どけ!トレーナーの隣はわたしだ杯   作:ししゃも丸

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幕間劇 トレーナーさんの休日

「──ふわぁ~~~もう、朝か」

 

 欠伸をしながら体を起こしてスマホの画面を見る。ただいまの時刻は7時半。平日ならもう少し早く起きるところだが、今日は一週間に二日しかない休日だ。

 俺が住んでいるこのマンションはトレセン学園から一駅離れている位置にある。学園で教師兼トレーナー業に勤しむ自分にはピッタリと言えるだろう。

 

 ん? なぜトレーナー寮に住まないのかって? 

 

 確かにそれはごもっともだ。ただ俺は仕事のオンオフはしっかりと区別したい人間だから。

 まあそれらしく言ってみたが、実際はトレーナー寮では物足りないからというちゃんとした理由もある。

 トレーナーの間では、トレーナー寮とは言わば独身寮みたいなものだと言われている。なので一人暮らしをする分には問題ない必要最低限なスペースしかないのだ。

 対してこちらは一人暮らしには贅沢な2LDK。リビングにはプレスベンチが置いてあるし、仕事部屋とベッドルームと我儘な生活を送っている。

 お金の余裕は心の余裕とまではいかないが、休日ぐらいは余裕をもってゆっくりとしたい。

 誰かさんの所為で平日はのんびりできないからな! 

 

「そんな風に思っても、部屋にあいつらの写真ばっかおいてるんじゃあ意味ないよなー」

 

 知り合いのカメラマンや編集者にレースで撮った写真や仕事で撮った写真などをもらい、こうして額に入れたりボードに張ったりしている。特に初レースや重賞で1番を撮った写真は大事に飾っている。

 写真であるが彼女たちに見られつつ服を着替え、顔を洗って歯も磨いて、俺は部屋を出た。

 

 何度も言うが休日は貴重だ。最悪レースなどで休日返上しなければならない日もあるからだ。

 そんな貴重な休日に何をするか。それはもう決まっているのだ。

 マンションとトレセン学園の間ぐらいに個人経営している喫茶店がある。ここで毎朝モーニングコーヒーを飲みながらゆったりと過ごすのが俺の日課だ。

 

「いらっしゃいませー。いつものでいいんですよね?」

「うん。いつもので」

「はい。じゃあちょっと待っててくださいね」

 

 ここの喫茶店に通って早何年経つだろうか。気づけば常連となって『いつもので』と言えば通じるぐらいになった。今の子はここのアルバイトで俺の顔もようやく覚えたようだ。

 

「お待たせしました」

 

 アルバイトがモーニングコーヒーを持ってきてくれた。コーヒーは当然ブラック。いつから飲めるようになったかは忘れてしまったが、飲めるようになってからコーヒーの味がわかるようになった気がする。いや、気がしているだけかも。

 自宅にコーヒーメーカーを導入することも考えたが、家にいない時間のが多いため購入を断念。かといって学園にあるのはあまり好きじゃない。

 いや、缶コーヒーは缶コーヒーで好きなんだが、これはちょっと同列にできないのだ。

 となると喫茶店などの店でコーヒーを飲むという選択肢になり、いつしかこの店に出会ったわけだ。

 

 コーヒーを飲みつつ持ってきたノートパソコンでちまちまと提出する書類を作成する。仕事のオンオフを別けてると言っても、こうやって少しずつやらないと締め切りに間に合わないのだ。まあ、いつも間に合わなくてたづなくんにゴマをすっているわけなんだが。

 

『いらっしゃいませー』

 

 どうやらまた客が来たらしい。ふと腕時計を見て時間を確認する。

 

 ああ、そろそろかな。

 

 そう思ったとき、声をかけれられた。

 

「相席……いいですか?」

「ああ、いいとも。おはよう、カフェ」

「おはようございます……トレーナーさん……」

 

 黒髪は黒髪でも、漆黒の長髪が美しいウマ娘が前に座る。

 彼女はマンハッタンカフェ。トレセン学園に通うウマ娘であり、ここで一緒にコーヒーを飲む秘密の飲み友達。

 彼女をカフェと呼ぶことを許されているぐらいには、仲がいいはず。

 

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

「……どうも」

 

 カフェは普通の子と比べてはきはきと喋るタイプじゃなくて、なんていうか物静かに喋るタイプだと思う。

 彼女が飲むコーヒーは俺と同じブラック。ウマ娘は比較的甘いものを好むらしく、ブラックでコーヒーを飲む子はかなり少ない。知っているウマ娘で他にブラックを飲めるのはルナ──シンボリルドルフぐらいだっただろうか。

 

 ちなみにゴルシにもブラックコーヒーを飲ませたことがあるが、その際ラー油を入れられた事件があり、その日以来アイツの前でコーヒーを飲むことはなくなった。

 アイツに渡したコーヒーは飲んでた気がするから、多分ブラックも飲めるとは思う。

 だが、あんなことがあったので絶対にここは教えてやらないと強く誓った。

 

