ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
「宝鐘海賊団船長の宝鐘マリンですぅ~」
ぱちぱちとまばらな拍手とともに自己紹介を終えた眼帯の彼女はそのまま何事もなく座る。
海賊って名乗っていたがこの法治国家で海賊とか正気か?犯罪者です逮捕してくださいって言ってるもんじゃないか。
しかし海賊がニュースに乗ることなんて少なくともこの日本ではない。もしかして自称なのか?それはそれで……。
俺は憐憫の目を彼女に向けた。
しかし困ったぞ。自己紹介か、そりゃあるよな。仕方がない、すべてゲロっちまおうか。
「えーそれでは次、星本君」
前の男の子の名前を聞いてなかったが問題ないだろう。席を立ちぐるりと周りを見渡す。大丈夫受け入れてくれるさ。
「えー。皆さん初めまして、星本颯太です。趣味は料理で座右の銘は『勝馬に乗る』です。実は最近ヴァンパイアを二体狩ったせいでつい昨日記憶喪失になりました。それゆえにマジで何も覚えていません。だから竹馬の友になるなら今の内です。あと彼女募集中です以上」
席に着くが、おかしいな拍手が聞こえないぞ?ここは「えー記憶ないの」とか「俺に頼ってくれよな」とかそういうのがあると思ったのだが?意外とみんなシャイなんだなぁ。
隣からちょちょいと肩をつつかれる。
「あの……名前ヴァンさんじゃないのですか?」
「うん嘘」
「なんで嘘つくのです?」
なんだろう彼女の魔力の質が高まっている気配がする。何かあったのだろうか。
「実は自己紹介で名前を教えたくてね。どうだい?本物の星本颯太だよ?」
「知らないですよ、誰ですかあなた」
なるほどね。魔族の間でも一大ニュースとして知られているわけではないみたいだ。恐らく一部のコミュニティで流行っている噂くらいの扱いだろうか。それなら好都合。クラスメート全員を口止めする必要はないだろう。それに顔が出回っているわけでもない。もしバレてもとぼければなんとなくいける気がする。あの鬼ッ娘なんかぬけてそうだし。
考え事をしていたら視線の熱を感じ出所を探る。あれは確か自己紹介をしていた不知火フレアさんと白銀ノエルさんだったか。二人ともひどく驚いた顔をしている。フレアさんのほうなんか驚愕の中に懐疑の目を向けてくる。何をやったんだ俺。記憶にないぞ俺。
しかしまさか初日にエルフと聖騎士様にガンつけられるとは、また俺なにかやっちゃいました?
うーん、なんか怖いから近づかないでおこう。特に聖騎士なんて庶民の俺からしたら雲の上の人だし。身分の違いによる話題の違いってやっぱ大きそうだ。
無事自己紹介も終わり、空気がだれてきたとき先生の一言で一変する。
なんと学園内の全校生徒を集めてバトルロワイヤルを行うとのこと。なにいってんだこいつ?
いつの間にかデスゲームの世界に来てしまったのだろうか?どうあがいても魔族と獣人に勝てる気がしないのですが?
ルールは簡単だった。
範囲は学園の敷地内。時間は最後の一人になるまでの時間無制限。アイテムは回復系以外持ち込める。勝ち抜くほど成績が上がる。そして降伏も可。
そして当たり前だがしっかりとセーフティが施されて命は安全だとのことだ。
こんなところだろうか。
しかしバトルロワイヤルときたか。これは少し困った。正直ここの化け物連中に勝てる気がしないのだ。たぶん一人で行けるのは精々300人中の150位、半分くらいだと思う。けれども俺はここで戦いの経験を積みたい。できれば最後まで生き残りたい。
そうなるとやはりチームを組むことが大切だろうか。仲間がいれば生存率は飛躍的に上昇する。
教室を見渡す。この現状で俺と組んでくれる人はいないだろうな。もしいたとしても信用できない。いつ裏切られるかという迷いは混戦では命取りだ。
そうなるとやはりロボ子さんかちょこ先生だ。
……ちょこ先生ってこれ参加するのかな?
