ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 4月の章、最終節始まりです。


月蝕の妖精 1

 火が燃ゆる。熱をもってすべてを黒く焦がす。

 血が滴る。外傷から生命の源が流れ出でる

 

 地獄がそこにある。地獄がそこにある。

 ヒトも、建物も、自然も、文明も蹂躙された。

 

 痕跡を許さず、奴らは地獄を作り出した。

 なぜかはわからない。なぜここまでのことができる?我々が何をしたというのだ?ただ慎ましく暮らしていただけなのに。生を尊び、死を卑しみ、日々をあるがまま受け入れてきただけなのに。人らしく生きていただけだ。

 

 眼球を焼く熱。充満する死の匂い。

 地獄だってもっと優しいだろうに。

 

 その理不尽に耐えられないヒトが問うた。

 

 「なぜこのようなことをするのですか?」

 

 四つの悪が内の一つが答えた。

 

 「これこそが正しき道だからだ」

 

 三者三様の表情をしていたが奴らは誰もが心に悔恨がなかった。

 

 火は大陸を飲み、海を渡り伝染した。

 

 すべての大陸が飲まれ人類が数えられるまでになった頃。すべてのヒトが諦めていた。

 

 「あれは人の形をした終末兵器だ」

 勇気ある獣人はその戦力差にしっぽを巻き逃げた。

 

 「人類史は理解のできない侵略によって終える」

 世界と共に歩んだ長命なエルフは諦めた。

 

 森羅万象が予感し下を向く中、ただ一人諦めない人がいた。

 

 すべてのヒトが、種族が下を向き、目を閉じて終わりを待つ中。頑なに前を向き続けていた。

 

 彼は廃屋から貴金属を集めて、溶かし、不出来な剣を作った。柄も無ければ曲がりくすんだそれを満足げに懐にしまうと立ち上がり私に言った。

 

 「世界を救いに行ってくる」

 

 私は耳を疑った。彼は私と共にあの破壊と惨劇を見たのに戦うというのだ。

 

 「なぜ戦うのですか?勝てると思っているのですか?」

 

 その問いに彼は笑うと自分の左胸を叩いた。

 

 「私のここはまだ動いているし、折れてなどいない」

 

 続け様にこういった。

 

 「なにより体の奥底から叫び声が聞こえるんですよ。『まだ終わっていない』、『見て見ぬふりをするな』って。熱く燃えるような何かが止まらせてくれないんです」

 

 だからこそ私は問わずにいられないのだ。

 

 「魔族――魔王の狙い……いや、悲願は――」

 

 「知っています。彼と直接話しました。

 故に私は行くんです。彼と私は同じ視点を持ち、同じ感想を持っていた。だからこそこの凶行の理由が分かるんです。

 彼を止められるのは彼と同じ考えを持った私だけです」

 

 「ならば私もついて行きます。行かせてください」

 

 「いいえ。これは人の可能性を信じるものと、人の在り方を拒むものの戦いです。あなたはそのどちらでもない」

 

 そう言い残し、彼は数人の仲間とともに旅立った。

 

 

 

 

 

 世界が救われたのはその日から3か月後のこと。

 

 

 

 

 経年劣化でボロボロの本を閉じると丁寧にガラスケースの中に安置する。

 これは昔両親が発見した古代の手記だ。この中には一つの英雄譚が書かれている。

 

 曰く、世界は一度、魔族の侵攻によって滅びかけた。

 曰く、一人の英雄が立ち上がり小さな金属の武器で魔王を打倒して見せた。

 曰く、その英雄は人であった。

 

 俺はこの歴史的価値のある手記を小さいころに絵本代わりにしていた。

 ただこの物語が好きで好きでたまらなかった。

 

 一人の男が滅びかけた世界で立ち上がり、魔王とそれを守護する四人の魔族と戦う記録。ところどころ破れており、全貌は詳細ではないが、逆にそれが想像力を掻きたてられた。

 何よりこの物語が好きだった理由は――

 

 「人が主人公であること……」

 

 魔王を倒しに行く主人公は人族だった。古今東西の人の英雄譚は一種の御伽噺や神話の産物であった。歴史的事実から英雄と称えられる人はいない、というよりは信じられない。

 だがこの話はどこか信頼できた。それは内容の心理描写の濃さでも、現実的な背景でもなく、こう、なんというか、真に迫るナニカがある。

 心を揺り動かされる例えようのないナニカが。

 

 ただそれだけの話で。

 年を取り、大人になるにつれこの本のことは忘れていた。

 

