―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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「こいつら交尾したんだ!!」
 ――非リアきつねより非リアのきつね


メイクデビュー⑫

「カツラギ、トレーナーとうまぴょいしてるってホント?」

「ブフォッ!!?」

 

 ウイナからの唐突な言葉の右ストレートに私は飲んでいた牛乳を噴き出した。

 

「ぐわぁーーー!!」

「ウワーーーッ!? シービーの顔が真っ白に……!」

「あっ、やべ……ごめん」

「目がぁ、目がぁ!!」

 

 私の噴き出した牛乳で顔を白く染めたシービーは目元を押さえながら袖口で顔についた牛乳を拭う。

 

「これじゃあ葦毛のウマ娘だ。なんてこった」

「パンナコッタ」

「「えっ?」」

 

 スズカはいきなりヨーロッパのデザートを口に出す。食べたかったのかな?

 

「えっ、あっ! やだ、これ通じひんの!?」

「大丈夫? 乳首ドリルする?」

「ドリルすな」

「???」

 

 シービーとスズカは何故かは知らないが通じあってるようだ。

 カツラギエースはクールに去るぜ。

 

「あっ、カツラギが逃げようとしてる」

「なぁにぃ!?」

「囲めぇ!! ウマ娘警察だ!!」

「くそっ、バレたか!!」

 

 私は逃げ出した。

 しかし、回り込まれてしまった。

 シービーたちはディーフェーンス、ディーフェーンス。と呟きながら私の行く手を阻み、周囲の人たちは私たちのことを怪訝な目で見つめていた。

 

「ウイナ、スズカ。やっておしまいなさい!!」

「まかせて、シービー!!」

「くそっ、離せコラ!」

「三人に勝てるわけないだろ!!」

 

 バカ野郎私は勝つぞ私は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、言い分を聞こうかッ!」

「「「大変申し訳ございませんでした」」」

 

 数分後、私たちは生徒会室に呼ばれていた。

 

「えぇ~、なんか素直だなぁ……」

「素直なら良いことではないかしら?」

「面白くない、張り合いがない。下級生ってのはもっと生意気なのが健全とボカァ思いますよ?」

 

 机に頬杖を付きながら心底つまらなそうに呟いたのは黒鹿毛のウマ娘――生徒会長クライムカイザー。

 

「クラちゃんは全く仕方ないですねぇ……」

 

 憂いを帯びた瞳に白い肌。儚げなその姿はまるで妖精の美姫のごとく美しい鹿毛のウマ娘――副会長テイタニヤ。

 

 ダブルティアラたる妖精女王とダービーウマ娘たる犯罪皇帝。

 黄金時代に名を連ね、ウマ娘たちの尊敬を受ける二人はトレセン学園生徒会。学園生の頂点である。

 

「でさぁ、話変わるけどそこのカツラギエースって娘、トレーナーとうまぴょいしてるってホント?」

「してないです」

 

 いや、あんたも聞くんかぁーい。

 私は頭が痛くなった。

 

「え~本当に~?」

 

 生徒会長はおどけたように半ばふざけたように聞いてくる。とてもウザかった。

 

「うまぴょいしてもいいけど、避妊はするのよ」

「あんたは何をいってるんだ?」

 

 女の子が避妊とか言っちゃだめでしょ!!

 テイタニヤ副会長は優雅に紅茶を飲みながら呟いた。

 

「まぁね、わりと問題になってるからねぇ。うまぴょい問題。グラスとか月一で温泉行くんだよ? ありゃ相当ヤっとる」

「トレセン学園の闇と言うものね」

「あんたらは温泉にどんなイメージをもってるんだ?」

 

 生徒会はうんうんと頷きながらそう言った。

 下衆の極みすぎない?

 

「? うまぴょいって有馬の時に踊る奴だろ? それになんか問題でもあるのか?」

 

 ウイナは心底不思議そうに呟いた。

 あっ、この娘。うまぴょい(意味深)のことわかってないなと理解した瞬間だった。

 

「……そのままの君でいて」

「???」

 

 私はウイナの肩を叩きながらそう呟いた。きっとこの時の私はとても慈しみに満ちた瞳をしていただろう。もっともウイナは実に不思議そうな顔をしていた。

 

「でもねぇ、噂が生徒会に届いてるってのはボカァ問題だと思いますよ? なんだって? 校庭で人生半分あげますとか言って、昨日手料理作って貰ったそうじゃないか。ふゥん、よかったねぇ……」

「会長、発言に棘がありません?」

「クラちゃんはね、嫉妬してるのよ。ほら、自分の担当トレーナー、別の娘に取られちゃったから」

「チミぃ、人をみみっちぃ奴みたいに言うんじゃないよ、ボカァ会長だよ?」

「あら、自己評価出来てるみたいで偉いわね、さすが会長」

 

 なぁんか、居心地の悪さを感じる。

 チクチクとした皮肉の応酬が当然のように流されている。

 

「……なんだ? 喧嘩か? 喧嘩は良くないぞ?」

 

 嫌な雰囲気を何となく感じたのかバカ正直に呟いた。

 

