―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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「人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。何かを得るためには同等の代価が必要になる」
 ――鋼の錬金術師よりアルフォンス・エルリック


萩特別レース①

 古来より人を一つの方向に向けて協力させるにはどうすればよいのか。

 賢者は答えた。敵を一人作ればよい、と。

 

「やぁ、バカラギエース」

「やぁ、アホラギエース」

 

 私はチーム共通の敵となってしまった。

 開口一番、練習前のミーティングで私は罵声を浴びせられる。

 

「やらかしエース」

「どじっこエース」

「それもう原型無くないですか?」

 

 チクチクと突き刺さる言葉の剣。

 基本的に無表情の味田トレーナーの心情は読み取れないが、シービーは心なしかイキイキし始めていた。

 

「やめろエース」

「のるなエース」

「「こんな俺を愛してくれてありがとうエース」」

「火拳のエースじゃねぇか。仲いいなおい」

 

 私は察した。

 こいつら私で遊んでやがる。

 

 私は頭を抱えながら、甘んじてそれを受けなければならない理由があった。

 

 昨日のメイクデビュー。

 最終的に8バ身の差をつけての大勝利だったものの、問題はその後だった。

 

「……ねぇ、あの娘。何処まで走るつもりなのかしら?」

「完全にハイになってるね。走るのが気持ちよくなって自分がゴールしたことに気づいてない」

 

 稀によくあることらしい。

 走るのが気持ちよすぎてゴール版を通り越してもそのまま走り続ける。

 

この時の私もゴールしたことに気が付かず、先頭を走り続けすでにコースを二週目に入り始めていた。

 

『お前は何と闘ってるんだ?』

『……自分の限界。ですかね?』

 

 初代三冠ウマ娘セントライトの妹トサミドリはメイクデビューのとき同じことをやらかし、上記のような迷言を残した。

 31戦21勝、内レコード記録9回を叩き出したURA屈指のレコードホルダーの言葉である。

 

「あのままじゃ疲労で倒れかねない、シービー手伝ってくれ」

「アラホラサッサー!」

 

 走り続け、2000mを超えたところでスタミナの切れた私はシービーに捕まり、支えられる状況になってしまったのだった。

 必要以上に体力を消耗した私のそのあとは散々で、ウィニングライブでは一人だけ足元がふらふらで碌にダンスを踊れずフラダンスと言われる始末。

 ウィナーズ・サークルでは一人で立つことすらままならず味田トレーナーに俵持ちにされ二、三受け答えした後はそのまま寮へ直帰となった。

 

「恥だよ、恥。ウィニングライブもまともに出来ないのは選手として恥でしかない。他の選手のことを舐めてると言ってもいい」

 

 レース後の味田トレーナーはそう言って私を叱責した。

 

「みんな悔しいんだ。しかもメイクデビュー戦。勝てば夢の重賞レースに向けて戦える。クラシック戦線で八大競走に選出されれば勝負服を身に纏える。勝負服を身に纏えるのは一握り中の一握り。それだけで勝者の証ともいえる」

 

 メイクデビュー戦に勝てば開かれる重賞レースやクラシックの道。勝てなければ未勝利戦に回され、それにさえ勝てなければ才能なしの烙印を押され、もうレースには出られない。

 

「アナタ、恵まれてるわよ。勝たせてくれるトレーナーに出会えて、指導を受けられる。そしてトレーナーは有言実行してアナタを勝たせた。中央でもメイクデビュー戦一発で勝利できるウマ娘は少ないわ。そして勝てないまま未勝利戦でも敗北を重ねてそのままレースの舞台から去っていくウマ娘は多いわ」

 

 シービーのあんな冷静な顔は初めて見た。それぐらい、彼女は本気でレースという物に向き合っている証明でもあった。

 およそ半数。トレセン学園に通うウマ娘の半数はメイクデビュー戦、その後の未勝利戦に勝てないまま選手としての生涯を終える。

 それでも諦めきれないものは地方のトレセン学園に編入したり、様々な道を歩むことになる。

 

 夢はあっけなく終わる。

 それがこの世界の残酷な真実だ。

 

「レースで勝てなくてもすぐ引退や退学ということにはならないわ。多くのウマ娘たちは選手ではなくスタッフ研修生になって誘導ウマ娘やURAの職員、指導者、その他のプロスポーツ選手になって別々の道をたどることになるわ」

 

