ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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メイドを拾いました

 「うぅっ、ぐすっ」

 

 目の前の泣きじゃくる紫髪の少女――名前は湊あくあというらしい――はとりあえず見捨てることができないので我が家に連れて帰って保護することにした。

 まさか現代日本で捨て猫ならぬ捨てメイドが社会問題になっているとは思わなかった。政府には可及的速やかに問題解決に動いてほしいものだ。

 

 とりあえず泣き止んでもらうために行動した。大き目のタオルで涙をぬぐってもらい、慣れない左手一本でコーヒーを淹れて差し出す。

 

 「どうぞ」

 

 「甘いのがいい」

 

 ぶっ飛ばすぞ。

 

 いや、いかんいかん。落ち着け俺。相手は心が憔悴して世の中のすべてに棘を向ける10代女子なのだから。ここは大人の対応をしなければいけない。

 そもそも路上で女の子が一人で泣いていることが大変なことだ。

 まずは悩みでも吐き出して落ち着いてもらおうではないか。人生経験が浅く、相談に乗る経験はあまり無いが話すだけでも楽になるというものだ。

 

 「何があったか俺に話してみてくれないか?」

 

 「おなかすいた」

 

 はり倒すぞ。

 

 だから落ち着け俺!気分が落ち込んでいるときはぶっきらぼうになるもんなんだよ。泣くという行為は体力を使うからお腹すくもんだし。

 そうだよ、目の前の泣いている女の子を救えなくてどうする?そんなんじゃ自分を救うこともできないだろう。そうだろう!?(ヤケクソ)

 ギプスを突っ返させながらエプロンを着て、台所に立ち、冷蔵庫を確認する。夜も遅いしお腹に優しいものを作るべきだろう。

 

 「うどんでいいかな?」

 

 「オムライス食べたい」

 

 よし、殺そう。

 

 握った包丁をメジャーリーガーよろしく、思いっきり振りかぶって投擲する――

 

 

 ――瞬間、袖で目元を覆いながら体を震わせている女の子を見て正気に戻った。

 

 あんなに泣いているのは壮大な理由があるのだろう。

 俺だって記憶がないと知ったときは泣いて、吐いて、絶望して、――そしてちょこ先生のおかげで立ち上がれた。

 俺もちょこ先生にひどい言葉をぶつけた。それでもあの人は俺を見捨てなかったではないか。あの人に救われたこの命、今度は俺が誰かに同じことをして返す番だ。

 

 スージーちゃんが心配そうに寄り添って彼女の手をぺろぺろと舐めて励まそうとしている。

 あの子は頭がいいからこのままそっと寄り添ってあげるだろう。

 

 俺は俺がすべきことをしよう。

 

 コンロの火をつけた。

 

 

 

 「どうぞ」

 

 30分後、丁寧に作り上げられたオムライスを彼女の目に差し出す。

 会心の出来だと思う。卵の黄色は満遍なく赤いごはんの上に覆いかぶさりケチャップのコントラストが映える。

 

 熱で揺らめく空気を眺めながら備え付けのスプーンを手に取り口に運び始めた。

 

 「おいしい……」

 

 「それはよかった」

 

 そこからは食器がぶつかり合う音だけが部屋に響き続けた。

 

 しかしなんだ、自分の料理をおいしそうに食べてもらうというのはいいもんだな。すっかり泣き顔が笑顔に変わっている。

 すっかり食べ終わりコップのお茶を飲み干すとため息をつきながら「ごちそうさま」とつぶやいた。

 

 「お粗末様でした」

 

 いつの間にか気持ちは落ち着いたようで目の充血も消え、本来のかわいらしい顔が戻ってきた。

 皿を台所で洗い始める。急いで質問をすることなんてしない。

 彼女が話し始めるまで待とう。俺は先生の様に激励をかけてあげることなんてできない。せいぜい傍にいてあげるくらいだ。

 

 「あの……」

 

 向かい合って座って数分、ついに彼女――あくあさんから話しかけてくれた。

 

 「どうして……エット……私を……アノ……助けてくれたの……ですか……?」

 

 目を伏せて所々詰まりながら聞いてくる。初対面の人と話すのが苦手なタイプなんだろうか?

