ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 書くことは何かという境地に至ったので初投稿です。


ヴァンパイア

 荒い息を吐きながらもなんとか状況把握に努める。場所は住宅街の一本道。時間は日付が変わる3時間ほど前。

 目に映るのは一週間以上前に俺がこの手で葬った2体のヴァンパイアの片割れ。呪いを振りまくことに見境がないカースド・ヴァンパイア。数日前に知ったことだが第一級の犯罪者として指名手配されていた。

 そんな超1級のやばい奴がなんでここに――いや、そもそもなぜ生きている!?俺は確認をしっかりとしたはずだぞ!カースドは完全に生命活動を停止し、ロブは砂となっていた。しっかりと殺しきったはずなのに……、いくら不老不死の怪物といえども限度があるだろう。

 

 「――なぜ生きている?」

 

 喉から水分が消えて、異物が張り付いている違和感と痛みが走る。つばを飲み込んで襲い掛かる感情を押し殺す。悟られるな、俺の不調と感情を。

 

 しわがれた老人は見た目とは裏腹に、芯のある直立のまま、くつくつと笑い始めた。

 

 「聞きたいのはそうではないのではないかね?」

 

 「……なに?」

 

 的外れもいいとこだ。俺が今一番聞きたいことは「なぜ生きているのか」に限る。こいつがどうやって蘇ったのか、そもそも本物なのか?それを知らなければ始まらないのだ。

 

 だが次に発した一言で心が大きく揺れた。

 

 「記憶と感情のありかは聞きたくなのか?」

 

 「ッ!?」

 

 やはり、記憶はこいつらが持っている!そして場所を知っている!つまり――

 

 「今宵はここ100年でも特別に気分がいい、どれほどくだらない問いが来ようとネズミ相手に応えてやらんでも――」

 

 「旧魔王軍が持っている。違うか?」

 

 「――ほう?」

 

 意外だったのか整った眉がわずかに上がった。

 

 反応を見てわかった。やはり、ちょこ先生の情報は正しかったのだろう。

 それだけにわからない。先生の情報がすべて正しいと仮定して、なぜあいつはまだ生きている?

 

 そこに何かしらの秘密があるのならば暴き、伝えなければならない。もし完全に不老不死ならばそれ相応の手段に講じなければならないからだ。

 俺がやるべきことは一つ。こいつ、もしくはこいつらが持つ回復手段の情報を持って帰ること。そして今その方法がここにあるれば、可能なら断つこと。

 

 見誤るな、冷静になれ。自分がすべきことをこなせ。

 俺のフィールドに連れて行け。

 

 「存外にわきまえているようだな?多くのモノは躍起になるんだが……」

 

 「恵まれたことに恩師に出会ってな」

 

 「ふむ?」

 

 「それよりもこっちの質問に答えてもらおうか」

 

 姿勢を低く奴の動きに対応できるように準備をする。

 

 「……つまらん」

 

 「は?」

 

 何を言っているんだこいつは?つまらない?つまらないって――

 

 「その動きから推測するに逃げるつもりか」

 

 「……」

 

 「世界の理の外……。外法ではなく、システムの外を体現した者かと期待していたが……やはりネズミはネズミ、実験用動物にすぎぬな」

 

 ――何を言っているのかわからない。だがいいさ。この状況では俺の勝利条件は逃げることに間違いない。逃げるが勝ちなんだ。

 

 「終わらせるか……」

 

 「ハンッ!終わらせるって?まさかお前が俺に勝つつもりなのか?」

 

 「……それ以外に何がある?確かに今は復活直後で弱っているが力の差は分かるだろう。恐怖でおかしくなったか?」

 

 「おっと!雑魚が使う常套句発見伝!俺の質問に答える気はないようだし自分のブーメランを頭に突き刺せば?質問の答えが分かるし近隣住民の皆様は血吸い蝙蝠が消えて一石二鳥だわこれ」

 

 「……」

 

 頭に青筋が浮かんで怒気が強まったのが分かる。ここまで煽りやすい敵もなかなかいない。

 

 「先日の戦いでワシのすべてを見抜いたつもりか?貴様はただ外法の――」

 

 「分かっている分かっている。お前は本気を出していないんだよな?本気を出していないけどそこら辺の齧歯(げっし)目に負ける蝙蝠以下の存在なんだな?」

 

 「貴様――」

 

 「いやいやいや、俺は褒めているんだぜ?その恥知らずの具合は一種のエンターテイメントだ。名前をつけようか?Vamp of chicken(臆病な吸血鬼)とかどう?」

