どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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ED.12 祝福の鐘

 第12.5話 『ゼロの先へ』

 

 

 

 ゼロの中にいると見えるはずのない景色が見え、聞こえないはずの声が聞こえる。それは数秒先の未来でもあり、ここにいるみんなの声や観客席にいる人の声援でもある。

 

 ──『いま』

 

 ゼロかそれとも別の存在からの囁きか、私は声の合図と共にターフを蹴り──同時にゲートが開いた。

 私が誰よりも速い、そう思った瞬間、次に未来が見えた。

 

 ……え? 

 

 その景色は赤い勝負服を纏ったウマ娘の背中……ゴールドシップさんで、次に黒い勝負服を纏ったテイオーさんだった。

 

『何という事だ! ゴールドシップですっ、ゴールドシップが前に出ている!?』

 

 ──読めなかった……。

 

 そう言ったのはテイオーさん。彼女もゼロの領域で走っているから、それは当然の反応だと思う。でも、それは彼女だけではなかった。

 

 ──ウソ!? 

 ──どうして!? 

 ──ゴールドシップ、あなた……! 

 

 ゴールドシップさんの走り全員が驚いていた。私もそれに動揺したけど、集中してテイオーさんの背中を追った。

 気づけば出走開始早々に、ゴールドシップさん、テイオーさん、私と縦に並んでスリップストリームを形成していた。

 

 ──『……』

 

 ゼロが教えてくれる。これが最善の手だと。きっとテイオーさんに私の思考は読まれてる。それでも私はただ彼女を後ろを走っているわけにはいかなかった。

 付いていく、ただひたすらテイオーさんの後ろを。

 

 ──勝手にすればいい。ボクはお前なんて眼中にない。

 

 テイオーさんの姿が私の目の前に現れて言ってくる。

 

 そうですね。あなたならきっとそう思っていると思いました。だけど、あなたの後ろにいるのは私ですッ。

 

 ──お前なんかにボクは抜けない。

 

 これは挑発だ。そんなことは分かってる。私は落ち着きながら今の走りを維持していく。

 そして第1コーナーに入った。

 

 ──『……』

 

 ゼロが未来を見せた。第1コーナーからゴールドシップさんに仕掛けようとするテイオーさんの姿が。

 

 ──『アウト』

 

 声に従い私はテイオーさんとは逆に外から仕掛け──ブロックされた。

 

 速いっ。

 

 ──『イン』

 

 透かさず私は内側から抜こうとする──またブロック。

 抜けない。ゼロが見せてる未来よりも早く、テイオーさんは私の前に現れる。

 

『キタサンブラック、トウカイテイオーに何度も仕掛ける! しかし帝王である自分の前は決して走らせない、そう言っているようだ!』

 

 私はそれから何度も仕掛けようとするが、その度にブロックされる。でもそれはテイオーさんも同じで、私のようにゴールドシップさんにブロックされる。ゴールドシップさんも流石だと言わざるを得ないけど、先に仕掛けたテイオーさんに私が後だしで仕掛けているのにいとも簡単に防いでくる。

 

 やっぱりテイオーさんは凄い……! 

 

 そう、私は夢だったあのトウカイテイオーと一緒に走っている。彼女だけじゃない。名だたるウマ娘達と一緒に私は走っている。それだけ見れば、私はいま凄いレースをしているのだと改めて実感した。

 

『さあ、第2コーナーを抜けて長い直線に入ります。先頭を走るサイレンススズカ、ミホノブルボンにゴールドシップを先頭に走る後続がどんどんその差を縮めています!』

 

 結局第1、第2コーナーと抜けることはできなかった。でも、まだ大丈夫だ。それに今はこのスリップストリームを利用して、スズカさん達に追いつくんだ。

 

 私は走りながらふとある事に気づいた。聞こえないのだ。この中でただ一人、ゴールドシップさんだけ声も、意識すら何一つ感じない。

 そんな事あるはずがない。

 だって、誰だって考えているはずなんだ。今までの私達のように、誰もがここで抜こうとか、スピードあげようとか。

 同じゼロの中で走っているテイオーさんのことだって伝わってくる。逆に私の声や思考も彼女に届いているはず。

 

 それなのにゴールドシップさんは何もない。それでテイオーさんの前を走っている。私はてっきりゴールドシップさんもゼロの領域で走っていると思った。だって、そうじゃなきゃコレを説明できるはずがないんだ。

 

 だけど──もし違うとしたら? 