 だのになぜハイティーンになってこれを引っ張り出し読んでいるかというと――

 

 「人魔戦争――」

 

 この手記が全くの御伽噺でも妄想でもない実際の歴史――人魔戦争について書かれている可能性があるからだ。

 ここに書かれている断片的な情報から推測するとちょこ先生が教えてくれた西暦や場所などが一致する。

 

 これは数少ない焚書されてきた歴史の一部だ。そしてこれからの俺を助ける光だ。

 だからこそ怖いのだ。

 

 もしこの手記が出鱈目だった時、俺は後悔してもしきれない。ここに載る文字の羅列に俺は俺を含めたたくさんの命を預けなければならない。

 

 分からないことがありすぎる。信用ができない。でも今は藁にも縋りたいところだ。

 

 「探し物は見つかった?」

 

 思考の海を漂っていると後ろから声が聞こえてきた。いかにもイライラしていると言いたげだ。

 

 「あぁ……。値千金の情報が舞い込んできたぞ」

 

 「そう。なら……?」

 

 「ああ、作戦通りに明日から行動するぞ」

 

 「……分かった」

 

 不承不承といった感じで返事をしてくるが、まず体を休めなければ始まらない。

 

 「むしろ休息はそっちがしっかりとらなければならないんだぞ。作戦の第一段階はその腕前にかかっているんだからな――――フレア」

 

 「分かっているって!!絶対に成功させるから!!そっちこそ失敗したりなんかしたら殺してやるんだから!!」

 

 「あぁ、覚悟しているさ」

 

 もし失敗すれば――――白銀ノエルは死ぬのだから。

 

 

 

白銀ノエルの処刑まで残り30時間

 

 

白銀ノエルの処刑まで残り141時間

 

 

 

 「ふわぁぁぁぁ」

 

 4月12日月曜日、時刻は朝7時00分。スージーちゃんのお散歩を終えてお弁当を作っているところだ。昨日の残り物を入れて彩りよく盛り付けているのだが、利き腕が使えないとやはりうまくいかない。結局冷凍食品を使ってしまった。

 

 あの袋ラーメンを啜った日から10日経った。本格的に授業も始まり、学生らしい生活を送っている。この10日の間にロボ子さんが捕まったり、あくあが借金を背負ったり、色々あったが無事平穏な生活を送れている。

 

 ただ懸念点があるとしたら二つ。ちょこ先生の行方と、近くにまで迫っているという魔王軍の幹部の存在だ。

 特にちょこ先生が心配だ。あれから一向に姿を見せない。学校側も連絡が取れず困っているとのことだ。

 始めはサボりだろうと深く考えていなかったが、さすがに事件性を感じずにはいられなかった。

 本当は探しに行きたいがあの人活動範囲が広そうだからなぁ。無策で探しても無理そうだ。魔界とかにいたらお手上げだしなぁ。早く怪我治してほしいし(本音)

 

 魔族の人に少し探りを入れてみるか?知り合いの魔族と言ったら……百鬼あやめさんは近づきたくないし……隣席の潤羽るしあさんはなんか怖いし……。魔族って関係性を持つだけでも大変だなぁ。

 

 そもそも魔王軍の話もうわさに過ぎない。それもあの百鬼さんの話だからなぁ。いまいち信用度が足りない。

 

 そんな考え事をしていたら時間になった。お弁当を鞄にしまいあくあの分をメッセージと一緒に置いて家を出る。

 しばらく歩いて学校に着くと保健室に直行したがやはりちょこ先生はいなかった。

 

 教室に入ると机に頬をつきながらなんとはなしに窓の外を眺める。早起きの性か、いつもクラスでは一番乗りだ。あくあからは「ご主人早過ぎぃ!もっと私と一緒に行こうよぉ!」と言われたがガン無視して8日目だ。

 空は相も変わらず曇天だった。数日前からお日様が隠れたままで、あの鉛の様に重々しく、見ているだけで憂鬱になりそうな空模様は変わらない。これでは植物も困りものだろう。

 

 「うーん……」

 

 頭を拳でぐりぐりと圧迫する。低気圧の影響か最近頭痛がする。天気も気分も晴れない。

 

 「おはよー!お!颯太君早いね!」

 

 前言撤回。素晴らしい景色(おっぱい)がやってきて僕の心は晴れを通り越して成層圏へ到達しました。

 

 「おはようノエル。今日はいつもより早いね」

 

