ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
「作戦はこうです。ロボ子さんが屋上に飛んで行って敵を撃破する以上、では行ってらっしゃい」
「無理に決まってるでしょ」
作戦会議中、俺の名案をすげなく却下するロボ子さん。
「まったく、これだからロボットは
「ロボット差別主義者め」
可能か不可能かではない。やるかやらないかが問題なのだ。だがロボ子さんはそこがロボットらしく
「なにも一人で空を飛んで行けと言ってるわけではありません。俺も手伝いますから」
「いや、そもそもどうやって飛ぶの?装備にジェットパックはあるけどあれは……その……」
「もちろん理解しています。ロボ子さんみたいな大質量を飛ばすことはできないんですよね?」
「いやそうなんだけど、その言い方は腹立つ」
想像するに滞空出来る程度のモノなんだろう。だがそれでいい。滞空できるならばあとは俺が何とかする。問題はどうやって屋上まで飛ばすかではなく――
「でも無理じゃない?あの獣人の子が狙っている限り撃ち落されるよ」
そう。屋内から進むのならばまだしも外から無理やり屋上に向かえば必ず撃たれる。
もちろん心得ている。一工夫するつもりだ。
「ロボ子さん、煙幕張れますか?」
「う、うん。でもすぐ消えちゃうんだけど」
「ここは三方を校舎に囲まれて風が届きにくく、冷気で空気が下へとどまりやすいです。それなら30秒は稼げるでしょう?」
「たぶん……」
「よし。十分です」
あとはタイミングと想像道理のことをしてくれるかだ。
両手を握って、開くを繰り返す。左手は……動かない。撃ち抜かれたせいでどうもやってしまったらしい。肩が上がらず指の動きが緩やかだ。箸も持てないかもしれない。右手は指の流血も止まり始めている。握ることもできるが痛みがひどい。
やるなら右手か。
……いまさら何を躊躇っている。覚悟を決めただろ。この作戦が決行されれば俺は――
未練たらしく覆いかぶさる思考を頭を振り、払うとロボ子さんの瞳を見つめる。
「この作戦が始まれば俺はリタイアです。援護してあげることはできません」
「……え?」
そう。この作戦における消耗品は俺自身だ。始まると同時に俺は潰れてバトルロワイヤル敗退する。
本当はこのまま生き残りたい。いろいろな人たちに戦いを間近で見たい。
だがそれ以上にこう思った。
ロボ子さんに勝って欲しい、上に行って欲しい。俺がいつか達成したい景色をいち早く見てもらいたいと。
「何かほかに方法が……」
「俺が考えつく限りこれしかないです。それに時間がない。魔法がここに届くまでに目算二分。もしかしたらあれは前座で二の矢、三の矢があるかもしれません。やるなら今ここでです」
「……」
顔を落とすロボ子さん。長い前髪からはその表情を見ることはできない。
落ち込んでいるのだろうか。自分だけが生き残ることに罪悪感を感じているのか。
「何へこんでいるんですか」
俺は別に何とも思っていない。そりゃここまで来て脱落するのは寂しいがしょうがない。それにロボ子さんがいなければここまでこれなかった。俺がロボ子さんに感謝こそするが、ロボ子さんが俺に負い目を感じることはないのだ。
「いきますよ。空を飛んでください」
「……うん!」
第一回バトルロワイヤル、最後の大仕事だ。
「お願いします!」
合図とともにロボ子さんの手が変化し、パイプ状のものが出てくる。そこから煙があふれ出し、あたり一面を包み込んだ。
作戦の第一段階終了。
続いては第二段階。相手の警戒を一度だけ上に向ける。
「ロボ子さん!今です!」
背中から数本のミサイルが射出される。はじき出されたミサイルは一度重力に引かれて落ちると点火し、そのまま垂直に空へ飛んでいく。
見送ると急いで映像に視線を移す。
一瞬慌てるがエルフの少女が空に氷の天幕を作り防ぐ。
やはり想像したとおり、撃墜ではなく防ぐ方法を取った。
扉を封印している厚い氷から察していた。彼女が得意とする氷魔法は特に氷の頑丈さを重きに置いているのではないかと。ならば超スピードのミサイルを狙って撃墜するより、安全で得意な防御を取る。
作戦の第二段階終了。
これで彼女たちはこう思うだろう。「ミサイルは防げる。本人たちに気を配らなければ」と。
確かにその通りだ。だからこそこの第三段階が活きる。
目線で合図を送ると俺も準備をする。