 

 それなら確かに説明がつく。だけど、それでは肝心の中身が分からない。

 ゴールドシップさん。あなたは一体どこで何を見ながら走っているというんですか……! 

 

『さあ、ゴールドシップがミホノブルボンの後ろを捉えながら第3コーナーに入ろうとしています! ここで仕掛けるか!? それとも──』

 

 ──ここで行かなければ勝機はないッ。

 

 マックイーンさんの声が聞こえ、同時に未来が見えた。マックイーンさんが内側から私に仕掛けてくるのを。

 だから私は咄嗟に外に出た。ゼロが見せるラインより先に。

 

『マックイーンだ! メジロマックイーンが仕掛けた! キタサンブラックのスリップストリームを抜けて、いま第3コーナーで内から仕掛けた! 同時にキタサンブラックも動いた、外だ、キタサンブラックは外側からトウカイテイオーに迫る!』

 

 タイミングとしては完璧だと思った。問題はテイオーさんが私かマックイーンさんのどちらを選ぶかということ。

 

 ──その程度でボクを抜けると思うなよっ。

 

 テイオーさん! 

 

『帝王動く、トウカイテイオー、キタサンブラックの前に出た! その隙をついてメジロマックイーンが空いた穴をつく!』

 

 ──お前なんかに負けない。

 

 私はあなたに勝ちます、勝ってみせます! 

 

 ──無駄だよ。お前じゃボクに勝てない。例え、同じ力を使っても。

 

 いいえ。あなたは負けなければいけないんです。誰でもない、あなた自身のために! 

 

 ──だったら一度でもボクを抜いて見せろ。

 

 やってみせます。おじさんのため、あなたのため、なにより私自身の願いのために! 

 

 ──黙れっ! 

 

『第4コーナーでトウカイテイオー、ゴールドシップに仕掛けた! ゴールドシップ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、キタサンブラックがミホノブルボン、サイレンススズカを抜いて前に出た! さあ、最初にコーナーを飛び出してくるのは誰だ!?』

 

 ──『……』

 

 ゼロが未来を見せる。それも複数の未来をだ。つまりそれは無数の選択肢が私にあるということを意味している。

 しかし、ゼロが言う囁きはそれに伴っていない。バラバラ、ちぐはぐ、選択肢は多く用意されているのに、正解がない。道を見せる未来はあっても、私がそれを抜けているという未来がない。

 

 私、負けるの? 

 

 ──『……』

 

 未来が変わり、何度もゼロが囁く。

 

 ──『……』

 

 また変わる……変わる……変わる。

 

 ──『……』

 

 黙れ……。

 

 ──『……』

 

 うるさい。走るのは、私だ。どこを走るかを決めるのは私だ。

 

 ──『……』

 

 お前じゃない、お前なんていらない。こんなもの私は求めていなかった。

 

 ──『……』

 

 いつだって走るのは私自身だ。誰でもない私の意思なんだッ。

 

 ──『……』

 

 そして勝つのは──

 

 

『どうやったらもっと速く走れるようになるか?』

『うん。だってだれよりも速く走れたら、絶対に一番になれるよね』

『違うよキタちゃん。速さよりも最後にモノを言うのはスタミナだよ』

『速さもスタミナも大事だ。けど、レースではもっと大事なことがある』

『うーん、わかんない!』

『キタちゃんはもっと考えようよ……』

『あはは。じゃあなんで二人はなんでそう思ったんだ』

『勝ちたいから!』

『なんだ、もうわかってるじゃないか』

 

