どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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家族と書いてファミリーと読むきん



ED.03 家族

 

 

 

 この時、私は一人で走っていた訳じゃなかった。

 

 レースで走っている時は、誰もがひとりぼっちだってみんなが言うのは知ってるし、私だってその意味を理解しているつもりだ。

 

 だけどいま走っている13人の中で、私だけが二人で走っていた。

 

 私のお腹には、命が宿っている。確証はないけど私にはわかるんだ。

 

 だからその子が教えてくれるんだ。

 

 まだダメだよ、後ろには気を付けて、そこを走るといいよって。

 

 私はこの子の言った通りに走って、気づけば誰よりも前にいて、ゴールラインを通過した。

 

 そして右手を天高く振り上げ、お腹を優しく撫でた。

 すべてはこの子のおかげだ。この子がいなかったら、きっと私は勝てなかっただろう。でも、勝ったのは私だ──いや、この子と私の二人だ。

 

 勝利の余韻に浸りながら、私は後ろを振り向かずにただ彼を迎えに行ったんだ。

 彼がどこにいるのか、それもこの子が教えてくれているような気がした。道一つ迷わずに、私は彼がいる部屋に辿り着いた。

 扉を開ければ、彼は必死に足に繋がれた鎖を外そうと頑張っていて、私はその鎖を壊してあげたんだ。

 

「やあ、迎えにきたよ」

「オグリ、どうして……」

「キミは変なことを聞く。そんなの決まっているじゃないか。私がレースに勝ったからだよ」

 

 部屋を見渡せば、ここには彼が座っていたであろう椅子だったものしかない。過去形なのは、彼が壊した椅子の残骸で鎖を壊そうとしていたからだ。

 多分それに夢中で、私が勝ったことに気づいていないんだと思う。レースを中継してたであろうテレビはあるし、途中までは見ていたはずだ。

 戸惑う彼を私はそっと抱きしめてあげた。

 

「色々とわからないことだらけかもしれない。でも、今は私を信じて一緒に病院へ行こう」

「びょう、いん? なんでだ。俺はあいつらの、あの子の所に行かなきゃ──」

「なんでって。それは……キミがお父さんになったからに決まってるじゃないか」

「──え」

「さあ、行こう。この子もそれを望んでいるよ」

 

 私は彼の手を引いて部屋を出た。彼はまだ頭が混乱しているのか、足がおぼつかない様子だ。

 

 きっと、突然のことで驚いているんだ。でもきっと嬉しいに決まっている。

 

 そう思うだろう。キミも。

 

 

 

 

 

「妊娠三ヶ月です」

「……すみません。もう一度、言ってください」

「三ヶ月です。ハッキリ申しますが、いくらウマ娘といえど妊娠している娘を走らせるなんてどうかしています」

 

 オグリと共に近くの病院にある産婦人科に行けば、受け入れがたいことを医者に言われた。

 

 妊娠? オグリが? 

 

 そんな事を突然言われて、はいそうなんですかと言える訳がない。 

 診療台に横たわる彼女を見れば、その顔は俺と違って笑顔そのもの。なんでオグリはこんなにも笑顔なんだ。そもそも一体誰の子供なんだ。

 そんな事ばかり頭の中でぐるぐると繰り返していて、俺は医者が言っていることなんてこれっぽちも耳に入っていなかった。

 

「……うっ」

 

 俺は咄嗟に口を手で押さえたけど、指の隙間から吐いた物が漏れた。医者やその場にいた看護師に介護されている時でも、胸の気持ち悪さは消えず、口の中も水でゆすいだけどまだ変な感覚が残っていた。

 診療室から病院のフロアに移動しても、まだ体調は戻らない。そんな中、気分が優れない俺に対し、オグリは心配しているけどその顔はどこか明るい。

 

 俺は、怖い。今から言うことを聞くのが、とても怖くて仕方がない。だけど、聞かないとこの気持ち悪さは消えないと思って、頑張って声を絞りだした。

 

「オグリ、お前のその子供は……誰の子なんだ」

 

 すると彼女はきょとんしたような顔をして、俺に言うんだ。

 

「誰って、キミの子供に決まってるじゃないか」

「ッ……」

 

 もう一度吐き気が来たけど、なんか耐えた。それでも大分キツイ。

 彼女の言うことは、間違っていないということは理解できる。

 

 オグリキャップが親しい男性なんて俺以外にいないし、自分から体を売るようなことをする娘でもない。かといって、俺から手を出した覚えなんてない。つまり答えは限られている。

 その真意を問おうとすれば、彼女から話を切り出してきた。

 