「あら、そんなことないわよ。私たち仲良しよねぇ?」

「腐れ縁だよぉ。まぁ、タニヤはティアラ路線でボカァ三冠路線だから喧嘩するほどの仲でもないし」

 

 クライムカイザー会長は後頭部を掻きながら思い出すように口を開く。

 

「すっごいよ、この子。顔のいいトレーナーが居たら全員に話しかけてハニトラかましてたからね? お陰でもぅ、腹刺されたトレーナー出てきたんだよ。ありゃあ、ヤバかった……」

「貴方だってダービーの時、走行妨害ギリギリ攻めてたじゃない。それで犯罪皇帝って言われてちゃ立つ瀬無いじゃないの」

「八方美人」

「掠め取ったダービーウマ娘の称号は大層嬉しかったでしょうね犯罪者さん」

「これで仲がいいとはやはり冗談なのでは?」

 

 私が二人を指差しシービーたちに視線を向けると皆は強く頷いてた。

 

「こんなの喧嘩の範疇にならないよ、ボカァマスコミにもっとボロクソに叩かれたからね。あと新聞社」

「私もダブルティアラとってエリザベス女王杯取れなかったら世界中から悲観されたらしいわ。全米が涙したアルマゲドンより涙したらしいわね」

「「かわいい物よ(だよ)、このくらい」」

 

 けろっと、そして何処か疲れたように会長と副会長は答えた。

 

「……だから、羨ましいわ。私たちの時代はいっつもピリピリしてて、そんな風に級友同士で仲良くなんてなれなかったの」

「そうだねぇ、でもボカァ嫌いじゃなかった。皆がひとつの目標に向かって戦ってたから、孤独じゃなかった。その分、外のノイズは嫌いだったけどね」

 

 クライムカイザー会長は一息おいて、指を組み直して肘をつく。

 

「もっと、早く。こんな風に出来たらよかった。心からそう想う」

「……」

 

 何処か、後悔するように。彼女たちは瞳を閉じ、懺悔する聖職者のようにしばらく黙祷を捧げた。

 

「さて、じゃあカツラギエースくんのうまぴょい問題は現状問題なしと。おっけーおっけー。とりあえず、教室でプロレスごっこは止めてね、それで怪我したら怒られるのは君らだけじゃなくて学園もなんだから」

 

「はい」

「はいはい、反省してまーす」

「メンゴメンゴ」

「すまんk――「おいバカやめろ!!」

 

 なに言おうとしたシービー!!

 シービーの危険な発言を察知した私はいそいでシービーの口を手で抑えこむ。モゴモゴと口をなんとか動かそうとするため、ひどく掌がくすぐったくて堪らなかった。

 

「まあ、大体わかったよ。その様子じゃあ、今は問題なさそうだね」

 

 会長は固く組んだ手を離すと、深く息を吐き出す。

 

「とりあえず、現状注意。あとカツラギエース君、あんまり味田さんに入れ込みすぎないように! 先輩からのアドヴァ~イス」

 

 妙なイントネーションのアドバイスを受け、クライムカイザー会長は最後に軽そうに手をパタパタと振りながら机の上に嵩張った書類に目を通し始める。

 

「解散していいわよ。ごめんなさいね、時間取らせて。あと、困ったことがあったらいつでも生徒会に来ていいから」

 

 テイタニア副会長は笑みを浮かべながら、可愛らしい仕草で手を振り笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「行ったかな……」

 

 クライムカイザーは書類に目を通したまま呟いた。

 

「ええ……」

「しんどいことだろうねぇ、あの味田さんが担当に付くなんてさ」

 

 思えば、とびっきり優秀な男だった。

 恐らく若手トレーナーの中ではナンバーワン、ベテランの中に混じってても遜色のない名トレーナー。それが味田と言う男だった。

 

「もう終わった男だと思ってた」

「そうね、私もそう思ってたわ」

 

 ある事件を境に味田という男は発狂した。現実に耐えきれなくなり、罪悪感という毒は致死量を上回った。

 トレーナーとして――人間として壊れた男だった。

 

「ジョージさんもトウコも、そしてキングスすら離れていった。チームは崩壊し生きた屍当然だった男。そんな男が復活した――そう見えるかい?」

「全然、下手すればまた逆戻りね。表面だけ取り繕ってるに過ぎないとおもうわ」

 

 クライムカイザーは頷く。

 彼らは危ういラインの上に立っている。なにか一つのミスが大きな事故になり今度こそ修復不可能になり得る。

 

「彼女にも困ったものさ」

「だとしても、私は否定できないわ。――約束って言うのは大事なものよ。それこそ、絶望の淵から掬い上げられるほどに」

 

 テイタニヤは目を閉じて胸に手を宛てながら陶酔するかのように答える。その姿はまるで舞台に上がった女優のように。

 

「悲劇の道は悪意でなく、善意で舗装されているのかも知れないねぇ。やれやれボクたちは業の深い生き物だ」

 

 クライムカイザーは仕事の手を止めて、ふと窓の外。晴れ渡った青空を見上げる。

 

「君の責任だよ。まったく……」

 

 願いにも似た問いはそのまま空に吸い込まれ、消えていった。

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