どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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特殊エンディングです。


ED.05 世界最後の日

 

 

 あの日、私は勝ちました。

 

 今思い出しても、私はよくあのレースに勝てたと思っています。正直に言って、勝てるレースではなかったのです。

 

 大半がチームのみんなで、その実力は自分も含め全員が把握している。だから、負けないという気持ちは持っていても、あの子……テイオーさんには勝てないんじゃないか、そう考えていたのです。

 

 ですが私は勝ったのです。

 

 スタートから私の前にいたスズカに付いていき、最後のコーナーで彼女を抜いて、ゴールラインを通過して1番を取りました。

 走っている最中は後ろは振り向けません。ですが、私には見えずとも分かっていました。背後が伝わる強烈な闘志、気迫、執念が渦巻いているのを。

 

 それでも私は勝ちました。なんで勝てたのかは、今でも不思議に思っています。

 

 

 

 その後のことはとんでもないぐらい物事が早く進んだような気がします。マスターを迎えに行き、彼の実家に挨拶に行きました。

 マスターの実家にも驚きましたが、彼のご両親は私のことを快く迎えてくれました。

 

 父はマスターとの結婚にとても好意的でしたので、よくある相手の両親に挨拶にいくというイベントはとてもすんなりと終わりました。

 それからはマスターの実家に帰って一緒に過ごしながら結婚式の段取りを考えて……。

 

 ついに私は憧れだったウエディングドレスを着ることができました。

 

 結婚式から半年後ぐらいに妊娠が発覚。だいたい3、4ヶ月過ぎたあたりの検査ではウマ娘だと診断されました。

 やはり耳と尻尾ですぐにわかるんだそうです。

 

 それをおかあさまとおばあさまに報告すれば、

 

『ウマ娘じゃぁあああ!』

『やりましたね、おかあさま!』

 

 と、このようにとても喜ばれました。

 生まれてくる子供に、私は『ミヤシロブルボン』と名付けました。

 

 ミヤを産んでから、私は子育ての苦労を身をもって体験し、母親になるということの重さを実感していました。

 ですが、この時ちょっとした夫婦の危機があったのです。

 

「マスター。あなたは何か隠していますね?」

「……いや、何も隠してない」

「心拍数上昇を確認。やはり何かあるんですね」

「……」

 

 私はマスターを問い詰めました。

 それは、ある意味では当然でしたが、すぐに納得できるものではなくて。でも、私は……私達はその問題をちゃんと互いが納得できるように解決したのです。

 夫婦の危機は後にも先にもこれが最初で最後でした。

 

 

 そう夫婦の危機は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お父さんはよくお空を眺めることが多い。それは雲一つない青空の時や、満天の星空が見える時が多かった。

 私はお父さんに抱っこされながら聞いたんだ。

 

「なんでお父さんはお空ばっかり見上げてるの?」

「ン? なんでかな。お父さんにもよくわからないんだ」

「えーどうして」

「どうしてって言われてもわからないんだよ。ただ……」

「ただ?」

「約束をしたような気がしたんだ。宇宙に行こうって」

「宇宙に?」

「そ、宇宙だ」

 

 お母さんはたまに難しい言葉を言うけれど、お父さんはお父さんでよくわからないことを言う人だった。

 でも私はそんな二人が大好きだ。

 お母さんは現役時代に三冠ウマ娘になったと聞いてから、私もお母さんみたいなウマ娘になると口にしていた。

 そんな私にお父さんはよく走り方を教えてくれた。お父さんはお母さんのトレーナーだったから、子供の私でもよく分かるように説明してくれて。

 

 だから私は口癖のようにこう言っていた。

 

「私のトレーナーはお父さんだからね!」

 

 でも、お父さんは笑って流すんだけど、お母さんはハッキリと『ダメです』って言うの。酷いよね。

 

 

 それから私が10歳になった年。その日も私はお父さんと一緒に空を見上げた。でも、その日の空はいつもと違っていた。

 昼間だというのに大きな光が空かたくさん降ってきているのだ。

 

「なんで昼間から流れ星が落ちるんだろうね。……お父さん?」

「……」

 

 お父さんは目を大きく開いてただ空を見上げていた。まるでこれが何なのか分かっているかのようのだった。

 すると、家の方からお母さんがやってきた。

 

「マスター……その、マスターにお客様です」

「誰だ」

「いえ、誰というか……なんと言えばいいのでしょうか。言葉が見つからなくて」

「なんだそれ」

 

 それに思わずお父さんが振り向くと、お母さんの後ろから何かが歩いてきた。

 

「やあ。ボク、マチえもん」

『……』

 

 よくわからない二頭身の……ウマ娘? らしき存在に私達親子は言葉を失った。

 