「実は、キミに黙っていたことがあるんだ。覚えていないか? 二人で一緒に学園裏にある森に行ったことを」

「ああ」

 

 トレセン学園の敷地内の奥に森というか、一応手入れはされている所がある。転入当初、都会の空気になれなかったオグリのために俺はそこに連れて行ったことがある。都会は建物が多く、彼女が住んでいた故郷とは環境も空気も違う。だからせめて少しでも自然が多いところを選んだのがそこだった。

 

「少し前に二人でそこに行ったろ? その際に私が持ってきた飲み物に睡眠薬を混ぜたものをキミに飲ませていたんだ」

「……ウソだと言ってくれ」

 

 三度目の吐き気は意外となかった。あるのは負の感情だけで、色んな想いが積もりに積もって一言では言い表せない。

 だからなのか、俺はオグリは一切悪気なんてないような顔に見えてしまっている。何を言っても俺はそれを信じることができそうにない。

 

「キミには悪いと思ってる。でも、私はキミが欲しくて、自分を抑えきれなかったんだ」

「だからって、お前のやってることを許せると思うのか……」

 

 今までだったら何をやってもちょっと怒鳴るだけで許せていたかもしれない。でも、これは度が過ぎる。そもそも許すとか許せないの問題なのかもわからない。

 オグリから目を背けていると、彼女は俺の手を取って言うんだ。

 

「許せなくてもいい。別に私は、これでキミに何かを求めるわけじゃない。ただ、この子の父親がキミだということだけは、理解して欲しいだけなんだ」

「それは……卑怯だろ」

「かもしれない。でも、私一人でもこの子を育てるつもりだ。キミを苦しませるぐらいなら、私“は”キミの前に二度と現れないし、私とこの子のことだって忘れてくれて構わない」

 

 オグリの言うことを素直に呑めば、きっと俺の心は安らぎを取り戻せるだろう。でも、俺の良心がその提案を拒む。

 大人だからなのか、それとも男だからなのか、なによりも『責任』という二文字が頭の中でちらつく。

 だから俺の口は、自分の想いとは別にこう言っていた。

 

「お前を、一人にはできない」

「……いいの? 私は、キミに恨まれて当然のことをしたのに」

「許せないよ。でも……俺にはお前を見捨てるなんてことできないよ」

「ありがとう」

 

 抱き着いてきた彼女を、俺も優しく抱きしめ……吐きそうになったのを耐えた。

 そして俺は心の中で本音を漏らした。

 

 俺は、どうすればいいんだ。教えてくれよ……ゴルシ。

 

 ……。

 

 あれ、ゴルシって誰だ……? 

 

 思い出せない。すごく大切なことを俺は忘れているような気がする。

 

 でも、もういいか。

 

 今はオグリとこの子のために、俺は責任を果さなければいけないから。

 

 

 

 

 

 あれから私達は東京を出て、彼の実家にその住処を移すことになった。夜逃げ、というわけではないが彼の行動は早くて、その様子が私にはそう見えただけかもしれない。

 そのこともあってか、私はちゃんと学園を卒業せずにトレセン学園を去ることになった。

 

 私はこういう事に疎いからすぐに理解できなくて、第三者からすれば彼が私を孕ませたということになるとあとで気づいた。

 だから彼の実家に着いたとき少し口論になったんだ。

 

『あなた、いきなり帰ってきたと思ったら──』

『母さん、何も聞かないでくれ。彼女は……俺の妻になる娘だ。子供を……身籠ってる』

『いい? 別に怒ってるわけじゃないの。でも、ちゃんと説明してくれなきゃわからないでしょ!』

『別にいいだろ。家の仕来り通り、嫁はウマ娘でそれも優秀な娘だ。ばあちゃんだって文句はないはずだろ』

『お願いだから話を聞いてちょうだいッ』

『頼むから! ……頼むから、今はこれ以上何も聞かないでくれ』

 

 彼の実家に来てからの最初の1週間はあまりいいものではなかった。最初は私が彼ら家族の仲を悪くしていると思った。

 でも、彼のおかあさんとおばあさんは私に親身になってこれからのことを色々教えてた。子供ができて喜んでいるだけで、私はその後のことを全然考えてなくて、だから同じウマ娘として二人のアドバイスはとても正確で分かりやすかった。

 ただ唯一不満だったのは食生活が今までと違って、とても厳しくなったことぐらいだろうか。それ以外は特に体の調子は悪くなったりはしなかったんだが。

 

 そして彼──いや、私の夫は、先のように最初の1週間は酷かったが、それからは仲のいい家族に戻っていた。だけど色々慌ただしいというか、私達の手続きなどで忙しいということは聞かせてくれた。

