ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 久しぶりに8000字近く書いたので初投稿です。


不意打ち

 大神ミオが避けられなかったのは決して気を抜いていたわけではない。ただ偶然が手助けをしただけだ。

 

 すでに星本颯太は終わったものと認識していたこと。そしてそれ以上に先の戦いで疲弊していたこと。

 

 お世辞でもなんでもなく、彼女と星本颯太の戦いは紙一重だった。場が雑木林でなければ、武器をもう一つ持っていれば。結果論ではなく本当に厳しい戦いであったのだ。

 最後のラッシュ比べは決め手が全くなかった。重要な部分を防ぎそのほかは捨てた特攻。そしてスピードが後押しした斬撃の威力。持ち前の経験値によってさばききったが、一撃でもくらえば地に伏していたのは大神ミオであった。

 

 (木の根に躓かなかったらもしかしたらウチが……)

 

 大神ミオは自身の胸に手を置くと確かめるように目を閉じ、耳をたたんだ。

 軽い動悸は休めば治るだろう。問題は足だった。

 蹴りを(もも)で受け止めた時に走った衝撃が抜けない。スピードが乗った弾丸のような蹴りの威力はすさまじく、継続した痛みが引かなかった。

 トントンと軽くジャンプするが違和感がぬぐえない。獣人には体の違和感が付きまとうというのは大きなハンデだ。磨かれた五感こそ強みなのに常時足にまとわりつく異常が阻害する。

 

 「うーーーん、これ厳しいかも」

 

 ここで休憩を入れて状態の好調を願うか、白上フブキの元に戻るか悩んでいた。

 突然、ゴウ、と風が背中を叩きつける。体を前に押されて右足を出して体勢を保つ。

 

 瞬間違和感に気が付いた。

 

 人間が緊張状態の時に出されるホルモンから生まれる独特な汗の匂いが感じ取れた。

 これはどういうことだ。風上である背中には何がある。倒したばかりの後輩一人だけ――――

 

 警戒態勢に入る思考の隙間、体の硬直に狙ってか襲い掛かるものがあった。風の上を滑り速度を落とさず直線に空間を裂く。

 

 「ッツ!」

 

 それは束ねた髪を割り、背中に刺さり、思考を中断させた。

 

 瞬時に無我に入り、背中の痛みからどこから飛来したかを計算する。バック中をしながら半身を捻り手をついて着地して原因を探す。

 だがその必要はなった。いの一番に答えが目に入ってきた。

 

 「……どうしてまだ脱落してないの?」

 

 木にもたれながら右手をこちらに向けている星本の姿だった。

 

 

 

 震える手を左手で押さえつけながら放ったがしっかりと当たった。

 

 それにしても呼吸ができない。こんなにも難しいことだったか。吐くことはできるのに、吸うことに数倍の時間がかかる。耳鳴りと吐き気がまずい。立っているだけでもやっとだ。

 

 しかし()()が当たったのは運がよかったな。耳を閉じてくれたことと突風による体勢の崩れと投擲の加速。数舜だが体が硬直してくれたのもでかい。

 

 「教えて。どうしてまだ動けるの?心臓を抜いたはずだけど?」

 

 言葉の端々からは冷たく硬い感触を覚えたが、体重を後ろに傾けて離脱の構えをしているのを見逃さない。

 ここからだろうな俺の本領発揮は。

 

 「いやぁ、強烈でしたよミオさんのハートキャッチは。思わず心も奪われてしまいました。どうです?結婚を前提にこの婚姻届けにサインしてくれませんか?」

 

 「それ結婚しちゃってるじゃん!とゆうか婚姻届け持ち歩いてるの?」

 

 「当り前じゃないですか。少子化が嘆かれる今、学生婚もバカにできませんよ」

 

 「残念だけど、ウチ結婚願望あんまりないんだよね」

 

 「そうなんですか……?将来の夢はお嫁さんという人は減ったんですかね。……あ!先ほどの見事なハートキャッチでもしかしたらと思っていましたが、もしかして夢はプリキュ――」

 

 「そんな血なまぐさい女児向けアニメあってたまるもんですか」

 

 会話のおかげで何とか一人で立つことに成功した。後方の木に手をつきながらよたよたと歩く。大分回復したがまだまだだな。

 今やるべきことは少しでも会話を伸ばすことだ。

 

 「ところで近年のぷいきゅあ事情をどう思いますか?」

 

 「なんで急に女児っぽい言い方になったの?」

 

 「有名声優を起用したり、作画が萌えっぽくなってるように感じるんですよね。最終回あたりで出産シーンとかどうなんです?」

 

 「知らないよ!見てないもん!」

 

 「…え?……あ、ごめんなさい。今まで女性だとばかりに……。複雑な事情が……」

 

 「ないよ!女の子だよウチは!」

 

 「ぷいきゅあ見てないのに!?」

 

 「そうだよ!?」

 

 タイミングはもうそろそろだろうか?

