ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 書いている途中で後悔したので初投稿です


メイドの家系

 時刻は昼過ぎ。休日のこの時間、普段はゆったりした時間が流れるはずだが今日は重く張り詰めた時間が流れる。

 チラリと横目でトラブルの原因を見ると、口を横一文字にして緊張をしているのが分かる。

 いつもよりもパリッとしたメイド服に身を包んだあくあはいつもより気持ちできる女感が出ている気がする。

 

 「馬子にも衣裳か……」

 

 「ご主人?今失礼なこと思ったよね?」

 

 「ハハハハ……」

 

 否定はしないがな。

 乾いた笑いで誤魔化しながらこれからの面倒事に頭を痛める。

 

 

 

 昨日。

 とあるアパートの一室。なんかピンク色とか女性らしさが増した気がする我が家にて新たなるトラブルへの対策会議が開かれる。

 

 「ご主人には前にも言ったことがあるよね?あてぃしの家は歴史あるマリンメイドの大家なんだけど」

 

 「…………」

 

 この現代日本においてメイドの大家なんてツッコミどころの鉱脈を見つけることができるとは思わなかった。

 歴史あるってこの日本にメイドの文化が入ってきたのここ数十年だろ。

 なんで「家政婦」じゃなくて「メイド」なんだよ。海外の家系かと思えば名字が思いっきり「湊」って純和風だし。

 そもそも「マリン」メイドってなんなんだよ。普通のメイドと違うのかよ。

 

 とツッコミたいが突いたらダメな気がするので我慢する。

 

 「だけどあてぃしって色々失敗しちゃって怒られてばっかりで……」

 

 でしょうね!

 逆に優秀だったなんて言われたときにはどうしようかと。

 

 「それで由緒ある家で修行してきなさいって白銀家に住み込み修行をしてたんだけどクビにされて……」

 

 そこから先は知っている通り、道端で泣いている疫病神を俺が拾ってしまったと。

 冷静に振り返ってみると不思議だな、なんでまだ住まわせているんだろう?

 

 「それでね?ママとは手紙で近況報告していたんだけど、誤魔化していたら直々に視察に来るって言うの……」

 

 そう。これが今回の問題点だというあくあ母の娘の視察である。

 これに関してはそんなに落ち込むことも、怖がることも無いように思える。

 確かにあくあは後継ぎとして母に厳しく育てられてきたのかもしれない。しかし聞く限りでは行き過ぎた思想も、ズレた価値観もなく真っ当な人間という印象だ。

 娘の動向を手紙でチェックし、実際に心配して遠路はるばるやってくるのだという。ただの親心ではないだろうか。

 

 俺には少し眩しくて────羨ましい────。

 

 「いや~……えへへ……そうなんだけど、ね……?」

 

 「……?」

 

 いやに歯切れが悪いな。なんか言いにくいことがある?しかもこの雰囲気は「俺」個人に対して?

 

 「あのね……!ご主人……?怒らないで聞いてほしいんだけどね?」

 

 怒られるようなことらしい。

 しかしあくあ母が来ることによって生じる、俺が怒ることとは少し想像ができない。どうせしょうもないことだろう。

 私、颯太。仏の名を受け継ぎし者なり。母が来ることに緊張し、怯えている少女のやらかしを寛大な心で赦そうではないか。

 

 「実はママにご主人が名家の出って誤魔化していて…………」

 

 やっぱりくだらないことだったな。

 たぶん由緒ある家に修行に行っていたのに今ではこんなアパートの一室にいる人間に住み込んでいることに罪悪感があるのだろう。

 誤魔化し嘘をつきたくなる気持ちは分からなくも無いが、こればっかりはあくあ本人の問題であり俺は関係ない。あくあが母にごめんなさいすればいいだけの話だ。

 その時は俺も一緒に頭を下げ弁明をしてあげよう。

 

 「フハハハ。そんなこと俺は気にしてないよ」

 

 「本当!?ありがとうご主人!」

 

 許すさ。赦すとも。俺は寛大で有名な男だからな。

 それにかわいい顔と涙で濡れた瞳で見上げられたらどんなことでも許してしまえそうだ。

 

 

 「じゃ、じゃあ!実はご主人は掃除洗濯料理が壊滅的で毎日学校にも行かず家にこもりきりのネット依存症でアルバイトもまとめにできないほどの根暗コミュ障の社会不適合者で夜はあてぃしが一緒じゃないと寝れなくてそんなご主人が勘違いして『あくあお前が一緒じゃないと俺はダメなんだ結婚してくれ』とプロポーズしてきたと少し盛っていることも!?」

 

 「殺す」

 

 あくあ お前は 存在してはいけない生き物だ

 

 

 

 「ずびばぜんでじだ……」

 

