「Umar Eats」の配達員から、トレセン学園にスカウトされたウマ娘の話   作:ayks

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とてもたくさんのお気に入り登録、本当にありがとうございます。
評価もたくさんいただき、2話目にして赤帯がつきました。

とても励みになります。
連休に入り、時間も確保できると思うので頑張って書きます。
よろしくお願いします。

※タイトルとあらすじ、タグを少し変更いたしました


「走ること」とは――

ウマ娘にとって、「走ること」とは何だろうか?

その答えを表すには、非常に簡潔な言葉で十分だ。

 

――至福。

 

 

それは性格や個性といった「個々の違い」を超えた"種"としての在り方。

本能――それ即ち魂の(かたち)

 

卵から孵った雛が、最初に見たものを親だと思うように

海で大きくなった鮭が、生まれた川に戻るように

 

遺伝子にそう刻み込まれているのだ。

理由は説明できない。「そうである」としか言いようがない。

とある学者の研究によって「()()()()()()()()()()に自分達と同じ名前を持つ存在が居て、次元を超えて繋がっていることが影響している」なんて仮説も提唱されている。

ウチは勿論、信じてないが。

 

「走る」という機能に特化し、誰よりも速さを求め、自らをより高みへと昇華させる。

ウチら――ウマ娘とはそういう生き物だ。

 

中には「走ることが得意ではない」と考えているウマ娘や、身体的な理由で「走ることができない」ウマ娘も存在する。

 

しかしその中に、「走ることが嫌いだ」と思っているウマ娘は一人として居ないと断言できる。

本人の運動能力や身体的特徴と、種族としての嗜好は全く別の話なのだ。

 

つまり――ウマ娘(ウチら)は皆総じて「走ること」が大好きだ。

 

思い切りターフを駆け抜けたい。

誰よりも早く、ゴールに辿り着きたい。

レースに出て、自分の強さを証明したい。

 

 

しかし――神様は残酷だ。

世界は、ウチら全員に等しく「素質」は与えても、「機会」は与えてくれなかった。

 

未来の「トゥインクルシリーズ」の走者を育成する「トレセン学園」には、全国から選りすぐられた優秀なウマ娘しか入ることができない。

レースを行うのに最も適した年齢――ジュニア期からシニア期の総人口数に対し、"中央"で出走できる割合はほんの一握りだけ。

 

レースに出られる出られないの話ではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()ウマ娘も大勢居る。

 

こうして身体の半分近くもある大きなバックパックを背負い、日夜食べ物を配達しているウチもまた、"機会"をもらえなかったウマ娘のひとりだ。

 

 

ウチが物心ついた時から、我が家は貧しかった。

流石にその日の食い扶持にまで窮することはなかったが、常にギリギリの切り詰めた生活を送っていた。

 

身体の弱い母。たくさんの弟妹(きょうだい)

みんなを助け、養っていくためには、自分の進学は諦めなければならなかった。

 

府中(ちゅうおう)は当然として、地方(ローカル)の「トレセン学園」に入学するのにも、決して安くない費用がかかる。

病弱で業種を選ばなければならなかった母や、まだまだ甘えたがりのチビ達の面倒を見ながら家計を支え、さらに学業やトレーニングまで両立させることは到底無理な話だった。

 

(おかあちゃん)は「子供がそんなことを心配しなくても良い」と、どうにかしてでもウチをどこかの学園に通わせてくれようとした。

仕事を増やし、"丈夫"とはほど遠い身体に鞭を入れ、夜遅くまで身を粉にして働いてくれた。

 

弟妹(チビ)たちも「タマねぇの負担になりたくない!」と、家事や手伝いを積極的にしてくれるようになった。わがままを言って泣くこともぐっと少なくなった。

ウチも、地元の人達の仕事を手伝ってわずかばかりのバイト代を稼ぎながら、空いている時間で必死に勉強とトレーニングに打ち込んだ。

 

 

そうして家族団結し、ようやく地方のトレセン学園に入学できるだけの支度金が貯まった矢先――

 

 

母が入院した。

 

 

