―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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「え!! 同じ値段でステーキを!?」
 ――スーパーくいしん坊より鍋島香介


萩特別レース②

 味田トレーナーの発言に真っ先に反応したのはシービーだった。

 

「え!! 敗北前提のレースにカツラギを!?」

 

 勝てらぁっ!! ――っておい。

 

「……これ私煽られてるんですか?」

「純然たる事実だよ」

「なお悪いような気がするんですが……」

 

 味田トレーナーはいたって真顔で対応する。

 これで煽っていないというのはやはり無理なのでは?

 

「勝利は捨てて実を取る。今回はそういう方向性で進めたいと思ったからね」

「……」

 

 なんだ、これは? この人は何を考えているんだ?

 どうにも思考が読めない。

 

 味田トレーナーは管理型で理論派のトレーナーに位置づけられる。精神論は多用せず、徹底したデータと健康管理、機械トレーニングに基づいた育成を主軸とするトレーナーだ。

 当然勝つための作戦も考え、メイクデビュー戦においてはじっくりと時間をかけて私を育ててくれた。

 

 今のこの時期に早くレースに出なければならない。そんなことがあるのか?

 

「アッジ、大丈夫なの? カツラギって中途半端に頭いいから思考が堂々巡りになってるわよ」

「中途半端とかいうな」

 

 というか、味田トレーナーの事アッジっていうの初めて聞いたんだが……。

 

「……いい傾向だね。トレーニングの意味、明らかに力不足の状況であるのにわざわざレースに出る意味。それを自分なりに考え、咀嚼し、理解する。選手としては理想的だよ。カツラギは伸びるよ」

 

 私そんなに貴方の好感度稼いでましたっけ? 照れるじゃねぇか……。

 

「答えは言わない。最低限の目標は本番で僕の意図に気づくことで、最高で僕の意図を理解したうえで対策を取りレースに勝利することだ」

「……えらく挑戦的ですね」

「僕は、僕がすべて正しいとは思っていない。僕は未熟なトレーナーで、どうしようもない愚図だ。――選手を徹底的に管理して、僕が居なければ何もできないようにすることは失敗だと気づいただけだよ」

 

 そう呟いた味田トレーナーの手は、何かに耐えるように固く握られていた。

 なんといえばいいかわからない。突然闇を放出しないでほしい。

 

 そんなことを思っていると、パン! と掌を強く叩く音が耳を打つ。

 

「じゃあ、せっかくだから賭けでもやらないかしら!」

「……賭け?」

「次の萩特別レース、一着で勝利したらカツラギの勝ち。勝てなかったらトレーナーの勝ち。勝った方は負けた方に何か一つお願いを聞くってのはどうかしら」

「……なんでシービーが一番テンションが高いの?」

「決まってるわ、アタシは何も損せず、面白いことが見れるからよ」

 

 こいつ屑なのでは……?

 

「いいよ」

「えぇ……いいんですか?」

 

 なんだかんだ真面目なトレーナーがこの勝負に乗るとは思えなかった。

 それとも、勝てる勝負だから乗ったってことですかね? よほど勝つ自信があると?

 

「中毒に成るほどハマるのは良くないが多少のギャンブルはモチベーションに繋がる。僕はカツラギには強くなってほしいし、夢を叶えてほしいと思っている。シービーの気持ちは知らないが、少なくともカツラギのデメリットにはならないしメリットが大きいなら受けない理由はないよ」

「つまんね、アナタ心の底からトレーナーじゃない……男ならもっと欲望に正直になりなさいよ!!」

「シービーは私にどうなってほしいの?」

 

 シービーは机をドンッ! と叩きながら味田トレーナーの四角四面な発言につまらなそうに鼻を鳴らす。

 トレーナーの視線はさらに厳しいものになった。

 

「ミニスカメイドになって、トレーナーに『おかえりなさいませ、ご主人様』とか言ってくれたら満足かな」

「ぶちのめすぞ……」

 

 ぶちのめすぞこの女……。

 私は激怒した。必ずやかの邪知暴虐なシービーを止めなければならないと決意した。

 

「味トレが命令権を握っても面白くなさそうなので、カツラギが負けたら私がなんか命令するわね!」

「絶対負けられねぇ……」

 

 この女絶対碌なこと考えないぞ。

 

「カツラギが勝ったら私か味トレに何か一つお願いしてもいいわよ!」

「私にやろうとしていたことを、シービーがやるとかでもいいのね?」

「もちろん、スク水首輪リードでトレセン学園を一周しながら語尾にニャンってつけてもいいわよ!!」

「えっ、なにそれ……。そんなこと考えてたの? こわ……」

 

 こわっ……。

 

 

 

 

 

「おーい、モンスニー」

 

 軽薄な若い男の声が彼女の名を呼ぶ。

 ターフで柔軟を行っていた彼女は聞き覚えのある声に振り向き、男に視線を寄越す。

 

「次のレースが決まった。目を通してくれ」

 

 そういって男は彼女――メジロモンスニーに主バ表を手渡す。

 

「参加人数は12人。結構多いですわね」

「この時期となるとメイクデビューを制してレースにもなれてきた新人は多い、ここで上位に入ってくる連中はこの先のクラシック戦線のトライアルでぶつかる相手と考えてもいい」

 

 トライアル。それはクラシック三冠の大舞台、皐月賞、日本ダービー、菊花賞の前哨戦にあたる重賞レースである。

 皐月賞のトライアルとなれば基本的に弥生賞、若葉ステークス、スプリングステークスにおいて一定以上の成績を残さなければ皐月賞の参戦権を得ることは難しい。

 

「今回は要注目ウマ娘も参加する」

「ふむ、名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 チームアクエリアス所属サブトレーナー桐生院は口に飴をくわえながらその名を呟いた。

 

「――カツラギエースだ」




レースに挑む動機が重いウマ娘一位サンデーサイレンス
理由:どう考えてもサバイバーズギルト回避不回避
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