ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
拝啓、天国の父と母へ。4月も中旬に入り、桜舞い散る中に忘れた記憶とあなたの声が戻ってきます。
さて、私事ではありますが自分の浅はかな考えにより近頃そちらに顔を出すことになりそうです。
えぇ、意外と早くそっちに行くことになりました。人生分からないものですね。
この数年に私がしてきたことをお話に行きます。楽しみに待っていてください。
ps.駄メイドへ 財産と言えるものはないけど家は使ってていいよ。
「これで良し」
「良くないよ何もうあきらめているの」
「あー!俺の文才の結晶が!」
鞄から取り出したルーズリーフにしたためた遺書を破り捨てて風に乗せてばらまくフレア。
「いやもう無理無理無理無理カタツムリでしょこれ。乗馬経験ないのに流鏑馬て外国人に納豆をパッケージごと食えって言っているようなもんじゃん」
「いやこの広い世界探してもプラスチックを主食にしている人は皆無だと思うよ」
俺の絶望をよそに涼しい顔で俺を見下ろすフレアに若干の戸惑いを覚える。
何をこんなに余裕吹っ掛けているのだこの長耳は。
授業の一環で弓道を行った程度の知識だが、弓というのは扱いが難しくしんどいものだ。
射法八節といった正しい動作、姿勢を保ち、的へ当てるというのは想像以上に困難だ。
しかもこれを体幹が上下してブレる馬上でやるのはもはや素人には理解できない。しかも相手はこの日のために一年を無駄────もとい努力してきた人達だ。
「大丈夫だって。馬に乗るのは初めてだけど的はめっちゃ近いし、なにより普段は動いている獲物を打つんだから。相手が動くか、自分が動くかの違いだって」
そんなのもんなのだろうか?
「フヒヒヒヒ……。これはこれは飛び入りでとんでもない
信じられないという懐疑的な表情をしている俺に鼻息の荒い野太い声がかけられる。
「お……お前は……!」
まさかこいつがこんなところで油を売っているとは思わなかった。
その存在感は他者から必ず1mの物理的距離を作り、この例大祭での伝説をいくつも作った
「
「いや誰よ。みんな知ってるみたいな雰囲気で進めないで」
驚きを隠せずにいる俺とは反対に真顔でいるフレア。
「まじかよフレア!あの藻手を知らないのか!?義務教育受けてる?」
「この厚眼鏡をかけている男を知るのが義務ならそんな国滅びてしまえ」
あくまでも辛辣で冷ややかだった。
「説明しよう。この例大祭が非モテの最後の希望と言われるになったのが23年前。これはある
「フフフ……。今は父が浮気したため父子家庭です……」
「もう後がない自分を拾ってくれた女性に対して調子に乗って不倫できるその胆力はどこから来るの?」
ちなみに藻手の父はよりを戻すために例大祭に参加したが、落馬して馬に蹴られて病院送りになった。
リア充でもないのに馬に蹴られるというそのギャグで会場にさわやかな笑いを送ったことから、名誉非モテ────通称非モテ王を現在進行形で欲しいままにしている。彼もまた生きる伝説だ。
「それでその伝説さんがいったい何の用なの?」
「………………」
「……?もしもーし?」
藻手に問いを投げかけるフレアだが前髪で目線を隠して俯く本人から一向に返事が返らない。
それどころか「ムフー……ムフー……」という呼吸音がどんどん強くなっていく。
「フレア。こじらせ非モテ男に美少女と対面で話せるわけないでしょ?高血圧で死んじゃうよ」
「魔族の呪いのほうがまだ優しいよ、それ」
何を言うかと思えば……。こじらせコミュ障非モテの時点で特級の呪いと同義だぞ、きっと前世で悪行の限りを尽くしたに違いない。公衆トイレのトイレットペーパーを全部持って帰るとか。
「……じゃねぇ」
「おん?」
俺とフレアが会話をしているとすすり泣くような、怨嗟と憤怒が五分五分で混じった音が聞こえてきた。
「彼女がいるのに!!祭りに参加してんじゃねええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
いや嫉妬10割だった。
「お前こんなにかわいい彼女がいるのにこんなところに来るんじゃねぇよ!ここは
しかも参加するのは彼女だぁ!?俺の彼女はこんなにかわいいって自慢か!?クソクソクソ!!Sランク美少女を連れまわして挙句の果てに夫婦漫才なんて……。夫婦漫才なんて……!
