ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 評価バー落ちたので初投稿です。


月蝕の妖精 3

 「冗談だろう、オイ……」

 

 魔界の騎士団長。その名前、役職を俺は知らない。だがその魔界という一つの世界の役職の長を務めていること、その同じ空間にいることが苦痛になるほどの威圧感。そしてあの白銀ノエルが膝をついていること。なにより魔王軍の幹部というネームがあの鎧の化け物さ加減を嫌でもわからせられる。

 

 自分の運のなさがもはや面白い。

 

 震える手を何とか宥めながら腰へもっていく。目当てのもとをカチャカチャ音を鳴らしながら、普段数十倍の速度で引き抜く。

 

 命を奪う道具として絶対に有事以外で使わないときつく誓い、頼った武器が緊張のせいか────それとも目の前の存在が大きすぎるせいか────小さく心もとないモノに思えてきた。

 べたつく嫌な汗も額から止まらない。どこか他人事のように、サバンナの草食動物がライオンに狙われた時もこうなのかな、とか考える。

 

 そうして思考を現実からずらさないと自我を保てないのかもしれない。

 

 俺が剣を抜き、持ち手を前に、足を半歩後ろにずらすいつもの姿勢をとると、つんざくような声が耳を突き刺す。

 

 「何を、しているの……?早く!早くここから逃げて!こいつには颯太君じゃ勝てないから!」

 

 ノエルだ。あの肩の傷の深さからしても、意識を繋ぐだけでも精一杯だろうに声を張る。考えるまでもなく俺を死なさないためにだ。

 分かっているさノエル。だがこいつは────

 

 「お前が幹部だということは持っているのか?俺の記憶を?」

 

 「『俺の記憶』……か。なるほど貴様が星本颯太だったか」

 

 記憶というワードからまだ名乗っていない俺の名前を完全に言い当てた。そこからも間違いない。

 探したぜ。お前を。

 待っていたぜ。この時を。

 

 一部であろうとも取り戻せることを。

 

 「分からんな。右手の解放骨折。左足の単純骨折。戦える状態ではないだろうに、その勇ましく構えた武器は何だというのだ?」

 

「察しが悪いにもほどがあるぜ騎士団長様よ。戦お(やろ)うっていってんだよ」

 

 「ほう?」

 

 俺の一言に意外といわんばかりに顔を上げるデュラハン。

 

 「異な事を。戦う?我が貴様と?」

 

 その声色から本当に考えていなかったのだろう。俺と自分が戦うという可能性を。俺が挑むという事態を。

 

 「笑止。滑稽ここに極まるな。自分と相手との力量を大まかであろうと測ることができないのか?人間とはここまで愚かであったのか?」

 

 うるせぇわかってるよ。俺とお前に彼我の差があるということくらい。ただの人間が猛獣に勝てる道理はない。だがやらなければいけないときってものがあるんだよ。

 俺が俺として生きていくためにも。

 

 「クク……」

 

 鎧の奥から小さくくぐもった笑いが響く。

 

 「やはり人間は変わらぬなぁ」

 

 一瞬だった。

 デュラハンが肩に担いでいた剣を構える。 それだけで場の雰囲気が冷たく変わったのを肌で感じた。

 だが奴は俺の想像以上に想像以上だった。

 

 「ハァ!」

 

 気合と共に奴の周りから力の本流が巻き起こる。

 ただ気合を込めた、奴がやったことはそれだけだというのに――

 

 バリィン!

 

 目に見える範囲の街灯が割れてガラスのシャワーが出来上がった。

 

 「う……が……」

 

 俺はというと情けなく後方に飛ばされて背中から着地して痛みに悶えていた。受け身もできなかったせいで横隔膜が上がってうまく呼吸ができない。

 片膝をつきながらなんとか起き上がろうとする。

 使えない足を支えながらなんとか立ち上がろうとして、見てしまった。20mはあるかという先でデュラハンが大降りに構えて剣を振り下ろさんとしている。

 

 ブゥゥゥン!!

 

 そのまま空気を一文字に割く。

 

 空振り?デモンストレーション?そんなことをするような――

 

 ドォン!

