どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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最終話 夢は終わらない

「──ありがとう、ゴルシ。お前が俺の最初のウマ娘でよかった」

「……ふ、ふん。そんなこと言われたって、嬉しくもなんともないやいっ」

「なんだ、照れてるのか。お前でもそんなことあるんだな」

「う、うっせ! ……お詫びって訳じゃないけど……オマエと約束してやる!」

「約束?」

「ああ、約束だ。いいから耳の穴かっぽじってよく聞けよ」

「──わかった」

 

 ゴルシは気持ちを落ち着かせるように一呼吸置き、俺はどんな事を言ってくれるのかとただ待っていた。

 そして──

 

「アタシがオマエらが叶えられなかった夢を叶えてやる!」

 

 彼女から飛び出た言葉は、俺の予想を遥かに超えるものだった。

 

「お前……」

「これからアタシは絶対に負けない。これから勝ちまくって日本一になって、世界とも戦って……お前を一番のトレーナーにしてやる!」

 

 俺は、嬉しかった。別にそんなことゴルシには望んでいない、ただお前がしたいことをしてくれればそれで満足できた。

 だけど、彼女は違った。俺とあの子の叶えられなかった夢を叶えてやると言ってくれた。だから俺は……それに応えようと思った。

 

「その道のりは大変だぞ」

「バーカ。そのためにオマエがいるんだろ」

「そうだったな。だから……一緒に頑張ろう、ゴルシ」

「おう! オマエが傍にいる限り、アタシは負けねぇよ」

 

 ……ゴルシはあの子と違う。

 

 だけど、ゴールドシップならそれを叶えるだけの力があると、彼女自身が俺に訴えかけているようなそんな気がしたんだ。

 

 もう諦めて挑むことも叶わないと思っていた俺達の夢は、再び動き出した。

 

 

 

 

 それからゴルシは今までがウソのようにトレーニングに積極的に取り組むようになった。元々ポテンシャルが高い子だから、トレーニングと言っても普段とはそこまで代り映えはしないかった。それでも以前よりはちゃんとトレーニングする日が増えたことは確かただ。

 

 ゴルシは有言実行と言わんばかりか、レースに出れば1着を手にして帰ってきた。夏合宿後最初の札幌ステークスから始まって、ラジオNIKKEI杯を勝利して一年目を終えた

 翌年になれば共同通信杯を勝利してから、ウマ娘なら誰もが憧れる『三冠ウマ娘』に挑戦することになった。それもここまで無敗で来ているから、もしそれが叶うならば『無敗の三冠ウマ娘』の称号を得ることができる。

 

 そして最初の皐月賞、東京ダービー、遂には菊花賞をまであいつは勝っちまった。それも間に神戸新聞杯もついでと言わんばかりに。ゴルシはそのまま最後のレース有記念も勝利してこの年を6戦6勝で終えた。

 デビュー戦を含めれば、11戦全勝。

 

 ゴルシは……本当に俺と彼女の夢を叶えようとしている。

 

 俺は嬉しかった。でも彼女だけに負担をかけさせまいと、俺もできることを全力で取り組んだ。

 

 だけど、ここからはもう語ることはあまりない。ゴルシは、本当に勝ち続けているんだ。

 三年目の最初のレースである阪神大賞典から始まり天皇賞・春、宝塚記念、京都大賞典、ジャパンカップ、さらに有記念を二連覇を果した。

 はっきり言って……もうゴルシに敵はいない、そう断言できるぐらい彼女は強かった。

 

 ゴルシの能力は未知数で、本気で走っていないと最初は思っていた。けど、いざ本気を出せばこれだ。俺は、とんでもないウマ娘にスカウトされたんだと改めて自覚した。

 なにより凄いのがここまで走ってきて大きな怪我もなく、その兆候も今の所ないということだ。

 

 底が知れないとはまさに彼女のことを言うんだろうか。

 

 もうこの時点で俺達の夢は叶ったといっても過言ではなかった。16戦全勝を果してもゴルシのレースはまだ終わらなかった

 

 四年目は最初の阪神大賞典から始まって、天皇賞・春、宝塚記念、札幌記念、有記念を制覇。有馬記念に至っては三連覇だ。

 だけど、この年はとても特別な年になった。それは凱旋門賞に出走することが決まって、ゴルシは……勝っちまった。

 

