―ACE—最高の好敵手   作:ニーガタの英霊

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「おれは!!!おれが想うまま、おれが望むまま!!!!邪悪であったぞ!!!!!!!!」
 ――幻想水滸伝Ⅱよりルカ・ブライト


メイクデビュー⑦

「――味田を復帰させろ」

 

 朝倉は憮然として言い放った。

 

「反対だ」

 

 その言葉に真っ先に反意を示し、中村は眉をひそめた。

 

「……不安、味田氏の復帰は様々な懸念がある」

 

 朝倉の提案に対しさすがの理事長も及び腰になる。

 

「じゃあどうするんだ? 現状手が空いていて優秀なトレーナー。しかもちゃんとカツラギエースの素質を見抜けることの出来るトレーナーが他に何処にいる?」

「しかし、当の本人がトレーナーとしてやる気が無ければ意味がないのでは?」

「やらせれば半端な指導はするまい。そうだろう、中村?」

 

 中村は舌打ちしながら朝倉の言を認める。

 

「コストということを考えれば、あの男を教官職程度で飼殺すのは損失というものじゃろう? 教官職程度であれば味田の代わりはいる……というより、教官職を他の新人トレーナーに回せ。あの役職は新人育成の基礎が詰まっている」

 

 大量のウマ娘の基礎トレーニングに、指導の経験。選抜レースや模擬レースの運営など一流のトレーナーとなるために経験しておくべき基礎が詰まっているといっても過言ではない教官職は定年を迎えた元ベテラントレーナーとウマ娘の指導実績のない新人トレーナーに回される。

 主任教官にベテラントレーナーが付き、雑用や指導を受けながら新人トレーナーが教官として直接ウマ娘を見るこの制度は経験豊富なベテランの元、養成所で教わったことを実践的に行う研修制度に近い物である。

 またコネクションの無い新人トレーナーが実際にウマ娘たちと交流を深め、後にメイクデビューするための繋がりを得る場所である。

 

「質問、桐生院氏は如何に?」

「……私ですか? まぁ別にどちらでもいいんじゃないんですか? 別に私が苦労するわけでもありませんし……ああ、でも強力なライバルが登場するということを考えるとやっぱり嫌ですね。そのまま壊れていてもらった方が、こっちの八大競走の勝率が増えますし」

「相変わらず、糞みてぇな考えだ。反吐がでらぁ……」

 

 シビアに自身の損得を述べる桐生院に中村は心底苦虫をかみつぶしたかのような表情を見せる。

 

「……今じゃねぇと駄目なのか? ジジイ」

「ではいつまで待つと? 明日か? 明後日か? それとも一年後か? 時間をかけたって味田は変わらねぇだろう。そもそもオメェらが無理やり学園に残らせたのはあの男を復帰させるためだろうに?」

 

 かつて、一人のトレーナーと一人のウマ娘が居た。

 優秀なトレーナーだった。困難にめげずに、試練に立ち向かい、そして栄光を手にし。そしてさらにその先を目指した比翼連理がいた。

 だが、そうはならなかった。とある事件によって一人のウマ娘は殺され、一人のトレーナーは完膚なきまでに壊された。

 

「オメェの弟子だからかわいがるのは分からんでもねぇ。だがな、オメェがやってるのはやさしさじゃねぇ、ただの甘ったれだ。だからオメェは何時まで経ってもバンカラなんだよ」

 

 才能が惜しかった。それだけじゃなく、本当にいい奴だったから、戻ってきてほしかった。

 ――なにより、あのままじゃ本当に死んでしまいそうだったから。助けたかった。

 理事長に頭を下げて学園に残らせたのは、そのためだった。

 

「死ぬぞ、あいつは。オメェがやったことはただの先延ばしだ。やることをやったら味田は今度こそ死ぬぞ。何の憂いなく、後悔と罪悪感を抱えたまま死ぬぞ。――アホらしいほどにな」

「……わかったよ」

 

 渋々といった表情で中村は頷いた。

 

「ンフフフフフッ、それで、説得には誰が行くので?」

「理事長が言えばいい。ある程度の理論武装はできるじゃろう?」

「肯定、その程度ならばやってやれない通りはありません。なにより、味田氏の復帰を望んでいるのは私も同じです」

 