 

 ようやく落ち着いた頃、私は彼と一緒にここを案内してくれた。ここは私の故郷と似ていて、とてもいい所だった。都会と比べると空気は美味しいし、彼の家族はとてもいい人達ばかりなので居心地がとてもいいんだ。

 

「こんなにいい所なら、もっと早くに来たかったな」

「そうか? 最近は色々と増えたけど何もないところだよ、ここは」

「そんなことないさ。キミ──あ、あなたと、こうして一緒に歩くことができて嬉しい。それが私の故郷と似ているなら尚更だ」

 

 思わず恥ずかしくて手に力が入ると、彼も握り返してくれた。

 

「落ち着いたら、ちゃんとお前のご両親に挨拶に行かないとな。多分、お前の親父さん殴られると思うけどさ」

「それはないよ」

「どうして?」

「私がそんなことさせないからさ」

 

 そうとも。むしろ私がキミと結婚して、子供が出来たことにきっと喜んでくれるに違いない。もしも、キミが思うような事があったとしても、私が何とかするよ。

 だけど、彼はむしろそれを望んでいるような顔をしていた。それが何でなのかは私にはわからなかくて、何故か悲しいことを言い出した。

 

「……俺はきっと幸せにはなれない」

 

 なんでそんなことを言うんだろうって一瞬考えた。きっとまだ父親になる覚悟とかそういうことで不安になっているんだって私は思って、だから言ってあげたんだ。

 

「大丈夫」

「え?」

「今度は私があなたを幸せにするよ」

「オグリ……」

 

 不安なんて感じさせないほど幸せにしてみせる。私はあなたに返せないぐらいたくさんのモノを貰ったから。

 何より、この子を授けてくれた。

 だからこの子のためにもあなたを幸せにする。

 

「でも、一つだけお願いがあるんだ」

「お願い?」

「──やっぱり料理だけは、あなたに任せてもいいだろうか」

「……はは。任されたよ」

 

 彼が笑ってくれた。私も自分で言っておきながらつい苦笑してしまう。

 

 この時、それが久しぶりに見た彼の笑顔だったということに、私は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 

 わたしは生まれてこの方、一度もお母さんが作る料理を食べたことがない。わたしがいつも食べているこのご飯は、みんなお父さんが作ってくれているものだ。お父さんがいない時はたまにはおばあちゃんが作ってくれて、あとはおばばが美味しいお店に連れて行ってくれる。

 

 人間とウマ娘では食べる量も全然違うというが、わたしはまあお父さんよりちょっと多く食べるぐらい。だけど、おかあさんは違う。

 白米はどんぶりに山盛りだし、おかずは一人だけ大皿。なんでも昔は現役で走っていたときは、今の比にならないぐらい食べていたとお父さんは言うけど、これで昔より減ったというのはどうなのかなってわたしは思った。

 

 物心ついた時からお父さんのご飯しか食べてこなくて、友達がよく『お母さんの作る○○は──』なんていうからつい聞いてみたのだ。

 

『ご飯作るのお母さんなの?』って。

 

 そしたら、みんな当たり前のように頷いたので驚いた。

 だから私はお父さんに聞いたのだ。

 

「ねえ、お父さん」

「ン?」

「なんでわたしのお母さんはいつも食べてるだけなの?」

「リン。それはお父さんの作るご飯が美味しいからだ……もぐもぐ」

「こら、オグリ。食べるか喋るかどっちかにしろ。リンによくないだろ」

「もぐもぐ」

 

 お父さんに怒られたお母さんは食べることを選んだ。これがわたしのお母さんであるオグリキャップ。

 そしてわたしがその娘であるオグリワン。

 ワンだと変だし、オグリはお母さんと被るから家族は全員わたしのことをリンと呼ぶ。

 

 名前について一度お父さんに相談したことがあるんだけど、最初はアインって呼ぼうとしたお父さんにお母さんが『私よりカワイイからダメだ』と一蹴されてしまった。

 娘に嫉妬する母親というのは如何なものだろうか。

 

「リン。お母さんはね、食べるのが仕事なんだ。だからこれでいいんだよ」

「つまり一つも料理作れないってこと?」

「……遠回しに言えばそうかもな」

「失敬な。私だっておにぎりは握れるぞ」

「それ作ってあるじゃん」

「むっ、それもそうだな」

 

 お父さんは仕事なんて言うけど、お母さんが食べている所以外何をしているかと言われたら……何をしているんだろう。

 おばばとおばあちゃんと一緒にお茶飲んでるか、たまに私と一緒にかけっこしたりするぐらいだし。

 

