「Umar Eats」の配達員から、トレセン学園にスカウトされたウマ娘の話   作:ayks

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今回長くなりそうな上にキリが悪かったので再び前後編に分けました。

いつも感想や評価ありがとうございます
これからも更新頑張ります

後書きにお知らせがあります


試行錯誤 前編

「次は(ダート)で行こうか」

 

あの忌まわしいメイクデビュー戦から数日後。

学園内のトレーニングジムでバーベルスクワットを行っている自分の担当に、大原はそう提案した。

 

「……別に、ウチは、何でも、かまへんけど――っ!」

 

汗を流し、下半身に加わる負荷に抗いながら、途切れ途切れに答える小さな芦毛。

 

クロムのメッキ加工が施された、100キロ近い鋼鉄の塊。それを担ぎながらゆっくりと腰を降ろし、床と太腿が並行になる地点で止める。

再び時間をかけて身体を持ち上げ、深く息を吐く。

 

そうしてそれを繰り返すこと15回。既に"これ"を4セット終えているタマモクロスにとって、今日の筋力トレーニングが終わりであることを暗に示していた。

 

スクワットだけに限らず、ウマ娘が筋力トレーニングを行う上で肝となるのは、この"ゆっくり"という部分に尽きる。

速いものに比べて、回数も少なくて済むので結果的に短時間で終わる。反動を使わないため、効果的に狙った部位に負荷をかけられる。怪我をしにくくなる等、スロートレーニングのメリットは非常に大きい。

特に最後が一番重要だ。ただでさえレース中に怪我で身体を痛めることが多い中、ターフに立つこともなく選手生命が絶たれることなど絶対に避けねばならない。

 

自分(トレーナー)の目の届く範囲以外で、トレーニングは決して行わないこと。

編入学の際に二人で決めたルールのひとつ。

大原以上に成果を急ぐタマモクロスであったが、不満げにしつつもそれには粛々と従っていた。

 

ただでさえ、デビュー直後とは思えないほどの過酷な出走ローテーションを組んでいるのだ。

限られたスケジュールの中とはいえ、安全マージンくらい取ってもバチは当たらないだろう。

 

「『行こう』言うとるけど、それもう決定事項なんやろ?」

 

「……そうだな。言葉のアヤだ」

 

「まぁウチはアンタの指示に従うだけやさかい、何も文句はあらへんけどな――っと」

 

大の大人が地面から少し浮かせるのにも骨を折りそうな重量のバーベルを、こともなさげにスタンドに戻す。やや乱暴に置いた所為か、金属同士が擦れる大きな甲高い音がジムの中に響いた。

何事かと、周りのウマ娘がこちらを向く。「道具はもっと慎重に扱え」というトレーナーの小言を無視し、首にかけていたタオルで顔や手足の汗を拭う。そのまま手渡されたシェイカーボトルに口をつけた。

 

運動直後からの30分間――筋繊維が傷付き、身体がエネルギーを欲している飢餓状態――医学的な呼称では「アナボリック・ウィンドウ」

一般的に言えば「ゴールデンタイム」と言われる時間。タンパク質を摂取するのに最も適しているとされているタイミングである。

 

「……味はともかく、もーちょいキンキンやと嬉しいんやけどな」

 

「あんまり冷たい飲み物は、トレーニング後に飲むものとしては適してない。身体を内側から急激に冷やすことになる」

 

ぐうの音も出ない正論が返ってきて、へいへいそーですかと適当に返事をしておくことにする。

彼女がやや眉間に皺を寄せながら飲んでいるそれは、牛乳に溶かしたプロテイン。

URAのスポンサーにもなっている製薬会社が作っており、ヒトではなくウマ娘用に調合されている特別製だ。

 

健啖家が多いウマ娘は、少しでも食事量を見誤ったりするとすぐに栄養素の過剰摂取を起こし、「太り気味」になってしまう。

そのため飲むプロテインも、カゼインや大豆といった腹持ちが良いタンパク質であることがほとんどだ。

 

大原は相変わらず小食なタマモクロスのために、吸収速度に優れた乳清(ホエイ)を主成分としたプロテインを選んだ。

これなら食事量にあまり影響せず、効率的にタンパク質等の栄養素を摂ることができると考えている。

 

