ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
教卓の前で教科書を広げながら何かしらをしゃべっている声すらも、今となっては気分を害すノイズでしかなかった。
自分が自分で無くなる感触。一つ違う視点で見ているように自分自身の感覚が乖離して霧散していくような心もとなさ。
教室をチラリと見渡すと俯いている生徒が見える。いかにも気持ち悪いという表情をしていながらも誰一人それを訴える者はいない。俺自身も気持ちの悪さというものはないが、倦怠感とノエルのことで――。
「…………」
もはやここは異常こそが正常の異端。気分が滅入る。
時計を見ると針は12時ちょうどを指していた。もう数十分もしたら昼食なのだが、ここで風呂敷を広げ雑談しながら箸を口に運ぶ――なんてことをやる元気はもはや皆無だ。
手櫛で髪をいじりながら鞄の中身を見やる。携帯にノエルの連絡はまだ入っていなかった。少なくとも一時間も返信が遅れたことはない。携帯が破損したのか、それとも携帯を取れる状況ではないか。
目を閉じて息を大きく吸い考える。
ノエルを最後に見たのは四日前の早朝。彼女は俺の放った一言から明らかに態度が変わった。
俺の一言。俺が原因。俺のせい。
あれほどの手練れがそうそう後れを取るとは思えない。思えないが――
「先生。体調が悪いので帰ります」
その言葉の内容とは逆に鞄を担ぐと今出せる全力で教室を出た。もはや我慢をし続けるのも限界だった。
この足で探し出して、この目で確かめてやる。
一度家に帰ると荷物を置いて、もしもの時のために戦闘用の服と武器を携帯する。
すぐに家を出て町を練り歩いた。商店街を、住宅街を、俺の体力が許す限りすべてを。聞き込みをして、推理して、使える頭脳全てを。持てる力を使って草の根を分ける。だが、その陰すらも辿れなかった――。
好物の牛丼屋からスポーツジムなどの趣味に使用していそうな場所でも聞き込みを行うが、ここ数日の目撃情報はない。
あても無くなり、フラフラと歩いているといつしか俺とノエルが初めて出会った場所に着いた。
俺がヴァンパイアに襲われ、助けてもらったあの場所。
一部分コンクリートが少しだけ砕けている電柱に手を置く。
ここで俺は死を覚悟して――
『おいしかっ――おおおおおおおおお!?なんかご飯食べ終わったらターゲットが大怪我しとる!?』
そんな間の抜けた声が聞こえて来たっけ。
張り込み中にもかかわらず牛丼屋に入りターゲットを殺しかけるなんてな……。
「……ッ!!」
噴火のように勢いよく上る激情に任せて、折れている右手を思いっきり電柱にたたきつける。
なんでだよ。なんでなんだよ!
なんで――
――俺に声をかけてくれなかったんだよ。なんで連絡すらよこさないんだよ。
お前が消えたのは俺のせいなんだろう?ならせめて何を察したのかくらい教えてくれてもいいじゃないか。
ドン!
右手を叩きつける。
これは俺のせいだ。
ドン!!
右手を叩きつける。
これは俺への罰だ。
ドン!!!
右手を叩きつける。
すべて
もしノエルが戻ってこなかったらお前のせいだ!
お前がノエルに助けられたせいだ。お前がノエルの好意に甘えたせいだ。お前が不用意にしゃべったせいだ。お前が――――
「――俺が弱いせいだッ!」
右手を電柱に――
「――これ以上はやめなさい」
動きを止められる。優しく包みこまれているかのような握り方なのに、万力に挟まれたかのように動かなくなった。
「自分を責めたくなることもありましょう。自分に罰を与えたくもなりましょう。でもわざわざこのような場所で、このように痛めつけなくてもいいでしょう」
凛としながらも華やかさを感じさせる声。思わず背筋を正したくなるような、感情を無視した行動をとりたくなる威厳と優美さを持つ。
その姿は銀髪で、緑目で――
「ノ……エ……ル……?」
違う。似ているが全く違う。
顔の形、体形が怖いくらい同じだがその発するオーラが別物だ。
「私は白銀ノエルの母です。どうか我が家でお話でも?」
「カモミールティーです。甘酸っぱくて飲みやすく、リラックス効果が期待できます」
「……いただきます」
カップを手に取りながら部屋を観察する。相も変わらず落ち着かない部屋だ。豪華絢爛ながらも厭らしさを感じさせない――調和が取れていると言えばいいのか――気品のある部屋だ。ただいるだけでも庶民の自分はムズムズする。
目の前のノエル母は俺がカップの中身を口に含んで机に戻すまで待った後、口を開いた。
「あなたは星本颯太君……ですよね……?」
「……?はい」
一瞬何かノエル母から戸惑いのような、そんな形容しがたい視線を感じたような。
「俺の名前を知っているということはノエルから何か?」
「ええ……そうね……。ノエルからと言えばノエルからなのだけど」
……?言いよどんでいるというか、困惑しているように思えるが?