 俺はあいつが1番になった瞬間、最後まで泣かないと決めていたのに泣いてしまった。ゴルシはその意味が分かっていないのか、いつものように言うんだ。

 

「いい大人が泣いてんなよ」

「バカ野郎……お前は、いままで誰も果せなかった事をやり遂げたんだぞ……」

「ふーん。ま、オマエがいるから当然だよ」

「ゴルシ。お前は……日本ウマ娘の誇りだよ……」

 

 そう。凱旋門賞は伝統あるレースであり、最高峰のレースでもある。そこに勝つということは、世界にも勝ったと言ってもいいだろう。

 何よりも日本のウマ娘も世界でも対等に戦える。それを世界に証明するレースだった。

 

 迎えた五年目。結果から言えばこれが最後の年となった。

 阪神大賞典、天皇賞・春、宝塚記念に関しては三連覇。有記念に至っては四連覇というこの先抜かれることのない記録を作った。

 そしてゴルシが関係しているかは定かではないが、URAがこの年内最後の特別レースを発表。総勢18名によるレースにゴルシは当然人気投票1位で参加することになった。

 

 ゴルシはレース前日、俺に言った。

 

「これで最後だ」

「……ああ。泣いても笑ってもこれで最後だ」

「いや、そういう意味じゃないんだ」

「どういうことだ?」

 

 俺はてっきりこのレースを最後に引退すると思っていたからだ。

 

 28戦全勝。

 

 もし明日のレースで勝てば29戦全勝というかつてない記録を打ち立てることになる。毎年URAからはベストオブウマ娘を表彰しているし、今や日本だけではなく世界でも彼女は大人気だ。

 本当ならもっとゴルシの走りを見たい。だけどここまで走ってきて、次のレースまで間が空くとしてもここまでやってきて疲れがないはずがないし、もしかしたらどこかに故障があるかもしれない。

 

 だから俺は、この年で最後にしようと思っていた。最後の有記念でそれを伝えようとしたけど、その前にURAが明日のレースを発表してしまったから、言うタイミングを逃してしまったのだ。

 

「レースが終わったら、ちゃんと教えるよ」

 

 何故かゴルシは悲しそうに言った。

 

 

 その翌日。

 遂にURA主催の特別レースが幕を開けた。ゴルシを除いた17名は全員名のあるウマ娘ばかり。さらにその中には海外からもゴルシと戦うために参戦してきたウマ娘もいた。

 彼女達も、会場にいる俺達全員がゲートが開くのを今か今かと緊張しながら待っている中、ゴルシだけはいつものよう余裕の笑みを浮かべながらその時を待っていた。

 

 

 そしてゲートが開いた。

 俺達の最後のレース、俺達の夢を叶える本当に最後のレースが始まった。

 結果は……語る必要もないだろう。

 

 俺は観客席を飛び越えて、最強の称号を手にしたあいつのもとに駆け出した。ゴルシは最後のレースだって言うのに疲れなんて見せずにいて、俺はそんなあいつを力いっぱい抱きしめたんだ。

 

「ゴルシ、お前ってやつは!」

「ば、バカッ。苦しいって……!」

「お前は、お前は本当に最高だよッ」

「なあ」

「ン?」

「夢は……叶っただろ?」

「ああ、ああ! お前は俺の……一番のウマ娘だ!」

「……当然だろ。アタシは、オマエだけのウマ娘なんだからさ」

 

 この瞬間、俺達の夢は叶いそして終わりを告げた。

 

 ゴールドシップは間違いなく最強のウマ娘として君臨していた。日本だけではなく、世界にも通用するウマ娘として。

 俺はそんな最強のウマ娘を育てたトレーナーとして名を馳せることになった。

 

 同時にゴルシは引退を発表──しなかった。

 結果から言えば、する必要がなくなったからだ。

 

 

 

 年が明けて間もない頃、俺はゴルシと一緒にあの浜辺に来ていた。時期が時期だけにこの季節の海は寒い。

 それでも俺達は歩いていた。いつの間にか当たり前のように手を繋ぎながら、まるで恋人のように。

 

