―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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「体は剣で出来ている。血潮は鉄で、心は硝子。
幾たびの戦場を超えて不敗。
ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。
彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う。
故にその生涯に意味はなく、
その体はきっと…剣でできていた。」
 ――fate/staynightよりアーチャー


メイクデビュー⑪

「まずは身体を作る。カツラギエースの欠点はまず、走るに足るアスリート体型の構築から始める」

「はぁ…」

 

 午後のトレーニングを抜け、新しくチーム味田(仮)に入った私に告げられたのはそんな言葉だった。

 

「まずは食事環境だ。今日からの食事は全部僕が作る」

「マ?」

 

 今日からの食事は全部僕が作る?

 

「懸念することはない、カツラギエースの食事環境に関しては把握済みだ」

「アタシがタレ込みました」

 

 そういって窓から顔を出してサムズアップするシービーが見えた。

 

「そうだね、では帰ってくれ」

 

 しかし、無慈悲にも窓は閉められ鍵をかけられカーテンで閉められる。

 

「えっ、あの。シービーは?」

「僕たちが気にすることじゃない」

「えぇ……」

「酷くない、ねぇひどくなぁい!?」

 

 窓の外からか細い声でシービーの声が聞こえる。

 

「じゃあ話を続けるけど」

「続けちゃうの!?」

「ねぇ、ちょっと。開けて、ねぇ、開けてぇ!! ア゛タ゛シ゛も゛中゛に゛入゛れ゛て゛よ゛ぉ゛!゛!゛」

 

 そんなこんなでシービーの呼びかけというBGMを聞きながら私は手渡されたスケジュール帳を見渡す。

 そこには朝晩はトレーナー室での食事、昼食用の弁当の配布から、トレーニング時間の設定。厳格な睡眠時間の保持など一日のほとんどをトレーナーの管理下に置かれたモノが書かれていた。

 

「束縛系彼氏かな?」

「味トレは徹底的な管理型の理論派トレーナーだからね。アタシも中身見たのは初めてだけどこんな風になってたんだね」

 

 こいつ(シービー)いつもすぐ近くにいるなと思いながら、先ほどのミーティングでの熱意を思い出す。

 正直引いてしまうものがある。しかし、これもすべてトゥインクルシリーズでの勝利を目指すのならば必要なことだとなんとか飲み込む。

 

「名門がなぜ名門と呼ばれるのか。それは積み重ねてきた伝統という名のノウハウがあるからだ」

 

 そうトレーナーは言った。

 

「伝統と言うのは常にトライ&エラーを繰り返し積み上げてきた効率化された練習法だ。そんなものを幼少から積み重ねてきたからこそ名門は今でも名門足りえる。才能は大事な要素だがその才能を埋めるのは経験と環境と効率だ。努力と置き換えたっていい」

 

 ウマ娘のレースの世界で名門と言われるのは二ついる。一つはトレーナー一族の名門桐生院家。もう一つはウマ娘の名門一族メジロ家。

 桐生院一族が代々トレーナーを務めるチームアクエリアスに所属するウマ娘で有名と言えるのは[『太陽の王子』モンテプリンス先輩、春の天皇賞ウマ娘モンテファスト先輩のモンテ姉妹と『白い稲妻』シービークロス先輩。

 メジロ家出身のウマ娘では天皇賞ウマ娘メジロティターン先輩、障害競走のメジロアンタレス先輩、『幽霊戦闘機』の異名を持つメジロファントム先輩がおり、たしか同級生にもメジロ家出身のウマ娘もいたはずだ。

 

「少ない時間を効率的に練習する。量では到底追いつけないからこそ質で迫るのが僕なりの育成法だ。思考を止めず、何が自分にとって最適かを考えてほしい。意見は常に聞こう。なんでもいい日々の悩みや練習に対する不満、足の違和感からなんでもだ。そのすべてに僕は対応して見せよう」

 

 ――勝つための最善。そのためならばこれをこなすべきだろう。

 

 辛いだろう、苦しいだろう。でも……、何も目標も定まらなかった泥濘の中からこの光と言うべき将来へのルートが開かれているのならば腐っていた時よりも百倍もマシという物だ。

 

「カツラギ、楽しくなって来たでしょ?」

「へっ?」

「だってアナタ、笑ってたもの」

 

 シービーは人の良い笑みを浮かべるのだった。

 

「……ってか、なんでいるの?」

「アタシとハゲラギの仲じゃない! アタシとアナタは一心同体、二人は家族、二人はテイエムプリキュア。アナタの最近買った少女漫画の推しは花君の中津秀一君!」

 