「それよりも私はあなたの話を聞きたいわ。あなたが今までどんな人生を送ったか。あの子との出会いと、なぜああまで自分を責めているのか――聞かせてくれる?」
「俺は――」
なんでか、話してしまった。俺の今までの人生も、自分が陥っている現状も、そして自分のせいでノエルがいなくなったことも。
なぜ初対面の人にここまで話せたのかはわからない。もしかしたら目の前にいるノエルの肉親に罰して欲しかったのかもしれない。彼女なら俺を責めて、怒りのままに罰を与えてくれる。彼女はその権利があり、彼女は俺をそうすると思った。
一人の子を持つ親として、俺の不手際を責めて欲しかった。
しかし現実は違った。
「あなたは強い人ですね」
「――え?」
何を言っているんだこの人は――?
「あなたは自分で自分を叱ることができる。それができる人はなかなかいませんよ」
ノエル母は椅子から立ち上がると広い窓の前に立ち、カーテンを開ける。
「人というのは困難に出会ったとき、二つの行動をとります。諦めるか、そのまま進み続けるか。たいていの人は前者を選んでしまいます。自分には才能がないから、お金や時間が足りないから、失敗したとき怖いから。
挫折するという行為のタネはこの世の中に数えきれないくらいあり、皆それに水を上げて花を咲かせます」
その言葉は責めるのでもなく、諭すのでもなくただの事実を教えるような口ぶりだ。
「その花はきれいなのでしょう。見ていれば自分の挫折を和らげ、いつか忘れさせてくれるのでしょう。同じ花を持った者同士、息が合うのでしょう。でもそこから先には何も生まれません。
いいですか。努力をしたという過程が尊ばれるのではありません。さりとて成功したという結果が褒められるのではありません。
「でも俺はずっと諦め続けて――」
「そうでしょうか?」
いつのまにか目の前に立っていたノエル母は俺の手を握る。
「自分で自分を見つめられる人は道を見失わず、進み続けることができます」
「進み続ける……」
出来るだろうか。道を間違わず止まらず進み続けることなんて。
できるだろうか。困難に目を背けないことなんて。
俺は誰よりも俺を信じていない。誰よりも俺を知っているから。
誰よりも弱くて、ずるい。そんな自分が人の持てない強さをもう手につかんでいるのかな。
俺は進み続けることができるのかな。
諦め、折れて、断念する誘惑に打ち勝てるのかな。
俺は俺のままでいいのかな。
「フフ……。顔色は少し良くなったようですね」
俺の手を離すとノエル母は薄く微笑んだ。
そして俺の前に立つと姿勢を正す。
「最後にこれだけは。颯太君はあの子が行方不明になったのは自分のせいだと思っているかもしれませんがそれは違います。あの子はあの子の
ノエル母は間髪入れずに「そして」と続け、
「だからあなたはあなたの人生を好きなように選択しなさい。あの子のことを忘れ、そのまま生きていくのもよし。あなたはあなたの
そう言うと机の上の呼び鈴を鳴らす。入ってきたメイドに「お帰りです」と伝えると準備をさせる。
俺はというと呆けていた。何もかも自分の予想と正反対の出来事が起きてその事実を受け止めきれなかった。
「最後に――」
背後に見送りに来てくれたノエル母が、今までの分かりにくい表情とは違う悲しそうな顔を張り付けて呟いた。
「最後に、あんなことを言った後に言うのは卑怯だと分かっているのですが言わせてください」
頭を下げる。声と肩を震わせている。
「あの子のこと、よろしくお願いします」
右から左へと、左から右へと足取り悪くアスファルトを歩く。
何が何だか分からなくなってきた。
ノエルは俺の一言のせいで消えて――
探してもその痕跡を探せなくて――
ノエル母から責められると思ったら気にせずに生きろと言われ――
でも泣きそうな顔で頼むと言われて――
「あぁ――」
もはや何が起きているのか俺もわからなくなってきた。
ノエルが消えたのは自分の意志に従った結果。そうかもしれない。
でもいっそ八つ当たりをしてくれたならこれほど楽で救われることはない。
しかし彼女は俺に背負うなといった。なのに俺に託した。
ふと空を見上げるとすぐにも雨が降りそうな黒雲が支配している。
服の上から胸を握る。心臓の鼓動は大人しいのに痛くて仕方がない。
少し休もう。
いつしか一悶着があった公園に着いた。人気のない林並木の奥にあるベンチに腰を落ち着かせる。
そういえば小さい頃は活発で外で遊ぶことが好きな俺はよくここの公園でやんちゃしていたっけ。
春は花を見て、夏は虫を取り、秋は落ち葉を踏みしめ、冬は遊具の冷たさを楽しんだ。
その頃の友人はほとんど連絡を取っていない、とゆうか知らない。大事な人の記憶もない今ではこの公園の思い出と言えば――
――それを発見できたのは幸か不幸か。