 俺は、ゴルシに告白するつもりだった。今日まで色々あって、言うタイミングはもちろんあったけど、その気持ちに気づくのに時間をかけすぎてしまったんだ。

 何時しかゴルシがいるのが当たり前で、いつも二人で一緒の日々を送ってきた。

 

 でも、やっと一息つけて気づくことができた。自分の本当の気持ちに。

 もういい歳だし、そんなおっさんが告白するのに緊張しているのも変な話だけど、だからこそ言うのに勇気が必要だった。

 

「な、なあ、ゴルシ。その……まずは、改めてお礼を言わせてくれ。本当にありがとう。俺と彼女の夢を叶えてくれて」

「約束したからな」

「ああ。きっとあの子も喜んでくれると思う。だから……お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」

「……うん」

「俺は──お前が好きだ。だから、これからも……俺の隣にずっといて欲しい」

 

 彼女は驚く素振りも見せず、ただそれを言うのを分かっているように優しい表情をしていた。すると俺に抱き着いてきて、ゴルシは言った。

 

「──嬉しいよ。オマエにそう言ってもらえて、本当に嬉しいんだ」

「ゴルシ……」

「アタシのつまらない人生を楽しくしてくれた。そしてオマエのつまらない人生を変えられたし、あの約束を果せた。だから……アタシもオマエが大好きだ」

「じゃあ……」

「でも、ダメなんだ」

「え?」

 

 突然の言葉に驚いて、いつの間にかゴルシが俺から離れていたことに気づけなかった。

 

「色々やりすぎちまってさ、帰らないといけないんだ」

「……未来にか」

 

 ゴルシは無言で頷いた。最初の夏、ここで交わしたあの約束の後に彼女からそれを聞いた。俺はそれをウソだとか妄想だなんて疑わず、本当に信じていた。だから……これは本当のことなんだって、おかしいぐらい納得しちまった。

 

「帰ったらアタシがいた記憶をみんな忘れると思う。多分オマエも――」

「俺は忘れない。お前と過ごした今日までの楽しくて最高の時間を」

「アタシもだよ。本当に楽しかった。何より、オマエと出会えて本当によかった。だけど……これでお別れだ」

 

 正直に言って、らしくないなって思った。でも、それだけゴルシも辛いんだ…………俺と別れるのが。

 だけど、そうじゃないだろって同じくらい思った。

 

「俺が知っているゴールドシップなら、その内また会えるって言うと思うんだけど、どうよ?」

「ぷっ、アハハ。そうだな、確かにアタシならそう言うよな」

「それに約束が残ってる。100年後暇だったら一緒に宇宙に行こうって」

「……ああ。そうだったな」

 

 俺は……彼女の唇を奪った。拒絶はされなかった。

 

「待つのは慣れてる。だから帰って来い。お前は俺のウマ娘なんだ」

「──ああ、絶対にオマエのもとに帰るよ。だから……我慢できなくなって浮気なんかすんなよ」

「……」

 

 ゴルシは最後に笑顔でそう言って消えてしまった。足元を見れば、確かに彼女が先程まで居た証である足跡が残っていた。

 だけどそれもすぐに消えてしまうのかもしれない。けど、消えないモノのある。

 

 俺は絶対に忘れない。お前と過ごしたあの日々を。

 

「またここで会おう、ゴルシ」

 

 だから──さようならは言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクは今年になって、やっと念願だったトレセン学園に入学できた。多くの同級生たちが教室で自己紹介をしたり、自分の夢を語っているのが聞こえる。

 

 もちろんボクにも夢がある。

 

 それは『無敗の三冠ウマ娘』になることだ。

 

 トレセン学園の生徒会長でもあるシンボリルドルフ。彼女がボクの憧れだ。カイチョーみたいなウマ娘になりたくて、彼女のようにボクも『無敗の三冠ウマ娘』になりたいって思うようになった。

 

 三冠を手にするのだって難しいのに、それも無敗だなんてちょっと夢を見すぎって言われると思うけど、ボクにはきっとそれを実現できる力があると思ってるんだ。

 現にボクは選抜レースでその実力を見せた。誰よりも一番にゴールしたんだ。でも正直言えば、ボクの走りをカイチョーに見てほしかったのが一番の理由。

 