 

 「話を逸らそうとしているみたいだけど。まだ答えてもらってないよね。どうしてリタイアしてないの?」

 

 「実は体内に賢者の石を持っていましてね」

 

 「人造人間(ホムンクルス)!?」

 

 服の中に手を入れると面白いくらいビクッ!と体を跳ねさせる。少し信じているの面白いな。

 

 「冗談ですよ、これですこれ」

 

 胸にしまい込んでいたものを取り出す。

 

 「……魔導書?」

 

 「よくご存じで」

 

 そう。俺を救ってくれたのはロボ子さんがくれた魔導書だった。待ち合わせの時間ぎりぎりまで読み込んでいたせいで置き場所に困り、胸にしまい込んだ魔導書だ。

 実はこれに関しては本当に狙ってなどいなかった。たまたま仕舞っていた本にたまたま爪が刺さり、生きながらえた。

 

 使えるものがダメ魔法のくせになんでこんな分厚いんだとか言ってごめん。お前は立派だよ。これから先使うことないと思うけど。

 

 「まさか、そんなものでウチの攻撃を防がれるなんて」

 

 軽くショックを受けていた。

 

 ところでそんなものとは魔導書として?それとも『FLOAT(ラーメンタイマー)』として?後者ならいくらなんでもバカにされ過ぎじゃない?

 

 「でも、失敗したね。最大のチャンスにできたのが針一本刺すなんて」

 

 そうだ。俺が勝ち取ったチャンスにやったことは針一本投げるだけだった。理由は――

 

 「体調がとても悪そうだね?もしかしてそのせいかな」

 

 「…………」

 

 俺の状態は芳しくない。全身の切り傷から流れる血液は服を赤く染め上げ、地面に溜まっている。息も100m走を何十セット行った後の様に途切れ途切れだ。

 一方のミオさんはまだまだ余裕がありそうだった。それどころか隙の無さが増えたように感じる。研ぎ澄まされた威圧は研磨されたばかりの包丁のように危険を伝える。

 

 「……へへ」

 

 だから面白い。この危機的状況から勝つことができたら俺は一歩前進できるような気がする。

 

 地面に落ちている短刀を足で思いっきり踏む。音を立てながら空を舞うそれをキャッチすると思いっきり振りぬいた。二度、三度と回数を重ねるたびに加速していき、ついには銀の線が面となって空間を抉る。

 

 「速くなっている……?」

 

 ミオさんが口を半開きにしながらポツリとつぶやいた。

 

 そう、俺は一つ壁を超えたみたいだ。ミオさんとの死闘を一回終えたことで「ナニカ」をつかんだ。脱力の加減、振るときの角度、重心の移動方法。ミオさんの動きから少しパクら(トレース)せてもらった。それを噛み砕いて俺流にシステムアップした。

 これならばラッシュ比べもなんとか同じ土俵に立てるかもしれない。短刀を打ち込める可能性が出てきた。

 

 俺は踏み込む足の筋肉をわずかに脱力させる。

 

 「もしかして何かを狙っている?離脱?それとも不意打ち?」

 

 さすがだな。俺がこの場から離れるために体重を後ろに傾けたのを悟ったみたいだ。これはもう決着をつけるしかないだろうな。

 

 ならば染め上げるしかない。このミオさんのテリトリーを俺の領域へと。

 

 「俺はもう勝っています」

 

 「何を言っているの?今から仕切り直しでしょ?」

 

 手をミオさんに向けると指を三本上げて宣言した。

 

 「いいえ。勝っているんですよ。もうすでにね。理由は三つあります」

 

 指を二つ折る。

 

 「まず一つ目。先ほどとは違い、何とかあなたのスピードについていくことができます。目で追いかけることしかできませんでしたが今は体もついていきます。あなたはあの時とどめを完全に差さなければならなかった」

 

 「……」

 

 口をキュッと堅く一文字に結ぶミオさん。それは言われなくても当の本人が分かっているのだろう。

 

 中指を上げる。

 

 「二つ目。今日が雲一つない快晴だということ」

 

 「どういうこと?」

 

 やはり理由が分からないだろうな。

 

 「アメリカの物理学者、ハモンド・レイスをご存じですか?」

 