ちなみにこのプロテイン、普段は売店で取扱っていない上に値段も些か張るのだが、たづなさん(えらいひと)にお願いしたらすぐに用意してくれた。

領収書を切れば経費でちゃんと落とせる。なんとも名状しがたい気分だが、こういう時ばかりは『特編』が持つ力に素直に感謝した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……ほんで? 次のレースってのは?」

 

空になったシェイカーボトルを彼に返し、手の甲で口元を拭った。

それにしてもプロテインというのは、どうしてこう喉が渇くのだろうか。そんなことを思っていたら、今度はペットボトルのミネラルウォーターが差し出された。

 

自分の気持ちを察し、いち早く動いてくれたことへの嬉しさ半分、なんでわかるんやという釈然としない気持ち半分。

憮然とした表情でそれを受け取る。

 

「とりあえず、部室に戻った後で話そう。汗はちゃんと拭いたか?」

 

「あぁ……ってかウチかてガキちゃうんやから、そないに子供扱いせんといてや」

 

「む、それは済まない。思慮に欠けていたな……思えば最初に公園でお前の身の上を聞いていた時も、俺の軽率な発言のせいで気分を――」

 

「あーもう、そういうのをやめーやって言いよんねんて!

ちょっと言うてみただけで、本気で何もすなとは言うてへん!」

 

何やら怒らせてしまったようだ。どうにも、年頃の少女というのは扱いが難しい。

流石に親子とまではいかないが、一回りほど年が離れている相手。性別も環境も違うのだから、当然考え方も違っている。

 

ぷいとそっぽを向いてしまった相棒を追いかけるように、部室へと歩を進める。

小さな白い頭で揺れる赤と青のストライプ。自分が贈ったそれを視界の端でとらえながら、もっと言動には気を付けていかねばと決意を新たにした。

 

最も危惧するべきは、彼女の「やる気」が下がること――

怪我と合わせて絶対に避けなければいけないトラブルだ。

 

 

鍵を開け、プロキオンの部室へと戻ってきた。

大原はデスクに、タマモクロスは向かいの場所にパイプ椅子を広げて座る。もはや定位置と言ってもいいだろう。

ちなみに埃っぽかった部屋の中は、タマモクロスが終日オフだったメイクデビュー戦の翌日に、半日を費やした大掃除でピカピカになっている。

 

「……ほんで、次のレースは?」

 

さっきと全く同じ質問。どうやら怒りは収まってくれたらしい。

重い口調とは裏腹に、耳と尻尾はそわそわしている。

 

初戦の惨敗から来る、レースに対する恐怖。

ウマ娘の欲求から来る、レースに対する渇望。

 

理性と本能、それらがせめぎ合っているのが大原もわかった。

 

だが、時間は待ってくれない。

だから、真冬の日照時間のような刹那の時で、結果を示すしかない。

 

 

「今月末、阪神レース場。

ダート1800m」

 

「……なんや。もうすぐやないかい」

 

トレーナーから告げられた日は、本番までもう二週間を切っていた。

想像以上に目と鼻の先であったことに驚きの声を上げつつ、先日の敗北を思い出して徐々に顔が苦くなる。

 

だがそんな担当の気持ちを知ってか知らずか、淡々と続けた。

 

「そうだ、もうすぐだ。

 

だが最初に言ったはずだ。かなり無茶なスケジュールになると。

1着取るんだろ?"お母さん"に、自分がセンターのウイニングライブ見せるんだろ?

 

約束、忘れてないよな?」

 

「――っ!当たり前やろ!一々言わんでもわかっとるわアホ!

 

それでかまへん!」

 

挑発的な物言いに、彼女の眦が吊り上がる。

ここまで食ってかかれる度胸が戻ったのなら、本番も大丈夫だろう。

 

 

()()()()()を使った事に、彼は人知れず胸を痛めた。

 

 

「……いつ()るかはあんま重要やない。せやろ?」

 

「そうだ。なぜ次は砂なのか、その"理由"を説明する」

 

持っていたタブレットを横向きにし、トレセン学園のサーバーにアクセス。

その中から、ひとつの動画フォルダを選択し、再生ボタンをタップした。

 

「……また観なあかんの?」

 

「あまり観たくないかもしれないが我慢してくれ」

 

 

今流しているのは、つい先日行われた彼女のデビュー戦だった。

スタートから爆走し、直線で力尽きる自分の姿に思わず顔が歪む。

 

