ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 新章突入なので初投稿です。


夢想恋連
新たなる脅威


 何回か味わってきた鈍痛。深い水の中から水面へと浮き上がっていくこの感覚。ゆらり、ゆらりと世界が広がっていく。

 

 「グッ…」

 

 ピッ……、ピッ……と機械音が清潔感を感じさせる白で統一された部屋の中で鳴り響く。

 

 「知っている天井だ……」

 

 めちゃくちゃ知っている天井だ。()()俺が生まれた時に一番初めて見たものだからだろうか。この一定のリズムを打ち続ける機械音も懐かしいくらいだ。

 

 そして────

 

 バリバリバリ!

 

 このお菓子を食べる音もだ。

 

 「あらー?起きたの?」

 

 「…………一瞬本気で時間が巻き戻ったのかと心配しましたよ」

 

 ノールックで隣にいる人物に声をかける。

 見なくても誰がいるのかもうわかる。

 

 俺を散々引っ掻きまわして消息を絶ったグラマラス幼女。

 魔界のR18指定お姉さん。

 

 「今までどこいたんですか──ちょこ先生」

 

 

 

 

 

 「別に対したことをしていないわよ。ただの個人的な用事よ」

 

 それにしては長すぎだろ。保健室がずっと閉まっているとかちょっとした珍事だが?あまりにも長期で休んでいたから陰で「医者の不養生」とか「医者の不要所」とかあだ名をつけられていたぞ。

 

 掛布団を除けながら机の上のお菓子を一つ拝借する。

 

 いきなりながらもタイミングはちょうどいい。一つ聞きたいことが俺には合った。

 

 「先生。なんで俺倒れているんです?」

 

 デュラハンとの戦いで俺は一撃たりとも貰っていないはずだ。

 完全無傷。パーフェクトWINを達成したはずなのに、こうして病院にいるのはなんというか……納得がいかない。

 

 まさかとは思うがノエルの必殺の一撃に巻き込まれたなんてアホなオチじゃないだろうな。命の恩人という言葉を知ってもらいたいものだ。本当なら胸の一つや二つ揉んでもいいと思うのだがね。

 

 「あらあら。記憶がしっかりと戻ったわけじゃないのね」

 

 少し驚いた顔をするとちょこ先生は俺の頭に手をのせる。すると、じんわりと温かい熱と青い光が包み込む。大きく強く、青い光が部屋の壁を強く塗りつぶし、思わず目をつぶる。

 ひりつく頭痛の後、湧き水があふれるように記憶が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 「ノエルーーー!!!」

 

 「フレアーーー!!!」

 

 金髪の少女と銀髪の少女が涙ながらに抱き合う。何度か転びかけながらも出せる全力をもって駆けて交じり合うその色は筆舌に尽くしがたい。暗闇の中でも浮かび上がる金と銀のコントラストが本当に美しい。

 

 「ごめん!ごめんね!一人で置いて行って!無理を言ってついていったのに!ずっと謝りたかった……!」

 

 「ううん。いいの……いいんだよフレア!全部もう終わったから……」

 

 お互いに涙を流しながら笑いあう。その姿を見ていると命を懸けてまで行動を起こした甲斐があるように思える。

 住宅街の地平線の向こうから、太陽が顔を出しあたりを光で満たし始める。どこか吹っ切れた気分に、安堵。どこか清々しさと気怠さが、身を包む。

 

 「……帰るか!」

 

 節々の痛む体に鞭を入れながら背を向ける。故に気が付かなかった。……いや、忘れていた。

 五感が鈍っていたせいか、終わったと慢心していたせいか。とにかくわからないが、俺はとんでもない爆弾を抱えていたことを失念していたのだ。

 

 「ふーーーーん。そうなんだ。いきなりデートに誘ってきておかしいなと思っていたけど……ずいぶんと積極的だと思っていたけど……。()()()()()()、かぁ。」

 

 後ろから殺気!!??

 

 「颯太のばかぁ!」

 

 顎に衝撃、そして浮遊感。

 そこで俺の記憶は途絶えた。

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 犯人ターミネーター(ロボ子さん)じゃん。

 

 

 

 あれから体の隅々を検査してもらい大事が無いかを診てもらった。その間俺もちょこ先生も何も言わなかった。

 正直、色々なことを聞きたかった。今まで何をしていたのか?なぜデュラハンがここにいて何をしていたのか?

 ……どうしてすべてが終わった今になって帰ってきたのか。

 

 でもなぜだろうか。聞きたくても聞けない自分がいる。この関係が腐った木の枝の様に崩れてしまうような気がして。

 

 「そんな顔をしなくても教えてあげるわよ」

 

 ため息をつきながらちょこ先生は、俺の頭を問診表でポン、と叩きながら言う。

 

 ……そんなにひどい顔をしていただろうか。

 

 「さて、言わなきゃいけないことがたくさんあるのだけれど……。そうね、最初に私が何をしていたのかというと……」

 

 いきなりの核心。しかしそれだけ重要な案件だったということか?