羨ましいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!」
呪詛を吐き終えると共に階段を駆け下りてそのまま神社を抜けていく藻手泰三。
「…………」
「…………」
「……ねぇ颯太。一つ聞いておきたいんだけど」
「……なに?」
「『ウォンモテ』って?」
「
「……そのセンスじゃモテんわ」
言ってやるなよ。
時刻は昼時に差し掛かり、陽気な空気が充満している。
すでに参加者の多くが順番を終えて、一喜一憂────いや、一喜百憂している。優勝者が一人である限り、点数が負けた時彼らはまた一年の非モテの牢獄を過ごすのだ。必死さが違い過ぎる。
現時点におけるトップは藻手泰三の39点で独走状態だ。なんだかんだ言っても生きる伝説(笑)。血統から来るものか天性の才能があるのかもしれないな。
それよりもフレアだ。
彼女と言えば俺の心配を他所に生まれて初めて乗った馬の感触を楽しんでいるみたいだった。
「キャーキャー」と女の子らしく楽しんでいる姿が俺の不安を掻きたてる。失敗すればすべてが終わるのを理解しているのか?
『続いて今大会初の女性!不知火フレアさんの登場です』
俺がモヤモヤした気持ちで唸っているとついにフレアの出番が来た。
美少女が出てきて最高潮に沸く会場に気を留めず馬を撫でるフレア。余裕綽々といった感じだ。
いけるのか?頼むぞ?本当に!
『よーい!スタート!』
実況からの合図とともに馬が走りだす。なかなかのスピードだ。全力で走っているわけでもないのに時速40kmは出ていそうだ。
当のフレアはスタートの加速に体勢を大きく崩したようで前後に大きく揺れている。何が楽しいのか思いっきり笑顔で。
そして差し掛かる一枚目の的。
この一射でフレアの実力、才能が見えてくるわけなのだが────
フレアは揺れながら矢をつがえ引き絞り発射する。
力動エネルギーを推進力に重力を無視して進む一本の矢はそのまま的の真ん中を────
射ることなく明後日の方角へ飛んで行った。
「終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
オイオイオイ嘘だろう!?的のはるか右へ飛んで行ったぞ!?視覚しっかり見えていますか!?
お、終わった……!まさかここまでへたくそだと思わなかった……!
今のトップの点数は39点。残りの的の数は4つ。一枚最高で10点だからこれから逆転するにはすべての的の真ん中を射抜かなきゃいけない。
詰んだ。
「おおおお!!」
膝をついて落ち込んでいるとギャラリーが湧いているの聞こえてきた。何事かと思い顔を上げるとそこにはフレアが2枚目の的を通り抜けた先だった。
いや、目を凝らしてると矢が的のど真ん中に位置していた。
そのまま3枚目、4枚目も一切のブレなく真ん中を正確に射抜いていく。
そしてついに最後の的も────
ズバン!