 トレセン学園を中退した先輩にハードバージという先輩がいた。

 八大競走の一つ、皐月賞を手にし、日本ダービーでは二着という堂々とした成績を持つ一流のウマ娘と言われる彼女だったがダービーの後に不治の病といえる屈腱炎を発症。生家が裕福でないということもあり、クラシックの時期でありながら早々に学園を退学し幼い妹を養うために職を転々とし地方の観光事業社に入社という異色の経歴を持つ彼女だった。

 しかしここで過酷な労働の末に過労死を遂げている。

 マルゼンスキー先輩の同期であり、彼女の圧倒的名声によって隠れてしまった知られざる名ウマ娘と言われた彼女であったが、彼女のその後の悲劇的な末路を思えば学園側としても対応しないわけにもいかなかった。

 

 選手引退後の貧困に悩まされるウマ娘も少なくない。有馬記念優勝ウマ娘であったカネミノブ先輩も今まで選手として学園を過ごし、URA屈指の成績を収めて来たものの、いざレースの世界から引退することとなり社会に出た際、あまりにもレース以外のことに対して無知すぎた。

 たちまち貧困となり、今でも生活に苦労しているため、トレセン学園では就職活動や卒業ウマ娘がこのような貧困に陥るのを防ぐため上記のような研修制度を取り、早期に選手として見切りを付けられた生徒の教育を行っている。

 

「アナタはまだ夢を見られる。それはとても素敵なことで、ある意味では残酷なことよ。勝ったアナタがそんな無様を晒せば、アナタに負けたウマ娘はアナタを殺したくなるほど憎むわ」

「勝者であるのなら、勝者である誇りを魅せろ。堂々とするんだ。それが勝った者の義務であり、敗者への手向けだよ」

 

 ウィニングライブは勝者に手向ける讃美歌であり、敗者へ贈る鎮魂歌だ。と味田トレーナーは付け足した。

 

「ごめんなさい……」

「……僕も言い過ぎた。ちょっとキツい言い回しになってしまった。ごめん」

「ふっふー! カツラギをわからせるのは気持ちがいいぜ!」

 

 シービーは二発のデコピンを喰らった。妥当な判断だったと思う。

 

「次のレースだが、萩特別で行きたい」

 

 ところ変わって現在、ミーティングで味田トレーナーが提案したレースはメイクデビューが終わってすぐの二週間後、一〇月三日に行われる獲得賞金400万以下のウマ娘が出られる萩特別レースだった。

 

「早いわね。まだアタシだってメイクデビューしてないのに……」

「鉄は熱い内に、情報は早い内に行動するのが何事も吉だ。巧遅よりも今回は拙速で行くほうがカツラギにはメリットになると判断した」

 

 味田トレーナーの中では既に参加が決定しているかのような物言いで告げる。

 

「シービーは時期とコンディションを見て判断する。カツラギは続けざまになるが、この萩特別に参加してほしい」

「まあ、体調も問題ないですし特に怪我もないですから大丈夫かと」

「ありがとう。本音を言えば僕の理想通りになるかは微妙だが、それでもある程度は実りある結果にはなると思う。時には百の練習よりも一の実戦で学ぶことのほうが多い場合もあるからね」

 

 その時、私は味田トレーナーの物言いに違和感を感じた。

 そしてその違和感の正体は直ぐ様味田トレーナーの口から出る。

 

「今回の萩特別レース。恐らくカツラギは勝てない」




 シンデレラグレイを読むとベルノライトがスタッフ研修生としてトレセン学園に編入したという記述があります。
 現実でも引退し種牡馬とならなかった馬(なれなかったとも言う)はその後誘導馬になったりする例もあり、アニメの時代やゲームの時代では恐らくトレセン学園卒業後の就職のサポートや訓練は何気に手厚いんだと思います。
 でも、こういう手厚い制度にはやはり過去に大きな問題となった悲劇がきっかけとなって作られるのがお役所の実情です。
 なのでハードバージ先輩や味田トレーナーの初代担当ウマ娘とかがちゃんと犠牲にならないとサイレンススズカやメジロマックイーンは怪我から復帰することも出来ないし、レースで勝利することのできない可愛そうなモブウマ娘ちゃんも笑って卒業出来ないのでこの過去時空ではアプリ未登場ウマ娘の娘たちはちょっと過酷な運命を背負ってもらいます。これも葦名のため、卑怯とはいうまいな。
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