 「いや、知らないね」

 

 そうだろうな。それが普通だ。

 

 俺はやれやれとわざとらしく顔を横に振る。

 

 ピキ。

 ミオさんの顔に青筋が浮かんだ。

 

 「彼は三世紀以上前の人物です。物理学者でありながら天気の常識を変えて世界を一変させました」

 

 俺はコホンと咳払いをする。

 

 「雲の成分は水でできています。しかし実は100%水でできているわけではなく、細かいチリなどのゴミも混ざっているんですよ。雲は水蒸気が上昇気流に乗って上空20~30km付近で冷えて水や氷に変化することで姿を現します」

 

 俺は天に向かって指をさす。

 

 「今日は雲がありませんね。しかし温かい。雲ができる絶好の天気なのにおかしいと思いませんか?」

 

 「えっ?ううん、そう……かも……?」

 

 「ですよね!?おかしいですよね!?」

 

 急に声をでかく響かせる。

 

 「雲は水とチリの集まり。しかし雲がないということは地上のチリが多く残っているということです。我々が感じることができない数ミクロンのゴミが周りに待っているんですよ今ここで」

 

 両手を広げてアピールする。

 俺は天を仰ぐ。舞台役者よろしくくるくる回りながら声をさらに張る。演出もかねて両手の指に挟んだ投擲アイテムを空に投げる。

 

 「そこでハモンド・レイスは考えたんですよ!!!」

 

 「ゴクリ」

 

 くるくると世界と同時に回る。ただ回り続ける。――――たっぷりと数十秒。ただただ何もせず回り続けた。

 そして止まった。

 

 

 「――え!?終わり!?」

 

 「終わりです」

 

 「最後まで言ってよ!レイスさんは何を見つけたの!?どんな学術的発見をしたの!?気になるよ!」

 

 「さぁ?」

 

 「さぁ!?」

 

 「知りませんよ、ハモンド・レイスなんて人。だって今ここで適当に作った人なんですもん」

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 「何真面目に聞いてるんですかウケるw」

 

 「学校の偉い人ーー!今ここでこの子殺していいですかぁぁぁぁ!?」

 

 まじでそんな人いない。

 名前とか好きなゲームの固有名詞を組み合わせただけだ。

 

 ここまで人をコケにすることは生まれて初めてだ。……初めてだよね?

 

 「そして三つ目!」

 

 「もういいよ!そのおしゃべりな口閉じてよ!」

 

 大事なことなのにな。

 言わなくていいというならさっさと仕掛けさせてもらうとしようか。

 

 俺は体を前へ倒すと足で踏み込みもせず地面に倒れこむ。力を抜き、すべてのパワーを下半身にため込む。

 無駄をすべて省け。俺の熱を押し込めて爆発に変えてしまえ。力みをすべて緩みへ戻せ。さすれば――

 

 地面に顔が付くかという瞬きの時に動き出した。ギリギリまでためた俺の全部をスピードに変える。

 ゴッ!!と地面を抉りながら走りだした俺はまさにすべてを置き去りにした。脱力から生まれる爆発力は人を音速の域に押し上げる。

 

 (さっきとは違う!比べ物にならない!)

 ミオさんの表情がそう言いたげだった。だがもう遅い。遅すぎる。俺は走り出した。

 

 限りなく低く、遠く。早く!速く!!疾く!!!

 すべてを置き去りにしろ!

 

 俺はミオさんに最短距離で向かう。葉を踏みつぶし、藪を斬り割き一つの弾丸としてただ真っすぐ。淡く光る短剣と赤く染まった衣装が相反する色を混ぜ合わせる。その色彩は木々を縫い進む。

 

 残り5m。右足で前へ。

 

 ミオさんの殺気が尋常じゃないほど膨れ上がり、毛が怒髪天を衝く。彼女も覚悟を決めて迎え撃つつもりらしい。

 

 残り4m。左足を前へ。

 

 手をついて動物の様に四肢に力を入れるミオさん。ここで終わらせるという強靭にして絶対の意志の強さ。俺はその姿に敬意を持って――

 

 残り3m。90度反転する。

 

 ――嘲笑おう。

 

 反転して全くの減速をせずに直角に曲がってみせる。スタートの時以上に土を巻き上げながら足に命令を出す。死んでも曲がり切れ。

 

 「ぐぅぅぅ!!」

 

 「なっ……?」

 

 足にかかる想像以上の衝撃に耐える。やりきった。

 ミオさんからすれば訳が分からないだろう。雌雄が付くと思い込んでいたら相手が突然方向転換したのだ。だがいい。これでいい。

 