 

 「いい加減に――」

 

 「おいおいそう怒んなよ?現実を見ようぜ?あ、蝙蝠の目って退化しているのか!そりゃ現実見れんか!もしかして俺の姿も見えていない!?」

 

 「殺すッ!!」

 

 カースドの腕が瞬時に肥大化し、こちらに迫る。

 

 「おっと」

 

 それをバックステップで難なく避ける。やはり考えた考え通りだった。パワーや魔力など総合力では俺の上を行くだろう。だが衰弱しているあいつより俺のほうが速い。ならば逃げられる。

 

 ここは引いて、ちょこ先生や警察、あとはなんとか聖騎士団に連絡をしよう。情報は残念ながら得られなかったがあいつが話す気がないのではしょうがない。最悪生け捕りにできればいい。

 

 地面に着地すると同時に針を投擲する。それをカースドが避けると同時にさらにステップを踏み距離を空ける。

 

 逃げ切れる!

 

 だが、それは叶わなかった。

 どこから取り出したのか奴は右手に何かを持っていた。闇夜であろうともその異質さからはっきりと見て取れた。理解してしまった。

 それは手があり、足があり頭がある――

 

 「下種なものであったが空腹であるためな」

 

 干からびた人間だった。

 

 「お――ま――え――やりやがったな――」

 

 手をコンクリートにこすらせながら無理やりブレーキをかける。

 

 俺と出会う前に食事を済ませていやがった。

 

 人を一人殺していやがった。

 

 カースドは俺の足が止まったことを確かめると右手のモノを後方へ投げる。

 

 「こいつ……!!」

 

 「どうした?先ほどまでの余裕がなさそうだが?」

 

 落ち着け。落ち着くんだ俺。考えろ。今俺がやるべきことは何だ?

 

 カースドと戦って俺が勝てる保証はあるか?

 万全ならば6割勝てるだろうが、俺は今不調だ。筋肉が痛んでいる中勝てる保証はない。

 やはり逃げるのが得策だ。しかし――

 

 「起き抜けに盛大な馳走が無いのはいささか格に関わるが致し方ないな」

 

 奴は脅している。俺が逃げればこの住宅街の人たちを殺すと。

 

 どうすればいい?どうするのが正解なんだ?俺は何を成せばいいんだ?

 

 例え世界の裏側で大勢の人が苦しみながら死のうと関心がない。だが目の前の命が消えようと、自分の肩に乗っていると考えると途端に心配になる。

 誰かの命を自分の命で助けられるほどに人間ができていない。だからと言って救える可能性のある命を見捨てられない。

 

 夜の海の真ん中に放り出されたようだ。進むべき道が見えない。苦しくて辛くて逃げ出してしまいたい。

 自分の不甲斐なさに失望し心が枯れる。

 

 「……」

 

 こんなにも重いのか命とは。一人の人生を背負い込むなんて俺には到底できない。これまでも、これからも俺はもしかしたら命の奪い合いは出来ないかもしれない。

 

 「……クソが」

 

 やらねばならない。

 

 痛むことも忘れ右足を音を立てながら大きく前へ出す。

 

 俺に命の重さも、数で比較することもできない。

 ならば自分にとってどれが一番都合がいいのか考えろ。

 

 俺にとって最悪なのはここの住人が殺され力をつけたカースドに追いつかれ俺も殺されること。

 

 俺にとって最善は衰弱している間に生け捕りをし、情報を得ること。

 

 誰かのためではない。自分の最悪を避けるために戦う。最低な俺が最善を尽くすにはその思考に逃げるしかない。

 

 俺の決心を見抜いたのか薄く笑うと歩き始めた。それに合わせて俺も歩き出す。

 

 「……」

 

 「ククク」

 

 黙る俺とは反対に心底面白そうに不気味に笑う。

 

 リアルな夢のように奇妙だ。これから始まるのは100人単位の命を懸けた殺し合い。されど観客はなく囃し立てるものもいない。

 鼓膜がおかしくなる位に静かだ。車どころか鳥も虫も俺たちの周りから消え去ってしまったみたいだ。

 空は雲が厚く月明りも静観を決め込んでいる。照らすのは人口の光だけ。

 乾いた空気が通り過ぎる。もはや引き返すことはできない。

 

 腰から短刀を引き抜くと痛いくらい握る。

 同時にカースドは外套をたなびかせると両の手を紫と黒に輝かせる。

 

