ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
改めて考えると到来するのはなぜという感情。自分を痛めつける趣味はない。逆境に身を置いて終わらせた時の達成感に酔いしれる楽しみも知らない。つらいことから逃げることに罪悪感を持ちはしない。
……いや。それが勉強などの将来において必要なことならばある程度我慢して生きることはできる。
だけれどもこと戦闘力に関してはどうだろうか。こんなもの磨いたところで意味なんてない。この平和で法治国家の生活では力など意味を持たない。せいぜい自衛ができるかどうか。それだって使う機会があるかわからない。一生に一度、暴漢相手に披露する程度だ。
つまり俺が言いたいのはなぜ俺は痛みを我慢して、ボロボロになりながらもこのバトルロワイヤルに挑んでいるのだろうかということだ。
記憶が消え去った今でも何となくわかる。俺は情熱、努力、友情、それらと真反対の人間で、そういうのとの関わりを絶ってきたんだと思う。こんな戦いも始まると同時に棄権を宣言するような、どうしようもなく冷めて荒んだ人間性。
それがどうしてここまで頑張っているのだろう?足は歩く振動でトンカチを撃ち込まれるような鋭く、それでいて鈍い痛みがやってくる。右手は指をうまく動かせず断続的な痛みが思考を鈍らせる。
頑張りなんてくだらないだろうに。世界はお前を中心に回っているのではない。誰も中心ではない。そしてこの世界も外部の意思からいつでも簡単に壊れる――薄氷の上に形成されたものだというのに。一か月後、一日後、いや一秒後にでも崩壊してもおかしくはないんだ。
いい加減思い出せ、目を覚ませ。賢いお前に戻るんだ。戦う力を得てどうするんだ?お前はただの人間だろう?エルフでも魔族でも機人でも、そして人の頂点に近づいた化け物どもでもない。人なんだよ、どうしようもなくただの人間なんだ。だからわかるだろう?
いともたやすく壊れるこの世界で努力するなんて馬鹿だろう?
人間なのに亜人族と戦うなんて無茶だろう?
そうだな。そうだよな。俺がどれだけ頑張ったところで無意味だ。同じクラスの銀髪の彼女は俺と同年代なのに聖騎士だった。人でも結局のところは才能が付加価値を与える。人生という道に才能は舗装し、天気を変え、歩みやすくする。いつの間にか凡人とは違う、遥か先へ、高みへいる。同じ時間走ったのにえらい違いだ。
わかってたよ。わかってたさ。
――でもさ諦めきれないんだよ。
自分の記憶と感情が惜しいわけではない。躍起になっているわけでもない。俺はただ――
『――は、―て――美し―と―わない――?』
――ああ、そうだ。別に大層な理由はあるわけじゃない。記憶がない俺にはなぜ走りだすのかわからないが、理解できる。
確かにある。胸の奥の底の底。自分を形成する大切なところに燃え上がる小さく確かな灯火が揺らめいている。
俺はただ、信じたいんだよ。人間の弱さと、そこから生まれる
「う……ぐ……」
暗闇から起きだす。どうやら気絶をしていたみたいだ。瞼を数回開閉させた後、自分の現状を把握する。
「イッツ!」
左肩から下が全く動かない。指を動かせるが上げることができなくなっていた。
「気が付いた?」
優しく包むような声が頭上から降る。ロボ子さんだ。
「はい。ここって?」
「さっき闘っていたところからそんなに離れていないよ。ここは噴水の裏」
「……噴水?なんでこんなところで……?」
「待って!」
俺が体を起こそうとすると押さえつけられた。
「今体を起こしちゃダメ!とゆうか噴水の幅より外に出ちゃだめだよ」
俺の体を押さえつけながら口早に説明をする。
体からカメラのようなものを取り出すと映像が浮かんできた。
「これを見て。噴水を挟んだ向こうの校舎の屋上の映像。ほら」
空中に浮かび上がる映像を地面に横になりながら覗き見る。どうも二人の姿が見える。さらに目を細めながら確認する。
「あ!」
屋上には白い髪をたなびかせ、うつぶせのまま物騒なドデカいスナイパー銃を構える獣人を確認できた。
「なるほど」
状況が理解できた。
あの獣人の子に打たれた俺は致命傷を避けたものの気絶。ロボ子さんが何とか俺を引っ張りながら近場の障害物の噴水に身を隠して俺の回復と機会を待っていてくれたのだろう。
「まずいですねこの状況」
コの字に建てられた校舎は屋上を簡単に行き来できる。そして中庭にある障害物はこの噴水のみ。そしてここは一番目立つ激戦場。このまま時間が経過すれば誰かが来るだろう。その時は、あのスナイパーに撃たれる覚悟を持ちながら撃退しなければならない。いや、そもそも噴水の影から出たら即射殺される。それくらいの静かながらも研ぎ澄まされた殺気が数十m離れたここからでも感じ取れる。
「これだから獣人は……」
狩りを得意とする彼女たちにとって待つという行為は決して苦痛ではないだろう。獲物が衰弱して簡単に狩れるようになるまで何日でもあの姿勢のままでも入れるだろうな。
「最悪ですね……」
「うん……」
このままではジリ貧だ。なにかしら作戦を考えなければ。
「ロボ子さんはもし銃弾にあたっても大丈夫だったり……?」
「しないね。見てこれ、ガードごと腕を撃ち抜かれちゃった」
目の前に差し出された腕を観察すると黒い焦げ跡と見るも痛々しい穴が開いていた。
「ロボ子さんの防御も貫通するか……」
もしかしたらしっかりと位置を把握されたら噴水ごと撃ち抜かれそうだ。
「彼女がほかの誰かに狙われる可能性に賭けるのはどうでしょう?」
「それも無理そうだよ。ほらこの映像の扉の前のとこみて」
映像には扉の前に座っているエルフ耳の少女が見える。
今気が付いたが扉が氷でガチガチに固められている。察するにあの青髪のエルフがやったのだろう。この扉を封鎖している氷の厚さと質からかなりの使い手なんだろうな。彼女が屋上を守る限り他の人が彼女と戦うのは期待できないか。
「……」
針を一本真上に放り投げてみる。
バァン!