 

 「そりゃ男がいきなり部屋に連れこんだら警戒するのは当たり前だよな。でも安心してほしいんだが俺は君に指一本触れないよ。そして助けた理由だけどね、大したもんじゃない。自分のちっぽけさがちょうど嫌になっていたんだよ」

 

 「……?」

 

 「なんかさっきめっちゃいい人に会ってさ。自分の人間としての出来てなさというか、ダメさ加減が見えてしまったもんで、いいことをしようと焦っていたのかもしれない」

 

 椅子の上で胡坐をかきながら頬をかく。

 恥ずかしい限りだ。自分の汚いところを隠すために困っている人を利用し、優越に浸る。偽善以下の行動だと罵られても返す言葉がない。

 

 思えば俺が生まれ変わってからどれだけ人を自分のエゴを抜きに助けたのだろうか。結局自分の不出来な感情と思考は誰かのためを想えるよう精巧にはできていないのだろう。だからこそ命をつなげた場面もあるのかもしれないがな。

 本当に自分の不出来さは一級品だ。お墨付きと太鼓判を押されるくらいに。

 

 だがあくあさんの言葉は違った。

 

 「私はそんなことはないけどね……」

 

 膝に顔をうずめながらぼそりとそんなことを言った。

 

 ……少し救われたよ。

 

 言葉を継げずにあくあさんをちらりと見やると、スージーちゃんを撫でていた。

 

 「私、私ね、辛いことがあったの」

 

 「知っている」

 

 「あのね?私メイドをやっていて、我が家も代々メイドをやっていて偉い人のとこに輩出されているんだけど。修行中なのに修行先から追い出されちゃって」

 

 家の重圧と一人前になるまで帰るなという方針から来る未来への不安だろうか。俺にはとんと経験のない話だがそのつらさが分かる。突如頼れるものが消えた時の心情はつらいものだ。暗い海を頼りなく渡るように心細い。

 俺ももう二度と親と会えないと知ったときは泣いたし自暴自棄になった。記憶がないと知ったときは全てを呪った。

 

 「どうしたらいいのかわからないの」

 

 あぁ、だからこそ助けたい。

 

 「私の――」

 

 「だったら我が家でしばらく――」

 

 「バイト先どうしよう」

 

 「泊まって――うん?」

 

 ばいと?売都?byte?バイト?

 バイトって言ったかこの女?

 

 「え?え?うん?あれ?」

 

 おかしいな?

 

 「せっかく住み込みで働けてお給金がいいとこだったのにぃ!(あてぃし)の家、学校から遠いからあそこ以外いいとこないのにどうしよう!?」

 

 「……」

 

 「ねぇなんか割のいい住み込みで時給3000円超えて三食出るバイト先知らない!?」

 

 「……」

 

 「学校から歩いて通える距離のところでお願いね!?あ、あとお皿をどれだけ割っても、砂糖と塩を間違えても許してくれる心が広い人がいい!!」

 

 立ち上がる。玄関を開ける。アホメイドの襟首をつかむ。外へ投げ捨てる。掃除完了。

 

 「よし!寝るか!」

 

 明日も朝は早い。スージーちゃんの散歩や弁当を作らなければいけないし、授業が始まる前にちょこ先生のもとに行って報告と治療を行わなければ。

 風呂に入ろうとバスルームの扉を開くとドアを叩く音が聞こえてくる。

 

 

 『ね゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!なんでこんなにひどいことするのぉ!?』

 

 「最近のノラ猫はおもしろい鳴き声だなぁ」

 

 無視だ無視。相手にした時点で負けみたいなもんだ。ダン〇ルドア先生だってあれはワシらには救えぬものじゃっていうぜ。

 

 気分がいい。まるで部屋が清潔になり広くなったように感じる。

 

 『開けてくれないとお巡りさんに無理やり部屋に連れ込まれて乱暴されたって言ってやるー!!』

 

 前言撤回、最悪の気分だ。

 どうやら俺はとんでもない貧乏神を招き入れ、憑かれてしまったようだ。可及的速やかに神社にお払いにいくか誰かに擦り付けなければならない。

 

 ドアを少し開いて外の様子を覗いてみると泣き顔でドアをどんどん叩くコスプレ不審者がいた。警察に頼るべきは俺のほうなのだが世間体という最強の武器を相手は持っている。厄介すぎるだろ。

 

 「開いた!なんで外にポイするの!?」

 

 「俺の嫌いなタイプは自業自得を理解してない人間だ。そして俺の慈愛を返せ。以上お帰りください」

 

 「だから帰る場所がないんだよ!」

 

 「実家に帰ればいいじゃないか」

 

 「帰りにくいの!あともう終電が近いからそこら辺の駅で一夜明かさないといけないじゃん!」

 

 「いいじゃないか。天然の星空を布団にベンチで寝ればいいじゃないか。そのまま俺に近づかなければいいじゃないか」

 

 「野宿はやだ!どこかに雇ってもらえないのもやだ!」

 

 「タウ〇ワークを端から端まで読めばいいバイト先の一つでも転がっているでしょ」

 

 「ぶっちゃけ泊めて!(あてぃし)を雇って!」

 

