―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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『彼女たちは走り続ける。瞳の先にあるゴールだけを目指して――』
 ――アニメウマ娘プリティーダービーより冒頭


メイクデビュー①

 世界は不平等だ。

 天才と凡人。金持ちと貧乏人。田舎と都会。男性と女性。

 相応の努力で詰められるものもあれば、努力ではどうしようもないものもある。

 それは特に才能の世界では顕著だ。

 

 子供の頃、私は何でもなれると信じて疑わなかった。警察官、俳優、果ては宇宙飛行士。

 無知だからこそ、限界を知らないからこそ胸を張って言えるし本気でなれると疑うことすらない。

 

 けれど、現実は何時だって残酷だ。

 

「あっ、駄目だ。勝てない……」

 

 夢をもって入学したトレセン学園で行われる選抜レース。その場所で、私の夢は跡形もなく壊されたのだ。

 

「トゥインクル・シリーズにはそれぞれ重賞レースがあり、その中でも特に――」

 

 女性の教官の授業をぼんやりと聞きながら、私はこのどうしようもなくレベルの高い学園に入ったことを後悔し始めていた。

 

 季節は春。すでに才能あるウマ娘はトレーナーからのスカウトを受け、今にもトゥインクル・シリーズに備えて行動し始めている時期に。私はどうしようもなく現在進行形で腐っていた。

 

「やぁ、ハゲ……!」

「女の子に向かってハゲは、それはもう虐めなんだが?」

 

 嫌みのない爽やかな笑みを浮かべ、颯爽と登場するウマ娘。

 誰にでも笑顔を向け、自由自在にターフを駆け、それでいて曲がったことは大嫌いという頑固な一面もある我らが同期。――ミスターシービーはそこにいた。

 

「シービーさぁ、ハゲラキさんにハゲっていうの止めなさいよ」

「変わらんよ? 我カツラギよ? カツラ=ハゲの図式で改名するのはそれはもう悪意なんじゃが?」

「おもしれーウマ娘……!」

「乙女ゲームの王子様みたいなこといって誤魔化すのバレバレよ?」

 

 私とシービーの軽口の叩きあいに同じクラスのスズカコバンが諭すかのようで全然諭してない発言をし、シービーはさらにボケ始める漫才のような空間となっていた。

 

 私の世代はタレントに事欠かない。

 関西の雄と呼ばれ、西日本ではちょっとした人気を持つスズカコバンは中等部からトレセン学園に在籍する内部生だ。あのマルゼンスキー先輩と公私ともに仲がよく、トレーナーを差し置いて師匠と弟子とまで呼ばれるほどの仲だ。

 しかし、そんなスズカですら霞むような存在がこの学園にはぞろぞろいる。むしろスズカは平均的なウマ娘に過ぎない。

 世の中には才能に選ばれた天才とか怪物とか名門だとか綺羅びやかな言葉に事欠かない。

 

 そして、そんなスズカにすら及ばない私はどうしようもなく夢を見る以前に現実に打ちのめされている。

 

「それで、何の用?」

 

 気まぐれなシービーは兎も角、スズカがわざわざ私の回りに来るということは何かしら用があるということだ。

 と、言うより用もないのにくるシービーはなんなんだ? 飼い主になつく犬か何かかな?

 

「あはははっ、バレてるかー。いつもの味トレの担当お願いできる?」

「またか……」

 

 味トレこと味田教官はトレセン学園の教官の一人であり、主に実技の監督や教育を主とする教諭であるが……。

 

「うん、未だに近寄りがたいからね。あの人……」

 

 味トレはウマ娘からは苦手意識を持たれている。

 身長は二メートル近い長身、筋肉質の体型でまず威圧感がとんでもない。この時点で引っ込み思案なウマ娘は撃沈する。

 それから瞳孔が開いている。常に血走った眼をしており、目の充血と隈はもうなんかやばい薬でもやってるんじゃないかとまで言われるレベルだ。

 終いに伸び切った清潔感のない頬から顎にかけての髭まで生やしてきた。

 こうなるともう役満だ。ヤクザとホームレスと病人を足して割ったかのような男だ。

 

「悪い人間じゃないよ」

「……それシービーが言う? あからさまにあの人シービーにだけは厳しいよ。実技でもろくに走らせてもらえないんでしょ?」

 

 味トレは決して依怙贔屓はしないがシービーに対する態度だけは特に厳しかった。

 何かあればシービーに雑用を押し付け、道具の後片付から記録係に引っ張り出し授業中においてはほとんどシービーを走らせたことはないほどに。

 

「まあ、しょうがないよ」

「しょうがないってことはないでしょ」

「まぁまぁ……」

「アタシは気にしてないから。じゃ、次実技だし着替えてくるよ」

 

 シービーの諦めるかのような反応に私は少しだけ腹が立つ。ピリピリした雰囲気を察したのかスズカが宥め、その隙を狙ってか、シービーは逃げるように、去っていく。

 

「カツラギさんは、味トレ嫌い?」

「嫌いというより、なんであんなことをするのかわからない。話してみると、あの人、決して個人の好悪なんかで差別する人じゃないとは思うんだけど……」

「うん、そうだね……」

 

 その時、何故か知らないが、スズカは少しだけ苦しそうな顔をしていたような気がする。

 

「悪い人じゃあ…、なかったんだよね……」

 

 スズカはそんな言葉を残して、次の授業の準備に移った。

 スズカもシービーも中等部からの繰り上がり組、高等部から入学した私と違ってトレセン学園生え抜きの生徒ともいえる。

 当然味トレのことだってよく知っているのだろう。一度、味トレのトレーナー室に届け物をした時にトゥインクルシリーズの重賞レースのトロフィーなんかが多く飾ってあった。

 

 だからこそ、疑問に思うこともある。

 なぜそんなに実力あるトレーナーが新人トレーナーやサブトレーナーの仕事である教官職に甘んじているのかを。

 

「カツラギエース、どうした? 何かあったのかい?」

 

 睨み付けるというよりも、今にも目玉が飛び出しそうなほどに開かれた二つの視線が突き刺さる。

 まずは顔、胸、腹、そしてじっくりと股関節から(モモ)を舐めるかのようにじっくりと見つめられる。

 

「えっ、いや。なんでもないです。ちょっと、ぼぉーっとしちゃっただけなんで……」

「頭を出せ」

 

 そういうと味トレは私のこめかみを軽く指で押さえながら、額に触れる。

 

「脈は安定、熱もあるようではないね。念のため水分補給だけはとっておこうか」

 

 味トレは過保護だ。少なくとも私はそう感じている。

 会えば話すたびに食事はとっているかなど親戚のオッサンのようなことを言って来る人はトレセン学園ではこの人以外知らない。

 

「味ト――味田教官は……」

「なんだい?」

 

 常々、疑問に思っていた。だから、つい零れてしまったんだろう。

 

「トレーナーにはならないんですか?」

「……っ」

 

 味トレは、ゆっくりと瞳を閉じると、首を横に振った。

 無言の抵抗であり、味トレは言葉は不要かと言う様に私に背を向けた。

 

 ……野郎、逃げやがったな。




シービー実装してほしいけどジュエルが足りないので30000ぐらい溜まったら上限までガチャ引いて出します(鋼の意志)
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