 

 「季節外れの牡蠣を生で食べたら当たったのよね……」

 

 ナニヲイッテイルンダコイツハ?

 

 「────ハッ!?へッ!?え、え、え!?牡蠣!?牡蠣食って当たったせいで今まで姿消していたんですか!?こっちがシリアスやっている間にそんなバカなことあります!?」

 

 こっちが死にかけている時にまさかそんなアホな理由でグロッキーとかアンタにはがっかりだよ!

 

 「100万年生きてきて初めての経験だったわ。人間界は恐ろしいのね」

 

 「恐ろしいのはあなたの在り方ですよ」

 

 「死ぬかと思ったわ……」

 

 「死んどけ」

 

 おかしいな。もっとこうちょこ先生も一人で巨悪に立ち向かっているとか、実は陰ながら俺をサポートしてくれていたと思っていたんだが。

 

 「分かっていないわね牡蠣の怖さを」

 

 おもむろに俺の手を取り握手をする。思わずきれいな女性と手を握るという事にドキリとしてしまう。

 そして手を撫でまわすとおもむろに

 

 「はらいた」

 

 と呟いた。

 

 「えっと……?」

 

 なんだろう今のは……?

 なんか魔力の波動を感じたような。

 

 目をもとの位置に戻すとちょこ先生は優雅にコーヒーを飲んでいた。

 お菓子の個包装を丁寧にはがし、中身を口内で転がしながら先生は次に紙を寄こした。

 

 「それはあなたの怪我名と治療を施した場所よ」

 

 ズラッと10行近くにも及ぶ症状の数々はどれも聞きなれなかったが、素人目でもやばそうなものがたくさんあった。

 

 「っておい!」

 

 この「・下顎骨骨折」って絶対ロボ子さんのせいだろ!あのロボットなに骨折する力で殴っちゃってくれてんの!?

 そりゃ浮遊感も感じるわ!CPUにロボット三原則をたたきこんでやりてぇ!

 

 まぁ、でも100俺が悪いんだよなぁ。

 電源の落ちた乙女を空中から叩き落とし、漬物石代わりにして、砂まみれの中放置しようとしてたもんなぁ。怒るのも無理はないか。

 

 今度菓子折りでも持って、謝りに行こう。

 

 「あなた担ぎ込まれてから3週間も眠っていたままだったのよ」

 

 前言撤回。戦争だ。

 あのターミネーター溶鉱炉に落としてやる。

 

 「落ち着きなさい。確かにアッパーカットが止めだったけど、どちらにしろあなたは倒れていたわよ」

 

 「……そうなんですか?」

 

 まさか、俺の体がそこまで限界ギリギリであったとは自覚がなかった。たしかに体のあちこちを痛めてガタガタだったが意識がブラックアウトするほどとは思えない。

 となるともっと別の外的要因。なにかしらの方法が────。

 

 「あ────」

 

 一つ。思い当たることがある。

 

 「魔力……?」

 

 「正解よ」

 

 『FLOAT』。それは魔法界のネタ枠。大した効果もないくせに発動条件が全魔力(MP)の消費という産廃。

 そうだ。俺はあの魔法を使った後は魔力が空になり、いつも倒れていた。

 

 「それだけじゃないわよ。デュラハンはこの町に特殊な結界を張っていたの。数日程町の人間から生命力を奪うようなモノをね」

 

 なるほど。確かに町の人も学校の人たちも元気がなかった。あれは俺がノエルが突然消えてしまったことによるショックで世界が暗く見えていたのではなく、本当に生気がなかったのか。

 

 それで納得できることもある。デュラハンの奴があまりにも余裕綽々だったのは単に実力差があるだけでなく、俺自身が弱っていたからか。意外と狡っからいな、あいつ。

 

 「あなたの生命力はただでさえバトルロワイヤルでの魔力消費の数々、そして結界の効力で無いに等しい状態だったの。それをさらに『FLOAT』で追い打ちをかけてしまったのでは、倒れるのは当たり前ね。実は担ぎ込まれたときはかなり危なかったわ」

 

 オイオイオイ。もしかしてロボ子さんに顎の骨折ってもらったことで病院で早期発見できたのか。怪我の功名とは正にこのこと。これを含めてしっかりとお礼────はしたくないなぁ。

 

 「しかしはっきりしたことがあるわね。『FLOAT』は危険すぎるわ。これからは禁止よ、死にたくないならね」

 

 「………………はぁ」

 

 いや?うん。うん?うん。何だろうこの気持ちは。

 別に禁止されても全く困らないだろという気持ちと、まるで切り札を失ったピンチのような危機感。

 

 おかしいな。こんな産廃魔法、二度と使うことはないという予感があるのにこの気持ちは何だろう。

 

 「まぁ、わかりました────!?」

 

