――たけしの挑戦状よりending
「むむむっ……」
味田トレーナーとの会話から一日が経ってから、私たちはとある難題に挑むこととなった。
その難題の名前は期末試験という。
「わからぁーーーん!! えいっ!!」
「シービー、分からないからといって数学のテキストを投げないでくれ」
投げられたテキストを片手でキャッチする。ほとんど読まれてない新品同然のテキストには折り目らしい折り目がなく、シービーがどれだけ勉学と言うものから逃げてきたのかを端的に表すものであった。
「ナイスキャッチ!」
「ナイスじゃねぇわ」
「えっ、ナイスネイチャ?」
「誰やねん」
数学によって脳が破壊されたシービーはそのまま机に突っ伏して倒れこむ。
「一問一答! クラシック三冠とは皐月賞、日本ダービー、あとひとつは?」
「エリザベス女王杯!」
「URA初代三冠ウマ娘となり菊花賞のトライアルである重賞競走の名称となったウマ娘は?」
「三冠だから、シンザン!」
「ニンジンに多く含まれている栄養素は?」
「プロテイン!!」
「結論、馬鹿!」
すくとなりで一問一答クイズを出していたスズカコバンはニホンピロウイナーの馬鹿さ加減に呆れ、問題集を放り投げる。
「むむっ、何故だ! プロテインのにんじん味はとても美味しくて体にいいのに!」
「そりゃ、プロテインのにんじん味はにんじんじゃないから」
本気で分からなそうな表情を浮かべるニホンピロウイナーことウイナに私は頭を抱えたくなった。
「カツラギさん、こりゃもうダメかも知らんね」
「でもチームに所属してないシービーは兎も角ウイナは今度の期末で赤点取ったら夏合宿は学園で補習でしょ? それはヤバくない?」
「ヤバい」
スズカは目を伏せた。
今年本格化を迎えメイクデビューで圧倒的成績を見せたウイナはトレセン学園高等部の新ウマ娘のなかではひとつ頭抜けた成績の持ち主だ。
所属チームはそれまでマイナー競技であったウマ娘レースをメジャー競技に押し上げたメディア対策の達人である
「頭は恵まれなかったらしいけどね」
半笑いでスズカは毒を吐いた。
先程の一問一答で、絶妙に惜しい間違えをしていたが最初はもっと酷かった。
「豊臣秀吉の性格を表した句『鳴かぬなら○○○て見せようホトトギス』」
「鳴かぬなら鍛えて見せようホトトギス!」
「努力が滲み出るな秀吉。てこの原理に用いられる三つの点をなんと言う?」
「力点、パワーポイント、マッスル!」
「頭筋肉かよ」
うん、頑張ったよスズカ。
「頭筋肉から普通にエリザベス女王杯が出たんでしょ? もう寧ろ正解でよくない?」
「アホみたいな間違いが惜しい間違いになっただけで間違いなのには変わらないよ」
ウイナの学力の低さに頭を抱える私たちだったが、そんな中シービーは何かを決意したかのようにおもむろに立ち上がる。
「こうなったら、教官を買収するしかない!!」
「はぁ!?」
勉強のし過ぎで頭がおかしくなっちゃったのかな?
「と、言うわけで山吹色のお菓子はい!!」
「はい、じゃないが?」
机に無地の紙箱をドンッ! と置くと声を張り上げる。
あの、ここ教室なんですが?
「えっ、お菓子? おいしいやつ?」
「ウイナ凄い素直じゃない?」
山吹色のお菓子って賄賂の隠語であって食べれるお菓子とは違うんですよ?
「へへっ、旦那ぁ。今回はいいのを仕入れてきましたよ……」
「なんだこの茶番……」
お菓子という言葉に素直に反応するウイナと何処からか取り出したサングラスをかけてニヒルに笑うシービー。
そして箱を開いたその中にはあらびっくり。
ホカホカでおいしそうな大判があった。
「わぁ、今川焼だぁ!」
「そうだね、大判焼きだね」
「えっ、御座候じゃない?」
「御座候は聞かない……」
いや、だって御座候……と言うスズカを放っておき、普通においしそうな大判焼きを取り出したシービーはサムズアップをしながら、私たちに向かって言い放つ。
「これよりオペレーション・甘太郎焼を開始するわ」
「甘太郎焼は一番知らない」
たぶんシービー以外は誰もわからないと思う。
そんなことがあって、シービーは「これからアタシのことはミスター
最近は泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロと同じでシービーはボケ続けなければ死んでしまう生き物なんじゃないかと思えてきた。
餡子入りの大判焼きとカスタードクリーム入りの大判焼きを一つずつ持たされた私はせっかくだから部屋に戻って一人で食べることにする。
甘いものは嫌いじゃないからだ。うん、味田教官からももっといろいろ食べろって言われたし、これぐらいなら食べてもいいだろう。
決して楽しみだからとか、そういうことじゃないんだ。うん、そうそう、そうに決まっている。
「えへへっ……」
この時の失敗を述べるのならば、どうせなら私はホカホカの大判焼きを食べたいと思ってしまったことだろう。
いつもより歩幅は大きく、少し速足だったかもしれない。
意識も正面より、チラチラと何度も紙箱の中の大判焼きに移っていたことも、まぁ原因だと思う。
「ふんふふんふふーん……あいったー!!」
壁に衝突したと思った。勢いよく硬い何かにぶつかり、大判焼きは宙を舞う。両手は紙箱をしっかり掴んでおり、受け身のとれぬまま、そのまま背中から地面に真っ逆さま。
あっ、ヤバい。と思い、目を閉じるがいつまでたっても衝撃が来ない。
「あれ?」
「大丈夫かい? 怪我はないか?」
目の前の人がイケメンだったらまるで少女漫画のような光景だっただろう。
悲しいかな、目の前にいるのはなんかやばい薬でもキメたかのようなガン開きの眼光を持つ味田教官だった。
「あっ……はい」
悲鳴をあげなかった私を誉めてほしい。至近距離で見る味田教官の顔は余りにも心臓に悪すぎた。
なんなん? なんで、そんなRPGで出てくるラスボスの側近みたいな顔してるんですか?
死者蘇生の魔術とか使いそうな顔してるんですか?
「すまない、どうやら前が見えてなかったみたいだ」
「あっ、いやいや。私もよそ見してたのが悪いって言うか……はっ、そういえば私の大判焼きちゃんは!?」
そして、見てしまった。廊下に転がる無残な姿となった二つの大判焼きちゃんを。
「あ、ああああ、あぁぁぁぁああああ、ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛!゛」
私は泣いた。