 

 轟音。突風。

 二つが俺の背中を叩きつけ今度は前方に空を舞う。

 

 空中で回りながら俺は見た。何度か来たことがあるからわかる。

 俺の後ろには公共のトイレがあった。それが()()()()()()()()()

 

 魔力をまとっていなかった。力の本流を感じなった。

 あいつは特別な力ではなく、()()()()()で20m先からコンクリートの塊を破壊したのだ。

 

 「グッ……エ……」

 

 ゴロゴロと地面を転がる。地面で擦った手のひらから血がにじむ。

 同時に尋常じゃない吐き気が襲う。

 

 寒い。ダルい。体の内から『気持ち悪い』があふれてくる。

 

 痛い。この空間そのものが凍てつくみたいだ。ただいるだけで痛くて仕方がない。

 ただ奴の近くにいるだけで浸食される。

 

 見誤った。自分の力量と目の前の存在を。

 

 規模が違うのではない。規格が違うのだ。

 俺と奴は生命として、積んできた経験と覚悟の総量が違う。

 

 歳月と種族という絶対の壁がこの間を絶対のものにしている。

 

 やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。やめればよかった。

 

 ここで俺は殺される。

 

 死ぬ。意味もなくここで死んで、ノエルも不知火さんもここで殺される。

 死が迫ってきている。何回も味わったこの感覚。全身の血が凍り付き、無気力があふれてくるこの最悪。

 

 俺はここで死――

 

 「去ね」

 

 ――――え?

 

 「聞こえないのか?我は無駄な殺生は好まぬ。だからこそ我は魔王軍なのだ。貴様のようなネズミに関わっているわけにはいかぬのだ。故に疾く去ね」

 

 淡々と俺に語り掛けるデュラハン。

 

 「そも貴様が探す感情と記憶は持っているが、我が担当しているのは貴様の『不快感』だ。これに命を懸けるほどの価値はあるまい」

 

 それは――そうだ――。

 

 ちょこ先生と話している時、俺はそれをいらないといった。先生は必要なものだと言っていたけど俺にはどうしても生きていく中で邪魔にしか思えなかった。

 痛みは体の危険信号として理解できる。

 だが、何かを気持ち悪いと思うことに意味などあるのだろうか?不衛生なものなら見て、聞いて、嗅いで理解できる。

 ならばこの感情に意味などない。

 

 逃げればいい。わざわざ去れと言ってくれているのだから脇目も振らず走ってしまえばいい。

 それなのに俺が動けずにいる理由は一つ。

 

 「……颯太君」

 

 彼女たちの存在だ。

 彼女たちがいることが俺が日常に戻ることを許さない。

 彼女たちを見捨てるという事実に心が耐えられないんだ。

 

 あぁ。最低だ俺って。

 二人を見捨てられないから逃げないのではなく、二人を見捨てる俺の体面を気にしている。

 

 もしこれから彼女たちが死ぬとしても、逃げた俺を恨んでほしくないという汚い感情が俺を渦巻く。

 

 「ハァ……ハァ……」

 

 奴の力の冷たく硬い圧に充てられてか意識が薄くなってくる。力が抜ける……。

 

 俺は現実から逃げ出した。

 

 

 

 風の音が聞こえる。風が流れている。

 嵐の日の様に体を風が打つ。

 

 周りは黒く暗く、自分の手さえ見れなかった。

 

 これは俺の心だ。どこまでも汚く、見るに堪えない俺の心。

 どうしようもないほどくすんでいて黒く塗りつぶされた心もどき。

 

 改めて見つめれば嫌になる。

 これが俺の歩んできた結果だ。

 

 人との関わりを逃げてきた。怖いから。

 死を見つめるのを逃げてきた。両親を思い出したくないから。

 たくさん逃げた。面倒くさいこと。辛いこと。しんどいこと。

 

 逃げて逃げて逃げて……俺の心はここまで黒く染まった。

 

 逃げることは悪いことじゃないと。

 おかしいのは周りだと言い訳をして。

 

 本当はわかっていたさ。

 逃げちゃダメなことは。でもそうやって分かっていると、理解しているから大丈夫だとまた逃げていた。

 

 だからこれは罰なんだ。目を瞑ぎ、耳を塞いで逃げた俺への罰。お前はここまで汚く最低だと、瞼を斬り割かれ腕をもがれてどうしようもなく知らされる。

 