 「三つ目ですがね、ミオさん」

 

 刹那の時間だがはっきりと。一秒が何倍にも圧縮された感覚の中俺は目で伝える。

 

 「薄々気が付いていたでしょうが時間稼ぎをしていました」

 

 これはフェイントではない。そして逃げるためでもない。

 

 「だってそうでしょ?」

 

 ()()()()()()

 

 「これはあくまで二対二。時間を稼げば仲間が助けてくれる」

 

 あの破壊の化身から。

 

 「さようなら。俺()の勝ちです」

 

 コンマ数秒後ミオさんは赤い閃光に飲み込まれた。

 

 

 

 ブスブスと黒煙を上げながらあたり一面の漂う焦げ臭さに若干の冷や汗を垂らす。相変わらずすごい威力だな。ロボ子さんのレーザーは。

 

 「うぅ……なにが起こったの……?」

 

 驚いた。まさかまだ動けるとは。

 

 「無事ですか?無事じゃないですよね?無事じゃないと言ってください」

 

 「必死過ぎだよもう。体が動かないや」

 

 よし!これ動き出されたらもう詰んでるからな。

 

 「いやぁ、作戦成功ですね」

 

 「教えて欲しいんだけど何があったの?」

 

 シュルシュル。

 

 「作戦を思いついたのはロボ子さんが怒って撃ったあの赤いレーザーを見た時です」

 

 シュルシュル。

 

 「不意打ちでもあたらない。音と光でバレてしまうからと言っていました。ならば現地で誘導をする人がいれば精密機械の擬人化であるロボ子さんなら当てられるのではないかと」

 

 シュルシュル。

 

 「……ねぇ。話の途中だけどいいかな?なにしてるの?」

 

 「服を脱いでます」

 

 「なんで!?」

 

 「だって破けちゃってるし、血と泥で汚れてるし。夜に戦う時用の黒一色装備にしようと思って」

 

 「やめて!動けないのに目の前でストリップしないで!あとにして!」

 

 「しょうがないなぁ」

 

 俺は替えの服を綺麗に畳んで置くと続きを話した。

 

 「それでですね。作戦はこうです。俺が白上さんかミオさんを引き連れて相手をする。そして五分以内に合図をして先ほどの超レーザーをぶち込んでもらおうと。本当は白上さんのほうが楽そうだったのでそっちが良かったのですが。やっぱりミオさんが来たときは心配でしたね。でも当たったならよし!」

 

 「まって。針の穴を通すような成功率の低い作戦を取った理由は今はいいや。問題は作戦の最後。どうやってレーザーを誘導したの?」

 

 「お答えしましょう。これです」

 

 俺は袖から一本の投擲アイテムを出す。

 

 「針?でもなんかメカメカしいね」

 

 「これはポインターというアイテムです。効果は刺した相手に対して常に位置を把握することができるモノでして投擲愛好家(トウテキニスト)の必需品です。なんとマーキングした敵に投擲成功率を上げてくれる優れもの」

 

 「投擲愛好家(トウテキニスト)て」

 

 「で、ですね。これはなんとお話を聞くとロボ子さんもどれだけ遠くても位置を把握できるようになるとのこと」

 

 「……ッ!なるほどね、私がとどめを刺したと思って背中を向けたあの時!あれは投擲しかできなかったんじゃなく投擲をしたかったのね!」

 

 「そうです」

 

 ミオさんの想像通りだ。俺はあの絶好の機会は逃がしてなどいない。むしろ作戦の一番の難所を超えたのだ。

 

 「わざわざ雑木林に入ったのも暗くて障害物が多いからね。それなら発射前の光がバレないから」

 

 「さすがです」

 

 少しのヒントで見破ってくるとはね。

 

 「じゃあ、もう一つ教えて欲しいの。最後のレーザーが来るときに完璧なタイミングで避けられたのはなぜ?コンマ以下の絶妙な方向転換で遅れちゃったんだけど」

 

 「簡単な話です。マーキングした3分と3秒後に撃ってくださいって言っていただけですよ」

 

 「ロボットのロボ子さんなら体内時計で完全に合わせられるけど……。でも君はそうじゃないでしょう?」

 

 「何を言ってるんですか。時計を見ていただけですよ」

 

 「いや、そんな素振りはなかった!もし時計を見ていたらウチに何かしら察知されると思っていたんでしょ?だから時計は見ていなかったし見れなかった。違う?」

 

 俺はそれを首を横に振って否定する。

 

 「俺はずっと確認していましたよ。自前の時計でね」

 

