ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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あまりにも遅くなってしまったので初投稿です。
伏線回収回なので少し読み直すと今回は面白いかもしれないです。


月蝕の妖精 終

 白銀ノエル(わたし)にとって人生は低く薄く感じられるものだった。

 生まれながらの血統と家庭が彼女のすべてを許容しているとでもいえばよいのだろうか?その才能と家柄上できないことなどほとんどない。騎士団の長を輩出する家系に恵まれた才能をもって生まれてきてしまったこと。

 それ故に決められた人生設計、レールの上をただ顧みずに歩いている虚無感にも似たなにか。

 別にノエル自身がこの人生、家柄を恨んだことなど一度もない。父は多少過保護で鬱陶しく思うことはあれど悪感情を持ったことはない。母は理解があり、優しく道を整えて示してくれる。

 騎士団の仲間はいい人ばかりで、自分にはもったいないと思える親友もいる。

 順風満帆。白銀ノエル(わたし)のことをそんなありきたりで分かりやすい言葉で表した人がいた。

 

 それなのに白銀ノエル(わたし)として生きて育ったからこそのアイデンティティがどこか結びつかない。もしかしたらそれこそが人を守る騎士には必要な「薄さ」って奴なのだろうか。

 

 とにかく順風満帆なんて言葉が嫌だった。知り合いの自称海賊も思い出すし。

 白銀ノエル(わたし)本人が何よりも薄くてつまらない人生にどれほどの価値があるというのだろうか?他人がどれほど羨んでも究竟、白銀ノエル(わたし)が意味を見出さなければ意味がない。

 

 空を見上げるとほとほとに思う。あの月になってみたいと。

 

 月。空に気まぐれに現れては姿を変え、表情を変え去っていく。

 

 月。それはきっと海に続く人類にとって近くて遠い開拓地(フロンティア)

 

 太陽がないと輝くことも認識もできない、寂しくも儚く美しい存在。

 白銀ノエル(わたし)に最も近しい在り方。金ではなく銀。一番ではなく二番。

 金波銀波のように太陽と月の様にありたい。有史以来、いや有史以前から多くの人が魅入られてきた。歌で、文字で、絵で考えるだけでも笑われてしまうような数の作品でなんとかその美しさを残そうとした。

 白銀ノエル(わたし)もそんな存在でありたい。一番ではなくていいから、その陰でその人と一緒にいたい。

 それは────とても()()()()のだろうな。

 

 

 

 でも────

 

 

 

 涙で不確かな視界の中で手首に巻き付く赤紫の鎖が、無意識に歯ぎしりをするくらい恨めしい。

 こんなはずじゃなかった。そんな思考をこの脳内に思い浮かべることは今までの人生ではほとんどなかった。

 

 満身創痍の体を気合だけで引きずり、姿を見せた星本颯太。

 きっと自分では勝てないと分かっている。100人が100人そう考えるし、本人が100人に言われなくても誰よりも知っている。

 あぁ。そうだ。死ぬ。彼はもう数十秒もない命。

 

 「……なんで?……なんでここに来ちゃったの!?殺されちゃうのにどうして戦いに来たの!?」

 

 叫ばずにはいられなかった。問わずにはいられなかった。

 そもそも彼は今回の事件に関して関わりというべきものを何一つ持っていない。強いて関わりを見つけるならばそれは彼の言の葉────噂話から最悪の事態を勝手に想像して、勝手にヘタをこいただけだ。

 関係などない。

 関わりなどない。

 

 いや、そうじゃない。そうではない。

 たとえ10年来の親友を超えた存在であろうとも、どれほどの関係があろうともとるべき選択は一つ。

 見捨てる。これに限る。

 

 命が天秤にかけられたときに人間はそれをすべてを犠牲にしてまでも守るべきだ。尊厳も友情も、そして他所の命さえも。

 そこから生じるしがらみなんて────。

 

 だけども彼はそんな慟哭もけんもほろろに取り合わずにデュラハンと向き合ってしまった。

 