 

『ゴールドシップだ! ゴールドシップが先にコーナーを抜け出した! 続いてその後ろにトウカイテイオー、メジロマックイーン、キタサンブラックが……キタサンブラック!?』

 

「私なんだぁあああああ!!!」

 

 その瞬間、私が見ていた世界はまるでガラスが割れたように弾けて、いつもの世界が広がっていた。

 

『キタサンブラックだ! キタサンブラックが怒涛の追い上げを見せ、気づけばトウカイテイオーの外から彼女をいま抜いてゴールドシップに迫り、いや並びかけます! 数々のレースで名をはせたウマ娘達に、いま一人の挑戦者がその頂に手をかけています!』

 

「うあぁあああああ!!!」

 

 その走りは、何ていうか我武者羅だった。叫んでいるのだって意味はない。ただ肺に負担をかけるだけ。

 だけど……なんだろうか。私はいま……自分の中のナニカを超えたような気がするんだ。

 ゼロはもうない。未来は見えず、声も聞こえはしない。

 私はただ走っているだけだ。

 

 でも一言だけ、ゴールドシップさんの声だけが聞こえたような気がした。

 

「ブラック、お前っ──!」

 

『抜いたぁ! キタサンブラック、ゴールドシップを抜いた! だがその脚色は衰えを見せず、ゴールドシップの差を広げている! いくのか!? いや、ゴールドシップもまだ諦めていない! 差はほんの少し! あと少し!』

 

 ゴールは目前。いま私は自分の限界をとっくに超えて走っている。見えなくてもゴールドシップさんが私の隣にいるのは何となくわかった。

 追い抜かれるとか負けるとかそんな考えなんてなかった。

 

 勝ったのは私。

 

 何故かそんな確信があった。

 

 

『ゴール! いまキタサンブラックがゴールドシップにハナ差でレースを制しました! 多くの猛者を退け、挑戦者がいま勝利の栄冠を手にしました!』

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 勝った。そう確信しているのに、まだその実感がない。でも前にいるのは私で、振り向けばそこにみんながいる。

 息を整えながらテイオーさんのもとに向かう。彼女は膝に手をついて息を整えていて、そのままの体制でこちらを睨んできた。

 

 私はそれに怯えず言った。

 

「はぁ……はぁ……私の、勝ちですッ」

「ッ……どうして、お前なんかに負けるんだ。ボクは……ボクは負けちゃいけないのにっ」

「あなたはゴールドシップさんしか見えてなかった。そのためにあなたは大事なものまで捨ててしまったんです」

「お前にボクの何がわかるんだ! お前なんかに、ボクの何が──」

「わかりますよ!」

「っ!?」

 

 私は大声で叫んだ。テイオーさんに、そしてみんなに聞こえるように。

 

「テイオーさん、あなたは誰よりもおじさんに想われていた。誰よりも愛されていたんです。どうしてそれが分からないんですか!」

「ウソだ……」

「本当です。それはテイオーさんだけじゃない。みんなだってそうです!」

 

 私の声にみんなが反応した。みんなの視線が私に注がれて、中にはよく思わない人の視線もあった。

 

「私が言える資格なんてないかもしれない。でも、私もみんなもおじさんが大好きで、なのになんでこんな事をするんですか! おじさんがこんなの望んでるわけないじゃないですか! あの人は、ただ……みんなと一緒にいたいだけなのに、なのにどうして悲しませるようなことばかりするんですか……」

「キタちゃん……」

 

 目から涙が零れそうになって、それを必死に止めようとしても涙は止まらなくて……。ダイヤちゃんがそっと私を抱きしめながら頭を撫でてくれた。

 

「……じゃあ、教えてよ」

 