ロボ子さんがもう一度ミサイルを射出する。音を立てながら空へ旅をするそれを見届けると同時に完成させたアレを発動させる。
「『FLOAT』!」
おなじみラーメンタイマーだ。まさかここまで使うことになるとはな。意外とこの世に無駄なものはないのかもしれない。
魔法の発動と同時にロボ子さんが浮かぶ。そうこの魔法は有機物、生物には使えない。しかしロボ子さんはあくまでロボット、生物ではない。魔法の対象だ。たとえ1tでも10tでも浮かばせられる。
もちろんこのまま屋上に行ってもらうわけではない。確実に撃ち落される。必要なのは一瞬で上を取る方法。
それは俺の役目だ。
「行きますよ!?準備はいいですか!?」
「大丈夫!終わったらおいしいモノ食べに行こうね!」
「……はい!」
最後の別れを交わす。これでロボ子さんとはしばしのお別れだ。一抹の寂しさが胸を締め付けるがもう決めたことだ。俺は俺を犠牲にロボ子さんに上に行ってもらう。
「では!」
狙いを定める。角度は70度から80度の間、屋上の敵に近づきつつ上を取れるように調整する。
煙で見えなくても問題ない。今まで狂ったようにやってきた経験則から成功させる!
「おおおおおおおおおおおおお!!!『投擲』ィィイイイ!!!」
ロボ子さんを投げた。
『投擲』の飛距離はその投げる物体の大きさによって左右されるわけではない。物体の質量、つまり重さによって飛距離が決まる。
これは重さの数値と俺の筋力、そしてどれだけ『投擲』してきたかによって決まる。
現状で、重さ指数1の針だったら25m。指数2の石ころだったら18m程度。重ければ重いほど飛距離は落ちる。
ならば重さ指数0ならば?普通ならばあり得ない。この世界に質量がないものは存在しないし、ある程度の重さが無ければ投げることは出来ない。綿や糸を遠くに飛ばせないようなものだ。
だがこと『FLOAT』ならば話が違う。これなら重さを限りなく0に近くしながら限界を超えて物体を遠くへ運べる。
タイミングは完璧だ。空へ上り落ちてきたミサイルにロボ子さんを潜ませることに成功した。相手は防御のために厚い氷で空を守っているためロボ子さんに気が付くのは難しいだろう。やられたと気が付くのは氷が割れた時。その時がロボ子さんの一方的な殺戮の始まりだ。
「……ハァ……ハァ。……ッオエェェェ!!!」
強烈な吐き気と眩暈で胃液を吐きながら倒れこむ。……さすがに無茶だったか。
『FLOAT』の最大の利点にしてダメなところ。それは魔力を使い切るところ。この魔法の発動条件は「残存魔力のすべて」だ。これはどれだけ魔力が少なくても発動できるというメリットだ。たとえMPが1だろうと発動できる。
しかし必ず魔力が底をつき、魔力欠乏症が待っているのはきついものがある。使うたびにこの吐き気と眩暈、高熱も出てくる。一日に二回も使うものではないな。回数を重ねるとどんどん症状がひどくなる。
なんとか噴水につかまり立とうとするが力が入らない。
……仕方が無いか。戦いで血を流し過ぎた。体中怪我をしてもはや動くことが煩わしくもある。頭上からは爆発音が聞こえてくる。ロボ子さんなら大丈夫だろう。
目を瞑る。ここまでか。
――すこし――寝――たい――な――
氷が砕かれると同時に現れたロボットは頭上からおびただしい量の攻撃を振らせる。ミサイル、機関銃、手榴弾。その機人としての特性、正確さを活かしながら相手に反撃を許さず物量で追い詰めていく。
獅白ぼたんは何度かスナイパー銃でエイムを合わせて狙ったり、C4爆弾を投げつけるが圧倒的物量で封殺される。
「ししろーん!たすけてぇ!」
「無理無理無理無理無理!」
人間に遊ばれ、もがく虫の様に逃げ惑うしかできない二人に対して上空のロボ子は冷静かつ徹底していた。ジェットパックを使って飛び回る。『FLOAT』の効果で浮かんでいるため、推進力としてだけ使うのは十分だった。
二つの陣営を分けるのは覚悟の差。圧倒的有利ポジションで油断していたのと、仲間を犠牲に倒しに来た場合の気持ちの差がポテンシャルに違いを生む。
(これはまずい!何とか離脱しないと)
獅白ぼたんは一人考えるが迷っていた。扉はラミィが封印しているため屋内という安全圏は無理だ。防ぐのに手いっぱいなラミィは扉の氷を解かす暇はないだろう。選択肢は一つ、ここから飛び降りることだ。
だがどこへ行く?校舎の裏の体育館側へ回るか、表の中庭側に回るか?