 それから多くのトレーナー達がボクの所にやってきてあの手この手を使ってスカウトしにきた。はっきり言って選り取り見取りだとは思ったけど、ボクは自分のことばっかり考えていたから、誰がどのチームのトレーナーで、そのチームは一体どのようなチームだとか調べてなかったんだ。

 だから話を聞くだけではどうにもならないし、その内容もどれもみんな似たり寄ったりで。なんて言うのかな……そう面白味がなかった。

 

 もっと言えば、ボクの心に響くような言葉が欲しいと思った。あ、別に愛の告白とかじゃないよ。

 

 だからボクは適当にあしらった。学園の方針とかみんなの考えでは、早期にチームに入ってトレーナーの指導を受けつつデビュー戦に向けてトレーニングを積むのが理想的だと言われている。

 だけどボクはそこまで焦ってもないし、じっくりと考えながらチームに入ろうと思ったんだ。

 

 この場に集まっていたトレーナー達が諦めてどんどん散っていく中、一人の背の高いトレーナーらしき男の人がボクの前にやってきた。

 

 ボクは内心ビクビクしていた。

 

 だって、背は高いしサングラスもかけていて着ているスーツがあまりにも似合っているから、最初はヤクザの人かと思ったんだ。

 だけど、それは彼の一言でどこかに飛んで行ってしまった。

 

「おいお前。世界一のトレーナーである俺様がお前を最強のウマ娘にしてやる。ありがたく思うんだな」

 

 愛の告白のようなときめくようなものじゃなかった。

 

 けど──不思議とその言葉はボクの心にとても響いたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴルシが去ってもう何年経っただろうか。時間が経つのは歳をとる毎に日に日に早く感じる。俺はもう40歳に迫ろうという歳になるのにまだ結婚もしていないし、彼女もいない。

 実家にいるばあちゃんや母さんからがしつこいぐらいに見合いをしろとか、とっと彼女を作れと言ってくる。

 まあ渋々見合いをしたら、まさかその相手が理事長だったのは驚いたけど。でも、俺は理事長──やよいに言ったんだ。

 

「俺には好きなヤツがいる。そいつが帰ってくるのをずっと待っているんだ」

「なら私も、キミがその人を諦めるまで待とうじゃないか」

 

 まさかの返答に驚いた。

 どうにか諦めてもらおうと考えてみたけど、待ち人であるゴルシのことを説明してもきっと信じてはくれないだろう。

 

 あいつが言ったようにみんながゴルシのことを忘れた。前日までニュースやSNSであいつの名前を見ない日はなかったのに、消えた途端ぶっつりと途絶えた。

 薄情な奴らだと思わなくもなかったが、その本人がいないんだから怒りようもない。

 

 ただ忘れたというよりは、認識をしなくなったのだと俺はある日気づいたんだ。

 

 ある日ふと気になって過去の映像やURAに登録されているウマ娘の公式戦の記録を調べた。映像にはもちろんゴルシが映っていたし、公式ページにもあいつの名前と最後のレースまでの記録が残っていた。当然俺の家にあるあいつの写真やトロフィーにも名前も姿も残ってる。

 てっきり俺は、ありとあらゆるモノから『ゴールドシップ』という存在が丸っきり消えるのかと思っていたのだが、実際はそうじゃなかったらしい。

 

 だから俺は同僚に聞いたんだ。

 

「なあ。ゴールドシップって覚えてるか?」

「ゴールドシップ? ……あーいたね。でも、それがどうかしたのか?」

 

 とまあこんな感じだった。

 何ていうか名前を出せば薄らっと思い出すらしい。もっと深く印象に残る記憶の関することを言えば、それ以上のことが聞き出せると思ったけど、面倒だからやめた。

 一人思い出したぐらいであいつが帰ってくるわけじゃないし、俺だけがゴルシのことを覚えていればいいだけだ。

 

 つまりだ。ゴールドシップは世界から認識されなくなった──俺を除いて。

 

 じゃあ深く関わっていた俺がどうなっているかと言えば、何故か『世界一のトレーナー』として認識されていた。

 

 ──夢が叶ったじゃねぇか。

 