ロボ子さんだ。ロボ子さんに協力を仰ごう。正直足手まといにならない程度の戦力だが受け入れてもらえるだろうか。
決まれば早い。この準備時間にロボ子さんが教室から出て場所を移動したらもう探す手段はない。俺は席を立つと駆け足で3年生の教室に向かった。
「ねぇ!ちょ……早い!無視!?」
後ろから声が聞こえた気がしたが無視だ無視。今は一刻も争う。階段を一段飛ばしで走ると1分もしないうちに3年生の教室に着いた。一つ二つと中を覗き見てお目当ての人物を見つける。
「ロボ子さん!」
「んー?おぉ!」
俺の顔を見るとパタパタと小走りで寄ってきてくれた。
「どうしたのー?もうバトロワ始まっちゃうけど」
「そのことなんですが俺と組んでいただけませんか?」
「君と?」
「はい。迷惑をおかけしません。順位もロボ子さんが先で大丈夫です」
ロボ子さんは数舜考え込むと眼球を光らせる。頭からつま先へなめまわすように見ると俺に告げる。
「君、この前よりも格段に強くなっているね。何かトレーニングでもしたのかな?ふーん、いいよボクと組もう」
意外だ。まさか二つ返事で承認してくれるとは。
「ありがとうございます!
「あれ?何か言葉の端々に悪意が……?」
とりあえず俺も準備をしなければならないので校舎裏の大きな木の下で待ち合わせすることにした。
急いで戻る。階段を駆け下り、自分の教室に着くと着替えを始める。シャツに白色の機能性重視の戦闘用の服を羽織る。短刀を腰に差し、滑り止め用のグローブをつける。最後に針、毒針、痺れ針。そして秘密兵器を袖口に仕込みいつでも取り出せるようにする。数回の動作テストをして問題がないことを確認し教室を出る。ついでに魔導書も読んでおこう。内容はゴミだが塵も積もれば山となるかもしれない。
開始時刻まであと五分もない、急がなければ。
だがここで俺の進路を阻むものが出てきた。褐色の肌に民族衣装チックな服に包まれたエルフ。金髪が眩しい。
「なにか御用ですかダーエロさん」
「ダークエルフをダーエロって言うな。っていうかダークエルフじゃねぇし」
確か不知火フレアさんだったか。俺の自己紹介に熱い視線を送ってきた子だ。
「何か御用ですか?急いでいるんですが」
「あなたは星本颯太で間違いないのよね?」
本当にいきなり何なのだ?まさか自己紹介をもう一度したいというわけではなかろうに。
「えぇ、まぁ、そうですが……」
「ふーーーーーーーーーん……」
すごい見られている。じろじろと。少し気恥しいんだが。
「ねぇ、あんたが二体のヴァンパイアを倒したってのは本当?」
またその話だ!またその話だ!!なんなんだよあいつら!死んだ後からめっっっっちゃ迷惑かけてくんじゃん!おとなしく成仏しろよ!まさかこれも呪いの一種じゃないだろうな!?
「えーと、まぁそうですけど……」
「てことはあんたがヴァンパイアを倒してエルフの森を救い、邪竜を聖剣で一刀両断にし、先の人魔戦争の英雄の子孫で、海賊王になって、火影になって、宇宙の帝王との戦いにワクワクして、いずれ来る災厄に人族の代表として闇を払うの?パパが言ってた」
「ヨイショはもういいって言ったよなおっさん!!!」
なんだろう。勝手に口から出た。記憶に残っていないのに。しかし俺には何かやるせない思いが到来していた。もし記憶を思い出したらこの気持ちの原因となる人物を見つけ出して一発殴ろう。
「とてもそんな風には見えないけど」
「俺もそんな風には見えないですね」
もしそう見えるなら今すぐ眼科に行ったほうがいい。それか脳の専門家か。
設定雑に盛りすぎだろう。場末のネット小説だってもっと練られているぞ。
「いいよ。都合よく戦いの場が用意されているんだ。そこであんたの強さを確かめてやる」
ほらーまた面倒事が増えたー。入学初日になんでこんな目をつけられるんだよ。星本颯太は静かに暮らしたいのに。そもそもそんな強くないのは見ればわかるだろうに。能ある鷹は爪を隠す理論で一見弱そうに見えて実は……?的なこと思ってるんだろうか。自分の第一印象信じろよ。あってるよ。
しかし不知火フレアか。なぜだろうか?彼女を見ていると不思議と懐かしい気持ちになる。つい最近、こんな雰囲気の人と出会ったような。
いやいや、とりあえず先を急がなくては――
「そこな人間様!」
ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!やめろぉ!来るなぁ!