思い出に浸るという目的のために行った俯瞰した視界がその違和感、異常、非日常、を認識させてしまった。認識できてしまった。
林の木の中に一本、赤が張り付いている。それは液体で、粘性があり、鉄の香りがする。
この日本の町に一本だけ赤い樹液を出す木が生育されているなんて考えられない。
血だ。これは血だ。人の血だ。
木に張付着した量とそこから地面に点々と続く血痕が重症であることを雄弁に語る。
それは人通りの多い広場に続いていた。
「ハーッ、フーッ」
知らず知らずの内に呼吸が乱れて大きくなる。
この先にある現実の非業に耐えられそうにない。体が縫い付けられたように動かない。
歯をかみしめてざっ、と一歩下がる。
そうだ、このまま下がればいい。
このまま家に帰ればいい。
見なかったことにしてしまえばいい。
見ず知らずの人を助ける義理なんか俺にはないんだ。この先で誰かが死のうとそれは俺には関係ないことなんだから、無視しよう。
逃げよう。
逃げたい。
逃げたいのに――体が動かない――。
突如目前に現れた非日常のせいか、それともこの血痕の先に続く重力に邪悪を混ぜたような威圧感のせいか。
動けない。
いや。
いや理解しているんだ。
俺は恐れているんだ。
頭の中に一瞬だけ浮かんだ最悪の想像以下の妄想がこの先にあるのではないかと。
進むだけでも気が狂いそうな魔の暴風の先には――。
嫌だ。進みたくない。
帰りたい。見たくない。
見なければただの可能性で終わるのに、進まなければ恐怖を忘れられるのに。
その妄想を否定したくて、下げた一歩をまた踏み出した。
「ハーッ、ハーッ」
林並木を抜けて池に着いた。池には人どころかボードもない。
いや、注意深く観察すると池に木片が浮かんでいるのが分かる。
「ハーッ、ハーッ」
石畳の地面が抉れて礫が散乱している。
穴が縦横に空いており規則性を感じさせない。
そんなはずはないと分かっているがもう何時間も歩いていたような気がする。
そして――ついに見つけてしまった。
凄惨の元凶。ここに人が寄り付かない理由。
粉々に粉砕されたベンチと電灯が数本。その破片の中に3人。
「あぁ……」
肩に深い創傷を負い現在も血を流す銀髪の少女。それを絶望した顔で近くで見ている褐色のエルフの少女。
その二人に今にも振り上げ大剣を下そうとしている黒と紫を基調とした鎧姿。
「何なんだよ――これ――」
どうしても呟かずにいられなかった。
じゃないとこの空間にのまれてしまいそうなほどの「ありえない」がここに詰まっていた。
「なんで不知火さんとノエルが死にそうになってんだよ」
声に出して確かめないとおかしくなりそうだ。
「……ほう?我の戦いの場に割って入るものがいると期待していたのだが……。どうも実力も測れんネズミが紛れ込んだだけだったか」
ぞわり、と全身が総毛だった。聴いただけでも後悔する声だった。
人生の「やめておけば」をどれだけ煮詰めてもここよりはましだ。
みっともなく叫んで泣き出さないように気をつけながら喉を震わせる。
「二人に何をするつもりだ?なんで攻撃をする?そもそも――」
「
威圧感が増した。
それだけなのに、たったそれだけなのに俺は『死』を予感した。
こいつの気まぐれで俺は生かされているだけなんだ。
「我は今は非常に機嫌がいい。その最高潮に貴様のような者が紛れ込み不快で仕方がない。我の機嫌に免じ一言、一つの質問を赦す。その後に
考えればおかしな話だ。こんなこと聞かなくてもおおよそ予測できる。機嫌とやらがいつまで続くかわからないならさっさと逃げるべきなのに――
なのに聞かずにはいられなかった。
「お前は――。お前はいったい何者なんだ?」
「――――フフフ――――ハハハハハハハ」
言い終えると同時に奴が笑い出す。
「下らん!実に下らん!!よもや出る言葉がそれとは愚かにも限度があろうよ人の子よ!
だが佳い!その愚鈍加減は佳いぞ!故に応えてやろう!」
甲冑を鳴らしながらこっちを向く全身鎧の男。
その兜には大きなヒビが入っていて――
「我こそは魔界の騎士を束ねる騎士団長にして――」
そのヒビがどんどん大きくなっていて――
「我らが魔王様の右腕たる
割れた兜の中身は――
「名をデュラハン!王から授かりし二つ名こそ『誓約の騎士』!誓約騎士デュラハンだ!」
カラッポだった。
走者「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???!?!?!!!???」
あなたの好きな幸福論者の登場人物は?(次の閑話の主人公にするかも?)
-
ホモ君
-
白上フブキ
-
黒上フブキ
-
湊あくあ
-
百鬼あやめ
-
癒月ちょこ
-
大神ミオ
-
不知火フレア
-
白銀ノエル
-
雪花ラミィ
-
獅白ぼたん
-
ヴァンパイヴァンパイア
-
エルフのおっさん