 仕事と言えばお父さんの仕事もよくわらかない。なんでもうちはお金持ちらしいから別に働かなくても食べていけるとおばばが言ってるけど、そのお父さんはたまに外に仕事に行く時があった。なんでも前の仕事関連だとかで。わたしが今よりもっと小さいときはよく東京に行ってたけど、最近は滅多に仕事に行かなくなった。

 

 何ていうか、わたしの家族はちょっと変わってるけど、大好きで自慢の家族なんだ。

 

 

 

 わたしはよくお父さん子だよねって言われる。まあ言われてみれば友達と話す時も、いつもお父さんは~みたいな感じで入るからかもしれない。

 それも仕方ないと思う。お母さんはアレだし、毎日お父さんのご飯を食べていればこうなるんじゃないかと思う。

 わたしはそんな大好きなお父さんの膝の上に座って、頭を撫でられるのが好きだ。でも、時折寂しそうな時がある。

 

「リンの髪はあいつに似てるな」

「あいつって誰? お母さんのこと?」

「……誰だっけ」

「もしかして、浮気してる?」

「してないって。ただ……すごく大切なことなのに思い出せないんだ」

「フーン」

「だからごめんって」

 

 お父さんだけあって、わたしのちょっとした声の違いとか態度でその時の気分がわかる。謝りながらわたしの頭を撫でるのが、お父さんなりの謝罪だ。

 

「俺……とお母さんはね。お前が幸せならそれでいいんだよ」

 

 事あるごとにお父さんはわたしによくそう言う。そしていつも歯切れが悪そうに、お母さんって付けていることも。

 

 お母さんは好きだよ。一緒に走っている時とか、お出かけしている時は。けど、家にいる時のお母さんは食べているかお茶を飲んでいるぐらいしか見たことないから、そこだけ不満かな。

 

 わたしはお父さんとお母さんの関係がいまいちよくわからない時がある。お母さんはお父さんが大好きなのは嫌ってぐらい知ってるけど、お父さんは本当にお母さんのことが好きなのかなって思ってしまう。

 でも、キライだったらよく二人で出かけたりしないし、夜のトレーニング? だってしてないだろうし。やっぱりわたしの家族は変わってるのかな。

 

 

 

 

 学校がない日、わたしは一人で田んぼ道や山道を走ったりするのが大好きだ。少し前までは一人じゃ危ないからってお母さんが一緒だったけど、今では一人でも平気なぐらい通い慣れた。

 そんな日はいつも決まって山のとある場所でお昼を食べるのが日課だ。ここはとても見晴らしがよくて、辺り一帯がよく見える。特に田植えのシーズンだと水面に反射した雲が幻想的で、収穫のシーズンだと辺り一面黄金色になる。

 お母さんがここはとてもいい所だって言うのがよくわかる。そこはわたしも同意だ。

 そんな景色を見ながらお父さんが作ってくれたおにぎりは格別。

 

「もぐもぐ……ん。誰かいるの?」

 

 ウマ娘なので音や匂いに敏感だから人の気配がよくわかる。でも、この山はうちのらしいから、部外者は基本いないはずなんだけど。

 

「……」

 

 すると木の裏に隠れているわたしと同じくらいのウマ娘がいた。

 

「キミ、どこの家の子?」

「えーと……その……」

 

 同年代の子ならだいたい知っているけど、この子は見たことがない。特にそれがウマ娘なら絶対に忘れないし、この辺でウマ娘なのはわたしぐらいだから嫌ってぐらい目立つ。

 

 もしかして帰省しにきた家の子かな。

 

 おばばがよく、若い子はみんな出ていくけどちゃんと帰ってくる家族は多いって言ってたからそれかもしれない。

 だからこの山のことも知らないし、もしかしたら迷子になっちゃったのかも。

 でも、ここまで来るのは結構大変なのに目の前にいる子は疲れている素振りなんて見えないから、もしかしてすごい子なのかも。

 

 よくよく見るとあの子の視線はわたしというよりは、手に持ってるおにぎりに向けられているような気がした。

 

「あー食べる?」

「いいの……?」

「うん。まだたくさんあるから」

「!」

 

 それからはうちのお母さんみたいないい食べっぷりだった。

 その子の髪の色は鹿毛でポニーテールにまとめていて、わたしと同じくらいカワイイ子だった。

 

 え、自画自賛してる? 