 相対する魔族と人間。

 

 もうこれ以上は耐えられない。今の私にとって見ることも聞くことも拷問でしかない。

 これから先出来ることはただ祈ることだけだ。

 奇跡を。

 

 生まれて初めて祈る。

 未来を。

 

 しかし現実というものは誰よりも公平で、差というのは不公平だ。

 

 「────白髪の雌獅子獣人が使った落とし穴をどう活用するつもりなのだ?」

 

 デュラハンの放った一言に颯太君の顔色が、暗くて遠いここでも分かった。

 

 声が無くてもわかってしまった。勝ち目が消えたのだと。

 暗闇の中に豆電球を灯したような頼りない光もたった今刈り取られた。ゴールの姿も拝めず、スタートの時点で消えてしまった。

 

 こんなことがあるのだろうか。意地も性根も性格もねじれて曲がっている。

 これは彼を潰すためにわざわざ勝負の直前で行ったのではない。

 白銀ノエル(わたし)の絶望をより深くさせるためだ。この場で、この瞬間で誰よりも絶望し、同時に希望を持つ白銀ノエル(わたし)を潰すためだけに────。

 

 静謐の夜の帳の中、異常な音量で彼の携帯からアラーム音が響く。

 

 一撃をもって彼を殺そうとするデュラハン。

 半狂乱に叫びながら突貫する颯太。

 

 「あぁ────いやぁ────」

 

 死ぬ。自分のせいで彼が死ぬ。

 一秒としないうちに死ぬ。きっと体はほとんど残らないだろう。それを実際に認識してはもう耐えることができない。

 

 白銀ノエル(わたし)は目を伏せた。

 

 同時に轟音。

 

 (────終わった)

 

 心を守るためか、頭の中に別の自分がいるようにどこか冷静に事の顛末を理解している自分がいた。

 

 だからこそ気が付いたのだろうか。違和感。

 轟音の後から何も聞こえない。世界から音という概念が突如消えたように。

 

 震える体を起こして、ありったけの勇気を振り絞って顔を上げる。

 

 公園の中心、決闘上にはなぜだか異様な土煙が上がっており、収まりがつくのは大分かかりそうだ。

 

 (…………??)

 

 デュラハンが大規模な攻撃をしたのか?それにしては────。

 

 思考はそこで途切れた。

 

 土煙の中からシルエットが浮かび上がってくる。足音と共に濃くなってきたそれは、その人物は────。

 

 「……えっ?」

 

 

 

 

 「ゴホッッ……エホッッ……ちょッ、待って。これ砂がヤバ……オエーーー!!」

 

 四つん這いで嘔吐(えず)くなんとも格好の悪い英雄(ヒーロー)の姿だった。

 

 

 

 

 勝負とは残酷なものだ。

 必ず勝者と敗者が決まるから?

 力の差が結果として浮き彫りになるから?

 

 違う。

 

 デュラハンにとってこの世の勝負とは、戦いとは始まる前から結果が見えている児戯だからだ。

 盤上であろうと現実であろうとも結果は始まる前から決まっており、その『終わり』が覆されることはなかった。

 

 だからこそであろうか?

 デュラハンは誰よりも真剣勝負を好んだ。

 頭をひねって構築した奇策を真っ向から潰す。その愉悦。

 鍛えぬいた力を己の必殺の一撃をもって粉砕する。その快感。

 

 どちらも肉の無い自分にとって唯一の感情だ。

 ただこれを悠久の時の導にした。不変で不要なモノである。

 

 ただ今夜の相手は、奇策というには曲がりくねっており、最初から必殺の一撃の外側だった。

 言うなればただ「相手が悪すぎた」のだ。

 

 

 「体が……動かん……」

 歴戦という形容さえ過少である、戦士デュラハンでさえ何が起こったのか理解が及ばなかった。

 

 (戦いが始まり、あの男が叫び走りだした。そし我はそれを迎え撃つために剣を構えた)

 

 そこまでは分かる。それまでは認識できる。

 

 問題は()()()だ。

 

 轟音。衝撃。土煙。そして今までに経験をしたことが無いような()()

 

 (痛み!?痛みだと!?)