表へ行けば素早く校舎の正門に入れるが広く見晴らしがいいから撃たれる可能性がある。裏へ行けば一番近い建物が体育館だ。しかしながら、わざわざあんな
どちらも生き残る可能性は低かった。しかしこのままでは二人とも全滅する。ならば賭けに出るしかない、そう考えるとラミィに指示を飛ばす。
「らみちゃんは裏側に!私は表に飛び出そう!このまま全滅するよりはどちらかが生き残る可能性にかけよう!」
「……分かった!」
同時に二人は後者から飛び降りる。
気になるのはあのロボットだ。どちらを追いかける?もしこちらに来るのなら落下しながらでも撃ち抜いて――
「あーあ。獅白さんだっけ?そっちは一番ダメだよ」
風の中から小さくロボ子が呟いたのを聞いた。憐れむように目を向けた後、校舎の裏、雪花ラミィを追いかけ始めた。
まるでもう終わったと言わんばかりに興味を完全になくしたようだ。
(なにをいっているの?こっちはなにも……)
思考をフルに回転させる。こちらに何か罠がある?地雷か?いやそんなもの設置していなかったはずだ。表側にあるのは噴水と晴れようとしている煙幕とすでにリタイアしたにんげ――
「ようこっち向けよ
まだ寝るには早いよな。ロボ子さんがもし一人逃がしてこちら側に来たのならしっかりと排除しなければならない。しかしてその心配は確信に変わった。獣人は一人逃げてきた。
ロボ子さんはこちらを向くが俺の存在を認知すると少し笑って校舎裏に飛んで行ってしまった。
……まったく。もう動けなくなるって言ったのにわざと逃がしたな。――俺を信じて。
ならばその期待に応えなきゃな。
これで本当に打ち止めだ。この技を出せば今度こそ動けなくなる。今みたいに気合で何とかなることも無い。
「へへ……」
つまり十分だ。
「おい百獣の王様よ。なぜ
腰からわずかに機能する親指と人差し指で挟みながら短刀を引き抜く。
「なら教えてやるよ。その選択は大不正解だ」
右手を引きいつもの構えを取る。
「あまり人間をなめるのも大概にしたほうがいい」
終わらせる。
「ック……!」
まさかまだ事切れていなかったとは思わなかった。そしてもし生きていてもあの人間ならば勝てるとも思っていた。内心を見透かされたようで少し苛立つ。
だが問題ない。相手は満身創痍。こっちは余裕がある。そして狐の獣人との戦いを観察していた。なにより――
(着地する前にとどめを刺す!)
こちらには投擲に勝る飛び道具がある。屋上から地面までの落下速度は多く見積もっても2.5秒。これだけあれば問題ない。
神がかり的な速度と正確さでスコープを覗きエイムを合わせる。狙いは当てやすい胴体。この距離なら一発でも当てればKOだ。
ガギィン!
しかし引き金を引く瞬間、空中にいる限りありえない衝撃が銃身に伝わり狙いを大きく外し、明後日の方向に弾が飛んでいく。
「なッ……!?」
スコープを覗いていたため分からなかったが、壊れたスコープと自分の真上にある存在が状況証拠として何が起きたのか理解させる。
(短刀を投げた!?)