 テイオーさんも同じようにその目を潤わせながら、私を見て言った。

 

「どうやったらそれができるのさ。ボク達全員が納得できる方法を教えてよ……それが分からなくて、これしか方法がないから……ボク達は走ったんだ……」

「それは……」

「キタちゃん。みんなが幸せになる方法があったら、誰だってそうする。でもそれができないから、みんな必死になるんだよ。誰だって、誰かの一番になりたいんだ」

「わかってるよ、ダイヤちゃん。それは、分かってるんだっ。でも──」

 

 認めたくない、受け入れたくない。

 だけどその答えを、私は知らない。ゼロはもうない。誰も、何者からもそれを知ることはできない。

 ……私達にはもう選択肢がない、そう思った瞬間──この湿ったれた空気を吹き飛ばす声が聞こえてきた。

 

「──あ、ばあちゃん? そうそうアタシアタシ。実はちょっと相談っていうか頼みがあるんだけど」

「ご、ゴールドシップさん?」

 

 一体どこにしまっていたのか、彼女はスマホでどこかに電話をかけていた。ていうか、ばあちゃん?  そ、それってもちろんゴールドシップさんのですよね? 

 

「うん、そう。人数? えーと、20人はいかないと思うよ」

 

 何故かゴールドシップさんは私達を見回し、今度は観客席の方にまで目を向けて大雑把に数を数えた。

 そして、彼女は今までなんでもなかったかのようにケロッとしながら言った。

 

「いいって」

「な、何がですか……?」

「だから、全員嫁に来いって」

『……え?』

 

 するとスマホをスピーカーにして、私達に向けてた。

 

『あいつの嫁になりたいんだって!? だったら全員うちに来んかい!』

「──え、なにこの状況……」

 

 恐らくテイオーさんのもとに駆けつけようと走ってきたおじさんが現れた。何とも言えない雰囲気に状況がまったく理解できないでいる。

 いや、私達全員も理解なんてできないない。できているとしたら、それはゴールドシップさん一人だけ。

 しかし、彼女はおじさんが来るとポンとスマホを渡して一言。

 

「じゃ、あとは頑張れよ」

「お、おい、ゴルシ!?」

 

 ゴールドシップさんは一人どこかへ行こうとした。私は少し遅れて駆け出した。分かるんだ、ゴールドシップさんはどこかへ行ってしまうって。ゼロもない、囁きも聞こえはしないけど私には何故かそれが理解できたんだ。

 歩いているだけのゴールドシップさんに追いつくのに、気づけば通路の出入口まで来ていて、ようやく私は彼女の腕を掴んだ。

 

「ダメです!」

「離せって」

「イヤです! この手を離したら、ゴールドシップさん消えるつもりなんでしょ!?」

「……アタシは、もうやれることはやった。そしてお前は新しい道を作ったんだ。これからはお前の──」

「逃げないでください!」

「アタシは逃げてない」

「いいえ、あなたは逃げています」

 

 自覚がないのか、それともただ気づかない振りをしているだけなのか。ぶっちゃけこの際どうでもいい。

 

「自分の気持ちから逃げないで、目を逸らさないでくださいっ。あなたは……分かってるはずです。おじさんにとってゴールドシップという人がどれだけ大切な存在か。そしてそれはあなたにとっても同じはずです」

「いいか、ブラック。アタシは──」

「ああもう! なんであなたはおじさんみたいにそんなめんどくさいんですか!」

「えぇ……」

「ハッキリと言ってくださいっ。おじさんが好きって! そうすれば、こんな面倒なことにならなくて済んだし、そもそもあなたがもっと早くにああやってればよかったんですよ!」

 

 そうだ。そうなんだ。アレで丸く収まるなら、もっと早くにああすればよかったんだ。それをどういう訳か、こんなややこしいことになってしまったんだ。

 全部ゴールドシップさんが悪い。いや、おじさんとゴールドシップさんが全部悪い。そうだ、私達はそれに巻き込まれた言わば被害者なんだ。

 