 「いやぁなんか早く起きちゃってね!颯太君も?」

 

 「いや、俺はいつもこの時間だよ」

 

 「わっ早起きさんなんだね」

 

 その素晴らしいおっぱいを前に颯太君のJrも早起き――

 

 「オラァ!!」

 

 「ウェ!?」

 

 頭を思いっきり机に叩きつける。

 

 「ど、どしたん急に?」

 

 「俺の中の煩悩を殺していました」

 

 手と足を怪我して日常生活に支障が出てストレスが溜まっているせいか、最近なんか煩悩がウェイクアップしてきた気がする。それともあの顔だけはいい駄メイドと暮らしているせいか?性欲を持て余す。

 だが性欲というものを恥ずべきなのかということにはいささか疑問が残るな。現代日本では少子高齢化が嘆かれる一方で子供を養育するのに難しい環境である。若者の貧困化や託児所の減少が主な例だ。さらには性欲を一つの忌むべきものと考えている人がいる始末。

 

 しかしどうだろうか?人間というのは――というよりも生物というのはその身体機能に無駄はなく、有限を惜しみなくきれいに使い切る。

 性欲がないということはつまり種の保存がままならない。つまり絶滅への最短にして最悪の一歩だ。

 それに子供というのは一つの絆の修復剤ではなかろうか。

 例えばだ。

 ある夫婦が大恋愛の末に結婚して子供を授かったとしよう。だが同棲することでお互いの良くないところが目につくようになりあわや離婚の危機。そこで繋ぎとめるのが子供の存在だろう。もし子供がいなければ日本の夫婦のほとんどが離婚すると言われているくらいだ。

 そして子供とは先を担う未来そのものだ。

 そう未来。つまり性欲とは未来なんだよ!日本人というのは臭い物には蓋をして、見ないように後回しにする傾向が強い。

 地球が誕生して46億年、人類の祖先が生まれて600万年、そして人類史が始まって1万年。綿々と紡がれてきた命のリレーを高度に発達した知能による精神的嫌悪で目を逸らすのはどうだろう。

 そうだ!おっぱいに目を奪われて何がいけないんだ!?それは人として当たり前の設計された行動なんだ!俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!

 

 「ど、どうしたん?さっきから百面相して?」

 

 「いや?ちょっと人類の在り方ってやつを再確認したところだよ」

 

 「ふぅん?600文字をかけて自分の欲望を肯定していたように見えるんだけど?」

 

 「はははははまさかはははははははは」

 

 ノエルは俺の前の席の椅子を180度反転させると向かい合う形で座った。

 

 「怪我はまだ治りそうにないの?」

 

 「骨が肉を飛び出すレベルの骨折だしね」

 

 腕をツンツン突きながら聞いてくる。

 骨折は10日程度ではそうそう治らないだろう。

 それにしても会うたびに腕の具合を聞いてくる。もしかして負い目を感じているのか?

 そもそもヴァンパイアに襲われたのは俺個人の因縁、問題だ。助けられておいて文句を言えるわけがないのに。それどころか助けに来てくれて感謝しているんだ。

 

 「それよりも俺は気になることがあるんだよ。あの匿名のタレコミについてだ」

 

 それは俺がヴァンパイアに狙われている事実を()()()()()()()()伝えたメッセージカードだ。なんでも自室の机の上に置いてあったらしい。

 あの頑丈な警備の中を掻い潜って悟られずにノエルの自室という世間に知られていない場に置くのはそれだけでかなりの手練れがやったと分かる。とゆうかよくそんな怪しいものを信じたな。まぁフレアさんとの関係を知りたかったと言っていたが。

 

 「あれねー。色々調べてみたけどなんの痕跡も残っていなかったんだよねぇ。筆跡から指紋、付着した魔力痕とか隅から隅まで調べたけどダメだった」

 

 「魔力痕?」

 

 「うん。簡単に言えば魔力版DNAかな。生物ならどんなものでも代替魔力を帯びているから基本これで一発なんだけどなかったんだよねぇ。普通ありえないことなんだけどなぁ」

 

 「普通あり得ないこと、ねぇ……」

 

 そんなのここ一カ月で起こりまくりなんだが?

 

 「うーん……。何者なんだろう。俺を助けるよう要請していることから敵ではないと思うんだが……」

 

 「考えても仕方ないから団長はもう忘れた!」

 

 「おい、警察機関、おい」

 

 本当にこの人に頼っていいのだろうか?