「いや、お前て──」

「マチえもんだよ」

「だからt──」

「マチえもんだって言ってるだろ! しょうがないなぁ、キミは」

 

 よっこらせと言わんばかりに縁側にどうどうと座って、お腹のポケットから何かジュースみたいのを取り出して一人で勝手に寛ぎ始めた。

 とりあえずお父さんとお母さんに変わって私が聞いてみた。

 

「えーと。あなたは何なの?」

「ボクは未来からやってきたUMAMUSU型ロボットのマチえもんだよ」

「マチえもんは何しにやってきたの?」

「それは彼に伝えるためさ」

「……俺?」

 

 そう言って……彼なんだか彼女なんだかわからないけど、まん丸な手をお父さんに向けた。

 

「思い出したはずだよ。これはキミがやらなきゃいけない、キミにしかできないことなんだ」

 

 私とお母さんには全く理解のできない話で、でもお父さんにはそれが何なのか分かっているようだった。私とお母さんを見て、お父さんは辛く悲しい顔をしながらお母さんを抱きしめていた。

 

「すまない、ブルボン」

「マスター……?」

「どうやら行かなきゃいけないみたいなんだ」

「行かないで──そう言っても、ダメなんですね」

「ああ」

「……お父さん?」

 

 私はまだよく話についていけなくて、でも不安なのは確かだった。お父さんは私もお母さんのように抱きしめてくれた。

 

「ごめんな、ミヤ。お父さん、ちょっと世界を救ってくるよ」

「なんでお父さんなの? 別にお父さんじゃなくたっていいじゃん。あんなよくわからない……変なヤツの言うことなんか聞くことないよ!」

「変なヤツってなんだ! マチえもんだって言ってるでしょ!」

「ミヤ。これは……お父さんにしかできないことなんだ。残された俺がやらなきゃいけないんだ。ごめんな、でも絶対に帰ってくるから。それまでお母さんのことを頼んだよ。お母さんはポンコツなところあるから」

「否定。私はパーフェクトママです。よってポンコツではありません」

「な?」

「う、うん」

 

 お父さんは私を離すと、マチえもんに言った。

 

「で、お前も来るんだろ」

「バカだなぁキミは。ボクは二人を守らなきゃいけないから行くわけないでしょ」

 

 やれやれと手を挙げながらいうマチえもん。

 それを聞いたお父さんの顔はなんというか……ぶっちゃけキレてたと思う。でも、すぐに大きなため息をついて、私の頭を撫でながら言った。

 

「……じゃあ、行ってくるよ」

 

 お父さんはそう言い残してどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 それから6年の月日が流れた。

 あの日、お父さんがいなくなったあの時、流れ星だと思っていたそれは宇宙からの攻撃だった。世界中の都市や至る場所に大きな打撃を与え、人々に大きな爪痕を残した。それは私達の住む日本も例外じゃなくて、でも私が住んでいる所はさほど大きな被害がなかったのは運がよかった。

 

 宇宙からの攻撃はお父さんがいなくなったほんの数時間後にはそれは止んだ。それでも被害は尋常じゃなかった。

 マチえもん曰く。

 

「これだけの被害で済んだのはむしろラッキーさ」

 

 なんて口の軽い言草だった。

 そのマチえもんはあれからずっと私達と一緒に暮らしている。特に何かをしているわけでもないのに、毎日三食とおやつにはちみーを飲んで過ごしている。

 たまに未来の道具を出して遊んだりするけど、マチえもんの正体は相変わらず謎のままだ。

 

 私はいま近くの学校に通いながらレースに出てる。本当はお母さんと同じようにトレセン学園に行こうって思ったけど、お母さんを一人にしたくなくてその選択肢はなくなった。

 

 お父さんがいなくなってもう6年。長いようで短い6年。

 

 私は……寂しかった。

 

 中学に上がるまでは年相応に、色んなことをお父さんとしたかった。買い物をしたり、家族で食事に行ったり。

 レースに出てからは特にお父さんの存在を強く欲した。レースを見てほしいって想いが一番なんだけど、やっぱりトレーナーだったお父さんに私を指導してほしかったりもした。

 

 だから私はマチえもんに聞いたんだ。

 

「ねえマチえもん。タイムマシンとかないの?」

「あるよ」

「あるの!?」

「当然じゃないか。ミヤ太くんはバカだなぁ」

 

 マチえもんはいつも一言余計なのだ。あの時お父さんがキレたのも頷ける。でも、私はお願いしている立場だから、心を静めて話を続けた。

 

「じゃ、じゃあ、過去に行って現役時代のお父さんに会いにいけるってこと?」

「そうなるね。ミヤ、会いたいの?」

「うん」

「しょうがないなぁ。テレレレッテレー、なりきりスーツとタイムマシンセット~」

 