初出走から2日後――完全オフを挟んだトレーニングで、二人は「反省会」と称したビデオの鑑賞会を行っていた。

逐一停止しては解説を入れ、時には巻き戻り、何度も何度も繰り返し視聴しながら、ダメだったところと良かったところを話し合った。

 

「過ぎたレースを今更どうこう考えても仕方がない。課題は明確になったから、次はそれを潰せばいい。

 

今回は、タマの良かった部分について改めて考察する」

 

椅子から立ち上がると、ホワイトボードの前へと動いた。

部室では、基本的に椅子とボードの前を往復するのが彼の基本ムーブである。

 

前回の敗因は明らかだ。初めてのレースによるプレッシャーと、他の出走者の挑発に乗ってしまったことで完全に掛かってしまい、後半の脚を全く残さずに暴走してしまったこと。

実戦経験の圧倒的不足、緊張から来る視野狭窄、ガス欠によって完全に乱れたフォーム。

一応、全てにきちんとした解答があるだけまだマシだ。

 

「本来、あんな無茶な走りをしていたら、上り3ハロンを待たずして半分の1000m地点で潰れていてもおかしくなかった。

それを最終直線――残り300m地点まで、ハナをキープし続けていたのは本当にすごかったぞ。

見立て通りスタミナもあるし、何より好位を維持し続けようとする根性も流石だった」

 

「……負けたら何の意味もあらへんけどな」

 

「まぁそう言うな。あの『皇帝』シンボリルドルフだって、シリーズ内で3回は土がついてるんだ。

レースに絶対はない。良い意味でも、悪い意味でもな」

 

自嘲気味にぼやくタマモクロスを嗜めるように言葉を紡ぐ。

 

「だから芝よりもパワーが大事で、叩き合いに持ち込みやすいダートも試してみたらいいんじゃないかと思ってな」

 

話は単純だ。バ場適性や脚質適性等、分からないことが多いから色々試しながらやってみよう というだけ。

本来はトレーニングで見極めていくものだが、時間が無いから実践でやっていく というだけ。

 

 

そこそこの速度で長い距離を走れるのは彼女の明確な強みだが、()()()()においては他と比べて明らかに後塵を拝している。

スピード勝負に持ち込まれた場合、分が悪いのはこちら側だ。

 

「少しでも有利な土俵で戦うって魂胆やな」

 

「そういうことだ」

 

リベンジを誓うチーム・プロキオンは、お互いの顔を見合わせてニヤリと笑う。

 

「知っての通りあまり時間はないが、レース当日までは走り込みはそこそこにして、水泳や筋力トレーニングを中心に行っていく。

 

今まで以上にしごいていくからそのつもりでな」

 

「ばっち来いやでトレーナー!負けっぱなしは性に合わんさかい、ここらでいっちょ気合入れ直さんとな!」

 

右手で作った握り拳を左の掌にパチンと打ち、気合十分と言った様子。完全に吹っ切れたというわけではなさそうだが、闘志の火が再び点いたようだ。

 

 

「では早速始めよう。今からのトレーニングはパワーをつけるために――」

 

「またジムでやるんか!?」

 

 

「――『ウマ娘の骨格と筋繊維のバランスが齎す運動エネルギー伝達効率について』

 

まずこの論文について解説する」

 

 

「だから勉強は嫌やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

本物のレースを経験しても、相変わらず机に向かうのは苦手なタマモクロスであった。




少し宣伝になりますが、
先日私が参加した「ウマ娘プリティーダービー~企画短編集~」ですが、

このような形式のウマ娘の短編アンソロジー企画を、私主催で現在検討しています。

6月に参加募集
7月中が執筆期間
8月から公開

というようなスケジュールで考えています。

・書いてみたいネタはあるけど、連載にするにはちょっと違う
・創作に興味あるけど、なかなか踏み出せずにいる
・自分の作品について、批評感想が欲しい

このような方がいらっしゃいましたらぜひ参加をご検討いただけると嬉しいです。
詳しいレギュレーションに関しては現在設定中のため、出来次第私のTwitterで告知いたします

ID:@ayaka_nizi

※ウマ娘公式から出ている二次創作に関するガイドラインが今後改訂され、本企画に抵触する内容があった場合は白紙となりますのでご了承ください

※追記:参加受付は締め切りました。8/1から順次投下予定のため、是非ご期待ください
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