見事に真ん中を射抜きそのまま馬ごと舞台裏に消えていった。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
会場の盛り上がりは今日一番というところまで盛り上がった。そんな湧き上がる観客とは対照的に俺はいつまでも口を開いたままでいた。
「ハイこれ約束のモノね」
「あ、あぁ……。ありがとう……」
あれから表彰式などを経て神社の裏手でフレアと出会った俺は商品であるお守りを受け取っていた。
「それにしても驚いたな……。最初の一射は遊んでいたのか?意地が悪い」
「いや?本気で射ったよ」
「……それはつまり最初の一射で感覚を掴んだととかそういう天才のソレ的な……?」
「ううん、イカサマした」
すまし顔で何を言っているんだこのおっぱいは。
「ほらこれ」
差し出された掌には太陽の光を反射することでようやく見えるほどの細いモノがあった。銀色に光り、摘まんでみても髪の毛の様に触っているのかも認識が難しい。
「え、ナニコレ」
「
「ははぁん?なるほど?」
つまりこの視認するのも難しい糸を矢に引っ付けて、射ると同時に何らかの技術を使って的の真ん中に当てていたと。全く分からなかった。糸の存在も、軌道を変える動作も。
「しかしやるな。イカサマの技術もそうだが、それ以上にあの衆人観衆の中でイカサマをする精神が」
「当り前でしょ。ノエルを助けるにはこれが必要だって言うなら何としても手に入れるよ」
本当にたくましい。
「なぁ、その鉄糸さ、俺にも少しくれないか?」
「いいけどなんで?」
「作戦を完璧にするためのラストピースになるかもしれないんだよ」
「そういえばちゃんと聞いてなかったね。作戦って?」
「ああ!」
「…………」
「…………」
「おい言えよ!」
作戦については直前になるまで言うつもりがない。というのもこの作戦の博打性もそうだがその詳細を教えると必ず怒られるからだ。
それに作戦を教えてまた顔面をボコボコにされると困る。
これからの作戦の最終段階では見てくれをしっかりと整えて挑まなければならない。
ポケットから携帯を取り出すとポチポチと操作して、メッセージアプリである人物と夜にアポイントメントを取る。
送った2秒後に既読になり、5秒後に返信が返ってきた。
どうも乗り気でいてくれたらしく助かる。
「よし!行くか!」
「どこに?」
「デートに」
「……ハァ?」
スーツに身を包んだサラリーマンがくたびれて足取り悪く帰る頃。ロボ子は
待ち合わせの駅前、前衛的なモニュメントの前で息を整える。約束の時間にはまだ20分もあるのにどうも気が急いて走ってきてしまった。
どうにも気持ちの整理というか制御がうまく稼働しない。
それもこれも全部コレのせいだ。
携帯を開きスリープモードを解除すると開いたままのメッセージアプリが出てくる。
画面の中にはただ一言『今日の夜10時会いたいです』と書かれていた。
これはズルい。ズルいではないか。
多くを語ることはせずに、ただ会いたいと言われるとこちらとしても想像があっちこっちに膨らんでしまう。それはもう宇宙の様に無限大に。
先日一緒に手作りの料理をごちそうされてからすぐのお誘いだ。こんなの色々と期待しないほうがおかしい。
「あれ?ロボ子さん早いね?」
ドキン、と心臓に当たる部分が跳ねた。
急いで携帯をポケットにしまい手櫛で髪を直しながら振り向く。
「そっちこそ早いね、颯太」
ボクにとっての長く短い夜が始まる。
「…………」
「…………」
駅前の入り組んだ細い道筋を右へ左へと入り込むと、それはあった。
コンクリートに塗料を塗っただけの簡素で無骨な雰囲気を思わせる建物。ボク個人としてはデ、デデデ、……デートには少し合わないと思ったが内装はなかなかだ。
簡単な作りのシャンデリアが温かい色の光で店内を優しくしている。内装は机と椅子と厨房だけとシンプルだがそれがこの中では調和と取っており、これ以上ない調度品として完成されている。
一言で表すとオシャレだ。
ボクの好感度が上がった。
「こんなお店よく知っていたね」
「昔親と何回か来たことがあるんですよ。誰かと来るのは初めてですけど」
彼の身の上話は少しだけ教えてもらった。ご両親が早くに亡くなって苦労してきたというのも知っている。
このお店はそんなご両親との大切な思い出の一つなのだろう。
そんな大切な場所に初めて連れてくる第一号を選んでもらえて正直嬉しい。
ボクの好感度が上がった。
席に着くとメニュー表とにらめっこしながら唸っていると彼のおすすめを教えてくれた。
ボクの好感度が上がった。
お水を注いでもらった。
ボクの好感度が上がった。
なんだろう、すごく恥ずかしくてたまらない。
この雰囲気のお店で男女が向かい合って無言というのは熟年カップルぽくて、その考えに至ってまた顔が赤くなるのが自分でも分かる。
どうも今日はいつになく気持ちが逸り、あれやこれやとありえないはずの妄想が湧き出てしまい一人でに恥ずかしくなってしまう。どこかしらバグってしまったのだろうか?