 そんなあいつの言葉が聞こえてくるようだったよ。

 実際変な感じだった。世界一のトレーナーになったのに、それを成し遂げてくれた肝心のウマ娘がいないのに、誰もそのことを追及してこないんだ。

 

 ゴールドシップは世界から認識されなくなった。でも、あいつが残した数々の記録は消えてはいない。だからその結果だけが俺に集中して、そういう風に世界が認識するようになったんだろうって勝手に解釈した。

 

 すげーSFみたいな考察してみたけど、ぶっちゃけどうでもよかった。SFと言えばゴルシは何年後の未来からやってきたんだろうとか、そういう考えも最初だけで今ではどうでもよくなっていた。

 

 ゴルシがいなくなってからの日々は退屈でつまらなかった──訳じゃないんだな、これが。

 

 最初はそうなれば、またあいつが俺のケツを蹴りに来るかなって思ったけど、それじゃあ今までのことが無駄になるし。

 

 だから俺は新しい夢を探していた。

 

 俺はゴルシに夢を叶えてもらった。世界で一番のウマ娘を育て、世界一のトレーナーにしてもらった。

 

 なら今度は俺が誰かの夢を叶えてやろうって思ったんだ。

 

 そして俺は──夢を見つけた。

 

 

 

 

 

「ほらほら! 早く来ないと置いて行っちゃうよ!」

「頼むよテイオー。あまりおっさんを虐めないでくれ……」

「あら。レディを待たせるなんて男して情けないと思いませんの?」

「レディなら時には何も言わず、待っていてくれてもいいと思うぞマックイーン」

「私は待つのは好きじゃありませんの。ほら行きましょうかテイオー。さあトレーナーさん、私達を捕まえてごらんなさい」

「えへへ。行っくよーマックイーン!」

「無茶言うな……って、もうあんな所にいるし」

 

 夏合宿最後の夜、俺はみんな…………と夏祭りの帰りにあの浜辺を歩いていた。でも、みんな俺を置いていって先に行っちまった。

 まあ、このあと俺がひぃひぃ言いながら全力で走る姿を見たいがためにそうしているということは、毎年のことだからもう慣れた。

 

 

 俺はある日、すげーウマ娘を見つけた……それがさっきのウマ娘であるトウカイテイオーだ。才能の塊というか、あの子は天才だった。

 つまりだ。

 世界一のトレーナーである俺に相応しいウマ娘だと思ったんだ。自意識過剰かなって思うけど、これぐらい突き抜けてた方が人生は楽しいってゴルシと過ごして学んだんだ。だから俺は毎日を楽しみながら生きている。

 

 トウカイテイオーから始まり名門メジロ家の令嬢でもあるメジロマックイーンも俺のチームにスカウト(拉致)して、それからどんどんチームが増えていって今に至る。

 

 いまではテイオーは『無敗の三冠ウマ娘』の夢を叶えた。だけど無敗の記録はまさかのマックイーンに敗られて、今では『無敵のトウカイテイオー』として頑張ってる。まあ、何が無敵かって言われたら……気持ちとか? けど、ここまで()()()()()()()()()やれているから間違いではないんだろう。

 

 マックイーンに関しては最初に挑んだ天皇賞・春と秋を両方制覇してみせたし、翌年には2連覇を成し遂げた。

 二人は何ていうかライバルだ。最初は一緒のレースで走ることになってすごく複雑な気持ちだったけど、それが何回も起きれば慣れてしまったし、トレーナーとして二人を応援するのが俺の責任だと気づいた。

 

 二人だけじゃない。他の子達も才能に溢れ、面白い子ばかりだ。

 だから退屈なんてしなかくて、毎日が楽しかった。

 

 でも、やっぱりここにゴルシがいないのは寂しかった。

 

 だからあの日からこの時期になると毎年ここに訪れていた。多分あいつのことだから、ふらっと俺がいる所に帰ってくるのは分かってるんだ。でも何処かではなく、ここならゴルシに会える……そんな気がするんだ。

 

 気づけばみんなにかなり置いていかれてしまった。ウマ娘だから走るのが速いのは当然なんだが、それにしたって本当に置いていくことはないだろうに。

 

「……?」

 