「え、えーと、ごめんなさ──」

「謝るな!」

「じゃあ何を言えばいいんだよぉ!」

「好きって言ってください」

「そ、そんなのアタシの柄じゃな──」

「いいからおじさんのこと好きって言いなさい!」

「す、好き……」

「声が小さい!」

「あぁああ! 分かった、分かったよ! アタシは、あ、アイツのことを愛してる! これでいいだろ!? あー恥ずかしぃ……こんなのアタシのキャラじゃねぇよ……」

 

 屈みながら真っ赤になった顔を手で隠しながら、ゴールドシップさんは唸っていた。耳はピコピコと動き、尻尾がブンブンと上下している。

 

 ていうか。この人ちゃっかし『好き』じゃなくて、『愛してる』って言ったんだけど……。これでよく今までみんなことをおちょくってきたなって思う。

 

 だって、さり気なく自分がおじさんの一番って言ってるようなものじゃん。

 

 私はちょーっとだけイラつきながら、ゴールドシップさんの首根っこを掴んで来た道を戻ることにした。

 

「ちょ、なんで戻るんだよぉ!?」

「いまのセリフ、みんなの前でもう一度言ってください」

「いやだ! 絶対にムリィ! アイツの前でなんか絶対アタシは言わないぞ!」

「大丈夫です。私がちゃーんと言わせますから」

「あ、あの、ブラック……いえ、ブラックさん? ちょっとキャラ変わりすぎじゃあないですかい・……」

「色々と吹っ切れたんで。それに勝ったのは、わ・た・しですから勝者には従ってもらいます」

「やだぁやだぁ!」

 

 こうして私は駄々をこねるゴールドシップさんを引きずってコースに戻って、おじさんの前に連れて行き、みんなの前で愛の告白をさせた。

 それもまだ大勢の観客と何故かまだ全国に生中継されている状況の中、ゴールドシップさんはまさに世界の中心で愛を叫んだのです。

 

 これによりゴールドシップさんとついでにおじさんは、あまりにも恥ずかしくて心が死んでいました。

 

 ちなみにこの映像はまさに永久保存版として後世に語り継がれることになったんだけど、世に出回っているのは誰かがアップロードした一部抜粋された動画のみで、このレースを一部始終まで放送していた局にあるはずのオリジナルは後日行方不明になったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ED.13 『祝福の鐘』

 

 

「ねぇ、変じゃないかな」

「変じゃないって。キタちゃんさっきからそればっかりだよ」

「だって……ウエディングドレスなんて初めて着るし」

「当たり前でしょ」

 

 腰に手を置いて呆れながらダイヤちゃんが言った。

 私はいま生まれて初めてのウエディングドレスを着ている。なんでって言われたら結婚式を挙げるから、としか答えられない。

 

 そう。私はこれからおじさん……ううん。あの人と結婚するんだ。

 

 あのレースのあと、ゴールドシップさんの奇策によりとんでもない事になってしまった。彼女の一世一代の告白を彼のおばあさまも当然見ていたわけで、ことの事情はだいだい把握していたらしいので話はスムーズに運んだ。

 

 みんな彼の実家に行って、一人一人挨拶をして……。てっきり私達だけかと思ったら、理事長にたづなさんにマンハッタンカフェさんがいたり。

 挙句の果てには──。

 

「ちわースペシャルウィークさんに北海道からのお荷物と、ウオッカさんにUmazonからの荷物をお届けに参りました。こことここにサインをお願いします」

『あ、いつもお世話になってます……あれ?』

「おーい二人のサインゲットしたぞー!」

『あ────!?』

 

 一体誰の策略なのかは知らないけど、スぺさんとウオッカさんも彼と結婚することになってしまった。

 私の両親は別に反対とかはしなかったわけじゃないんだけど、みんなの両親は特に反対しなかったんだろうか。特に生徒会会長のご両親はなんていうか、お堅いイメージがあるんだけど。