あの鬼だぁ。
「親切な人間様って小耳に挟んだんだが強いらしいな!どうだ!余と最初にやりあわないか!?」
これから学校には豆とイワシの頭を持ってこよう。
「いやぁそれは買いかぶりすぎといいますかははははははは。どこでそんな根も葉もない噂が流れているんです?」
「褐色のエルフの女の子が言ってた!」
あの女許さん。人間やっていいことと悪いことがあるんだぞ。エルフだけど。やってることは外患誘致罪より重いぞこれ。やっぱ人間とエルフは分かり合えねぇ!
お前美少女じゃなかったら顔にグーだからな!俺は女相手でも躊躇なく殴れるんだからな!
「さあさあやろう!」
「いや遠慮しておきますんで――力つっよ!」
手を握られ引っ張られる。こんなかわいい子に手を握られているのに全然ときめかない不思議。ドキドキはするが。別の意味でな!
まずいまずいまずいこのまま断頭台まで送られてたまるか。なんとか方法を考える。
「そうだ!実は準備に戸惑っていましてね!もう少し時間をいただければなんてね!先に体育館で待っててもらえませんかね!」
「おお!そうだったのか!性急で悪かった。じゃあ先に待ってるぞ!」
万力のような手を放してくれた。そのまま猛スピードで廊下の彼方に消えるのを見守る。
とりあえず終わるまで体育館に近づかないでおこう。これで何とかなるだろう。
でもなぁ、終わった後がなぁ。なんで来なかったんだとか詰められて内臓を抜かれたりしないかなぁ?服が全体的に赤いのって絶対返り血だろ。もしくは血がかかっても目立たないように的な。
……明日転校しようかな。
時間ギリギリだが魔導書を読み込んでおく。実感はないがFLOATを覚えたはずだ。これでいつでもカップ麺をストレスフリーに食べられるな。
『開始一分前!』
やばいな。小走りの足をさらに速く動かす。
「おそーい!」
なんとか間に合った。息を少し切らしながら魔導書を胸にしまい込む。
「お待たせしました。ちょっと厄介な化け物に粘着されまして」
「……?とにかくお互い頑張ろうね!」
「はい!」
俺のいる場所は校舎の裏側で人気はない。バトルロワイヤルは倒した数ではなく生き残った順位で優劣が決まるため基本は闘わないか、漁夫の利を狙うのが定石だ。しかし今回は順位で決まるが倒した人数もしっかりと成績に加味するとのことだ。つまり戦うか戦わないかの選択のバランスが大事になるだろう。
個人的には多くの経験を積みたいが最後まで生き残りたい。序盤は戦闘を避け、終盤の避けられないときまで体力を温存しておきたいな。
そうなると俺の隠形は強いだろう。まだ鍛えてないがバトルロワイヤルの特性上ハイドはとても強い。なによりロボ子さんにもその力の恩恵は出る。ここはやはり俺の隠形で序盤はやり過ごそう。
『3……2……1……スタート!!』
始まった。俺は作戦を伝えるためロボ子さんに向き合うと目を見開く。
やべぇ!
「ロボ子さん!避けて」
俺とロボ子さんは左右に飛ぶ。
同時に俺たちのいた場所に魔法陣が浮かび空間が焼け焦げた。十分な距離を取っていたのに熱風でこんがり焼けそうだ。
「ロボ子さんと――誰?まぁいいか!やっちゃおうか」
そこには特徴的な帽子とへそ出しスタイルで空に浮かぶ少女がいた。魔法使い、それも上級か。いきなりきついのが出てきたな。
「シオンちゃん!ボクをつけたなぁ?」
ここまで近づかれてロックされては仕方ない。俺は腰から短刀を抜き左手の指で四本の針を挟み込む。
「行けますか、ロボ子さん?」
「もちろん!」
初めてのまともな戦いだ。じっとりと手に汗が滲む。いきなり脱落はしていられない。素早くここを突破したい。
俺は短刀を逆手に持ち替えると少女に向けて走り出した。
たくさんUAと感想もらえて小躍りしています。もう皆さんに足向けて寝れないので毎日立って寝ています。