 理事長は肯定の意を以って説得を承諾した。

 

「無論、私だけでは説得に重みが出ませんからね。朝倉氏や中村氏。どちらかが居てほしいところですが……」

「俺がやりましょう。味田は情の男だ。俺に頼むからやってくれと言われれば断りづらいでしょう」

 

 本心では納得がいかない。だがこのままでいいとも思えない。

 中村の中の仕事人としての感覚が自分が表立って復帰を願えればきっと復帰すると理解していたからこそ、この方法は最後の最後まで使いたくはなかった。

 

「悲嘆、カツラギエースに味田教官の介護を頼むことになりますね」

「メイクデビューの条件として飲んでもらいましょう」

 

 理事長室は憂鬱とした雰囲気のまま、味田の復帰を認めることとなった。

 

 説得のプランを練る中村と理事長を残し、桐生院と朝倉は早々に理事長室を出る。

 

「貴方の想定通りですかな、朝倉翁」

「……なんの話だ?」

「ンフフフフフッ、惚けないでください。この度の事、貴方が仕組んだのでは?」

「言いがかりも止してほしいものだな」

「ミスターシービーは彼にしか指導できない」

 

 朝倉は不愉快そうに、足早にチームサジタリウスのトレーナールームに戻ろうと踵を返すが、ミスターシービーの名を挙げた瞬間に、少しだけ挙動を止める。

 

「ンフフフフフッ、大当たりですね。貴方でも無理ですか?」

「チッ、可愛げのねぇ後輩ばかりだ。ワシぁ、悲しいわい」

 

 朝倉はギロリと桐生院を睨み付ける。

 

「私はね、彼には潰れたままでいてほしい。寧ろ死んでほしいぐらいですからね。彼の知識が完全にモノになった瞬間。この業界はガラリと変わりますよ?」

「――だろうな、そしてそれは貴様らのところのような名門だとか旧守的な奴らは好かんだろう」

「貴方も同じでは? 貴方の作った組織制トレーナー制度。あれは芸術だ」

 

 組織制トレーナー制度。

 ウマ娘レースにおける指導体制においてこの制度は革命的とまで言われた制度だ。

 当時チーム北斗のサブトレーナーだった朝倉はこれまでワンツーマン、或いはトレーナー、サブトレーナーの二人に対して一人のウマ娘を育成する状況に対して、統括トレーナーというリーダーを一人置き、その補佐に育成、管理、総務の三つの部門別のチーフトレーナーを設置する大掛かりな組織式のトレーナー制度を開拓した。

 朝倉本人は三つに分かれた部門の一つである育成チーフトレーナーとしてチーム北斗を管理、最盛期には10人のサブを含むトレーナーと何十と言えるウマ娘を抱えたチームに成長させた。

 母体が増えればその分だけ優秀なウマ娘を多く育成できる。偉大ウマ娘シンザンや菊花賞ウマ娘ナスノコトブキ、二冠ウマ娘タニノムーティエなどレース史に名を轟かせた名ウマ娘たちを輩出したのは朝倉の創り上げ、現在も主流となっているこの制度が大きい。

 

「壊されますよ、あの味田君に」

「……」

 

 朝倉のチームは朝倉を筆頭に、三人のチーフトレーナー。それぞれの部門に一人ずつのサブトレーナーを抱える大チームだ。

 チームに対する想いは確かにある。だが――

 

「それで壊れるんなら、壊した方がいい。ワシのやり方が、時代遅れになっちまったってことじゃろう」

「それで首をくくることになってもですか?」

「オメェがワシを図るな。同情でもしておるんか? そういうのをな見下しているというんじゃよ。子供もいない、親もいない。後世に悪名が残ろうが、そいつぁワシの責任よ。ワシの人生にとやかく口を出すな。そんなんだからオメェ友達が居ねぇんだよ」

 

 そういって朝倉は振り返ることなく、去っていった。

 

「ンフフフフフッ、やっぱり好きだなぁ。ああいうところ」

 

 そして当の桐生院は少し――かなり気持ち悪かった。




ウマ娘たちはスカッとさわやかにする分、トレーナーたちで性癖を満たそうと思います。
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