは……何者にもなれなくなった。

 

 

 

 Fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ情報
・ルドルフ含め彼女の両親はトレーナーが名家の跡取りだということは知りません(※1)
・ルドルフの父親は、自分の意思でああ言ったわけではない(?)
・ゴムはちゃんとしてた。
・テイオーは二人目を身籠っている(男の子)。

※1見合いの話であった最後辺りの会話はBルート(本編のレース)の時点で消滅しています。



一応グッドエンドはあるのですが、そこまで長くないはずなんで気力があれば書きます。

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