「……はあ……おいしい……」

 

 コーヒーカップを両手で飲む姿は年相応にカワイイと思ってる。うちの奴らに是非見習ってほしいぐらいには。

 カフェとこうした関係になってそれなりの月日が経つ。

 きっかけは本当に偶然。普段は混まないこの店が混んでて、店に入ったらカフェが先にいて、案内したバイトが俺がトレーナーであり彼女がウマ娘ということもあって、そういう関係だと思ったのだろう。

 

「相席でよかったらすぐにご案内できますよ」

「じゃあそれで。キミもそれでいいか?」

「……え……あ、はい……」

 

 こんな感じで相席になって一緒にコーヒーを飲みながら喋ってたら、それが今日まで続いた感じ。

 そんな過去のことを思い出してるとカフェが言ってきた。

 

「トレーナーさん……タバコ……いいですよ」

「では遠慮なく」

「はい……どうぞ」

 

 このやり取りも毎度のことだ。

 わかってはいるんだが、やはりウマ娘である彼女に有害な煙を吸わせるわけにはいかないので、こうして許可が出るのを待ってからいつも吸っている。

 もちろん、ちょっと体勢を変えて煙がカフェの方にいかないようにするし、吐くときも気を使っている。

 

 俺がタバコを吸っているのを知っているウマ娘は、カフェとゴルシぐらいだろうか。カフェは俺が先にここで吸っているのを見て、彼女は優しいのか遠慮しなくていいと言ってくれた。

 

 ゴルシに関しては、当時の俺は一日に多い時で10本は吸っていたんだ。これでも抑えていた方で、ウマ娘は嗅覚が鋭いからいずれはバレると思っていたのだが、彼女には当然バレた。

 

「くせぇ! こいつぁタバコのニオイがプンプンするぜ! 吸うなとは言わねえから、ちっとは数を控えろよな。これじゃあ他のウマ娘に嫌われても知らねぇぞ」

 

 と、担当ウマ娘にそう言われてしまえば従うしかなく、少しずつ本数を減らしていって今の1日3本まで抑えると。

 

「よーし。いい感じになってきたな!」

 

 よくわからないがゴルシ基準で合格点をもらって以来それが続いている。

 

 タバコを吸っている時、カフェはいつもジッとこちらを見てくる。なんていうか、例えるなら動物園で動物を見ている感じ。

 

「気になるならやめるぞ?」

「あ……違うんです……トレーナーさんがタバコを吸っている姿を見るのが……好きなんです」

「これがぁ? 誰だってこう、口にくわえるか片手で吸っているだけだぞ」

「それが……いいんですよ」

「これが、ねぇ」

「ふふっ……」

 

 初めてのことなんであまり実感が得られず、彼女も中々変わっているなと思うだけで口にはしなかった。

 ちなみに今日は結構会話をする方だ。いつもだったら互いに無言でコーヒーを飲むのが多い。俺はそれが好きだし、彼女にも聞いてみたら同意を得られたので、感性もどこか似ているんだろうな。

 

 コーヒーのおかわりを繰り返し、だいたい1時間ちょっと喫茶店で過ごした。

 

「じゃあ、俺はそろそろいくよ」

 

 そう言ってお会計票を持って立ち上がる。相席ということで会計は一緒になっているがわざわざ別会計にする必要もないし、なにより俺から見て子供に払わせるわけにはいかない。それに俺はこの時間が好きだし、喫煙者ということも内緒にしてもらっている。

 なので、毎度俺がお金を払ってる。

 

「いつもありがとうございます……じゃあ……また」

「ああ。またな」

 

 これもいつもの会話だ。これを言うカフェの表情はどこか嬉しそうに見えるのがいつも印象的だ。

 コーヒーを飲むだけでもそれなりのお値段であるが、この幸せな休日を過ごすための代価と思えば安いものだ。

 

「さてと。帰って書類を終わらせるか」

 

 帰ったら目を背けていた掃除をしようとか、昼飯どうするとか、この後の予定を考えて帰路につく──と思いきや、店を出て10分ぐらい経ったら野生のゴールドシップと目と目が合ってしまった。当然、逃げようとしたら回り込まれて逃げられなかった。

 

「ちょうど荷物持ちが欲しかったんだよ~。ほら、いくぞ」

「俺のきゅうじつぅーーー!」

 

 こうして俺の平穏な休みは終わりを告げるのであった。

 

 

 

 

 

 




マンハッタンカフェ視点か迷ったけどトレーナーさん視点でちょっと補完しました。

ちなみにカフェは病んでないよ。

次はちょっと一人称から三人称もどきな書き方をしているので、今までと違って違和感があると思うのですが許してください。

あとちょっと後付けというか補足。
史実とは違いミホノブルボンだけちゃっかし3冠取っています。菊花賞ではトレーナー補正もありますがムネの差でライスは負けました。現実は非常だ。
なお、そのライスもチームメンバーの模様。

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