 

 で、さらにここから問題あった。

 それは、一体誰が本妻になるかというとても重大な問題が。

 

「無論、それは元々私が結婚相手だったのだから、当然私だな!」

 

 と、理事長が鼻を高くして扇子を仰ぎながら高らかに宣言をしたんだけど。

 

「やよいちゃんには悪いんだけど、本妻はゴルシちゃんね」

「なぬ!?」

「え!」

「え、じゃないが。ゴルシちゃんが本妻じゃないと、結婚させてあげないよ」

「ちょ、ばあちゃ~ん!」

「観念しなさいゴルシちゃん。じゃないとみんな納得しないと思うわよ」

「ぐぬぬっ……」

 

 最後には彼のおかあさんの一言で、ゴールドシップさんは渋々……というか腹を決めてやっとそれを受け入れた。

 とりあえず大きな問題はこれで片付いたわけだけど、また問題があった。

 

「で、式の順番どうしましょうか」

 

 当然我先にと手を挙げるのだが、これに関してはゴールドシップさんが口を出した。

 

「そこはブラックだ。異論は認めない」

 

 まさか私の名前が出るとは思わなかった。ゴールドシップさんはそれを言った際、私にウインクしてきたから多分そういうことなんだろうと納得した。

 でも。

 

「ゴルシちゃんは本妻になるんだから、あなたも一緒にやるんだよ」

「え゛!?」

 

 一体なにが気に食わないのだろうか、ゴールドシップさんはまた何とも言えない表情をしながらその提案を受け入れた。

 

 それでようやく段取りがついて、今日がその結婚式なんだけど……。

 

「ところでさ」

「うん?」

「どうしてダイヤちゃんもウエディングドレス着てるの? ダイヤちゃん達は次だったよね」

「ん~どうしてなんだろうね~」

 

 ダイヤちゃんは口元を隠しながら言うけど、きっとニヤニヤと笑っているに違いない。

 しかも私が着ているウエディングドレスより、何ていうか勝負服に近いようなドレスで、すごく動きやすそうに見える。

 

 ゴーンゴーン。

 

「ん? なんで鐘がなるんだろ」

「予行演習かな?」

 

 ダイヤちゃんはそう言うけど、予行演習なんて聞いてないし何かの誤作動だろうか。鐘が鳴り始めてから何やら外が騒がしくなってきてたと思ったら、いきなり部屋の扉をテイオーさんが開けてやってきた。

 それも何故かウエディングドレスで。

 

「ダイヤ大変だよ! ゴールドシップがあの人を連れて逃げ出したんだ!」

「……タイミング逃しちゃったかな」

「──そんなことよりなんでテイオーさんもウエディングドレス着てるんですか。なんでダイヤちゃんはそんなこと言うのかな、かな!」

「え、別にちょっと待ちきれなくて着てるだけだよ」

「オホホ。そんなことよりキタちゃん、速く旦那さまを取り戻して式を挙げるんだから!」

「ま、まさか、みんな同じことを──」

「こらテイオー、何をやっていますの!? 速くゴールドシップを追いかけませんと……あっ」

「マックイーンさんまで……」

 

 テイオーの隣にひょっこり現れたマックイーンさんも、みんなと同じくウエディングドレスを着ていた。耳をすませば、『であえ! であえ!』とか『私が一番に結婚するんだ──!』とかそれはもう酷い言葉が聞こえてくる。

 

「じゃ、キタちゃん。私先にいくからね」

「え、だ、ダイヤちゃん!?」

「ぷぷっ。無様だね」

「先手必勝ですわ!」

 

 三人は揃って私を置いてゴールドシップさんを追いかけに言ってしまった。私は行きたくても、このドレスではどうやったって走れるわけがない。映画みたいに引き裂くことも考えたけど、そんなことをする勇気はなくて。