 

 「なんか最近曇りばっかでさぁ、やる気が出ないんだよねぇ、憂鬱ぅ」

 

 「それはそうなんだが」

 

 席を立ち、窓を開け放つと、じめっ、とした通るだけで不快になる風が髪を動かす。本当に気分そのものが上がらない。

 

 「ゲッ……」

 

 下には登校中の生徒が足取りが悪そうに歩いているのが見える。その中にエナジードリンクをキメているのかと思うくらい元気溌剌な鬼を見つけた。

 見渡す限りの人がダルそうなのに、スキップを踏めるのは鬼の耐性か何も考えていないのか……。とりあえず見つかりたくないからさっさと窓を閉めて室内に戻る。

 

 「どうしたの?」

 

 「デスノートを持った死神より怖いモノ見つけた」

 

 「よっぽどじゃん」

 

 体感的には敵に見られたら死ぬゲームよりもあの鬼ッ娘と同じ学校に通っていることのほうが絶望感がある。いつか授業中に襲撃とかしてこないかな?

 

 「あ、そうそう」

 

 百鬼さんから情報をもらってからすぐに色々あったから、俺も伝え忘れていた。

 

 「ノエル。伝えていなかったことがあるんだけどさぁ。信じるにも値しない木っ端な情報なんだけど、もしかしたら旧魔王軍の幹部が近くに潜伏しているのかもしれないんだって」

 

 窓の鍵を閉めながらからかうように言う。

 

 「あの百鬼さんって知っている?その人曰くなんでも化け物みたいに強い魔族がここら辺に潜伏しているとか。そんなのがなんでこの町に来ているのかはわからないけど」

 

 ノエルからの返事を待つがそれはなかった。

 

 「もしかしたらここ最近の天気も――」

 

 最後まで言い切れなかった。

 振り返ったとき、

 

 「――――」

 

 瞳孔を開いて真っすぐ見つめるノエルの姿が映ったからだ。

 

 「えっと、ノエル――?」

 

 「いつ?」

 

 「……え?」

 

 「それはいつ聞いた話なの?」

 

 そのかわいらしい声は強張り、抑揚を感じさせず、冷たく硬い『鉄』を思わせる。

 

 「えっと……10日くらい前かな……?」

 

 携帯のカレンダー機能を使ってだいたいの日時を伝える。落としていた目を上げると――

 

 「ごめん、用事思い出した」

 

 鞄に教科書を詰めて帰り支度をするノエルがいた。

 肩に鞄をかけると「じゃあねっ」と挨拶をして教室を出る。

 

 「あっノエちゃんおは――、ちょちょちょどこに行くの!?」

 

 ドアの奥で不知火さんがノエルさんを追いかけて行くのが見えた。もしかしてと思い窓から地上を覗き込むと、数分後に生徒の波を逆らいながら校門を出るノエルと不知火さんが見えた。

 不知火さんはどうもノエルにまくし立てて、袖を引っ張り学校に連れ戻そうとしているがそのまま建物の影に消えた。

 

 「なんなんだいったい……」

 

 誰が見ても俺の放った一言が原因なのはわかる。だがなぜノエルの琴線に触れたのかが分からない。

 

 ふらふらと席に戻ると静かに座り、虚空の一点を見つめながら考える。考えるが答えが見つからない。

 なにか猛烈に嫌な予感がする。取り返しのつかないことをしたあの後味の悪さと焦燥感に似た気持ちで胸いっぱいになる。

 

 「……………………」

 

 白銀ノエルはその日欠席した。

 

 

 

 授業を終えて、帰宅して、体を動かして、ご飯を作り、そして寝る。

 いつも通りの行動、いつも通りの日常。それなのに付きまとう焦燥感が俺を自由にしてくれない。食事中あくあにさえ「今日のご主人おかしいよ?」と心配される始末だった。

 

 時刻は深夜1時。ベッドの中で明かりを限界まで落とした携帯を開く。この焦燥感を、この不安をどうしても取り除きたかった。電話して声を聴いて何事もないと安心したかった。それなのに、様々な理由をつけて行動を起こさず、今となってはもう深夜だからという理由で躊躇っている。

 

 明日。明日学校に一番についてノエルと話そう。

 だから大丈夫だ。

 根拠のない励ましを胸にしまいながら目を閉じる。

 

 だが次の日も、その次の日も、そしてその次の日も、ノエルも不知火さんも学校に来なかった。

 

 そして4月16日金曜日。この日も二人は学校に来ることはなかった。

 

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