「Umar Eats」の配達員から、トレセン学園にスカウトされたウマ娘の話 作:ayks
タマモクロスはトレーナーに連れられるがまま、トレセン学園内部を歩いていく。
「あそこが校舎で、奥に見えるのがトレーニング施設。練習場はここをまっすぐ行った先にある。
まぁ、このあたりは明日たづなさんが詳しく案内してくれるから」
「たづなはん?」
「理事長秘書だよ。とても優しくていい人だから心配しなくてもいい。
それでここが――」
建物を指差しつつ簡単に説明するトレーナーの話を聞きながら、目を見開いて首の可動域の限界に挑戦するように辺りを見回すタマモクロス。
微笑ましく思いつつも、話半分といった様子に苦笑いがこみ上げる。
「……東京に来た時もそんな感じだったんだろうな」
「だっ、誰がおのぼりさんやて!?」
「言ってない言ってない」
ずっと遠くから眺めているだけだったトレセン学園が、明日から自分の通う場所。
せわしなく動く耳と尻尾から、興奮を隠しきれていないことが見て取れる。
「あ、寮は正門を出てすぐの場所にある。これが、明日必要な最低限の持ち物リストだ」
「おう、準備ええな。えーっとなになに……
歯ブラシにタオル、替えの下着に寝巻、ジャージ、充電器、その他……
――修学旅行のしおりか!?」
「今の家を引き払う準備も加味して、最低限の荷物を持ち込んでくれればいい。
必要なら業者も手配できるが、どうだ?」
「そこまでせんでもええ!
もともと身ひとつで来たようなもんや。2、3往復もすれば全部終わるやろ」
聞けば、持ち出せなさそうな家電や家財などはメル○リで全部売り払ってしまったとのこと。
その辺りは強かというか、知恵が回るというか。
引っ越しの問題に関しては、思うよりも早く片付きそうだ。
あとしなければならないことは何だろうか。考えながら敷地の奥へと向かう。
「あっ、教官!お疲れ様でーす!」
「おうお疲れ様。脚はもう大丈夫なのか?」
「おーい教官!ちょっと聞いてよ~」
「なんだどうした?こないだの友達の彼氏がどうとか言ってたアレか?」
「あの……教官、ちょっとお話が……」
「あ、新しいトレーナーのことだろ?後で聞くからちょっと待っててくれるか?」
隣を歩いている間、トレーナーは沢山のウマ娘から声を掛けられていた。
みんなが彼を呼ぶのは、タマモクロスには聞きなれない単語。
「……教官?」
駆けていくウマ娘に手を振って見送るトレーナーに、それは何だと疑問をぶつけてみる。
「あぁ、俺今まで担当してるウマ娘が居なくてな。
沢山の娘達を同時に指導してたんだよ。」
「なるほどな。せやから"教官"っちゅーわけか」
「でもお前が来てくれたおかげで、俺も晴れて本当の意味で"トレーナー"だ。
ひとりだけを見るのは初めてだから力が入るな」
「ウチが初めてなんか!?それは責任重大やな。
せいぜい頑張らせてもらうわ」
「……あぁ、
「?」
「いや、何でもない。
――さて、着いたぞ」
タマモクロスの眼前に広がったのは、ターフを模した広いグラウンド。
あるものは、並走でタイムを計り。
あるものは、ラダーで足を鍛え。
あるものは、隅で身体を解し。
あるものは、カメラを覗いてフォームを確認し。
あるものは、時計を片手に檄を飛ばす。
西日が芝生を赤橙色に燃やし、影は思い思いの形を成して長く伸びる。
土と草、それと汗。
彼女が想像していた、青春の匂いがした。
ここから始まるのだ。
彼女と母、そして彼の夢。
「……どうだ?」
「アカン、さぶいぼ立ってきた。
今すぐにでも混ぜてもろてええか?」
「待て待て。俺も色々と考えてることがある。
明日までお預けだ」
「なんや、いけずやなぁ」
彼は少しだけ笑い、グラウンドに目を落とす。
それに倣うように、彼女もまた隣で同じくトレーニングをしばらくの間眺めていた。
「……なぁ、トレーナー」
「何だ?」
「ウチをココに呼んでくれて、ホンマありがとう」
タマモクロスからの唐突な言葉に、思わず彼女の顔を見る。
「でもな、気になることがあんねん」
男の瞳をじっと見つめて、小さな声で続ける。
「学費も払わんと、奨学金まで出る。
そないな良い条件で入れてもろた手前、言うたらアカンのはわかっとるけど――
なんか、
「――」
開きそうになる瞳を、強靭な意志の力で捻じ伏せる。
少し首を傾げ、それで?と続きを促す。
「ほら、トレセンに入るのって、地方でもそこそこ大変やんか?
公式戦に出走したこともないウチが"中央"にタダで入れるっちゅーんは、アンタがなんか無茶したんちゃうかなとおもてな」
「そんなことないぞ。
タマモクロスが学園に入ったら"トゥインクルシリーズ"にどんな良い影響があるのか、俺のプレゼンが刺さったんだろうさ。
実際、転入や編入はそんなに珍しくもないしな」
嘘だ。
彼女は何かを悟った。
根拠はない。ただ何となく、本当にただの直感。
嘘――いや、何かを隠している。
それは恐らくウチには必要のないもので、そこだけをすっぽりと抜いてそれ以外の事実を伝えている。
彼が言わなくてもいいことと判断したのであれば、それは
なら、彼から話してくれるまで待つべきだろう。
そうなった時は
「そっか……ほな口だけにならんようにせんとな!
ウチ、死ぬほど気張ってトレーニングするさかい、宜しく頼むで」
「望むところだ。そっちが泣いても絶対に辞めないからな」
「上等や!絶対先に音ぇ上げさせたる!
――あとずっと気になっとったけど、キミだのお前だの他人行儀過ぎるで。
タマでええよ」
「わかった――
「おう!」
二人の間を、一陣の風が通り抜ける。
それは一足早い初夏の風のように、微かに熱気を孕んでいた。
「あ、そうだ俺達の
「ウチらの、なまえ?」
理事長室から退出する間際に、秋川やよいから頼まれた"お願い"。
それは――
「俺達の"チーム名"なんだが――」
曰く、出走登録の際は必ずチーム名を記載しなければならないらしい。
トレーナーと担当ウマ娘の
「なんつーか、ややこしいなぁ」
「まぁ、そういう決まりだからな。これは仕方ない」
「んで、もう決まっとるんか?」
「あぁ、一応な」
変にもったいぶらず、彼はその答えを口にした。
――『プロキオン』。
シリウス、ベテルギウスと"冬の大三角"を形成する星。
南東に輝く、
彼女の産毛が再度粟立つ。
「タマの芦毛に、ぴったりだと思ってね」
「なかなかええセンスしとるやん!
『チーム・プロキオン』か――
やったる、ウチはやったるでぇ!」
胸の奥から漲るやる気を言葉に載せ、吼えるタマモクロス。
暮れの府中、鳴り物入りで新たなチームが誕生した瞬間だった。
「……ちなみに、他に意味あったりするんか?」
「『犬に先立つ』」
「なるほどなーって犬!?だっさ!自分色だけで決めたやろ!?
しかも"先立つ"の方なんや!犬じゃないんや!
名前"タマ"なのにワンワンってか!?やかましいねん!」
「言ってない言ってない」
ちなみに天井ですが、
サービス開始のリセマラ以外ガチャ回してなかったので課金はせずに回しました。
石が3万を切ってしまったので、また貯め直しです。