 もう嫌だ。戻りたくない。

 俺のせいでノエルが死にそうになっている。それを見て俺はこの場から逃げようとしている。

 

 逃げられることに安堵している。

 たった一度の攻撃で心が折られている。

 その事実にまた心が削られる。

 

 

 風が吹いている。風を叩きつけられている。

 浮遊感と共に風が俺を襲う。

 

 あぁ、もういいや。

 

 この風と一緒に砕け、消え去りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「少年!!先ほどの問いに対する答えだがね!!単純さ!!」

 

 ――声が響いた。

 

 「私はねただ人間が好きなんだよ!!羨ましく思うほどにね!!」

 

 楽しくて仕方がない。そんな調子の声が響いた。

 

 聞いたことも無い声。どれだけ聞いても記憶の痕跡がない。

 でも――

 

 「そうだ。人間は弱い、他の種族と比べて圧倒的に。でもね。だからこそ可能性があるんだ」

 

 涙が出てくる。

 

 その祝福に力があふれてくる。

 どうしようもない自分が、ただ生きていることに嗜好を見出せる。前へ向ける。

 風が強く強く通り抜ける。

 

 「無理だと言われようとも、どれだけ細く細かい可能性でも目指して走る。」

 

 そうだ。

 俺は弱い。

 奴は強い。

 

 経験と種族と歳月が差を埋めがたいものにしている。逆立ちしても勝てないだろう。

 

 だが――――だけど――――だからこそ――――それがどうしたというのだ?

 

 勝てないから挑まない?

 違うだろう。

 

 勝てないから勝つ努力をするんだ。

 

 経験の差があるならば学べばいい

 種族の差があるならば練習すればいい。

 歳月の差があるのならば考えればいい。

 

 俺はまだ何もしてない。諦めるには早すぎる。

 俺が人間()である限り、もう諦めない。

 

 

 「――――それは、とても美しいと思わないかい?」

 

 

 あぁ。今まで散々逃げた。なら、今度は俺が美しいと思われる姿であろう。

 

 

 

 「おい、どこに行くんだ妖怪カラッポ鎧」

 

 去ろうするその背中に不躾に堂々と言い放つ。

 表情は全く分からないが、その雰囲気から分かる。意外で仕方がないのだろう、俺が立ち上がったことに。

 

 「ほう……。我の魔力に充てられてなお立ち上がるその精神性は褒めておこう。だが、吐いた言葉はいただけんな。貴様は――」

 

 「うるっせぇよお前は。鎧が空洞だから声がなんかくぐもってんだよ、聞き取り辛ぇな。鋼〇錬金術師の弟か」

 

 シン、と場が静まった。

 

 言われた本人だけでなく、ノエルや不知火さんまで口を半開きにしている。

 それはそうだろうな。気絶して起き上がったら急に太々しく暴言吐き始めるんだもんな。

 

 「貴様、狂ったか?」

 

 「狂ってんのはお前だろうが午後四時にそんな大剣振り回して、ご近所さんからクレーム来るぞ。ただでさえ最近の公園は『ボール遊び禁止』だ、なんだの厳しいのに『武器を振り回すの禁止』になったらどうすんだよ?これ以上子供の遊び場を奪うんじゃねぇよ」

 

 「人界の子供は物騒だな……」

 

 あいつの魔力に充てられたせいだろうか、体調がよくない。

 でも負ける気がしない。

 

 擦って血がにじむ手を服で拭い、砂を落とす。そのまま左胸の前を思いっきり握る。

 白く汚れの無い服が血でにじむ。

 

 大丈夫。俺の心臓は確かに赤く燃えて色づいている。もう、あの俺はいない。

 だから怖くても言える。

 胸いっぱいに酸素を入れると声を張り上げた。

 

 「デュラハン!!俺と戦え!!!」

 

あなたの好きな幸福論者の登場人物は?(次の閑話の主人公にするかも?)

  • ホモ君
  • 白上フブキ
  • 黒上フブキ
  • 湊あくあ
  • 百鬼あやめ
  • 癒月ちょこ
  • 大神ミオ
  • 不知火フレア
  • 白銀ノエル
  • 雪花ラミィ
  • 獅白ぼたん
  • ヴァンパイヴァンパイア
  • エルフのおっさん
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