 数分後、泣きはらした顔で謝る虚言メイドに再度椅子に座らせて作戦会議を続ける。

 これは憶測だけど視察に来る理由はあくあの成長を見るためではなく、娘が得体のしれない屑人間に仕えていることを心配してくるんじゃないだろうか。やるせねぇ。

 

 しかしこればかりは無理だろうな。誤魔化せるものでもないし誤魔化すつもりもない。

 

 「ご主人……」

 

 ポツリとあくあが言葉を漏らす。

 いつもの出所が謎な自信は影もなく、座りが悪そうに足をせわしなく動かし続ける。手をグーに握り身を縮ませている姿は今にも折れそうな印象を受ける。

 

 「ご主人……。私このままだとママに使えている身分で迷惑をかけているなんてって怒られて連れ戻されちゃう……。でもそんなの嫌。私はここが好きなの。怒ると怖いけど優しいご主人がいて、かわいいスージーちゃんがいて、毎日が楽しいこの家が好きなの」

 

 「あくあ……」

 

 厳しい母に見られたら今のあくあは家に連れ戻されるのだろう。そこから先のことは知らない。もっと厳しい修行が待っているのか、それ以上のことがあるのかも。

 だがそれは湊家の問題であって俺には関係ない。他所様の家の事情に俺が首を突っ込む義理も道理もない。

 

 俺はただ明日訪ねてきたあくあ母が、あくあのダメっぷりにあきれて連れて帰るところを見送るだけしかできない。それだけ────人の家族の事情に関わることは────

 

 だから────

 

 俺を────

 

 「ご主人…………」

 

 ────そんな目で見るなよ。

 

 「────わかったよ。協力してやるからそんな顔するなって」

 

 甘い……というよりバカ。

 俺って本当にバカ。

 我が家の不良債権を帳消しにできるチャンスだったのに。何を絆されているんだか。

 

 

 

 

 これが先日の出来事。あれから部屋を隅々まで綺麗にしたりとあらかじめ突っ込まれそうなところに対策を張っておいた。ちなみに俺が帰るまでにもう綺麗だった理由はダ〇キンを雇ったとのこと。君メイドだよね?

 

 時刻は12時前。

 予定では数分後に来る手はずになっているがどうだろうか?駅から遠いし、入り組んだ住宅街なのでこの辺の地理に詳しくないと迷いやすから心配だ。

 

 「ハッ……ハッ……ハッ……」

 

 隣で犬のような呼吸をしているメイドも心配だ。

 まだ五月だというのに滝のような汗が流れているしどれだけ緊張をしているんだ。最近全く見ていなかった青と白のマリン(?)メイド服が汚れるぞ。

 

 「あー……。そのお母さんはさ、そんな人なの?」

 

 なんだかこの死刑を待つ囚人のような空気感から堪えられなくてつい雑談を始めてしまった。

 これから会う人物像を知っておきたいというただの好奇心も入っているのだが。

 

 「…………会えばわかるよ」

 

 これだよ。昨日からこの一点張り。

 人物像が見えてこないという未知と、その死んだような顔が怖いんだよぅ!!せめて人となりとか顔立ちとかそれくらいの情報を提示してくれないとこっちまで緊張してくるじゃないかぁ!

 

 すると時計の針が全てを天辺を指し、時刻を知らせるアラームが鳴る。

 あぁ約束の時間か、なんて考えたその瞬間……

 

 ピンポ────ン。

 

 聞きなれた電子音が鼓膜を震わせる。玄関のインターホンが来客の存在を告げている。

 

 まさか、とは思いつつも壁に固定されている応答口にプラスチックのボタンを押して応答に出る。

 

 「あ……!ご主人、ちょま……!」

 

 「もしもし?どなたさまでしょうか?」

 

 あくあが慌てていたようだがそれを横目に玄関の外にいる人物に一応の形式化された問いを投げる。

 

 「こちらは星本様のご自宅でお間違いありませんでしょうか。私こちらで下女をさせて頂いている湊あくあの母です。先日手紙で連絡を差し上げた通り、本日伺いにまいりました」

 

 最初に感じたのは『凛』この一文字。最低限の抑揚、最低限の感情しか乗っていないその言の葉は、人物を直接見なくてもその人柄を感じさせる。

 続いて玄関という扉からまるで風に押されるような圧迫感を感じる。

 

 武道の達人とか、長年研鑽を重ねた人間が持つオーラとでも表現すればいいのか。

 ぶっちゃけ開けるの怖い。

 

 だが外で待たせ続けることなんてできるはずもなく、俺は玄関げ客を招き入れるために向かう。

 

 が、────

 

 「ご主人!ご主人は座ってていいから!家の主人に顧客様の対応を指せるわけにはいかないから!ね!」

 

