束さんがアイドルオタクになったみたいです。   作:こー

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書きたいから書きました。後悔してません。


束さんがアイドルオタクになったみたいです。

 ここ最近、織斑千冬は感じていた。自分の友人である篠ノ之束の様子がどこかおかしいと。

 

 こっそり雑誌を読んでいたり、イヤホンで音楽を聞くことが増えたり……普通に考えれば大したことではないと思われるそれだが、以前までの彼女を知っている千冬からすれば異常なものであったからだ。

 

 千冬の知っている『篠ノ之束』という人間は、普段はよく分からないものを発明したり、パソコンでプログラムをしてたりしており、且つそういったものにしか殆ど興味を抱かず、況してや雑誌や音楽なんて見向きもしないほどだったのだから。

 

 だが、完全に人が変わったと言われればそうではない。千冬に過度なスキンシップを取ってくるのは相変わらずだし、千冬や束の妹である箒、千冬の弟である一夏などの一部の人物以外の人間に対して基本的に無関心なのも変わらない。授業中先生の話を一切聞かないで自分のやりたいことをずっとやり続けているのもいつも通り。以前の束にそのまま雑誌を読むことや音楽を聞くことが趣味に加わったような感じだ。

 

 だからこそ千冬は疑問に感じていた。束は束であるはずなのに、何故いきなりあのような趣味を持ったのか。もしや天変地異の前触れか何かなのかと。

 

 誰かが束に対して薦めたのかと思考したが、そのようなのとを話す友人は束にはいるわけがないなと考えをやめた。

 

 思いきって尋ねてみても、珍しく焦ったようにして話題を反らしてくる。本人は焦ってなどいないと主張するが、端から見れば結構バレバレであった。

 

「(気になる)」

 

 沸き上がるそれは純粋な興味。今までの友人からは見れなかった表情が見れたことから、千冬の好奇心を更に増幅させた。それの何が束に刺さったのか。そしてそもそもどんなジャンルなのか。めちゃくちゃ気になってしょうがなくなった。

 

 然り気無く聞き出そうとしてみたり、束がいない隙を見て雑誌を盗み見ようとしてみたりしたのだが、全てあと一歩というところで気が付かれてしまい成功していない。

 

 後一歩のところでお預けを食らっている状況のためか、それはますます千冬の好奇心を大きくさせた。強引に奪ってみるという手も考えてはみたが、束も自身と同じくらいの力があり、面倒なことになるだろうということで実践はしてない。

 

 そんな思いを抱いていたある日束が、作業がもう少しでキリのいいところで終わるから待っててと言い、放課後に少し二人で残ることになった。既に帰りのホームルームは終わって皆出ていってしまったため、もう教室には音楽を聞きながらキーボードを打ち続ける束と、暇潰しなのかそれなりに厚めの本を読んでいる千冬しかいない。

 

「ん、ちょっとトイレ」

 

 作業の途中、束がトイレのために一時的に教室を離脱。千冬は反射的に返事、そのまま一人だけの時間ができる。

 

 少し時間が経ってからふと、目線を本から束の机のほうへとやる。戻るのが遅いなと思っての行動であったのだが、千冬はここであるものを発見した。

 

「あれは……」

 

 作業中に束が着けていたイヤホン。接続先はパソコンからであった。

 

 そういえば確かいつも音楽はCDをパソコンに入れてイヤホンを着けて聞いていたなと思い出す。もしかしたら気になっていた件の音楽が聞けるかもしれないと、鳴りを潜めていた好奇心が物凄い勢いで浮上してきている。

 

 本を机に置き、ふぅと一呼吸。ただ音楽を聞くだけなのに妙に緊張してしまっている。

 

 体感だと結構時間は経っているので、そろそろ束が帰ってきてもおかしくない。聞くなら早めに聞いてしまおうと急いでイヤホン部分を耳の方へと持っていく。聞こえてきたのは───────

 

 

 

 

 

《ミミミン! ミミミン! ウーサミン♪》

 

「え、ウサミン?」

「ふぅスッキリしたー……ってちーちゃぁぁぁん!??! 」

 

 

 ────────────────

 ────────────

 ────────

 ────

 ─

 

 

「まさかあの束が、アイドルにハマるなんてな……世の中わからんものだ」

「もう、からかわないでよ……」

「いつものお返しだと思え」

 

 あの後、大きい誤魔化し笑いをしながらイヤホンを取り上げて一瞬で作業を終わらせた束と千冬は帰路についていた。

 

 普段の彼女からはあり得ない誤魔化し方に呆気に取られた千冬は、もうこの話題に触れない方がいいんじゃないかと感じるが、珍しく自分が優勢になっているという面から更に突っ込んでいく。

 

「というか、お前に羞恥心があることに驚きなんだが」

「そりゃ束さんは人間だよ? 羞恥心ぐらいあるさ」

「……そういうものか?」

 

 なら何故普段の生活でその羞恥心が出てこないんだと心の中で突っ込みを入れる。と同時に、疑問も浮かんできたため聞いてみることにした。

 

「なぁ束。何故そんなにアイドルにハマったことを他人に知られたくないんだ? 普段のお前なら人からの目など一切気にしないだろう」

 

 考えてみれば、当たり前の疑問。長いこと束と一緒にいる千冬は今まで束が恥ずかしがっていたところなどを見たことがない。初めての反応だったためにここまで興味を引かれたのだが。

 

「……まぁ別に、菜々ちゃんを推してることに関しては恥ずかしいとは思ってないよ?」

「菜々ちゃん……」

 

 敢えてつっこまなかった。そして束は軽く開き直っていた。

 

「ただね、いっぱいいるじゃん? 他人に迷惑をかけるゴミみたいなやつら。そういうやつらに限って私と同じで菜々ちゃんのファンだったりするんだよそいつらなんかと一緒にされたくないっていうのがあるね」

