ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
一分だ。ロボ子さん抜きで白上黒上コンビに時間稼ぎできる間は一分。それまでにとっとと噴水に飛び込んで体を冷やしてきてほしい。
ロボ子さんに命令をすると短刀をくるりと手の中で回す。
どうしたものか。二対一だと思っていたらいつのまにか一体二になっているとか意味が分からない。こちと満身創痍だっていうのにあっちは元気はつらつといった感じか。なんで分裂して一人一人の戦闘力が上がるんだよ。
とりあえず俺がやれることは防戦に徹しつつヒットアンドアウェイで相手のダメージの蓄積を狙うか。……きついなぁ。
少し言葉で稼ぎたい。
「あなたはいったい誰なんですか?二人に分裂しているということは白上さんのもう一つの人格とか?千年パズルでも手に入れましたか?」
「俺は俺だよ。それだけだ」
うーん会話が続かないなぁ。苦手なタイプだ。その点ミオさんはよかったな。レスポンスが早くて反応が良かった。いじりがいがある。
「白上さん!いいんですかこんな方法で勝って!?多人数で一人をボコるなんて恥を知れ恥を!」
「君がさっきまでやろうとしていたことでしょ!?」
そうですよね。
引いてくれないならば仕方がない、暴力あるのみ。左足で大きく地面を蹴り、白上さんに近づく。そのまま黒上さんへ針を足元へ投げて牽制しつつ走る。狙うは一対一を二回行う。スピードを駆使して絶対に挟み撃ちをさせず、戦闘と離脱を繰り返す。
「はああああああ!!」
現在使える短刀最速のスキル「
白上さんはこれを難なく避ける。やはり負傷した足では十全にスピードを出し切れない。
「ふぐっ!」
意識の外、右後方からの衝撃に吹き飛ばされて無様に地面を転がり砂にまみれる。たぶん黒上さんの蹴りだ。痛すぎだろ。
ダメだ。このままじゃやられる。
もっと違うやり方を。もっと――最適化した――
思い起こすのはミオさんとの戦闘。目で追うのも大変なスピードの暴力。あれはどうやって生み出している?彼女は俺の蹴りで足を負傷しながらも速かった。
人と獣人……いいや違う。人と獣の差。スピード。一番の違い。
「オラァ!」
黒上さんの打撃が顔に迫っている。
それをしゃがんで避ける。短刀を口にくわえて左足一本で地上を舞う。それを逃さまいと黒上さんの零弾が放たれる。
それを今度は右手で地面を押して角度をつけて距離を取る。
そして左手でも地面を掻き、速度を上げる。
これだ。足だけで移動するんじゃない。両手も使って足のストローク中に方向転換をする。獣のような四足移動法。
これなら右足も使わずよりトリッキーな動きができる。
「後輩が水浴びから帰ってきたら獣人みたいになっていたんだけど。フブキの血でものんだ?」
ロボ子さんから声をかけられた。どうやらオーバーヒートを直してきたみたいだ。髪からはポタポタと水がしたたり落ちて小さく水たまりを作っている。
「失礼ですね。俺はいつだって純人間。そしてそれを誇りに思っているんです」
「純人間?」
なんでそこで疑問に思うんですか。
「戦えますか?」
「もちろん」
ならばいい、反撃開始と行こうか。
俺たちは頷きあうとそれぞれの敵を見据えて走り出す。俺は黒上さん。ロボ子さんは白上さんだ。
身に着けたばかりの獣人走行でジグザグに、ランダムに距離を詰める。
この勝負、どちらがより早く相手を倒せるかにかかっている。ならばそれは俺だ。俺がやるしかない。
「ハハ!いいじゃねぇか!」
黒上さんが吠えると黒く鋭い零弾が空間を占領していく。俺は体を低くして弾との接触面をできるだけ少なくしながら体を隙間に潜り込ませながら突破していく。
「お前実は獣人の血が混ざってるんじゃねぇか?」
「純人間だつってるんだろうが!」
記憶がないからわからないがな。
しかしながらどうしてこうなんだろうな。もっとスマートに勝ってみたいものだ。
ああ、そうだ。勝ちたいな。憎しみでもなく、驕りでもなく。いつか人の手を借りず、自分一人の手で。獣人に、エルフに、そして魔族たちに。人の力を証明して見せたい。
これはその覚悟の第一歩だ。
空の右手を覗く。この走行法では短刀を使えない。人類と動物を分ける絶対にして唯一のルールである道具を使えないのは痛い。
ならば――
拳を痛いくらいに握りしめる。威力にスピードという後押しを加える。
「おおおおおおおおおおおおおお!!!」
肘を引き、体を弓の様に引き絞り、回転を加えながら放たれた拳は黒上さんの正中線を抉ろうと飛び抜き
「ッ!」
見えないナニカに阻まれた。
拳が数cmのところで届いていない。見えない――いやうっすらと空間という液体に黒の絵の具を垂らしたような渦巻くものがある。
完全に防がれた。
拳から肉が裂け、血が流れる。コンクリートを殴ったかのような痛みと、やってしまったという後悔が胸を貫く。
「クッソ」
こんな防御を持っていたのかよ。視認が難しい壁。これではどこから打ち込むかある程度限定されて、迷いが生まれる。
それはつまり戦闘時間の延長を意味する。
冗談じゃない、これ以上は限界だ。なによりまた仕切り直しをして弾幕を作られると、また突破できるとは限らない。
ここで――今ここで仕留めたい。
「グ……オオオオオォォォォォォォォ!!!」
力を込める。両足に全神経を集中させ踏み込む。拳の持つ圧力を増大させる。
先ほどのインパクト時に骨にひびが入ったのか尋常じゃない痛みが流れ込んでくる。
しったことか。ここで仕留めきれ。
壁越しに黒上さんの顔を覗く。
「こんの……!」
あちらも辛そうだ。この防御の術が虎の子で使うのも負担なのか、それとも俺の力に押されているのか。どちらでもいい、破る可能性はまだ残されている。
「まだ……まだ……出せるだろ……!そうだろ……!!」
自分を鼓舞する。
体が淡く青く光り始める。力が内から登ってくる。
ビキッ!!
