「Umar Eats」の配達員から、トレセン学園にスカウトされたウマ娘の話   作:ayks

9 / 19
遅くなって申し訳ありません。

感想も、追って返してきます。
お気に入り5000件本当にありがとうございます。

あと、ささやかですが後書きにお知らせがあります。


第2部 メイクデビュー編
始動


"チーム・プロキオン"発足から翌日の朝――

 

トレセン学園に所属している全てのトレーナーに、1通のメールが送られていた。

 

差出人は管理局――つまり、駿川たづな(理事長室)から。

季節の挨拶から始まり、最近のトゥインクルシリーズを取り巻く環境に対するURAの見解や展望。トレセンの今月の行事予定、その他注意事項もろもろ。

 

定期的に配信される、何の変哲もない報告書だった。

最後の一文を除いて。

 

まるでわざと目立たないよう、取って付けたように書き添えられた"人事異動"に関する報告。

そこには、教官1名が本日より、ウマ娘の専属トレーナーとして勤務することを示していた。

 

トレセン広しと言えど、そこは学園という閉鎖的空間。

このメールが送られてくる前から、トレーナーの間でひそかに流れていたある噂。

 

もしかしたら――

 

自分の担当の朝練もそこそこに、『本人』に確かめるべくスマホでメッセージを入れた。

 

 

10分後――返事に書かれていた場所に赴くと、そこはトレーナーやウマ娘が誰でも利用できる談話室。

中を覗くと、始業前ということもあり生徒の姿はない。あるのはトレーナーの影がふたつ。

 

()()()()がタブレットを片手に他のトレーナーと話し合っていた。

 

「――以上が、私が見ていた娘達の簡単な紹介になります。

詳しいパーソナルデータについては、サーバーの共有フォルダにまとめてアップしてますので後で確認しておいてください」

 

「あ、それに関しては既に確認しています。大原さんは本当に細かい所まで観察してますね。

あそこまで詳細なデータ、もう何十人かのチームのトレーナーって言っても過言じゃないですよね?」

 

「それは流石に過言ですよ。ただ良く見ているだけです。」

 

行われていたのは紛れもなく、"引継ぎ"に関する会話。

 

「大原クン」

 

「あ、先輩。おはようございます。

あと数分で終わりますので、少し待っててもらえませんか?」

 

呼びかけに振り返った彼は、至って普通。いつも通りに見えた。

 

「――では、こんなかんじでお願いします。困ったことがあったらいつでも聞いてください」

 

「助かります。しっかりアテさせてもらいますよ。ではまた」

 

彼と話していたトレーナーが立ち去ったのを見て、改めて声をかける。

 

「……今のは?」

 

「さっきの教官に今見ている娘達をお願いすることになったので、簡単ではありますが引継ぎ作業を」

 

「そうか……噂は本当だったんだな」

 

「噂?なんのことです?」

 

本当に知らないのか、はたまたすっとぼけているのか。

 

「今朝のメールだよ」

 

「あぁ、アレですか。

そうですね。専属になったので、教官は今日で終わりです。

 

いや、厳密に言えば昨日からですかね」

 

想像よりもずっとあっさりとした反応にやや面食らう。

 

「それにしてもかなり急だったからさ。

ほら、俺もこの間キミにあんなこと言っちゃった手前ね。

 

けしかけてしまったのかと心配でさ」

 

暗に、何か事情があるのか?という意図をちゃんと汲み取り、彼は笑顔で首を横に振る。

 

「大丈夫ですよ。むしろきっかけをくださって感謝してますよ」

 

あぁそう言えばと、彼はおもむろにタブレットを操作し始める。

 

「先輩が来てくださって丁度よかった。私が担当している内の何人かが結構いい感じに力がついてきたので、そろそろチームに斡旋したいんですよね。

先輩のチーム、確かダートが走れる娘探してましたよね?あれまだ有効ですか?」

 

「あ、あぁ。新入生の内の何人かは入ってくれたんだが、まだまだ経験に乏しくてね」

 

「それはよかった。重いバ場は少し苦手なのですが、結構パワーのある娘がひとりいまして。

ぜひ先輩のチームで使って欲しいなと思っていたんですよね。

お願いできますか?」

 

「願ってもない。でもいいのかい?」

 

「良いも何も、もう私の担当ではありませんから。

詳細は彼女と直接お願いします」

 

後はメールしておきますと。タブレットを暗転させる。

 

それにしてもと、顎に手を当てて唸る。

 