過労による衰弱、元々抱えていた持病の悪化。

許容量(キャパシティ)を遥かに超えた労働は、鉋の刃で削るように少しずつ、母の健康を蝕んでいた。

一時は集中治療室(ICU)に入るほど衰弱しており、隠れて相当無理をしていたようだと、後から医者に言われて知った。

 

「ごめんな……ホンマにごめんな、タマ……」

 

ベッドの上で泣き崩れる母の手を握りながら、ウチはただ茫然としていた。

真っ白な病床から漂う消毒液の匂いが、母の腕に繋がれた点滴液が落ちる音が、ただ無性に(むな)しかった。

 

こんな状況で入学なんてできるはずもなく――

貯めた金額のほとんどを入院費に充て、残されたわずかばかりのお金を元手に、ウチは本格的に働き口を探さなければならなくなった。

 

ウマ娘としての素養が遺憾なく発揮できる場所で、ワリの良い仕事を探した。

そこで見つけたのが、都内で流行っているフードデリバリーサービス――「Umar Eats」の配達員の求人だった。

 

文字通り、()()()()()()()()()

「やればやるだけ収入が増える」という誘い文句に惹かれ、応募した。

 

 

母やチビ達の反対を押し切って単身で上京して、もうすぐ半年ほどが経つ。

 

 

端末に表示される注文情報を頼りに、店舗に行き商品を受け取り、地図を元に自宅や施設へと送り届ける――概要を説明するだけなら簡単な仕事だ。

"総件数を配達員の頭数で分担する"のではなく、()()()()()()()()()

一緒に働いている配達員は、同僚というよりライバルと呼んだ方がしっくり来る。

 

誰よりも走り、誰よりも多くの件数をこなし、誰よりも沢山稼ぐ。

我ながら頑張っているおかげで、それなりに良い収入をもらえていると自負できる。

先月は「エリア別月間最優秀配達員」だっけか?長い名前の賞を取ったらしく、偉い人に表彰された。

 

もらった給料は、自分が最低限使う分以外は全て母とチビ達に送っている。

母とチビ達の喜ぶ顔が、今のウチのモチベーションだ。

 

当然、辛いことも沢山ある。

理不尽なことで怒られることや、危うく人や車にぶつかりそうになることもある。

 

でも中には優しい人もいて、ウチのような年齢のウマ娘が働いていることで何かを察して色々と便宜を図ってくれたり、労いの言葉をかけてくれる人もいる。

 

先日事故で大遅延を起こして代わりに謝りに行ったところの(あん)ちゃんは、こんなに食べられないからと頼んだものを少し分けてくれた。

 

 

走ることは楽しい。

人や車の間を縫って思い切り駆けている時は、自分の境遇や辛いことを忘れられる。

 

 

元からトレセン学園に入学を志望していたこともあり、自分の脚には自信があった。

井の中のなんとやら――と言われてしまったらそれまでだが、地元にいるウマ娘達に負けたことは一度たりともなかったからだ。

 

 

『タマはホンマに速いなぁ!間違いなく将来はトゥインクルシリーズを走るスターウマ娘になるで!』

 

『あたりまえや!じーわんレースに出て、いっちゃくになって、しょうきんたくさんもらうんや!

そんでそのお金で、おかあちゃんにらくさしたるさかい、たのしみにしといてや!』

 

小さい頃、無邪気にそんな話を母としていた景色がフラッシュバックする。

思えば、"レースに出たい"と思うようになったきっかけも、"母が喜んでくれるから"という至極単純なものだった。

 

全てのウマ娘がターフを走れるわけではない。

頭ではわかっていた。

 

それでも――

ウチがバックパックを背負って走っている時に、時折すれ違う()()姿()()()()()――

彼女達が視界に飛び込んでくる度に、胸が小さく締め付けられる。

 

あの娘達は持っていて

自分は失った

 

 

そう――これは仕方のないこと。

自分に言い聞かせて、ウチ(わたし)は今日も府中を走る。

 

 

涙を流す(こころ)に、気付かないフリをして――

 

 

 

■ □ ■ □

 

 

 

夜のピークタイムを終えて事務所に戻り、バックパックを置いてロッカーを閉める。

今日の成果はまずまずと言ったところか。

 

明日に備えて早めに帰ろう。

でもその前にスーパーに寄って、おつとめ品も覗いておきたい。

もうすぐチビたちのひとりが誕生日なのだ。何か贈るためにも、食費もできる限り切り詰めておきたい。

 

「おつかれさま!いやー今日もありがとうね!