 俺は指をさす。場所は俺が最後のダッシュをした地点。

 

 「よく見てくださいよミオさん。おかしなところありませんか?」

 

 「……?木が根元から抜けて倒れている?」

 

 そうだ。その木そのものモノが時計なんだ。正確には時計だった。

 

 「あの木はなぜ根元から抜けた?俺のダッシュの衝撃?レーザーの余波?いいえどれも違う。正解は簡単です。俺が抜いたのです」

 

 「!?」

 

 「もちろん自分の腕力で引っこ抜いたわけではありません。そんな力はない」

 

 「うん。なにより君はそんなことをしていなかった」

 

 「それはそうでしょう。俺がポインターを投げた時にはもう引っこ抜いていました」

 

 「嘘……だってそんな暇は……」

 

 「10秒もあればできたんですよ、これのおかげでね」

 

 胸にしまい込んでおいたものを再び取り出す。

 

 「ま、魔導書!?」

 

 「正確には『FLOAT』の魔導書です」

 

 本当にこんなことになるとは俺も考えていなかったがな。

 

 「『FLOAT』は物を浮かばせるしかできない魔法でしてね。有機物、正確には生物を浮かばせることができない魔法だと聞いていましたが、まさか木には魔法をかけることができるとは。本当によくわからない魔法ですよ。まぁ今回はそれに助けられたわけですがね。この魔法の詳細は全魔力を使ってモノを一個浮かばせることができる。ただし3分以上でもなく3分以下でもなく、3()()()()()()()魔法が勝手に切れる」

 

 「――そういう……こと……」

 

 今度こそ完全に口を開いて驚いていた。

 

 俺がやったことは単純だ。胸を貫いて油断したミオさんが後ろを向いているときに小声で魔法の詠唱をする。詠唱がバレないのはロボ子さんとの作戦会議で知っていた。ある程度離れていれば彼女は聞き取れないことを。

 

 そして背中の木に触れることで発動させる。同時に運よく吹いた突風にポインターを潜り込ませてヒットさせる。まぁ、突風のせいで木が浮かびそうになって焦ったが。何とか木に触れて動かないように制御していた。立ち上がるまで木に体のどこかしら触れていたのはそういう理由だ。もちろん体調が悪かったのもあるけれど。

 

 「そうだったのね。攻撃を防いでいたはずなのに仕切り直してからずっとフラフラだったのは魔法で全魔力を使って魔力欠乏症だったから」

 

 本当にさすがだな。

 そうラーメンタイマーこと『FLOAT』は魔力をすべて吸い上げる。俺はただでさえ少ない魔力をすべて持っていかれ吐き気やめまいを覚えていた。だらだらとしゃべっていたのはレーザーまでの時間稼ぎだけでなく魔力の自然回復を待っていた。

 

 「あとは簡単な話です。3分3秒後にレーザーが来る。だから時間を稼ぎ魔法が切れたタイミングで突撃。そして3秒後にミオさんから離れる」

 

 「そしてウチだけが巻き込まれると」

 

 本当に針に穴を通すような作戦だ。工程を一つでもしくじればダメになる。即席かつ有り物で作ったからガタガタだ。

 

 「はぁぁぁぁぁ、悔しい!」

 

 ミオさんはため息をつくと五体の力を抜いて目を閉じる。その間に夜用の黒い戦闘服に着替える。

 

 「さてと……」

 

 「行くの?」

 

 「もちろん。頼りになる先輩が俺の帰りを信じて待っています」

 

 「ボロボロのくせにかっこつけちゃって」

 

 俺は脇目も振らず走りだした。レーザーによる焦げた地面に沿って走る。

 

 それにしても変な感じだ。体中がジクジクと痛むのに気分は晴れやかだ。これはいったい何だろうか。

 

 小さいながらも一歩一歩、少しづつ前へ進む。そろそろ体が限界に近いらしい。息も苦しいが、進むことができる。大丈夫。俺には待ってくれる人がいる。

 

 木陰の先から強い光が漏れ出している。藪を超えて光に飛び込むとそこには――

 

 「遅いよ――――颯太」

 

 笑顔のロボ子さんが出迎えてくれた。

 




 ハーメルンにおけるホロライブ小説で日間、週間、月間総合評価において一位ですよ!と連絡してくださり今更気が付きました。

 これも皆様の温かい応援と拙作ながらもお付き合いいただける懐の広さのおかげです。
 ここで最大限のお礼申し上げます。誠にありがとうございます。

 これからも慢心せずおもしろいと思っていただけるように精進してまいりますのでよろしくお願いいたします。
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