 

 ありえない。

 

 この肉体()を傷つけるものは何物も能わず。

 誰もここまでの損傷を与えることは出来なかった。

 かの人界の英雄でさえもこの肉体()の前で膝をついた。

 

 (それがなぜ今ここで!?)

 

 考えるデュラハン。鎧がひしゃげ、瀕死の重傷であろうとも思考を加速させていく。

 

 (認めざるを得ない、我をここまで追い詰める攻撃を受けた。業腹だがそれは事実として受け入れなくてはいけない。だがどこからだ!?我の警戒網を抜けて不意を突くなどありえない)

 

 周りの状況を確認しようと、錆びついた鉄を回すように緩慢とした動きで首を回す。

 

 すると──

 

 「おっ!あれだけイキっていたのに一撃でのされた恥ずかしい奴発見伝!……オエーーー!!」

 

 土煙を割りながら涙目の颯太が現れる。

 

 

 「貴様……!貴様いったい何をしたァ!」

 

 「おいおいおい、口調が乱暴になっていますぜデュラハンさん?あれだけ大言壮語のオンパレードで強敵感を滲み出していたのに、一撃でノックアウトした気分はいかがすっかw?」

 

 これである。相手が弱るか勝負がつくと途端に気分が富士山よりも大きくなる男だ。

 

 「しょうがないからネタバレをしてやろうか。お前はたぶん攻撃がどこから来たのか?と考えているだろう?この自分にどうやって不意を突いたかで思考が止まっているはずだ」

 

 「グッ……!」

 

 ニヤニヤと厭らしい顔でこちらの神経を苛立たせる声で、しかし的確に意図を汲んでくる。

 

 「ヒント1。ずいぶんと頭を低い位置にしていますがそこまでかしこまらなくていいですよ?」

 

 (頭を低く……?)

 

 (確かにおかしい。ただ倒れ伏しているだけでは説明がつかないレベルで奴の頭が高い位置にある。)

 

 「いや!いや違う!」

 

 (奴が高くなったのではない!我のほうが沈んでいる!我の……正確には地面が陥没している!)

 

 そう先ほどまで立っていた地面はデュラハンを中心に陥没をしていた。新円を綺麗に半分に割ったように穴が開いていた。

 

 「地面に穴……。……上か!」

 

 「ピンポーン!」

 

 状況証拠から分かるのは上からの攻撃に押しつぶされる形で、地面ごと圧迫された。

 結果瀕死に近い重症と、機能不全を起こした。

 

 すると次いで新しい疑問が現れる。

 

 「我をここまで追い詰める攻撃を上から?」

 

 上という盲点からの攻撃。絶対にありえないがこの盲点のおかげで不意をつけたと仮定しよう。

 

 ではどのような攻撃を?

 

 魔法はあり得ない。

 魔法というのは威力が上がれば上がるほどその存在感を増す。魔力を周囲の人間が感じ取れ、光源としてこの暗闇を照らすだろう。

 

 (そもそも目の前の人間は魔法使いとしての才能がない。現在もその体の内に魔力が欠片も無いのだから)

 

 では物理的な大質量を落とした?

 それもない?

 デュラハンの肉体()を破壊するには数トンクラスの質量をかなりの高さから落とし、ようやく得られる莫大な位置エネルギーが必要だ。そして質量とは基本物体の大きさに比例する。この空には巨大な物体は見られない。そもそもこの広いそらからどうやって落とすのというのか────

 

 「グ……ヌゥ……!!」

 

 (それにしても体の様子がおかしい。どれだけのダメージを受けようとも戦えると自負していたが体の動きが鈍い……!)