「うわぁ……」
狙いにくい細い物体を即ブチ抜きやがった。腕前はかなりやばい。(小並感)
「なんか作戦は思いつかない?」
「……いやぁ、まぁ」
無くはないんだが……いかんせんこれを行うと俺が……。
「このままでいいんじゃないですか?現状動く必要もないし、このまま密着していましょうよ」
「え、やだ」
「ちょっと泣いてきますね?」
予想外の場所から立ち直れないくらいのダメージをもらった。
「それにね。あちらは現状維持を望んでいないみたいだよ?」
ロボ子さんのそのセリフに慌ててあたりを見渡す。空からはなにも振っていない。校舎に動きはない。敵の気配もしない。
そこまで考えて違和感に気が付いた。息が白くなっている。体中の痛みで見逃してしまったが、気温がどんどん下がっている。
校舎側の地面からどんどん霜がゆっくりと迫ってきていた。
「……あれは?」
「敵の氷魔法だね。ここまで来たらまずいかも」
「避けることは?」
「動きがゆっくりだから簡単だよ。校舎と逆の方向に逃げるだけだね。ただし撃たれる覚悟があれば」
「……」
「……」
「詰みましたね」
「詰んだね」
終わったわこれ。
なんて諦めるにはさすがにまだ早いよな。
「ロボ子さん。
「ししろーん!これいつまで続ければいいのー?」
「敵さんが倒れるまで」
「えーー」
校舎の屋上、地上25m地点で戦闘中とは思えないほど呑気なやりとりが聞こえる。
「ししろんが撃っちゃえばいいじゃん!」
「いやー顔を出してくれないからさー。それに戦いを見てたけどなかなか手ごわそうだし。安全マージン取っていきましょ」
獅白ぼたんと雪花ラミィ。この二人はバトルロワイヤルが始まってからほとんど動かずに敵を屠ってきた。それは絶好の狙撃スポットを密室にするという方法をもって。これにより安全に倒しており、ポイントを得ていた。
なにより彼女たちにとって今は狩り時なのだ。警戒していた獣人の先輩たち。彼女たちなら校舎の壁を走り、よじ登ってくることも可能だっただろうが、排除してくれた。おまけに戦闘音につられてノコノコやってきた敵も狩らせてもらっている。これ以上おいしいこともない。
その棚から牡丹餅を落としてくれる敵も疲弊しており、噴水裏に追い詰めた。このまま魔法で追い詰め、凍るか眉間に穴をあけるかの二択。手を抜くわけにはいかない。
「まぁ、何もできないと思うけどね」
そうひとり呟くとスコープを覗く。相変わらず動きはない。あと2分もしたら噴水に魔法が届く。あと二分の辛抱だ。
だがここで予想外の事態が起きた。
ぼふぅぅん!
噴水の裏から煙幕が出てきたのだ。
「な!?」
これは予感できなかった。まさか煙幕があるだなんて。校舎の形から風が通りにくく、気温も下がっているせいか煙幕は拡散せずそこにとどまり続けている。
しかし問題はない。スコープは熱も探知する。そこから動けば撃つ。
一人でそう決意すると引き金に指をかける。
だが――
ドドドドドド!
現れるのは無数のミサイル。煙の中から飛び出したそれは天に舞うと屋上へ振り注ぐ。
「アイスドーム!」
同時にラミィの魔法により空へ氷の天井が作られる。数秒後に爆音、衝撃。しかし無傷だ。
(最後のあがきにしては地味だね!)
割れた氷に気を留めずスコープを覗き続ける。だが――
ドドドド!
またミサイルが撃ちあがる。
「何度来ようと――」
それを防ごうと魔法を使うラミィ。天井に張られる氷の要塞。
しかし獅白ぼたんは気が付いた。獣人として持つ動体視力、そして思考力。それが先ほど見た光景から今魔法を使うことにある危険性を感じ取った。しかしもう止まらない。
同じように轟音と衝撃。
これでまた仕切り直し――となるはずだった。しかし星本による作戦はすでに完了されている。
ドームの下にいるものが怪我をしないように配慮された、細かく砕かれた氷の結晶がキラキラと煌めく。北の地でしか見れないダイヤモンドダストが巻き起こるが……。
美麗な現象に不相応な存在が紛れ込んでいた。体から炎を吹き出し空中を魚のように自由自在に泳ぎ回る。
「いくよぉぉぉ!」
はるか下で手をこまねいたはずのロボ子だった。