―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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「分かった事一つ。廊下で転ぶと、鼻血が出て、人生で転ぶと、涙が出るんだ。」
 ――とらドラ!より櫛枝実乃梨



メイクデビュー⑭

 その日、味田トレーナーは苦虫を二ダースは噛み潰したかのような顔をしていた。

 そしてその隣には満面の笑みを浮かべるシービーがいた。

 

「シービー、どうしてここに……」

「アナタと同じよ、メイクデビューしたかったってやつよ」

「嘘つけ、引く手あまたの癖に」

「テヘペロ☆」

 

 シービーはウインクをしながら舌を出し、片手でコツンと自分の頭を軽く叩く。

 可愛いアニメーションの少女がやるなら兎も角、可愛い系というより綺麗系のシービーがやると痛いだけである。

 

「さあ! トレーナー。そんなことよりどうしてアタシがここに居るか説明してよ! ほら! 説明!」

 

 味田トレーナーはただでさえ不調なコンディションを絶不調にしながら嫌そうに口を開く。

 

「……秋川理事長に押し付けられた」

「ウェイウェイウェイ!! なんでアタシを不良債権みたいに言うのさ!! 我ミスターぞ?」

「ふぅーん、ミスター○ーナツ?」

「ジャイアンツよ! 巨人! 大鵬! 卵焼き! みんな大好きでしょ!」

「よく知ってるなぁ、そんな昔のこと……」

 

 味田トレーナーは辟易しながらため息をつく。トレーナーの顔をここまで歪ませることだけは一流と認めても良いかも知れないが、代わりに親愛度がごりごり削られていくのが見てとれる。

 シービー、お前はそれでいいのか?

 

「トレーナーも好きでしょ! 巨人!」

「……僕は巨人は永遠の敵って学んだから」

「トラキチ!?」

 

 日ハム派は居ないんですか!?

 

 そんなこんなでシービーがチームに入ったのも束の間。私のメイクデビューは目前へと迫っていた。

 

「そう言えば、チーム名ってどうするんですか?」

「そう言えば決めてなかったね」

 

 トレセン学園に併設されたダンスレッスン場で私は味田トレーナーに疑問を挟んだ。

 

「昔はチーム持ってたんですよね、その時は?」

「……ジェミニだったね。チームジェミニ。もう解散したけれど」

 

 そう言った味田トレーナーの顔は何処か悲しそうで、何処か懐かしさを浮かべていた。

 

「ジェミニじゃだめなんですか?」

「僕が潰したチームだ。それに黄道十二星座を冠するチームはポピュラーだからね、別のチームの名称になってるんじゃないかな?」

 

 味田トレーナーはなんともシビアに回答する。

 

「僕と君だけだったら専属ってことでそこらへんは曖昧に出来ただろうけれど、シービーが入った以上チーム名も整えないといけないからね」

「うーん、星座じゃないと駄目なんですかね」

「そういう訳じゃないよ、ただこれはチーム北斗とチーム南十字(サザンクロス)の影響だろうね」

 

 現在ドリームトロフィーリーグで活躍する日本のプロチーム。それがチーム北斗と南十字(サザンクロス)である。

 味田トレーナーが言うにはトゥインクルシリーズで有数のチームであるサジタリウスの朝倉氏やペルセウスの中村氏は元々は北斗の生え抜き人材。トゥインクルシリーズ古参のチームであるチームプレアデスを率いる南坂翁はチーム南十字(サザンクロス)のチーフトレーナーというドリームトロフィーリーグで活躍したトレーナーであったという。

 

「北斗も南十字(サザンクロス)も戦前から続く名門中の名門だ。ウマ娘ブームの到来以前を知る数少ないチームで戦前の有力ウマ娘はすべてどちらかに所属していたと言われるぐらいだ」

「なるほど、野球のセ・リーグとパ・リーグみたいなものですね」

「それはどちらかと言うとクラシック路線とティアラ路線の方が近いような気がするけど……」

「じゃあ、オールスター戦」

「ああ、うん。たとえとしてはそっちが正確だ」

 