 

 デュラハンは砂と土にまみれながら這いずるように剣を手に取ろうとするが叶わなかった。

 まるで鉛を乗せられているように動きが緩慢で緩い。

 

 いや────これは────

 

 「まだ気が付かないのか?長く生き過ぎて感覚が衰えているのか、突拍子が無さ過ぎて理解できないのか」

 

 自分の体の鈍さ加減でようやく気が付いた。

 体の上に何かが乗っている。何かが体を圧迫して動きを封じている。

 

 小さく柔らかい質感ながらも、その重量は現在進行形でデュラハンを地面に沈ませている。

 

 「これ……は……いったい……?」

 

 「俺の秘策……というよりも秘密兵器だな」

 

 颯太が口を開く。ようやくネタ晴らしができると笑顔を張り付けて楽しそうに。

 

 「ずっと使えるんじゃないかと考えていた。小さい体ながらもその質量は金をも超える不思議構造。恐らくオーパーツな鋳造外殻。そう────」

 

 突如ひときわ大きな風が吹き黄色い土煙のカーテンが裂ける。そこでデュラハンの目に飛び込んできたのは小さく、手足が付いている、人型の────

 

 「────ロボ子さんだ」

 

 

 

 最初にこの作戦を思いついたのは奴に俺が宣誓と要求する直前だ。

 俺の宣誓と要求は大きく分けて3つ。

 

 「戦闘は午前4時に今この場と全く同じ位置で!」

 「俺はここに一人でお前と一対一で戦うことを誓う!」

 「人質に傷一つ付けず、そしてノエルに着けている手錠の魔法を簡単に解けるようにすること」

 

 俺にとって最大の運はデュラハンが立っていた場所だ。というのも獅白ぼたんが俺に嵌めた落とし穴と全く同じ場所の上に立っていた。

 もちろん落とし穴程度で俺とデュラハンの戦力差が埋まるとは思っていない。俺にとって運が良かったのは落とし穴そのものではなく、()だ。

 覚えているだろうか?俺は落とし穴に埋められた時、二度と嵌らないように穴の淵に「ポインター」を埋め込んでいた。どこにいても位置を教えてくれるあの便利グッズだ。

 

 そこで思いついた。

 奴は残忍だが義理堅く、クソ真面目だ。だから俺が真剣勝負を申し出て、潔白な人間をアピールしていれば要求通りに動くだろう。

 結果は予想通り、俺の宣誓通り()()()()()()()()()()()にいてくれた。奴がどうしようもない真面目バカでいてくれたおかげだ。

 

 あとは簡単だ。

 ロボ子さんと出会って充電切れまで逢引きを粘る。

 (ちなみに無防備になることを恐れて夜遅くまで外に出ないロボ子さんは「幸運のお守り」の効果で引き留めた。恋愛成就の効果か、お守りそのものの「願いをかなえる」効果か、ロボ子さんを充電切れにすることは成功した。)

 

 そして約束の時間三分前にロボ子さんに『FLOAT(ラーメンタイマー)』の魔法をかけ、ポインターの真上で固定する。

 (ちなみに唯一の懸念点だったロボ子さんをポインターの上で固定する問題はフレアからもらった鉄糸が解決してくれた。ロボ子さんに糸を括り付けてフレアが引っ張って固定をしてくれた。)

 (無機物にしか使えない『FLOAT』がロボ子さんに使えるかは前回のバトルロワイヤルの獅白さん&雪花さん戦で検証済みだ)

 

 最後に魔法が切れたロボ子さんという大質量を避けられないように落とす。

 

 これだけ。

 ただこれだけ。

 

 正直に言おう。俺は何もしていない。せいぜい『FLOAT』を使ってロボ子さんを浮かせて空へ『投擲』しただけだ。

 それ以外はフレアが頑張ってくれた。そもそもなぜ人質を解放してもらう時にノエルではなくフレアを選んだと思っている。「お守り」やらなんやら彼女に働かせるためだ。

 

 一通り説明を終えるとデュラハンはしわがれた声で絶叫をする。

 