 シービーは白い歯を見せてニカッと笑いながらサムズアップする。

 なんか腹が立ったので私はシービーの額にデコピンを打った

 

「なんで私の漫画勝手に読んでるのよ!!」

「あいったーーー!!」

 

 シービーの声は良く響いた。

 

 学園から寮へ戻り、制服のままベッドに横たわる。

 肉体よりも精神的な疲れがドッと出て、深く息を吸いそして大きく吐き出す。

 

「やっと、スタートラインか……」

 

 ようやく一歩を踏み出した、けれどもその一歩は通過点であり他のライバルはすでに動き出している。

 シービーやスズカのような貯金も無ければ、ジュニアステークスで結果を出したウイナのような実績はない。

 私は牛歩のようなゆったりとした日々を過ごしていた。日々を無為に過ごしていた。

 そのことがとても怖い。

 

 走らなくていいんだろうか、もっと筋力をつけた方がいいんじゃないか。

 トレーナーは焦ることはないと言った。それどころか決められた分を超える自主トレすら禁止させられた。

 

「怖いなぁ……」

 

 すごく、怖かった。結果が出せていないこと。今も周囲に比べ優れていると言えないこと。そんな不安がごちゃ混ぜで胸が重苦しくなる。

 

 そんなことを思っていると、ノックの音が聞こえる。誰だろう?

 栗東寮で唯一一人部屋を貰ったのは私ぐらいで、普通は二人部屋だ。来るとすればスズカかウイナあたりだろうが、彼女たちはノックなんてデリカシーのある行為はしない。

 すぐにドアを開けて声をかけるような娘たちだからだ。

 

「……どうぞ、空いてます」

「やっ、ラ~ギちゃん!」

「寮長!?」

 

 そこにはトレセン学園の上級生、栗東寮の寮長ホクトボーイ先輩がいた。

 

「何か用ですか」

「うん、ちょっとねぇ……早く来てくれると助かるかなぁ……」

 

 何があったんだ? シービーが何かやらかしたのか?

 ふとそんなことを思いながらホクトボーイ先輩の後をついていく。心なしかホクトボーイ先輩の尾がいつもより大きく揺れてるような気がした。

 

「……なんか、ご機嫌ですね」

「うん? そうかな? ……そうかも」

 

 ホクトボーイ先輩は細い目を更に細くして微笑む。

 

「なんだかね、昔を思い出すの」

「……昔、ですか」

 

 ホクトボーイ先輩は華のTTG世代と呼ばれた時代の一人である。

 

「勝てなかった、でも楽しかった。余りにも勝てないから何度でもレースを走った。勝つことに懸命になってね、馬鹿みたいに必死になって……気がついたらこんなところに居た」

 

 ホクトボーイ先輩はどこか遠いところを見つめながらぼんやりと話す。

 

「ラギちゃん見てるとね、なんだか昔を思い出すの。必死こいて、悩んで、挫けて。それでも勝ちたいって思ってた日を」

「はぁ……」

「だからね、うん。ラギちゃんには結構期待してるんだ。次の寮長! ……っていうには早すぎるから次の次あたりにはなれてるんじゃないかなぁ、って思ってる」

「私がですか!?」

 

 ついこの前まで落ちこぼれだった私がヤバそうなトレーナーに目を付けられたら先輩からの好感度が急上昇しました。

 今どきのラノベか何かかな?

 

「さっ、着いたよ」

 

 そんなくだらないことを思っているとどうやら目的地に着いたようだ。

 そこはいつも私が食事を取っている食堂で、納得より前に疑問が湧く。

 

「は?」

 

 そして、そこに飛び込んできたのは見るからに豪勢な食事が並べられた食卓だった。

 

「味田さぁ~ん、ラギちゃんよんできたよぉ」

「ああ、ありがとうホクトボーイ」

 

 そして調理場からは聞き覚えのある声、紛れもなく味田トレーナーの声だった。

 

「食事の時間だカツラギエース。思う存分食うといい」

 

 山盛りに炊かれたご飯、十数皿に渡るおかずの数々、彩りよく、バランスよく、そして何よりも大量の食事が私を待っていた。

 周囲からの何とも言えない同情や嫉妬、羨望の視線を感じる。

 

「どんな拷問ですか?」

「……? 食事もトレーニングの一つだぞ?」

 

 そういうことを言ってるんじゃないんだよなぁ…。




 ウマ娘ヤンデレSSを見て『信綱お兄さマンの六文銭ダービー』という頭長篠の真田信綱がトレセン学園のトレーナーになる話を作りたくなったが、如何せん僕にはライスもカレンチャンも居ないので書ききれる自信がないしとりあえず、ファル子が欲しいしタマちゃん実装してほしい。
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