このまま行けば、今月もタマちゃんがエリアトップ間違いなしだよ!」

 

家計のやりくりについてあれこれ考えていると、デスクでパソコンとにらめっこしていた事務方のおっちゃんが上機嫌で話しかけてきた。

 

「流石配達部隊のエース!これからもよろしく頼むよ!」

 

おう!任せたってや!とそれっぽく返事をして、事務所を後にしようとすると――

 

 

「チッ、またあの小娘か。ちょっと速いからって調子乗って」

 

「人の縄張りまで平気で入り込んで、何様のつもり?」

 

「ちょっとは遠慮する気遣いもないのかしら。これだから田舎者の灰色ウサギは――」

 

部屋の隅で、別の配達員達がウチへの恨みつらみをこそこそと話している。

 

人間のおっちゃんには聞こえないくらいの音量だが、ウマ娘のウチには問題なく聞き取れる。

それもわかってて、わざと聞こえるように言っているんだから余計にタチが悪い。

 

気に入らないのだ。年下のウマ娘が自分よりも稼いでいることが。

最初は少し傷ついたりもしたが、もう慣れたものだ。

 

――頑張ったモンがぎょうさん稼いで何が悪い!自分らもウチよか速く走ればええだけやろ!

 

相手に詰め寄ってそう怒鳴りつけてやりたくなる気持ちをグッと抑えて、乱暴に事務所の扉を閉めた。

 

 

「はぁ――」

 

ドアにもたれかかりながら、小さくため息が漏れた。

思い出すのは、制服姿で蜂蜜ドリンクを片手に笑いながら道を歩くウマ娘達の姿。

 

こうして必死に働いているのにイヤミを言われている裏で、同年代の娘達は遊び、学び、走り、

トレーナーや友人と一緒に学生生活を謳歌しているのだろう。

 

嫉妬や羨望、様々な感情がグチャグチャになって、思わず目尻に涙が浮かぶ。

 

「……帰ろう」

 

深く考えるのはやめよう。これ以上くよくよしていたら腐ってしまいそうだ。

服の袖でそれを乱暴に拭い、家の方角へと足を向ける。

 

 

「――あの!」

 

 

突然、後ろから声をかけられた。

振り返ると、そこにはひとりの男性が立っている。

 

「あ、こないだの……」

 

パリっとしたスーツを身に着け、髪も髭も綺麗に整えられているが、

先日配達に行き、お昼を分けてくれたあのあんちゃんだった。

 

「突然声をかけてすまない。

さっき帰り道の駅の近くでたまたま姿を見かけて、キミの仕事っぷりをずっと観察させてもらっていた。

 

――あ、ストーカーとかじゃない!そんなに構えないでくれ!そのスマホはしまってくれ!」

 

「何の用や……ですか?」

 

話が見えない。ずっと()けて来たのか?何のために?

110番を押しかけたスマホをポケットにしまい、相手の言い分を待つ。

 

慌てた様子で目の前の男はジャケットの裏ポケットから名刺入れを取り出し、中身を差し出した。

 

『日本ウマ娘トレーニングセンター学園 学園所属トレーナー 教官 大原 久』

 

 

「単刀直入に言おう――

 

キミを、スカウトしに来たんだ」

 

 

通り過ぎた車のハイビームが男の姿を照らし、襟元がキラリと光る。

 

そこには、"URA"のロゴを象ったピンバッジが留められていた。




ウマ娘って結構な人数いると思うのですが、
学園に入れる人数は限られているわけじゃないですか?

トレセン学園に入れないウマ娘達や、小学校までの過ごし方など、まだまだ分からないことが沢山あります。

公式さん、設定の供給待ってます……
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