 お腹のポケットから人の形をした肌色の着ぐるみみたいのが出てきた。

 

「えーと。ここにお母さんの髪の毛をセットで、年齢は……あの時代だから……これぐらいにしてっと。はい、じゃあこれに入って」

「う、うん」

 

 マチえもんに言われて恐る恐る背中から入る。中は意外と空間があって、見た目ほど重くはなかった。

 

「じゃあ、胸のボタンを押してごらん」

「こう?」

 

 ポチ。

 

 押しては見たが私の方では何が変わったのか全然わからない。するとマチえもんが鏡を持って私の顔を写した。

 

「え、お母さん!?」

「そ。当時のお母さんね。ちなみにボイスチェンジャーもあるから、それで本当にお母さんのように振る舞えば怪しまれないよ」

『あーあー。マスター、マスター。こんな感じでしょうか』

「そうそう」

「ん。あなた達何をやっているのですか?」

 

 するとお母さんがやってきたので、私はお母さんの真似をしながら披露してみせた。

 

『どうですか。お母さんと瓜二つです』

「やっぱり昔の私はカワイイですね。もっとも今の私の方が上、ですが」

「お母さんって無敵かよ……」

「で。私の真似なんかして今度は何をする気ですか」

『えーと』

「ミヤが過去のお父さんに会いたいからタイムマシンを貸してあげたんだよ」

『バラされた!?』

 

 まさか誤魔化すどころか、裏切られるとは思わなかった。

 でも、お母さんは特に怒った様子は見せなくて、むしろ私の行動に納得をしているようにも見えた。

 

「いつかこうなると予想はしていました。……まあ、マチえもんがいなかったら適当に誤魔化す予定でしたが」

「いやぁ照れますなあ」

『褒めてないが……。でも、いいの?』

「一番居てほしい時にいなかったのです。あなたがマスターに甘えたいのも分からなくはありませんから」

『ありがとう、お母さん』

「自分と同じ顔と声で言われるのは気持ち悪いですね」

『あなただよ!?』

 

 そんなやり取りもあって、私はお母さんの了承を得て過去に跳んだ。

 

 

 当時の東京は私の時代と違って無駄が多いような気がした。まあ、あの攻撃で東京の大部分が倒壊したのは知ってるので、当然と言えば当然だ。

 まず私はトレセン学園に侵入して制服を拝借した。流石にお母さんの制服はもう古いし、今の学園の制服は昔とはもうデザインが違うのだそうだ。

 

 それから私はお母さんの情報で休日のとある場所でお父さんが現れるのを待っていた。

 なんでも、大半の休日はいつもここら辺に出没するとのこと。なんでそんなことを知っているのかは聞かないでおいた。

 少し待って、本当にお母さんの言う通りお父さんは現れた。

 この時代のお父さんは、私が知っている時より若く見える。なんていうか……活気に溢れているようなオーラを感じた。

 そして私は、過去の時代だけど6年ぶりにお父さんに話しかけた。

 

『マスター』

「……ブルボン?」

 

 私は久しぶり聞いたお父さんの声を聞いて、思わず涙が出そうになった。

 

 

 

 

 

 ミヤが私の姿をして、過去に跳ぶようになってから数週間程経った。マチえもん曰く、一回跳んだらエネルギーを補充するのにはかなりの時間がかかるという。

 私はそれを聞いて言いました。

 

「電池を交換すればいいんじゃないんですか?」

「テレビのリモコンじゃないんだからさ~」

 

 と、マチえもんにバカにされました。

 別にマチえもんが嫌いという訳ではありませんが、なぜかこの子にバカにされると頭にきます。

 

 さて。当時の私を差し置いて、マスターとデートをしている私の娘はとても楽しそうでした。服を買ってもらったり、食事に行ったりしているみたいです。

 私は結婚してから散々してきましたが、当時の私はそんなことをしていません。つまり……娘にちょっと嫉妬していました。

 

「娘に嫉妬するなんて、お母さんもまだまだ子供なんだから~」

 

 と、マチえもんにまたバカにされたので、おやつのはちみーを奪って目の前で飲んでやりました。泣き叫ぶマチえもんを見て、私はとても満足して最高な気分です。

 

 まあ、そのマチえもん曰くそろそろバレる頃合いだというので、今日はミヤにある伝言をしていました。

 

「いいかいミヤ。彼に会ったら、第564宇宙からゴスギ艦隊が地球を侵略に来るって言うんだ」

『うん、わかった』

 