 味田トレーナーは頭を掻きながら答える。しかし、私には少しだけ疑問があった。

 

「でもチーム北斗も南十字(サザンクロス)もよく優秀なトレーナーを独立させましたね?」

 

 優秀な人材は囲いたいものだ。しかもドリームトロフィーリーグ。すなわち国内だけではなく国外の遠征もざらにある世界の最強ウマ娘を決めるようなリーグ。優秀なトレーナーはそれこそ何としてでも手元に置きたいものだろうに……。

 

「そりゃ、簡単だ。日本のウマ娘は世界のウマ娘には勝てないからだよ」

 

 味田トレーナーはなんてことない様にそういった。

 

「日本は平地競走じゃあ海外、特に欧州に比べてはるかに遅れている。選手の質も量も、何もかもね」

「そんなにですか?」

「日本最強の五冠ウマ娘と言われたシンザン。今もドリームトロフィーリーグの一戦で活躍している彼女でも勝ちきれないことは何度もある」

 

 五冠ウマ娘シンザン。戦後において最強最高と言われているウマ娘であり、クラシック三冠という偉大な記録を打ち立て、その名をもじって『神讃』と称された少女。

 

「クラシック路線で獲れる八大競走のタイトルのすべてを獲得し、国内に敵はいないと言われた彼女でも世界の壁は大きかった。英国三冠ウマ娘ニジンスキー、仏ティアラ三冠アレフランス、ドイツ三冠ケーニヒスシュトゥール、イタリアの無敗ウマ娘リボー。米国はビッグ・レッドを筆頭に今一番勢いがある。彼女たちから見ればシンザンはしぶといロートルに過ぎない」

 

 何も言えることがなかった。日本の頂点、日本の誇りともいえるシンザンでさえ、世界から見れば数あるウマ娘の一人でしかない。

 

「今、URAやトレーナーたちが掲げる『シンザンを超えろ』っていう目標はハッタリでもなんでもない。彼女を超えるウマ娘を育成しなければ世界に日本のウマ娘の居場所はないからだ。実際、日本のアイドルウマ娘だったハイセイコーは同年の『ビッグ・レッド』セクレタリアト、アレフランスに蹂躙された」

 

 育成ノウハウが足りない。資金も、交流も海を隔てて何よりも遠い。

 だからこそチーム北斗はチームを割ってでもウマ娘の育成の為に優秀なトレーナーをトゥインクルシリーズへ送ったともいえる。

 そのおかげか、トゥインクルシリーズのレベルは上がり未だにシンザンを超える名バはおらずとも、ドリームトロフィーリーグを目指す名のあるウマ娘は少しずつ増えてきた。

 

「……」

「国内だったらシンザンだって負けない。誰よりも強いだろうさ。でも国外となれば……」

 

 ここで気づいたのだろう。味田トレーナーは深く息を吐き出すとバツの悪そうな顔をする。

 

「喋りすぎたね……悪かった。忘れてくれ」

「あ、いや……べつに」

「行くかどうかわからない海外の事よりも今はメイクデビューを成功させよう。先の遠い不安よりも、まずは目の前の問題を片付けよう」

 

 少しだけ怖かった。

 世界のウマ娘たちの脅威ではなく、味田トレーナーのあまりにも悲観的な現実の言葉に。そしてそんなことを言いながらも狂気に染まり、どこか憧憬を浮かべる彼が、私は少しだけ怖かった。

 

 けれど、どこか野心的なその想いは少しだけ私の自己承認欲求に似たものを感じた。

 

「それじゃあ、まずはステップを完璧に覚えよう」

「はい」

 

 とりあえず、ウィニングライブの為のダンスを完璧にすることが今の私のやるべきことである。




中央のトレセン学園は魔境? DTR(ドリームトロフィーリーグ)の方が魔境ぞ
まあおそらくDTRにも国内戦と国外戦があって、外国産ウマ娘と戦う際は日本勢はボロ負けしているのがこの時代のウマ娘ですね。
ハーツクライとジャスタウェイがどれだけやばい奴らかよくわかりますね。
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