「本当に思い切ったねぇ。3年の間ずっと頑なにチームはおろか、サブトレーナーにすらならなかったキミが"専属"だなんて」

 

「えぇ、自分でも驚いています。

ですがあの走りを見た時に受けた衝撃といったら言葉にできません。

ああいう感覚が"ピンと来る"という事なんだなって、先輩が仰っていた意味がようやくわかりました」

 

「そこまで言うなら俄然期待できるな。それで、あの誰にも靡かなかった大原久を見事に落としたウマ娘は一体誰なんだい?」

 

「タマモクロスっていう小柄な芦毛のウマ娘です」

 

タマモクロス……と、その名前を口の中で転がす。

自分の記憶では、新入生の中でそのような名前や特徴の娘は確か――

 

「うーん……聞き覚えがないな」

 

彼が目をかけるほどのウマ娘であれば、逸材であることは疑いようもない。

だが、選抜レースに出走していた中で、よく走った娘にそんな名前は確かいなかったはずだ。

 

無論教官という仕事がそもそも、トレーナーが見落としていた才能を拾うことに特化しているため、自分が全くマークしていなかった娘であるという可能性もあるが。

 

「だと思いますよ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「――え?」

 

その言葉が理解できず、思考が止まる。

脳がその意味を弾き出すのを遮るように、ではまた後でと彼は談話室から出て行った。

 

 

確かに、変な所はいくつかあった。

 

入学式直後の異動

知らないウマ娘

急に取得した半休

 

()()()()()()――』

 

噂はあった。

同僚全員が漏れなく爆笑し、絶対にないと断言した噂。

 

 

「っ、大原クン!?」

 

弾かれるように駆けだした。

急いで後を追いかけて、部室に戻ろうとしていた彼の肩を掴む。

 

「どうしたんですか?廊下は静かに走らないと生徒会に怒られますよ」

 

「俺は人間だからいいの!

そんなことより、さっき言ったことってまさか――」

 

「大丈夫ですよ先輩。そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ちゃんと理事長には話通してありますから、心配しないでください」

 

紛らわしい言い方をしてすみませんねと、謝罪の言葉を口にして微笑む。

 

「先輩、いつか仰ってましたよね。"ライバルとして、私と肩を並べたい"って。

 

思っていたよりもずっと早かったですが、これからはトレーナー同士、レースの結果で語り合いましょう。

どうぞよろしくお願いします」

 

「お、大原クン……?」

 

人が好さそうな、僅かに吊り上がった口元。

だがその目の奥に、煮詰められたように濃密な闘志が揺らめいているのを幻視した。

 

「キミは、一体――」

 

自分は、思い違いをしていたのかもしれない。

彼の、大原久という男の本質を。

 

教官にしがみついているのは、一種の保身だと思っていた。

トレーナーと比べて身の入りは少ないが、査定にレースの結果が加味されないからだ。

 

違う。

彼は方便で言っていたのではなく、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()と本気で考えていたことに気付いてしまった。

 

これからのトゥインクルシリーズは、荒れる。

この瞬間、確信した。

 

 

 

■ □ ■ □

 

 

 

「う"ぇぇぇ……」

 

午後になって、ややげっそりしたタマモが部室に現れた。

 

「なんだ、どうかしたのか?」

 

「えらい疲れてもうた……

こないにウマ娘がぎょうさんおるとこ来たことあらへんし……」

 

「そうか。でもこればかりは慣れてもらうしかないな。

最初は辛いだろうが、どうにか頑張ってくれ」

 

「あ"~気持ち悪っ……にしてもえらい埃っぽいなココ。ちゃんと掃除したんか?」

 

「簡単にはな。近々ちゃんとするから、それまでは我慢してくれ」

 

二人で使う分には十分だが、チームの部室と呼ぶには少し狭い部屋。

壁に沿うように置かれた本棚の隣に据えられているトレーナーデスクの正面。畳まれてたパイプ椅子を引っ張りだして、彼女は大きく息をつきながらドカっと座り込む。

 

人酔い?ウマ娘酔いとでも言えばいいのだろうか。初めての環境でストレスが溜まってしまったらしい。

豪胆な性格だと思っていただけに少し意外だった。

体躯の通り、精神線も細いのかもしれない。今後の練習環境については一考の余地ありと、タッチペンでタブレットに走り書く。

 

「何か困ったことはあったか?たづなさんはどうだった?」

 

「まだ何とも言えへんな。

ただまぁ、郷に入ってはなんとやら。すぐに慣れたるわ。

 

たづなはんは、まぁええ人やったな。

ただ、なんか引っ掛かるっちゅーかなんちゅーか――まぁええわ」

 

「?」

 

「何もあらへん。忘れてええ」

 

一瞬考え込むような素振りを見せるが、この子が忘れろというなら忘れてもいいのだろう。

 

「クラスはどうだった?