 「バカな!馬鹿な!莫迦な!アリエン!そもそも…………!!そう!そもそも!我は貴様に楔を埋めた!破れば心臓を潰す契約の魔法楔を!なのになぜ貴様は生きている!?『ここに一人で一対一で戦う』という宣誓を破っているはずなのに!!!」

 

 もっともな疑問だ。ちょこ先生が俺にかけた魔法と同じ契約の魔法。自分が誓うと決めたことを絶対に遵守させる魔法を俺は受けている。

 だから俺は少なくとも今この場では協力者がいてはいけない。一緒に戦ってはいけない。

 

 ごく当たり前の思考。流れ。

 故にこそ俺はデュラハンの喉元に至れる。殺せる。

 

 この魔法は強力だ。宣誓した言葉に違反した行動────それどころか思考を巡らせるだけでも鎖や楔が浮かび上がる。事実百鬼あやめさんと一緒に行動している時「魔王軍を探そうか?」と考えただけで発動した。

 

 しかしここで矛盾が発生する。

 俺がちょこ先生に宣誓したのは『自ら興味をもって探らないこと。そして決して自分から魔王軍幹部に近づかないこと』である。

 しかし俺は二日前に魔王軍幹部であるデュラハンと偶発的に出会っている。

 

 そこで俺は気が付いた。この魔法は強力だが大きな落とし穴(問題)が存在する。

 つまり自分の意志に関係なく宣誓を不意にした場合、もしくは目的の副次的効果で宣誓を不意にした場合発動しない。

 実際俺は二日前ノエルを見つけようとしてデュラハンに出会った。

 つまり縛れる範囲は酷く限定的かつ融通が意外と利く。

 

 ならば同じことをするだけ。「デュラハンに会うためではなく、()()()()()()()()()に」ここに来た。目的をすり替えて、結果的に副次的効果でデュラハンと出会ってしまった。そう思い込むことでちょこ先生の魔法を突破した。

 デュラハンの場合はもっと単純だ。俺は「()()に一人でお前と一対一で戦う」と宣誓した。()()にフレアはいない。なぜなら彼女は今も公園の敷地の外だ。ロボ子さん?アレはロボットで人ではないから。

 言葉遊びのような単純なタネだ。幼稚で子供がする揚げ足取りだ。しかしこのタネを見逃したデュラハンはこうして死にかけている。

 

 人間を舐めて、自己を過信した結果の究極系ともいえる。

 

 いや、単に相手が悪すぎただけかもな。

 

 

 「貴様ァ!貴様貴様貴様ァァァァァァ!!!」

 

 すべてを話し終えるとデュラハンは激高し叫び始める。

 

 「魔法の穴を付いただと!?そのような搦め手を行って楽しいのか!?」

 

 「あぁ楽しくて仕方がないね。今にも小躍りをしてしまいそうだよ」

 

 「グッ……!!まさか上からの急襲を食らったのも貴様のせいか!!?」

 

 「それはお前の行動に起因するな。二日前に俺を威圧するために魔力の波動みたいなの出しただろう?それで周りの街灯のガラスが全部割れちゃってんだよ。後は叫びながら殺気をもって突撃すれば完全に意識がこっちを向くしな」

 

 わずかな明かりがあればお前なら気が付いただろうに。実際に俺がバトルロワイヤルの時白上さんと大神さんの上からの不意打ちに気が付いたのは影のおかげだ。

 そもそも二日後の午前4時という時間を設定したのもまだ業者が街灯を直せず、住宅街の人々が完全に寝静まる瞬間。つまり完全な闇が欲しかったからだ。

 

 本当に。

 本当に薄氷の上を渡るよりもギリギリの、作戦とも呼べない奇策。

 

 どこか一個でも想定と違えばこちらが死ぬ分の悪い賭けに近いモノだった。

 

 それだけに────

 

 「恥ずかしく────恥ずかしくないのか!?一対一の誉れ高き戦いに協力者など────」

 

 「ハァ!?恥ずかしい!?!?ははははははは恥ずかしい!?生きるか死ぬかの戦いにそんな感情あるわけねぇだろ!!!???勝てば官軍じゃいぶぅわぁぁぁぁぁぁか(バーーーーーーカ)!!!!」

 

 楽しくて仕方がないね!!