 

「最後の最後でこれかぁ……」

 

 大きなため息を付きながら椅子に座ると、あの人を抱えながらウエディングドレスを身に纏った逃亡中のゴールドシップさんが現れた。

 

「よし、お前だけだな」

「何がよし、なんですか!? 最後の最後で騒ぎを起こしてッ。あとでお説教ですよ!」

「バーカ。どう見たってあいつら式を滅茶苦茶にする気満々だっただろうが。だからアタシがお前のためにコイツを連れてきてやったんだ。むしろ感謝してほしいぐらいだ」

「えぇ……」

「き、気持ちわりぃ……」

 

 てっきり意識を失ってるかと思えばちゃんと意識はあったようだ。服装もちょうど着替えていたのか、はたまたそれを確認してから拉致したのかは謎である。

 

「ほら、とっととチューしろ。コイツは神様が嫌いなんだから、誓ったって意味ねぇんだからよ」

 

 タコ唇をつくって急かすゴールドシップさんを見て、ふと私はあることが気になった。

 

「ゴールドシップさんが先にしないと意味ないと思うんですけど」

「アタシはお前のあとでいいんだよっ。ほら、早くしないとあいつらが感づいて──」

「コイツ、さっき問答無用でキスして──」

「オマエはいつも一言余計だって言ってんだろぉ!」

 

 やっぱりこの人、誰よりも独占欲強いんじゃないかな……。

 

 私の中のゴールドシップさんに対する評価がドンドン右下がりになっていく。

 しかし、彼女の言うようにこの状況下で選ぶ選択肢は限られているようだ。まあ、全部ゴールドシップさんの所為だけど。

 

「えーと、あなた?」

「早くチューしろ、チュー」

「お前はちょっと黙ってろ!」

「へいへい。お口チャック」

 

 彼は小さなため息を付きながら私の肩を掴んでそっと引き寄せた。

 

「言うのが遅くなったけど。ブラック、本当にありがとう」

「私は別になにもしてません」

「いや、いまこうしているのはお前のおかげだよ。だからありがとう。……これからもよろしくお願いします」

「──こちらこそ、よろしくお願いします。あなた」

 

 そして私達は誓いのキス……まあ何もしてないんだけど、唇を交わした。するとタイミングよくウエディングベルがなって、私達を祝福してくれていた。

 

『あ────!!!」』

 

 扉の方から大きな声がする。私はそれが何なのか分かっているから、離れようとしている彼の首に腕を回してそれをやめさせた。

 

 それに一番被害を被ったのは私なんだが、これぐらいの特権はあるよね。

 

「ヒューヒュー」

『祝福してあげるから早くチェンジしてよね。あとちょっとキスが長すぎ!』

「アハハ。やっぱ退屈しねぇや」

 

 こうして私の人生に一度しかない結婚式は幕を閉じる。世界中を探しても、私達の結婚式に勝るものはないと思う。

 

 そして二度とない、笑顔で楽しく最高な私達の物語が始まるんだ。

 

 

 Fin

 

 




ブラックは到達者から超越者になりました(いずれ実装するであろう☆6的な意味で)


解説ぽいもの

ハッピーエンドの条件。それはみんなが幸せにならなければ辿り着けないものとなっていました。
そしてその絶対条件がテイオーの問題を解消し、いなくなるはずのゴールシップが健在していることです。

なので限りなく正解に近い選択肢をしたけど、ミホノブルボンとマックイーンはハッピーエンドに近いグッドエンドになってます。

次に何故ゴールシップを除きキタサンブラックだけがハッピーエンドなのか。
それは主人公兼ラスボス枠でもあるトウカイテイオーとゴールシップを倒し、かつ二人の問題を解決しているからです。(テイオーに関しては作中ちょっとぼかしていますが)。

また彼女は誰かのために涙を流せる子だったからです。
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