 今まで聞いたことも無い早口でまくし立てると玄関へ消えてしまった。どうも俺が招き入れることは母親の手前、彼女には体裁悪いらしい。なら普段からやってくれよ。

 

 リビングで正座をしながら聞き耳を立てる。ぼそぼそと全てが聞こえるわけではないがどうも挨拶をしていることくらいしか分からなかった。

 積もる話もあるだろうに二言三言言葉を交わした後、あくあ母はついに俺の待つリビングへとやってきた。

 

 「突然の来訪を許していただき誠にありがとうございます」

 

 綺麗な90度で俺へ挨拶する女性。

 

 一目見てあくあの母だと分かった。同じ髪色、同じ服装、同じ顔立ち。あくあをそのまま大人にしたような外見。ただ漂う雰囲気は全くの別物だ。

 どう形容すればいいのか……。突き刺すような針。息も凍るような空気。冷たさと痛さを兼ね備えた女性と言えばいいのか。

 ぶっちゃけ話すの怖い。

 

 「このお方があなたが今仕えている方ですね?」

 

 「はい!お母さま!」

 

 お母さま!?

 お前昨日までママって言ってたやんけ!

 

 「部屋もきちんと片付いているようですね。安心しました」

 

 「もちろんです!お母さま!」

 

 お前自腹きってダ〇キンに依頼していただろうが!どうしてドヤ顔出来る厚顔すぎるだろ!

 

 そんな俺の心の中のツッコミなど知る由もなく、あくあ母は俺へ断りを入れると部屋を物色し始めた。カーペットの裏から箪笥の裏まで覗いたりチェックに余念がない。

 

 「しかし安心しました。インターホンに出たのが家主でしたし、気配と歩幅と歩く音から星本様が玄関に向かっているのかと」

 

 達人か。

 

 「しかし掃除の仕方がまるで企業に所属した人物がマニュアルと研修を終えてそれをなぞったような面白みも無いモノですね」

 

 達人か。

 

 「キッチンも男性が日常的に使っているような調味料の置き方ですね」

 

 だから達人か。

 

 この人の前じゃ隠し事なんかできないじゃん。なんでメイドなんかやっているんだよ探偵やれよ。

 これ実はすべてわかっているうえで遊ばれているんじゃないのか?

 

 あ。あくあも脂汗をめっちゃ流している。誤魔化せるとは思っていないんじゃないのか?

 じゃあ今日までの準備は何だったんだよ。ただの茶番じゃん。

 

 そうこうしながら昼食をとる時間が近づいてきた。

 

 「そろそろお昼ごはんの時間ですね。どうでしょう、一緒に食べるというのは?」

 

 「ふむ……。では御随伴に預からせていただきます」

 

 相手の意表を突く意味も込めてこちらからお誘いをする。事前にあくあ母があくあの料理をチェックをすることは予想がついていた。

 すでにカレーを用意しておき、一晩寝かせておくことで旨味をアップさせている。

 え?だれが作ったのって?俺に決まってるじゃん。

 

 

 小さめの皿に小奇麗に盛り付けられたカレーをあくあが母の前に緊張した面持ちで出す。自分が作ったわけではないのだからそんなに緊張することはないと思うのだが、やはり叱られるのが怖いのだろうか。

 

 「いただきます」

 

 あくあ母は小さく呟くとスプーンを手に持ち、髪をかき上げながら口に運ぶ。その一連の動作も流麗だが。

 

 「…………!」

 

 数回咀嚼していたあく母の動きが突如ビクン!、と跳ねた後止まった。そのまま一秒、二秒、三秒と石造の様に微動だにしないあくあ母は────

 

 「ふぅ……」

 

 コップの中の水を半分以上飲み干しため息をつく。

 

 な、なんだ!?なにか失敗したか!?口に合わなかったのか!?

 

 それからは冷たくきれいな動きは影もなく、非常にゆっくりと皿の中身を食した。

 そんなにまずかっただろうか。少し、いやかなりのショックなのだが。

 

 「では……私はこれにて……」

 

 長年反復動作を繰り返し体にしみこませたような素早い動作で荷物をまとめると、きれいなお辞儀を一つ。

 そのまま帰ってしまった。

 

 

 

 「や……やったー!?」

 

 あまりのことに口を開けたままでいる俺の横で喜ぶあくあを尻目にただ何が起きたのかを思考していた。

 

 

 

 

 深夜というにはうるさく、夜中というには明るい刻。

 そこそこ栄えているこの駅は社会人と学生が多く利用することもあり、急行の停車駅でもある。しかし夜も更けたこの時間に利用客も少なく、長いホームにまばらに並んでいるためそれぞれが人の目を気にせず静寂なこの世界を楽しんでいた。

 