ここまで多くの同年代のウマ娘と初めてだろう?何か感じることはあったか?」

 

「それも昨日の今日じゃ何も言えへんな。

ただ、ウチを見る目がみんな獲物を見る時のソレやったな。

ウチら獅子や虎ちゃうやろっちゅーねん。肉は食べるけどな」

 

トレーナーが投げ渡したボトルに口を付けつつ、冗談めかして感想を述べる。

かなり気疲れしているように見えるが、その目は皆と同じように獰猛な光を帯びていた。

 

「特に、()()()()()()調()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()

アイツらからは、熱入った視線向けられとった気ィするな」

 

「あぁ、彼女達か……」

 

挙げた特徴を持つウマ娘は、大原も当然思い当たる節がある。

 

地方(ローカル)からの殴り込み、『破天荒』――イナリワン。

 

「尾花栗毛」と称される類稀なる美貌、『世紀に一人の美少女』――ゴールドシチー。

 

どちらも将来が大いに期待されている有力者だ。

強者は、強者の匂いを感じ取る――トレーナー間でよく言われている噂。

事前に知りえない状況でその二人を指したということは、噂もあながち間違いではないのかもしれない。

ウマ娘同士、何か感じるものがあるのだろうか。

 

「タマの感じた通り、同期の中ではかなり上位の方に入るポテンシャルを持ってる。

イナリワンは昨年から既に地方でデビューしてて、今年から"中央"に移籍してきた実力者。

 

ゴールドシチーも、あの綺麗な見た目に反してかなり貪欲に走る。

 

いずれ、お前ともやり合う時が来るだろうさ」

 

「それはごっつ楽しみやな。

ほなおしゃべりはこのへんにして、さっさと始めようやトレーナー」

 

ふんすと息巻くタマモクロス。

気合十分と言った様子に、彼は満足そうに頷く。

 

「わかった。それじゃ、記念すべき初トレーニングを開始する。

我らがチームの旗揚げだ。はい拍手」

 

パチパチと、かなり寂しい音が部室の中に反響する。

 

「……まず最初に言っておくが、お前のトレーニングは相当厳しいものになる」

 

「……なんか、締まらんなぁ……妙に威厳出そうとしとるあたり」

 

何か言ってくる芦毛のチビは無視して話を進める。

 

「具体的には――1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

付いてこられるか?」

 

本来、デビュー戦は早くて3ヶ月――普通は半年ほどの期間を空けて出走する。

それほど時間がかかるようなトレーニングを、たった一月でやると宣言した。

 

「当たり前や!ウチが何のためにここに来たと思うとる!?

1ヶ月でも2ヶ月でも休まず走ったるわ!」

 

「いや、それは流石にオーバーワークだからダメ」

 

ヒトがやる気出しとんのにイチイチ水差すなや!とキレるチビを更に無視して、続ける。

 

「まぁ、いくらお前が泣いても辞めるつもりはないし、オーバーワークはダメと言ったが、立てている計画から逆算するとあまり時間は残って無くてな。

壊れるギリギリのラインで鍛え上げるからな」

 

タブレットを操作しながら、今後の予定について簡単に触れる。

 

「後で詳しく調べるが……俺の見立てでは、お前の心肺機能は既にほぼ完成されている」

 

画面を見せながらそう指摘するトレーナーを、真剣な目で見つめて頷くタマモクロス。

 

長時間の走行によって鍛え上げられた"それ"は、厳しいトレーニングにも耐えることができる立派な下地。

普通トレーニングというものは、それに耐えることができる身体作りを行いつつ、徐々に負荷を大きくしていくのが一般的だ。

そのプロセスを大きく短縮できるだけの十分なスタミナを備えているタマモクロスは、それだけで他のウマ娘に比べて大きなアドバンテージを有している。

あとは実践的なトレーニングを積むだけ。

 

「タマ、お前も当然理解しているとは思うが、レースは配達とは全くの別ものだ。

競い方の方向性が違うというか、全員が同じ土俵で戦うから当たり前の話ではあるんだが……

あえて言うなれば、『できるだけ長距離を走って、他の配達員と数を競う』のではなく、『全員が同じお届け先を目指し、誰が先に到着できるか』という勝負になる。

 

この違いが分かるか?」

 

「ん?他のヤツよりも速く走って着けばええだけやん。

なんかちゃうんか?」

 

「あー……まぁ、それもある意味正解だな。

それができるなら簡単だけど、その方法が一番シンプルで一番難しいんだ。

 

もし、相手が自分よりも短いルートを知っていたら?