 

 だってお父さんが、お前はカワイイってよく言ってくれるから当然だよね。

 それからわたしは、その子と一緒におにぎりを食べてちょっとお話してから山を下りた。

 

「あ、自己紹介してないや。また明日会えるかな」

 

 名前も知らないあの子は、不思議と同じ歳の子とは思えない感じがした。ちょっと大人びているっていうか、すごく落ち着きあったかな。話している感じがお父さんとか大人の人のような感覚だったと思う。

 

 あの子のことについてお父さんに聞こうと思ったけど、多分同じ歳のウマ娘がいたら真っ先に教えてくれるはずだから、多分知らないんだろうなって思って聞きはしなかった。

 

 翌日、わたしはあの子に会いにまた山に行くことにした。なので今日はお父さんにいつもよりおにぎりをたくさん作ってもらったのだ。

 

「今日はいつもより多いけど、何かあるのか?」

「ちょっとね~」

「ま、気を付けて行ってきなさい」

「うん!」

 

 お父さんに見送られながら私は昨日と同じ時間ぐらいに山に登った。すると、あの場所にはもうあの子がいた。

 

「あ、こんにちは」

「うん、こんにち! 今日も来てたんだね」

 

 わたしは彼女がいたことに喜んだけどある違和感に気づいた。多分間違いじゃなかったら服が昨日と同じなのだ。

 そんな違和感を覚えつつもわたしは隣に座った。

 

「ここからだとよく見えるから」

「あ、キミもそう思う? わたしここから見える景色が大好きなんだ。それにわたしの家も見えるよ」

「え、どこ」

「ほら、あそこの大きい家」

「あ、本当だ」

 

 指を差せばすぐに彼女はわたしの家を見つけた。彼女の目はどこか懐かしんでいるような、どこか切なそうな目をしていた。

 

「そうそう。今日もおにぎり持ってきたんだ。ほらっ」

「おー。一杯あるね」

「サケにこんぶにうめ……あとツナマヨも!」

「すごいね。お母さんが作ってくれたの?」

「ううん。わたしのお父さん!」

「へー……うん、おいしい!」

「でしょ!」

 

 わたし達は仲良くお父さんが作ってくれたおにぎりを頬張りながら大好きな景色を眺める。わたしが体験している中で、一番贅沢な時間だ。食べながらわたしは気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「ねえ、一つ聞いてもいい?」

「ン? なに」

「その……キミって、もしかして家出とかしてる? 服装も昨日と同じだし、普通の子はこんな所来ないから」

 

 正直言ってちょっと失礼だと思うけど、もしそうだったら大変なことだ。だから、本当に困っているなら力になってあげたい。

 でも、その本人はそこまで困った様子ではなかった。

 

「ン~そうなるのかな」

「い、今までどうしてたの!?」

「そこはまあ、色々と」

「色々って。じゃあ昨日別れた後はどうしてたの?」

「えーと、野宿?」

 

 わたしは大きなため息を付いた。家出してることや野宿していることよりも、なんでこんなに楽観的というか、別に問題ないみたいな感じで言うのか理解できなかった。

 だからわたしは助けてあげたいって思って言ったんだ。

 

「じゃあわたしの家においでよ。きっと事情を話したらお父さんが助けてくれると思うんだ」

「いいの?」

「だって、目の前で困っている子を放っておくなんてできないもん」

「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「それでいいのだ。それじゃあ今すぐわたしの家に行こう!」

「うん」

 

 わたしは後片付けをパパっと済ませて山を下りる準備をする。といっても、そこまで大きな荷物はないから、バッグに水筒とかシートをしまうぐらい。

 いざ帰ろうと思った矢先、わたしは大切なことを思い出した。

 

「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったね。わたしオグリ、オグリワンって言うの。家族のみんなは私のことリンって呼ぶから、キミもリンって呼んで」

「うん。ありがとう、リン」

「えへへ。で、キミの名前は」

 

 名前を聞くと、何だか不思議と引き込まれそうな笑顔で彼女は言った。

 

「ボクは──テイオーって言うんだ。よろしくね、リン」

 

 

 

 

 Fin

 

 

 

 





おまけ情報
・オグリの子供はこのルートのみで、それ以外ではトレーナーを食べてない。
・レース中のテイオーはきっとVガンのファラさんみたいな感じで惑わされてる。
・テイオー(?)は強くてニューゲーム状態。
・あの後は新しい家族が増えてみんなハッピー。


申し訳ないんですがライス、カレン、タキオン、ダイヤの話はちょっと無期限延期します。ちょっと全員分書くのは大変なのもあるのですが、予定している内容がちょっとアレかなと思ってるので……。もし最後まで書けないと判断したときは、活動報告か何かでプロットだけは公開する予定です。

一応スズカとブルボンはほぼ完成していますので残りのマックイーン、テイオー、ブラック、ゴルシを優先して書いていきます。

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