 突如、雷に打たれたかのような衝撃が細胞を駆け回る。

 この感覚は何度も経験があった。人生には、生物には付き物のこの感覚。ここぞという時と場で絶望のドン底に叩き落とされるこれにどれだけの人が涙を流したのであろうか。

 もしこれがなくなるならば世界を滅ぼしてもいいとイデオロギー強めの人間に代われる。

 

 そう────

 

 「────お腹痛い」

 

 腹痛だ。それも尋常じゃない。

 

 「あらー?もう効いてきたの?時間ピッタリね」

 

 「ちょ……ちょこ先生……。これ……どういうことですか……?薬の副作用とかですか……?」

 

 「ううん。さっき私が腹痛魔法をかけた」

 

 「なんてことしやがるんだこのヤブ!!!!」

 

 本当に何してくれてんだこの悪魔。イタズラにしては度が過ぎているし、嫌がらせにしては悪辣すぎる!

 

 「いやねぇ。牡蠣にあたっている時思いついたのよ。あ、これ魔法にしようって」

 

 「頭のネジ全部抜け落ちてんのかぁ!」

 

 「この魔法の画期的なところはね、なんと相手の手を握って『腹痛(はらいた)』と呟くだけでかけることができるのよ」

 

 「ねぇバカなの!?バカなんでしょう!?じゃなきゃ怖いって!」

 

 「これは完全に私のオリジナルで、魔法を伝授するには相手に実際にかけなくてはいけないという秘匿性もグッドね」

 

 「バカバカバカバカ!本当に魔族ってバカ!」

 

 ただバカと壊れたレコードの様に繰り返しながら俺はちょこちょこ歩きでトイレに今出せる全力で向かった。

 

 

 

 

 「はぁぁぁ……。ひどい目にあった」

 

 家の前で溜息をつく。

 トイレから出たらちょこ先生はもう部屋にいないし、次の患者が使うからさっさと退院しろと病院側から圧をかけられるし。

 医療過誤で訴えてやろうかな。

 

 しかし俺が憂鬱なのは病院の件だけではない。むしろこれからが本番といっても過言ではない。

 というのも家に帰るのが憂鬱なのだ。怖いともいえる。

 

 3週間。3週間も俺は家を空けていたのだ。

 

 それはつまり、あのメイドに3週間も家を預けていたことになる。

 米を洗っておいてと言えば石鹸で洗い、洗濯を頼んだら洗剤をボトル事投入するあの駄メイドに家を預けていたという事実に耐えられない。

 玄関のドアがまだあるという事は爆発オチはないという事か、中で白骨化しているのか……。

 

 「ええい!!ままよ!!」

 

 勢いよくドアを開き、入室する。

 

 頼む!レンジ爆発までなら許す!

 

 「…………??」

 

 揃えられた靴と香り立つアロマの匂い。ゴミと埃一つない廊下。

 リビングには入院する以前よりも整理整頓された家具類が屹立する。

 

 端的に言えばめっちゃ綺麗だった。

 

 「フフフフフ……………」

 

 床に転がって薄気味悪い声を上げるメイドを除けばなんだが。

 

 えっ、何この状況。地縛霊になったことを気が付いてないタイプの幽霊とかですか?

 

 恐れおののく俺とは裏腹にブツブツと呪詛のようなものを吐き続けるあくあさん(推定幽霊)

 

 「終わりだ。終わりだよもう。外見だけは何とか誤魔化せても絶対にバレる。ご主人もいつ帰ってくるかわからないし絶対無理だこれ。ふっへへへへえへへへへ…………」

 

 「あのー……」

 

 「どうしようかこれ。今から何とか白銀家にもう一回雇ってもらおうかな。でも性別も名前も違うあぁぁぁぁあぁぁぁ」

 

 「あのー……」

 

 「ああぁぁぁ……。またご主人の幻聴が聞こえてきたぁ。もう無理だぁ」

 

 「おい聞けよ、我が家のダーウィン賞受賞最有力候補者」

 

 「このキレのある暴言は!?」

 

 人を暴言で判断するな。

 

 「ご主人!?本当にご主人なの!?帰ってきたの!?」

 

 「あーー……。うん、ただいま」

 

 本当はこのまま幻として生活したかったが、さすがに無視できないというか問題事なら早急に解決したい。どうも俺がいないと駄目な案件なようだからな。

 

 「はぁ。それで今度は何をしでかしたんだ?力になるよ」

 

 「ご主人!」

 

 目を潤ませながらそんな羨望の眼差しをされると余計に断りにくいんだよなぁ。本当に見てくれだけはいいのになぁ。

 これで家事ができれば文句はないのになぁ。

 

 そういえばこいつの家ってメイドの家系だっけ。なんかマリンメイドの大家とか…………。

 

 「ご主人!明日ママが視察に来るから何とか誤魔化して!!」

 

 ────そうきたか。

 

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