「……なるほどな、一部の害悪と一纏めにされたくないと」

「そゆこと世間的にはアイドルオタクってそういう目で見られがちだしね箒ちゃんもそういうタイプだしだからあんまり表だって表現するのはちょっとなーってねー」

「……(随分と早口だな)」

 

 多分これだけじゃないんだろうなと思いつつも、また千冬はつっこまなかった。千冬は空気が読めるのである。

 

「まぁ私はそういう目では見ないから安心しろ。……ところでだ、何故安部菜々にハマったんだ? 確かに彼女はトップアイドルではあるが」

 

 安部菜々。出身地はウサミン星で年齢は永遠の17歳の大手346プロダクションに所属しており、もはや知らない人はいないのではないかと言われるほどのアイドルである。

 

 永遠の17歳を自称しているのにも関わらず、時折20代後半から30代後半ぐらいしか知らなさそうなことをまるで懐かしむかのように語ったり、何故か同じ事務所に所属しているアイドルの中でも20代後半を中心とした大人組と基本的に一緒にいる。

 

 そんな彼女は、正統派のアイドルとは異なる扱いを受けている。普通なら一ブームとして終わってしまうのだが、彼女はその枠には収まらずに徐々に人気を獲得し続け、その結果現在アイドルトップの最前線にいる一流アイドルである。

 

 だがこれらの要素が束の興味を引くものなのかと問われれば否だろうと千冬は思う。故に問いた。何かしらの別の理由があるはずだと。

 

「……そうだねぇ」

 

 自分の趣味を知っても変わらない千冬の態度を見て、束はふぅと息を吐いてゆっくりと告げる。

 

「───菜々ちゃんはさ、一生懸命なんだ。それもきっと人一倍」

「……一生、懸命」

「ファンの分際で上からになっちゃうけどね」

 

 苦笑をしつつ、少しずつ言葉を紡いでいく。

 

「あれは……いつだったかなぁ。結構前のはず。束さんらしくないんだけど、ちょっとスランプ気味になっちゃった時があったんだ。ちーちゃんもちょっとは覚えてるでしょ?」

「あぁ、あれか」

 

 思い起こされるのは、およそ3か月ほど前のこと。その頃の束は常に不機嫌ここに極まれりといった様子で、千冬でさえも束に近付くのに少し躊躇してしまったほどであった。

 

「何をするにも上手く行かなくなってさ。ようやく夢に近付き始めてきたかなって思ったらこれだもん。そんなんだったからイライラが止まんなくて、んでそのイライラでまた作業の効率が落ちる。そしてまたイライラ……悪循環だったんだ」

「……そうだったのか」

 

 束にも人間らしいところはあるのだと、改めて千冬は認識する。

 

「悪循環になることは分かってたから、とりあえず何もしないことにしたんだ。あのまま作業したって何もできないからね」

「ふむ、それで?」

「やることがなくなったから、ボーッと家のテレビを見てたんだよね。見るっていうか、眺めるに近かったかな。流し見してたわけ。丁度、その時やってたんだ。菜々ちゃんの特集がね。どのようにして今の菜々ちゃんに至ったのか、みたいなやつ」

 

 懐かしむように空を見上げながら、続ける。

 

「もちろん最初は流し見してたし、その時はアイドルになんて興味すらなかった。でもね────テレビに映る菜々ちゃんが、頑張っていたのが印象に残ったんだ」

「……頑張っていた、か」

「うん、今まで見てきた中でも誰よりも頑張っていたんだ。菜々ちゃんのは特に頑張っているっていうのが伝わってきた」

 

 だんだんと、言葉の力が増していく。

 

「天才なこの束さんだって躓いたんだ。絶対この人もどこかで躓いている。……それなのに、真っ直ぐ一途にアイドルになるために努力を続けている菜々ちゃんが映ってた」

 

 話していく度に、あの時のテレビの映像が頭によみがえってくる。

 

 以前働いていたメイドカフェでは客からひどい言葉をかけられたり、店長から遠回しにアイドルを目指すことを止められたり……それでも、菜々はひたすら努力を積み重ね続けていた。

 

「なんだか、私と菜々ちゃんが重なった気がしたんだ。夢に向かって一直線。それだけのために頑張り続ける。……でも、あの時私は躓いてしまった」

 

 その時を思い出しているのか、妙に声のトーンは低い。

 

「どうしてこの人は躓かないで最後まで行けたんだろう。どうして全部嫌になったりしなかったんだろう。……私とあの人と何が違うんだろうって、それで菜々ちゃんが気になり出したって感じかな」

「……意外と、深い理由だったな」

「あははー、そう? ……でも、やっぱり決定的だったのは番組での菜々ちゃんの最後の言葉だったかな」

「ほう、なんて言っていたんだ?」

「んーと、それはねー……」

 

 今でも鮮明に覚えているあの時の映像が、束の頭の中に流れ出す。

 

 

『ナナでも叶ったんです。皆さんも夢を諦めないで、そして楽しんで続けてみてください! そうすれば夢はいつかきっと叶いますから!!』

 

 

「んへへ、内緒!」

「……おい、ここまで来てそれはないんじゃないか?」

「まぁいいじゃん! それよりさちーちゃん。今度また実験に付き合ってくれない?」

「またか? 別に構わないが……」

 

 ──ある一人のトップアイドルのお陰でまた一人、夢をその手に掴むために力を蓄えている。

 

 兎ようさぎ、何を目指す。夜天に白く大きく輝くあの星か。それとも、憧れがやってきたあの星か。

 

 はたまた星ではなく、今は先を走っているあの兎なのかもしれない。




ごめんなさい。
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