―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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ぼくたちは ひかれあう
水滴のように 惑星のように
ぼくたちは 反発しあう
磁石のように 肌の色のように
 ――BLEACHより四巻巻頭


メイクデビュー②

 チームと言われるものがある。有名な所では偉大ウマ娘シンザンを産み出したチーム北斗やポスト桐生院とまで言われ、名門トレーナー一族桐生院家に連なる人物が就任するチームアクエリアス。

 戦後においてウマ娘ブームを巻き起こした、ウマドルの元祖ハイセイコー先輩を見いだした流行請負人(アイドルマスター)が率いるチームペルセウス。

 トレセン学園最古のチームであり古豪と畏れられるチームプレアデスなど。

 強豪弱小様々なチームがトレセン学園にはある。

 

「でも、スカウトされなきゃ意味ないんだよねぇ」

 

 ポツリと独り言を呟きながら私はため息を溢した。

 

 トゥインクル・シリーズ参加のためには必ずチームに所属する必要がある。当然ながらチームにはキャパシティがあり、余程の大チームでもなければひとつのチームに対して所属ウマ娘は一人、ないし二人だ。

 少なくとも今の管理体制と日本のウマ娘育成ノウハウではこれが限界でウマ娘先進国である英国や米国に比べ、劣るのは確かだった。

 

 季節は初夏の六月。私は未だチームを見つけられていない。

 

 空気が湿り気を帯び、独特の臭いを醸し出すターフ。バ場は稍重。コンディションとしてはあまりよくはない。

 早ければ入学直後、有望なウマ娘は四月半ばに行われる選抜レースでチームの所属を決定し、順当にいけばこの六月の時期にメイクデビューを果たす。

 

 この時期まで選抜レースに出るウマ娘はハッキリと言ってしまえば売れ残りだ。

 例年であれば観戦にくるトレーナーは疎らで数少ないチャンスは更に希少となりピリピリとした雰囲気になるのが普通であった。

 

 しかし、今年は例年とは違った。

 

「例の彼女は?」

「まだ、来てないみたいだ」

「最後方からの強烈な追い上げ! 今までにない魅せるレースになるぞ」

「是非ともウチのチームに……」

「いいや、ウチのチームが獲得するぞ!」

 

 ターフの外。四月の選抜レースの時と変わらないぐらいにチームに所属するトレーナーやサブトレーナー達。

 それどころかトゥインクル・シリーズ参戦を狙う教官たちも皆一様に今か今かとレースの始まりを待ち望んでいる。

 

「で、当の彼女は何処ですの?」

「何処だろう? アップだとしたらやり過ぎだ。なにかトラブルでもあったのかな?」

 

 年若い男――チームアクエリアスのサブトレーナーが栗毛の少女と共に困惑を浮かべ、選抜レースを見守る。

 

「まったく、なんでこんなことを……、後で映像で確認すればいいでしょうに」

「まぁまぁ、生でしか見れない感覚もあるだろうし、なにせ君と同期のウマ娘たちだ。いつかは菊花賞や春天で戦うかもしれないだろ?」

「それはそうかもしれませんが……」

「モンスニー、焦りすぎることはない。メイクデビューで勝てなかったとは言え、まだまだチャンスはあるんだ。伯父さんもいるし、困ったときはプリンに相談でもしたらいい」

 

 そう言ってサブトレーナーは慰めるが、当のモンスニーは怪訝な目を浮かべつつ眉を顰める。

 

 理解はできるが納得はいかない。とでも言うような態度にサブトレーナーの桐生院は参ったように頭を掻く。

 こんなとき、伯父なら上手くやるんだろうなと考えながら意識を選抜レースに向ける。

 

 今年の新入生は粒揃いと言える。

 自身の隣にいる名門メジロ家のメジロモンスニーを筆頭に、短距離・マイルで優れた能力を持つニホンピロウイナー。凱旋門賞を優勝した名ウマ娘サンサンを母に持つ帰国子女ウィンザーノット。百万ドルの価値があるウマ娘と言われるシャダイソフィアに関西の新星スズカコバンなどこの時期にメイクデビューを控えるウマ娘は揃いも揃ってタレント揃いと言えよう。

 

 そしてそれらのウマ娘のなかでも一際目を見張るウマ娘が一人いた。

 

「おい、来たぞ!」

 

 観戦席が俄に騒がしくなり、記者たちがカメラを構え、トレーナー達にはご馳走を目の前にするかのような期待と貪欲さが混じった瞳で彼女を見つめていた。

 

「ミスターシービー……」

 

 四月半ばに行われた選抜レース。

 そこで彼女は他の追随を許さない圧倒的走りを見せた。

 天衣無縫の追い込み。常識はずれのその末脚はかつて黄金時代を築いた天馬を彷彿させるかのような走りだった。

 

 だが、桐生院にとってその走りは何処か不安や疑問を持たせるに足る走りではあった。

 ここにメジロモンスニーを連れてきたのは彼女にミスターシービーの走りを見せること以外に自身の違和感を払拭させるためというものだった。

 

「余裕そうですわね」

「そうだねぇ、よくも悪くも緊張感がない。図太いのは性格かな?」

 

 ミスターシービーは周囲の記者やトレーナーに目もくれずにターフに足を踏み入れる。そうして出バ機の近くにいる教官に話しかけるとジャージのまま、ペンと紙、そしてストップウォッチを持たされる。って……。

 

「マジ? シービー走らないの?」

「おいおい、もしかしてシービーに記録係をさせるのか!?」

「誰だよあの教官!!」

 

 ざわつく観戦席。そりゃそうだ。ここにいるほとんどがミスターシービーの走りを期待していたというのに当のシービーには走る様子は見られない。

 これじゃ詐欺だと言うもんだ。

 

「どういうことですの?」

「うーん、これってもしかして……」

 

 軽く不満を募らせながらメジロモンスニーは自身のトレーナーである桐生院に愚痴るが桐生院自身も混乱しつつ、同時にほとんど正解に近い結論を見いだしていた。

 

「……走らないんじゃなくて、走れない理由でもあるんじゃないかな?」

「走れない理由……ですか? もしかして怪我を?」

「それならシービーはここにはいないよ。病院で寝てるだろうさ」

 

 桐生院は顎と下唇に軽く手を当てながら考え込む。

 

「今日の選抜レースの管理は味田さんだったっけ。そうなるとフォームの変更でも義務付けられたのかな?」

「フォームの変更?」

「追い込みはハードな走法だ。終盤にかけて大きくスピードをあげて捲ってくる走りには当然、心肺と足に強い負担がかかる。あの安全管理を徹底させる味田さんがそこに気付かない訳がない」

「なるほど、シービーはフォームの変更のため出てないと」

「慣れない走りで怪我をさせるわけにもいかない。追い込みという危険な走法は味田さんなら嫌いそうでもあるからね。その点を踏まえてシービーは見学ということかな」

 

 断言は出来ないが、手元にある情報を踏まえれば恐らくそうだろうとは想像がつく。

 

「あくまで推測だけどね」

「いえ、説明感謝しますわ。流石は名門桐生院家の人間なことはありますわね」

「止めてくれ、名門っていっても分家も分家の人間だよ。伯父さんには敵わないさ」

 

 そう言って桐生院は謙遜する。

 

「……あの人も昔はすごい人だったんだけどなぁ」

 

 小さく息を吐きながら、選抜レースの采配をする味田を見つめ、桐生院は残念そうに呟いた。

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