 彼女もどうもその一人らしい。

 手のひらサイズの写真を眺めている。

 鉄仮面を張り付けたようなかわりのない顔であったが、どうも楽しいことでもあったのかそれとも思い出に浸っているのか薄く笑っている。どこか安心したように、しかし寂しさも混ぜ合わせた面持ちで確かに()()を楽しんでいた。

 

 ふと、自分に向けられる視線を感じ取ったらしい。

 写真を手帳のようなものに挟むとそれを手提げのカバンにしまう。そして視線の主に問いかける。

 

 「このような時間にいかがなされましたか、星本様?」

 

 颯太だ。

 

 「ひとつ……お聞きしたいことがあって……」

 

 彼が今ここに来る理由は皆無だ。あくあの査定は終わり帰路につこうとしている。彼女の連れて帰られずに星本家に居座るという望みは叶った。颯太自身もそれを了承した以上、この先は必要ない。

 ひょっとすると藪蛇をつつくなんてこともあるかもしれない。

 それでも彼は聞かずにはいられないことがあった。自分の知識欲の為ではなく、彼女────あくあのために────どうしても聞いておきたかった。

 

 「今回の査定。離れた場所で一人前にできているかなんて建前で、本当は問答無用であくあを連れ戻すつもりだったのではないですか?」

 

 「なぜそのように……」

 

 「それは────」

 

 言葉に詰まる。それも仕方がないだろう。颯太はただ衝動に任せ言葉も作らずにこの場に来た。

 

 ただ信じたかったのかもしれない。自分にとっての憧れが汚れ無き白無垢であると思い込みたかったのかもしれない。

 そうだ。颯太にとってあくあ母が連れ戻しに来たのでも構わない。彼にとって重視するべきところは外ではなく中身だ。

 

 なにかやんごとなき理由があるために連れ戻しに来た。

 なにかやんごとなき理由があるためにそれを諦めた。

 

 そうじゃないと救われない。あくあも────俺も────

 

 「ふふ……」

 

 思うところがあったのか、あくあ母は笑う。

 初めて会ってからそれほどの時間を共にしていたわけではない颯太にも分かった。目の前の女性が笑うという珍しさに。

 

 「私は最初からあの子を連れ戻す気なんてありませんでしたよ」

 

 あっけからんと、大したことでもないように衝撃の事実を言う。

 表情の乏しい相手に対して経験の少ない颯太であったが、その雰囲気に心で理解した。嘘を言っていない、と。

 

 「確かに修行の場として提供していた屋敷をクビになったときは連れ戻そうと考えました。ですけれど、あの子が星本様に住み込みで働くようになってから手紙の字が弾んでいるのがすぐにわかりました。

 私はあの子を立派なマリンメイドに育てようと幼少期から厳しく育ててきました。ですがそれは跡取りとしてではなくあの子の幸せの最短の近道として信じていたから。

 でも、もういいんです。部屋を見て、料理を味わって、あの子の顔を見ればすべてが分かります。あの子はもう幸せを見つけているんだと」

 

 つまり────

 故に────

 だからこそ────

 

 あくあを見に来たというのだ。

 

 

 

 

 

 (なんとなく……理解できた気がする……)

 

 湊家はマリンメイドの大家だと言っていた。詳しいことは聞いてないがそこそこの影響力を持つ名家だとか。

 あくあ母はその湊家の後継ぎとしてあくあが収まればそれは厳しいが人並み以上の幸せな人生があると思っていた。

 

 でも、俺の家で働くあくあを見て、そんな普通よりも『今』がずっと幸せだと悟ったのだろう。

 

 だからその姿だけを見たかった。安心したかった。

 

 

 「あぁ……」

 

 よかった。最初から俺の勘違いでとんだ間違いを起こすとこだった。

 

 子を想う親の気持ち。

 俺が触れることができなかったもの。

 もう二度と触れることができないもの。

 

 とても美しいモノ────

 

 「あ……」

 

 意識を思考の海から上げるとあくあ母はいつの間にか来ていた電車に乗るところだった。

 

 「……そういえば星本様。一つ言っておきたいことが」

 

 少し困ったような笑みで俺の目をしっかりと見据えて忠告する。

 

 「カレーは野菜の水だけで十分の水量を確保できます。またスパイスを使うよりも市販のほうがお手軽かつムラがありません。今日頂いたのは私にはいささか辛すぎでした別に辛いのが苦手というわけではありませんがうふふふ」

 

 早口に最後まで述べ終わると同時に扉が閉まる。

 俺は出発し闇に消えていく電車を見ながら呟く。

 

 ただ、あの完璧を体現したような、氷のようなあくあ母にどうしても言いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 「────あれ、中辛です」

 

 辛いのダメなんですね。

 

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