 なんでも、それが6年前の惨劇の真相なんだとか。その……なんとか艦隊が地球を効率的に侵略するために、あの隕石群を落としていたと。

 そしてそれをマスターが今も食い止めている、とマチえもんは言っています。

 ですが──

 

「それにしても6年はかかり過ぎです。まあ、まだ私は若いと思っているので特に心配はしていませんが」

「なんで昔のまんまなのかマチえもんも匙を投げたよ」

「匙を投げたいのはあなたの正体についてですが……まあいいでしょう。まだマスターは帰ってこないのでしょうか」

 

 娘にはいつも元気な姿を見せていますが、やはり私だって辛いのです。それが1ヶ月や半年ではなく、もう6年が経ちました。

 そんな私の気持ちを知っているマチえもんはいつものように同じ答えを返してきた。

 

「彼はその内帰ってくるよ。こっちと向こうじゃ時間の流れが違うかもしれないからね。もしかしたら今すぐにでも帰ってくるかもしれないよ」

「そんなことあったら、今日の夕食はにんじんハンバーグにしてあげますよ」

「わぁ~い」

 

 ピンポーン。

 

 玄関にあるチャイムがなった。

 先程の会話からこれでは、ついマチえもんの言ったことを信じてしまいそうになる。

 

「どうせあなたの荷物でしょうね」

「えー。何か買ったかなぁ」

 

 とぼけるマチえもんを放って、ため息をつきながら玄関に向かいました。

 

「はい。どちら様で──」

「ただいま」

 

 玄関を開けたらそこには……6年前と変わらないマスターが立っていました。

 よくある話で、待ち合わせに中々来ない人の噂をすればやって来るみたいなやつだと思いました。それにしては唐突すぎて、私の思考は少し停止してしまったのです。

 

「ン? ブルボンお前……ちょっと老けたか」

「フン!」

「イッタッ!? 帰って早々叩くことないだろ!」

「それが6年も待たせた妻に対するセリフですか!」

「え、6年?」

「そうです」

「マジか……まだ1週間ぐらいしか経ってないかと思った」

 

 どうやらマチえもんの言った通りのようでした。思わずマチえもんの方に振り向けば、ニシシっと腹立たしい笑いをしていました。

 

「ほんと……遅すぎですよ、マスター」

「ごめん。所で6年ってことはミヤはもう高校生ぐらいだろ? やっぱりトレセン学園にでも通ってるのか?」

「いえ。あの子は……」

「あ、帰ってきたよ」

 

 マチえもんの言葉と同時に庭の空間がバチバチと光始めました。これは過去から現在に帰還する際の合図です。

 

 バチン! 

 

 何かが弾けるような音がすると、何故かトレセン学園のジャージに着替えている私の姿のミヤが帰ってきました。

 

『ごめーん、マチえもん。調子に乗ったらバレちゃった! あ、でもちゃんと伝言は伝えて……』

 

 ミヤは私の隣にいるマスターに気づき、同じように言葉を失ったようでした。事情を知らないマスターは私の前でとんでもないことを口にしたのです。

 

「若いブルボンだ……ぐへっ!?」

「私は今でも若いですッ」

『え、お父さん?』

「……ミヤなのか」

「あ、ボイスチェンジャー切るの忘れてた。えーと、よっこらせっと」

「うおっ。ブルボンからミヤが出てきた!」

「誤解を招きそうな言い方はやめてください」

 

 ミヤは私の姿をしたスーツを脱ぐと、マスターに向かって慌てて抱き着いてきました。

 

「本当に、本当にお父さんなの……」

「ああそうだよ、6年、だったか。待たしてごめんな。これからはまた一緒だよ」

「お父さん……お帰りなさい」

「ただいま。ところで……お前まだいたのかよ」

 

 親子の感動の再会という場面で、それを台無しにするようにマチえもんはハチミツ入りどら焼きを食べていました。

 

「この時代のはちみーは格別だからね。で、どうだった?」

「そうだな……」

 

 1週間しか経ってないと言っていた割には、マスターは長い……とても長い時間を旅してきた旅人のように、過去を振り返りながら言った。

 

「懐かしいヤツに会えたよ」

 

 6年ぶりに見たマスターの笑顔は晴れ晴れとしたいいものでした。

 ですが、そんないい雰囲気をマチえもんが大声を出しながら言うのです。

 

「あ、そういえば賭けはボクの勝ちだから、夕食はにんじんハンバーグだよね!」

 

 なんというか、最後まで空気の読めないポンコツロボットでした。

 






おまけ情報
・ある意味最適解を選んだ世界線。
・夫婦の危機は過ぎたけど世界の危機が迫っていたっていうオチ。
・マチえもんはマチえもん。


※マチえもんはドラえもんの頭にテイオーの髪型を生やしたイメージですな。

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