 「嫌に決まってんだろ!そもそも見ろよこのボロアパートを!雇える程の金持ちに見えるか!?」

 

 「家事するから!ご奉仕するから!」

 

 「皿割るドジっ子メイドを雇うなんて金持ちの道楽以外に出来ねぇよ!早くどっかいけ!シッ!!シッ!!」

 

 「うわああああああああああん!!」

 

 おいやめろ。俺の家の玄関前で蹲って泣くのはマジでやめろ。

 あ、お隣の鈴木さんこんにちはこれは違うんですよ厄介な女に取り憑かれましてねははははははだからその目を止めてくださいよお願いですからその110と番号を打った携帯仕舞ってくれませんかわかりましたよ部屋に上げればいいんでしょうちくしょうめ!

 

 泣き崩れたメイドの襟首をつかんで部屋に入れる。

 

 「泊まっていいの!?やったぁ!」

 

 全然泣いていなかった。実は頭がいいのかもしれない。

 

 

 

 「これでいいか?」

 

 「(あてぃし)は大丈夫!」

 

 それからというもの紆余曲折あって彼女を雇うことにした。正確にはしばらく間借りさせるためにWIN―WINの関係を結ぶというものだ。

 

 雇用契約書にハンコを押してもらう。

 内容はこうだ。

 月に三万円俺の家に入れ、家事の手伝いをすることで間借りさせることにした。「高いー」と文句を言ってきたので襟首をつかんだらおとなしくなった。猫みたいだな。

 そもそも三食付いて、電気、水道代込みの三万円だぞ。安すぎるくらいだ。

 

 今は早速ダンボールに詰め込まれている私物で俺の部屋を模様替えしている。あぁ、俺のシックな部屋が女の子らしくなっていく……。

 最後に大きなデスクトップ型のパソコンをつないでネットサーフィンを始めた。

 

 「……」

 

 なんか不思議な感じだな。つい一時間前は女の子と同居なんて考えもしなった。

 かわいい女の子と一つ屋根の下というのはこう……雰囲気にのまれていたが今になって気恥しくなってきた。

 

 「あ、ご主人って呼んだほうがいい?」

 

 「勘弁してください」

 

 

 

 布団に入りながら時計の音をBGMに今日のことを思い起こす。我が家の駄メイドはスージーちゃんをモフモフして寝ると言っていた。スージーちゃんが助けを求める目をしていたがあえて無視した。主人の生贄になってくれ。

 

 「はぁ……」

 

 ここまで濃い一日だとため息をつきたくなるものだ。

 目下の一番の悩みはヴァンパイアのことだ。奴はどうして生きていたのだろうか?

 衰弱していたところと会話から察するに俺が殺したのは間違いない。

 問題はその後の復活だ。殺しきった相手がなぜ生きていたのかが分からない。

 理由として考えられるのは3つ。一回死んだ後に復活できる能力を持っていた。自分の死を偽装した。誰かに復活させてもらった。

 

 前者と中者ならばいい。ノエルの聖騎士としての力で今度こそ塵にしたはずだ。

 だが後者だった場合事態は最悪に尽きる。

 相手方にどんな傷も、死すらも跳ね返すヒーラーがいるのならこの戦いは一気に泥沼化する。

 だがチャンスだ。この町で殺した奴がこの町で復活したのならそのヒーラーはまだこの町の中か近くに潜んでいる可能性が高い。速やかに相手の回復手段を絶たなければ。

 

 「ねぇ、ご主人?」

 

 ふと横からあくあさんの声が耳に届く。結局ご主人呼びに収まったらしい。

 

 「私はご主人が何か重いモノを背負っているように感じるんだけど違う?」

 

 ひやり、と、心臓の上を冷たいものが走る。

 今まで教えていない――それどころか態度に出さなかったはずなのに感じ取ったというのか?

 

 「私はもうご主人のメイドだから好きなだけ頼ってもいいんだよ?」

 

 暗闇から生まれそして暗闇に消えたその言の葉は優しく強く俺を日常に引き戻す。

 誰かと生活し、誰かと言葉を紡ぐというのは恐らく俺が何年もしてこなかった故忘れていたが――

 

 ――存外良いものだな。

 

 

 

 「だから気分を晴らすために焼き肉しよ!(あてぃし)の就任祝いもかねて!」

 

 ゴミの分別にメイドの欄ってなかったけか?

 




 投稿日なんですが今は隔日投稿を続けていますがこれから書く時間の確保、クオリティアップのため日、火、木の週三日にしようか悩んでいます。
 読者の皆様の意見をお聞きしたいのですが……。

 17日までやろうと思います。
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