そう、短刀を『投擲』したのだ。短刀は針と違い重く威力がありスコープを壊すことは訳がなかった。だが自分の生命線を投げるという選択をできるとは考えもしなかった。
(いや!これなら好都合!)
颯太は武器を失った。スコープを失ったのは痛いが、彼は武器そのものを失った。このまま着地して接近戦をすればライオンの獣人である自分のスピードとパワーで圧倒できる。ネコ科の自分なら着地の衝撃も最低限。素早く倒して屋内に隠れられる。
(そう考えているんだろ?ああ正しいよ)
颯太は内心で独り言ちる。このまま着地すれば獣人の特性を生かした戦いになり武器もなく今にも倒れそうな俺はやられるだろうと。
だからやられるまえにやる。
グラッ……。
突如颯太が倒れる。
限界が来たのか?いやちがう。大神ミオとの戦いで見せた脱力とそこから来る超スピード。
だが相手は今だ空。
しかし関係ないとばかりに走りだす。初速がトップスピードのそれは20mを瞬きの間に駆け抜けて校舎に着く。
そして――
「おおおおおおおおお!!!!」
窓のサッシを踏み台に校舎を垂直に登る。重力に反逆するその行為は一切のスピードの減速を許さず獅白ぼたんにたどり着く。
「空中戦!?」
急いで体勢を立て直し迎撃の準備をするが――
「ッ!?」
そのまま獅白ぼたんの上を取る。
颯太の狙いは最初から一つ。
「短刀を!」
そう、空中の短刀を拾うこと。そしてこの空の戦場で終わらせること。
壁でブレーキをかけると屈み、今度は斜め下のぼたんに飛び込む。だがおかしなところが一つ。短刀が両手に無い。
(どこに行った?)
野生の本能から不気味な感触を全身で感じとるぼたん。持ち前の視力から目的のモノを見つけ出す。それは意外な場所にあった。
(足!?)
短刀を足の甲と裏で操っていた。
「短刀対空技の肆……」
颯太は空中で体をひねると右足をぼたんにフォーカスする。それは特撮の有名な蹴り技の様に、一つ違うとしたら足裏に固定された短刀がぎらつかせながら一緒にその命を刈り取らんと淡く光り始める。
「
ここで獅白ぼたんは悟る。自分の失敗に。相手の信頼関係、自分の強者としての慢心、そして人間の強さを見誤ったことを――
「
青い光の螺旋が空と空間とぼたんを抉る。勢いは加速し地面に叩きつけてもなお収まらず威力を上げる。地殻を抜くのではないかと錯覚させるそれは砂塵を巻き上げ、光が拡散していく。
数秒後、鉄と鉄を回転させてぶつけ合わせるような音は消える。
土煙の中一人の影が現れる。影は手を掲げると振り抜き煙を払う。
そこには満足げな颯太がいた。
もう限界だ。瞼が下がろうとしている。これから先の人生を犠牲にしたかのような心持ちだ。フラフラと校舎に向かう。ロボ子さんはどうなっただろうか?心配だ。これじゃただ足でまといだが様子だけでも――
そこで膝の力が抜けて倒れそうになる。なんとか手をついて体勢を立て直すがもう本当に限界みたいだ。うまく目が言えない。音が聞こえない。
だめだ――ねむい――
「あーーーー!やっと見つけたぁ!あの鬼に体育館に行くって言うから隠れて待ってたのにこんなところに!ちょっとどういうこと!?」
意識が切れる瞬間なにか言われている気がした。褐色のエルフが見える。
あっ……倒れる……。
「武勇伝が本当か確かめるつもりだったのにまさか逃げるなんて!どういうつもりええええええええええええ!?」
やわらかい感触が俺を包む。
「ちょちょちょ!いきなり抱き着くとかなに!?私たちそういう関係だっけ!?」
「フレアー?フレア何して………………。フレア……?なんで……?嘘だよね…………?そんなの嘘だよ……」
「ノエちゃん!?違うから!これはこいつが勝手に抱き着いてきたんだから!」
「フレア……」
「違うからぁぁぁぁ!!」
俺の意識はそこで完全に落ちた。