────いやバグでもいい。この気分が、甘くも酸っぱいこの気持ちがバグなら、たとえ重大な欠陥をこの後抱えることになってもこのままでいたい。それほどに新鮮で手放しがたい。
発熱が激しい。無意識にコップに水を何度も注ぎ足していることに気が付いた。
「そ、そいえばさ?なんで今日は会おうって言ってくれたの?」
聞かなくてもいいことを聞いたかもしれない。
別に理由がどれだけくだらなくても構わなかったが、どうしても聞きたかった。もしそれが彼からの情熱が起因する物ならば、それは間違いなく飛び跳ねたくなるくらいの宝物だからだ。
でも彼からの
「会いたかった、────というよりも会わなくちゃいけないと思って」
ポカーン、と口を開けたまま数秒呆けてしまった。
始めて知った。人もロボットも想像を超えることをされると思考がストップしてしまう。
こんなことがあってもいいのだろうか。とても長い時間生きて来た、だけれどその今までをどれだけ煮詰めてもこの一瞬の半分にも満たない。それほど濃くて──甘い──。
しばらくすると厨房から細身のおじさんが料理を運んできた。
雑談と食器の鳴る音とラジオのBGMが今のボクにとっての世界だ。静かすぎて、煩すぎて、甘くて、すっぱくて────
なんでかとても幸せ。
外からの車の走る音さえも、この完成された世界の邪魔者。
美麗な絵画に落書きされたように不快で仕方がない。
この濃くて甘い世界にノイズなんていらない。
だから教えて教えて欲しい。
店から出るともう一日が終わりそうな時間だった。
とても充実して、楽しい時間だった。
それども、ボクの心の種にはたくさんのモヤモヤが見えない茨となって絡められていた。
いつになく真剣に話してくれて、真剣に話を聞いてくれた。
でも、だからこそ、もしかすると────聞くことができなった。
「何があったの?」と。
この時間、空間に亀裂を入れて、そのまま壊してしまいそうで怖くなってしまった。
短い、出会って1カ月半────実際に対面していた時間は半日にも満たないかもしれない────の密度だけどでも、ボクは君のことを…………。
「ロボ子さん、このあと少し時間を取れますか?」
不意に彼がいつになくまじめな表情で硬い口調で消えるように呟いた。
眼球だけを動かし右上に視線を動かす。そこには8%と赤い文字がピカピカと点滅していた。ボクの残りの時間はこれぽっちしか残されていない。
これを無視することで起こることはきちんと理解している。電源が切れてどうあがいても起きないという深海よりも暗い底の底へと意識だけが落ちていく。
だけど、やはりボクは堪え性がないのか、
「うん、いいよ」
と、そう二つ返事で応じてしまった。
「うわぁ!!」
町内の坂を上り続けて15分。頂上に着くとそこには街を一望できる平野に切り替わる。そして地面は多数の彩色された光が煌めいていた。化学、人工で作られたそれは空から奪った代わりに地上で再現するという人の業であり努力。
ボクは天然の星空よりもこの人工の光が好きだった。
「最近たまたま見つけたんですよ」
彼はこちらに顔を向けることなく缶コーヒーを傾けていた。
「なぜなんでしょうかね?この景色を見るために思うんですよ。
人間がどれだけ劣っていても、どれだけ困難が立ちはだかろうとも『それでも』って言える力が胸の内から溢れてくるんです。
それが終わりに続くと知っていたとしても」
「……そっか」
心臓がいつもよりも断然に早く鼓動して、面白いくらい気持ちがまとまらない。頭のねじが物理的に数本とれてしまったのだろうか。
この綺麗な地上の星を見つめながら、男女が並んでいる状況。
まるで告白されるみたいだ。
文学、映像、ありとあらゆる方法で記されてきた、コテコテでとっくの昔に手垢で真っ黒になっているシチュエーション。
でも実際に当事者になるとどうしても意識してしまう。期待で胸を膨らませてしまう。
ふと、ここ数年感じていた胸の奥の奥でくすぶっていた人恋しさや、寂しさの本流が大きな波となってボクを揺さぶった。
そうだ。一方的というのが何だか癪で気が付かないふりをずっとしていた。簡単だなんて思われたくなくて演じていた。
こんな状況で期待し続けている自分に、嘘も誤魔化しも意味がない。
あぁ────そうだ────
ボクは────星本颯太が────
────好きなんだ
「ロボ子さん……ごめんなさい……」
この胸の内に宿る確かな感触を楽しんでいる時、そんなことを言われた気がした。