 歩き出そうとしたその時、ふと妙な感覚に陥った。といってもほんの一瞬だけ。言葉にするにはとても難しく、精一杯考えてそれを言葉で表現するなら、点と点が線でつながった……そんな感じだろうか。

 

 さらに背後から気配を感じて振りむこうとしたとき──声が聞こえた。

 

「こんな夜に一人寂しく歩いているなんて可哀そうな男だな。女の一人や二人いないのか?」

 

 いるはずのない背後から、声が聞こえてくる。でもそんなことはどうでもいい。俺は、この声を知っている。イヤってぐらい耳に聞こえてきた声を。

 

「生憎、みんな先に行っちまったんだ。それも一人や二人どころかじゃないぞ」

「ほぉ~。そりゃあそいつらの顔を見てみたいね」

「見たら驚くよ。スゲーウマ娘ばかりだからな」

「そりゃあ楽しみだな。ところで──スンスン……匂いが変わったな。他の女の匂いだな、これは」

「誰かさんがいなくなったショックでタバコを止めちまったんだ。それであの子たちの匂いがついてるんだろうさ」

「そりゃあ大変だ。匂いを上書きしてやらないとな」

 

 変わらない。本当に、あの頃と同じような会話だ。もっと話をしていたい、他にもたくさん話したいことがある。

 だけど、その前に言わなきゃいけないことがあるだろうに。まさか俺から言わせるつもりなのか? 

 

 本当、お前は変わらないな。

 

 俺は苦笑しながら今まで我慢していたのをやっと止めて振り返った。そこにはあの時と全く変わらない姿で、トレセン学園の制服を着ているゴルシが立っていた。

 

「バーカ。帰ってくるのが遅いんだよ」

「仕方ないだろ。道が混んでたんだ」

「お前が素直に待ってるわけないだろうが」

「しょうがないだろ。こっちにも色々と事情があるんだよ」

 

 ここまで言ってまだ言わないのか。しょうがない。俺の負けだ。

 

「おかえり……ゴールドシップ」

「ただいま」

 

 俺は今までの空白を埋めるように彼女を抱きしめた。ゴルシは何も変わってなかった。この声も、身体の感触も、髪の匂いも。

 そして有無を言わさずあの時のように彼女の唇にキスをして、彼女はそれをただ受け入れてくれた。

 

「……やっぱりお前がいない人生は考えられないんだ」

「うん」

「だから……もう何処にも行くな。俺の傍にずっと居てくれ」

「そのためにアタシは帰ってきたんだぜ」

「ほんと……長かったよ」

 

 もう一度ゴルシを抱きしめた。思わず泣きそうになったけど、頑張って泣くのを堪えた。ここは泣くのではなく笑うところだ。

 

 もっと言えば……今すぐ押し倒してやりたかった。でも、それはいい意味で叶わなかった。

 

「あーーーー! トレーナーが見知らぬウマ娘と抱き合ってる!」

『なぁにぃいいい!?』

 

 どうやら俺がいつになっても来ないことを心配して様子を見に戻ってきてたらしい。それもみんなが向こうから俺達を見ている。

 

「アレがオマエの新しい夢なんだな」

「よく分かったな」

「当たり前だろ。アタシはオマエのウマ娘なんだから」

「はは、そうだったな」

 

 ゴルシには細かい説明はいらないようだ。しても自己紹介ぐらいだろう。だけどあの子たちは違う。

 

 さあて、どう説明しようかと、隣にいるゴルシを見ながら俺は彼女と手をつなぎながらあの子たちのもとへゆっくりと歩き出した。

 

「なあ」

「ン?」

「アタシにもさ、夢が出来たんだ」

「へぇー。どんな夢だ?」

「オマエと幸せになること」

「──なら、ずっと幸せでいられるように頑張らなきゃな!」

「末永くよろしく頼むぜ、あなた──なんつってぇぇ!?」

 

 咄嗟にゴルシを抱きかかえて走り出し、今度は俺からあの言葉を彼女に送った。

 

「今度は俺がお前にイヤって言わせるぐらい楽しい人生にしてやるよ!」

「──よろしくお願いします」

 

 お前がいればどんな場所でも、どんな時でも俺の人生は最高で楽しいものに決まっているんだ。

 

 

 

 

 

 おしまい

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

これにて本作品は完結といたします。
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