進路を妨害されて、気持ち良く走れなかったらどうする?」

 

「それは……うーん……」

 

考えたこともなかったというような彼女の反応に、彼は正解を示す。

 

「そのためには、ペース配分、ポジションの確保やレース運びなど、"他者との駆け引き"を身に付けなきゃいけない。

今までは自分との戦いだったと思うが、これからは競争相手と一緒に走ることになる。わかりやすいだろ?

 

そいつらを出し抜くための策――お前が使いそうな言葉で言えば、"小細工"ってヤツになるのかな?それを身に付けるための時間を多めに取っていくようにする」

 

そないなこと言わへん!メーヨキソンや!と喚く芦毛を悉く無視し、結論を伝える。

 

「まぁ、長々と喋ってきたが、当面の方針は

『体力が落ちないようにしつつ、レースに勝つための走りを身体に叩き込んでいく』ってかんじだな。

 

何度も言うが、泣き言は一切聞かないからな」

 

「くどいでトレーナー!ウチは吐いた唾は呑まへん!

反吐が出るまで走ったるわ!何でも来いや!」

 

「言ったな?言質取ったからな。

あと女の子が反吐とか使うのはどうかと思うぞ」

 

そう言うと、タマモクロスの前――机の上にドンと何かを置く。

 

「なんやコレ

 

……本?」

 

「そう。過去に偉大な結果を残したウマ娘の著書や、レース理論に関する学術書。過去のレース記録をまとめたものだ」

 

「ほーん。流石は中央のトレーナー、勉強熱心やな」

 

 

「何言ってんだ?

お前が読むんだよ」

 

 

「――え?」

 

 

机を挟んで向かい側に座っているトレーナーの顔が見えないほど、うず高く積み重ねられた"英知の結晶"。

 

 

「ウチ、コレ、読む?」

 

 

「あぁ、読む。今から」

 

 

「ウチ、読む、なぜ?」

 

 

「お前、これ、読む。

俺、それ、解説」

 

 

「ウチ!?読む!?なぜ!?」

 

「IQ減りすぎだろ!いいか、スポーツは学問だ。()()()()()()()()()()()

アスリートとしての身体の作り方、レース理論、マインド。

 

最低限の知識は身に付けろ」

 

 

「最……()()……?

 

これが……?」

 

もはや自分の身長(140cm)よりも高そうな英知タワーを前に、さっきまで絶好調だった自分のやる気達が急に帰り支度を始めた。

 

 

「知識の蓄積はトレーナーの領分だろと指摘する人もいるが、俺はそうは思わん。

 

何事も、まずは形からだ。さあ始めるぞ」

 

「ちょっ、ちょっとタンマ!

 

トレーニングは!?グラウンド走ったり、ジムで身体鍛えたりは!?」

 

 

「勿論それも並行してやるぞ。だがまずはこっちだ。

せめて専門用語や基礎理論くらいは覚えないとな。

 

トレーニング中に一々解説してられないからな」

 

 

「べ、勉強は嫌やぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

吐いた唾(フラグ)を速攻で回収し、タマモクロスの死ぬほど情けない叫びが部室に響き渡った。

 




ささやかですが宣伝です。

ハーメルンで『十五夜にプロポーズでも』と言う作品を投稿していらっしゃる『ちゃん丸』氏主催の、『ウマ娘プリティーダービー~短編企画集~』に声をかけていただき、短編を寄稿させていただきました。

5月22日から始まっており、毎日21時に1話ずつ、計9つの作品が投稿されます。
参加者の中には、ウマ娘カテゴリ内でお気に入り4桁戦士とかもいらっしゃるので、もしかしたら皆さんのお気に入りの方が書いた作品も今後出てくるかもしれません。

私のは5/28(金)に更新されます。
皆さんはタマモクロスが好きで拙作を読んでいただいているだけで、私はそれに乗っかっているだけ、というのは重々承知です。
それでも、良かったらお読みいただけるととっても嬉しいです。

今後も更新頑張りますので、応援よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。