 

 デュラハンがこちらを貶めることを言うたびに10倍にして煽る。

 しかしデュラハンもだんだんと落ち着きを取り戻してきたのか、こちらに最大の問題を突きつける。

 

 「……しかしだ。この先をどうする?貴様に我が命を絶てるか?」

 

 「…………」

 

 そうだ。

 奴の能力『誓約の騎士』は体力を必ず残し、減った体力分その力が上がる。ゲーム風にいうならHPを必ず1残して、減ったHP分防御力が上がると言えばわかりやすいだろうか?

 文献とフレアから聞いた伝承で知っていた。

 

 そして改めて目にして分かる。俺の攻撃力では奴の防御を突破できない。

 フレアも突破できるか怪しい。何よりここに来てもらうと契約魔法が発動してしまうかもしれない。

 ロボ子さんをもう一度落とすことはできない。ただでさえ一回『FLOAT』を使って魔力がスッカラカンだ。それにロボ子さんという重しのおかげであいつは動けない。浮かした瞬間に俺の首は飛ぶだろう。

 

 八方塞がり。いや、ロボ子さんが太陽光で充電を始めた場合、動き出して重しがなくなる可能性もある。このままでは俺の不利だ。

 

 

 「そんなこと思っているんだろう?」

 

 ここまで考えて置いて止めの刺し方を忘れていると思っているのかこのカオナシ(脳無し)は。

 

 何のために宣誓の時「一対一」を強調した?

 何のために人質解放の時フレアを指名した?

 

 さぁデュラハン。最後の伏線回収だ。

 

 「おーい!出番だよ!!」

 

 黒に染まった闇夜へと声をかける。

 

 不思議だろうなデュラハン。お前は人払いの結界を張ってここには誰もいないと思い込んでいるだろう。

 それは違うぞ。

 

 一人いる。人間が。

 

 お前の天敵ともいえる人間の存在が。

 

 ただ「ありえない」と一番に可能性から排除しているだけで。

 

 確かにその()()はいる。

 

 

 

 

 「後は頼むよ────白銀ノエル」

 

 「うん、まかせて」

 

 「な────に────」

 

 そう。これが俺の最後の策。デュラハンへの止めを刺すのは俺じゃない。ノエルだ。

 その為だけに最後の約束「ノエルに着けている手錠の魔法を簡単に解けるようにすること」をデュラハンに誓わせた。

 すべての行動は今ここに繋げるための布石に過ぎない。

 

 俺はノエルだけでも助けられればいいとも、自分の命を捨てようなんて思っていない。

 

 最初からデュラハンを全力で殺すつもりだった。

 

 ただそれだけのために動いていた。

 

 

 「颯太君……。まずはありがとう。助けてもらうだけじゃなく、こうして負けた相手に止めを刺す機会をくれて」

 

 ノエルはデュラハンの前でメイスを抜くと大きく構える。

 

 「マ、待て────。そうだ、情報交換と行かないか?お前は記憶のありかを探っていただろう?その情報を────待て!待て!そう!我自身に契約の魔法を撃ってもよい!どのような内容でも────」

 

 デュラハンは今になって悟ったのか命乞いを始める。

 だが、もう遅い。

 

 「颯太君はやっぱり強いね。ずっとずっと強いままだったんだね」

 

 「待て!待ってくれぇぇぇぇぇぇ!」

 

 「団長もそこに行けるようにがんばるよ。だから今は────」

 

 メイスが光り輝く。朝日を想わせるそれは一種の聖性をも感じさせる。

 

 轟音の中、光で目を薄めた俺には最後まで聞き取れなかったし読めなかったが────

 

 「白亜の鉄槌!!!!!!!」

 

 

 今はそれでいいだろう。

 いつかあの月が満ちるように、この言葉を理解できる日が来る。

 それこそ妖精の導きの様に。

 

 

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