拳と壁の間から音が響いた。
それを皮切りに断続的の音が続く。
ビキキキキキ!
薄黒い空間にクモの巣のように切れ目が走り割れていく。
「もう……ひと押しぃ!!」
壁から拳を離す。鮮血が舞い散り地面を彩る。
全体重を前に向けてより力を込める。地面から足へ、足から腰へ、腰から胴体へ、胴体から腕へ。関節の捻りを生かしてより効率的に力の加速を行う。
「あああああああああああああああああああ!!!」
そして訪れる手への衝撃。しかしそれは一瞬で――
バキィ!
最後の守りを壊した。
「グワァァァァァ!」
相手の胸に到来した一撃はすさまじかった。
10m以上吹き飛び、数度バウンドをして樹木に当たることでやっと動きを止めた。
俺は握りこぶしを突き出した状態で止まったまま、手から流れる血の感触と痛みによって流れる冷や汗から察した。
右手、逝ったな。
痛む手を抑えながら黒上さんのもとに向かった。
「あーークソッ!まさかあんな変態走行があるとはな!」
「だれが変態だ、だれが」
倒した強敵から技を盗む熱い展開だったでしょうが。
「というか変態っていうのはあなたみたいなことを言うんですよ」
「うっせ」
二人に分かれるとか生物学的に正しい使い方だ。この変態少女め。
「お前ほんとよくわからないやつだな」
「何がです?」
「お前さ、基本ザコじゃん」
「え、こんな急にディスられることあります?」
泣くぞ。いいのか?
「人間族に時たま現れるヤベー奴ではない。でもただの人間としての枠組みともまた違う」
「人間ですよ俺は。どこまで行ってもね」
「……ハン」
鼻で笑うなよ。しかし結局何が言いたかったのだろうか?
「ほらさっさとあの白いのやって来いよ」
「仲間としてそれでいいのですか?」
まぁ、彼女はもうできることはないからな。さっさとロボ子さんと二人で倒させてもらおう。
「一人でいて大丈夫です?寂しくないですか?」
「早くいけって!」
手が痛いからギリギリまで雑談して休憩したかったんだがな。しょうがないなぁ。
俺は爆発音のするほうに足を動かし始めた。
「伝承でしか知らなかったが……アレがなぁ……」
後ろで何か聞こえた気がした。
「にゃあああああああああああああああ!?」
ロボ子さんのもとに着くと一方的ないじめ現場に居合わせてしまった。雨あられと空から降るミサイルに叫び声をあげる白上さん。どうしてここまで一方的なんだ。
「あ、おかえりー。そっちもう終わっちゃったの?」
「ええ、まぁ。……なんですかこの状況?」
「彼女の攻撃、機人――ロボットのボクにはダメージがないものが多いからさ。一方的なんだよね」
「ここまでひどいとは」
いくらなんでもあんまりだろう。ちょっと白上さんに同情してしまった。
「クロちゃん!助けてー!」
もういないんですよ!っていうのはもうかわいそうな気がした。せめて希望にすがりながら脱落していってもらおうか。
カチ!ドォン!
「ぎにゃあああああああああああああああ!!?」
「あー……」
足元に埋まっていた地雷を踏んだろうのだろうか、爆風と共に空に打ちあがる白上さんを眺めながら俺はロボ子さんに少し引いていた。この人とは絶対に喧嘩しないでおこう。
「血が通っていない人はこれだから……」
「え?なんでボク責められているの?とゆうかロボット差別されている?」
別に急いで終わらせる必要なかったな。溜息をつきながら右手の拳の血を拭う。
「手、大丈夫?」
「きついっす。正直短刀を利き手で振るのはもう難しいかもしれません」
「ありゃー」
そろそろ本当にまずくなってきた。右手右足はその機能を生かしきれず、体力はないに等しい。実はここまで歩くだけでもかなりきつかった。
無理かなこれでは。
空を仰ぐ。
しかしここまで派手な戦闘音を響かせながら誰も来ないなんて運がいいな。疲弊したところを漁夫の利狙いの輩が来ると思っていたんだが。
――いやまてよ。運がいい?そんなことで済ませていいのか?もっと考えて方がいいのでは?
敵が来なかったのはたまたまという最高の幸運ではなく、もし最低の不幸ならば?
敵が来ないことが不幸。敵が来なかったのではなく来れなかった。なにかしらに邪魔されて――
その考えに至ると同時に校舎の屋上から一筋の光が見えた。そうだ、もしこれが最悪の状態だったら。もしかして利用されていたのならばこの状況と場所は――
「ロボ子さん!今すぐここから離れ――」
俺が言い終える前に――
ドッ!
何かが俺の肩を貫いた。
書き終わったときにいつも終わり方がワンパターンだなって思いました。