 お互いに手負い。されども種族の差という絶対の壁が奴を優位にする。この戦いは圧倒的に俺が不利だ。

 夜はヴァンパイアの時間。種族の強みを生かすとなれば俺は厳しい戦いをすることになる。

 またカースドは魔法と呪いを放つ中~遠距離が得意なタイプ。俺は民家に被害が行かないようにこの一本道の範囲しか避けられない。

 そして奴を逃がさないためには早期決着が望ましい。追い込んだ後、人質を取られればすべてご破算だ。

 

 残り5mの位置でお互いが示し合わせたように止まる。

 街頭の照らす光の円の淵で顔を見合う。

 

 つかみどころがない、光の届かない穴を覗くみたいな心寂しさが全身を駆け抜ける。

 

 「自分を殺した相手を食らうのも乙だな」

 

 「捕らぬ狸の皮算用という言葉は……お前のような鳥類じゃ三歩も歩けば忘れるか」

 

 「……」

 

 「……」

 

 一瞬の沈黙。

 それも笑い声によって消え去る。

 

 「クク」

 

 「ふふ」

 

 「ククククククク!」

 

 「ふふふふふふふ!」

 

 「クァカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!」

 

 「ハァハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 ――今度こそ

 「「殺す!!!」」

 

 

 先制を取ったのは俺。最速の『刃影』を奴の体にたたきつける。が――

 

 「ウッ――」

 

 手応えがない。空気を切っているかのようだ。

 急いで振り向くとそこには体の輪郭を保ったまま煙のように空中に漂うカースドがいた。ヴァンパイアの種族特性である体の霧状化か。

 

 「おいおいマジか」

 

 霧になれる相手なんてどうやって戦えばいいんだよ。ある本では霧の相手に砂をかけることによって実体化をさせていたが、ここはコンクリートジャングルのど真ん中。

 

 「グッ」

 

 黒く変色した火炎弾が俺の横を通り抜ける。

 最悪だ。霧のまま攻撃をできるのか。

 

 霧の時は攻撃できないなんて希望をいともたやすく壊してくれる。

 

 勝負から10秒足らずで決まった。俺に勝ち目はない。

 

 奴の攻撃を避け続けるしかない。

 

 乾いた空気がピリつく。急いで前転をしてその場から離れる。同時に落雷が地面を焼く。

 

 考えろ。吸血鬼の弱点は?

 日光、ニンニクなどのにおいの強い香草、十字架、そして――

 

 「そうか――!!」

 

 袖から一本の針を抜き、投擲する。滑るように飛ぶそれは霧の中を進み、突如血しぶきを上げ空中で固定された。

 

 「ぬぐっ!?」

 

 やはりか。奴らの弱点の一つ銀製品。針には魔除けとして銀が仕込まれているものがある。高かったがいい買い物をした。

 

 人型の霧は固定化された針をつかむ。瞬間煙を立て、焦がすような音を立てながら実体化した。針を抜き地面にたたきつけるとまた霧に戻る。

 

 少し見えてきた。奴は銀製品で攻撃を受けると吸血鬼の特性が消えるんだろう。

 ならば話は早い。

 

 短刀をしまい、片手に四本ずつ、計八本の針を指に挟む。

 

 針山を作ってやる!

 

 しかしながら――

 

 ガッ!

 

 足をつかまれる感触。

 下に目を向けるとそこには枯れ木のように細く、黒く変色した腕が万力のような力でひねろうとしていた。

 

 「さっきの被害者!」

 

 カースドに食われた人間だ。

 血を吸われて眷属として生ける屍(リビングデッド)にされていたのか!

 

 圧倒的隙を見逃すわけも無く、納刀した短刀を出す暇もなく払われた腕に直撃する。

 

 顔狙いのそれを何とか右腕で防ぐ。が――

 

 

 バキキキキキィィィィ……

 

 「ガァァァァァァァ!?」

 

 防御した腕は二つに折れて骨が肉から露出する。

 されど勢いは衰えず、10m以上飛ばされて電柱にぶつかる。

 

 視界がグルグルと回る。酒の類を摂取したことはないがもしかしたら二日酔いってこうなのかもしれないとぼんやりとそんなことを考えた。

 ……痛みがない。どうなった?腕が死んだのはわかる。

 電柱は胴体を避けるために足から衝撃を受けた。もし足が壊れたのならチェックメイトだ。頼む俺の最大の武器だけは。

 

 「ハハハ……」

 

 来た。尋常ではない痛みが襲ってきた。

 ()()()やってきた。

 

 終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいしかっ――おおおおおおおおお!?なんかご飯食べ終わったらターゲットが大怪我しとる!?」

 

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