ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
「はっ……!はっ……!はっ……!」
空が青く染まり切らない朝。いつもの日課である朝の散歩道をスージーちゃんと駆け抜ける。
階段も一段飛ばしで抜けるといつもの神社に着く。
「どりゃああああああああ!」
境内にスライディングをしながら携帯のストップウォッチ機能を止める。家から神社までの時間を測っているのだが、今日も自己ベスト更新だ。
「朝から元気だにぇ……」
ケツについた砂を叩いて落としていると気怠そうな声を聴いた。
「毎日朝から神社に来るなんてよっぽど信心深いねぇ」
「おはようございーます」
この桜神社の巫女さん、さくらみこさんだ。
「にゃっはろ~。毎日毎日大凶しか引けないのによくもまぁ懲りないね」
さくらみこさんは俺と同じ学校の先輩だ。今年の春からこの神社でおみくじを引き始めてからの付き合いだから、
「もしかしておみくじを大凶しか引けない呪いでもかかっているの?」
「狙って出してます」
「なにいってんだおめー」
冗談かもしれないがこれは本当だ。そもそもそんなピンポイントで地味な呪いなんてあるわけがないだろう。
……いやそういえば知り合いの悪魔に地味ながら凶悪な呪いを昨日かけられたばかりだった。なんだよ腹痛の呪いって。発動条件も凶悪さに比べて緩すぎだし。
そうこうしているあいだにおみくじ筒をひっくり返して棒を出す。
「はい大凶」
「あざまーず!」
受け取った大凶のおみくじ結果をお守りにしまい封をする。
これで数は20の大台に乗ったはず。
この行動にいったい何の意味があるのか分からない。ただこうしなくてはいけない気がするという強迫観念が突き動かす。
今でもたまに感じる、自分の意思を捻じ曲げるような奇妙な感覚。俺が世界の意思と呼んでいるナニカ。
未だにその正体も目的も何もかも分からないままであるが、一つ確信していることがある。
それはこのナニカは敵ではないという事。
目的が見えない、理解もできないナイナイずくしだが、それさえ確信できているのならば放っておいてもいいだろう。
だがもし、こいつが害意をもっているのならば、その時は……。俺はどうすればいいのだろうか?
これが俺の意思に関係なく大事な人たちを傷つけるようなことがあれば…………その場合は俺の命をもって────
「ほれ」
「冷た!?」
突如背中に冷気が当てられて思わず声を上げてしまう。シャツの中に手を言えると缶ジュースがあった。
「あげる」
「あ……ありがとうございます」
どうやらみこ先輩からのようだ。これから走るから荷物になるしもらった手前、今飲んでしまうのがいいだろう。
「何か悩んでいるんでしょ。みこ知ってるよ」
「そう、ですね……。はい」
顔に出ていたのだろうか。それとも彼女の感性、鋭さから来るものだろうか。
別に悩みの内容を知られたわけではないのに、どうも苦いものがあるのはなぜだろう。
「ふぅん?まぁ詳しくは聞かないけどね?人の恋路と悩みには深く突っ込むなってミオちゃんが言ってた気がするにぇ」
そうなんだ。俺はあの人にボコられて以来
そんなことを考えていると、みこ先輩が机から乗り出して俺の手を取ってくる。両の手で包み込むように優しく握る。
いきなり女の子に手を握られるという事態に慌ててしまう。これでも年頃の男子。手を触られるだけでドキドキしてしまうクソザコ男子だ。
え?女子と手を握られるどころか一つ屋根の下で暮らしている?あれは不良債権といかキング〇ンビーみたいなものだから。早く誰かに擦り付けないと。
「いと
低く、低く。いつものかわいらしい声とは反転した音が響く。
「今のは?」
「ちょっとしたおまじない。本来は自分の命を上げますからどうか勝たせてくださいって神にお願いするちょっとだけ怖い
「は、はぁ?」
それを今教えて呟いてくれた意味が分からない。その態度にみこ先輩が食ってかかる。
「だーかーらー!元気出せってことですけど!?……神様なんて君のことだから信じてないでしょ?それ自体はいいの、本人の自由だから。でもね?たまにならそういういるかいないか分からないものに頼るのもいいと思うよ。そうやって何かあったときに不信物に当たる。神様のせいにする。そういう責任転嫁も自分の心を保つのに大事なことだと思うよ」
なんとなく言いたいことが分かった気がする。先輩は他人を頼れと言っているのかもしれない。自分で責任を感じ過ぎず自分のできることだけをやれと。もし失敗したり、後悔することがあるならそれらを神様のせいにしてしまえと。
たしかにそうやって他人、いや他神のせいにしてしまえば楽だろうな。
「でも巫女さんがそんなこと言ってもいいの?」
「神様は全てを受け入れてくれるんだよ」
それは何とも心が広いことだ。
家に帰った後、寝坊助を叩き落として学校に向かった。今日は特に天気が良く風が気持ちいい。こんな日はダラダラと天気を感じながら歩きたい。
「おっ!おーーい人間様ぁ!」
俺は全速力で走りだした。
「あれ!?人間様!?人間様ー!?」
決して振り返るな。振り返ったら殺されると思え。今迫ってきているものはこの世の恐怖を凝縮した化け物だ。捕まったら死ぬ。
全力のダッシュと地元という土地勘を活かし、ブロック塀、木の上を超え電柱を渡り信号を無視する。目指すのは最短距離で学校に着くこと。
「見えた!校門だ!」
残された体力を使い全で疾走する。
ゴオオオオル!!
柵をゴールテープ代わりにゆっくりとスピードを落とす。朝から全力疾走はちょっとキツかった。膝をつきながら肩で息をする。
しかしこんな時間から恐ろしいモノを見た。幽霊に出会うよりも恐怖体験だ。走った汗と冷や汗が止まらない。
「ハァ……ハァ……はぁぁぁ」
思わず逃げてしまったけれどよかったのだろうか。百鬼あやめとは同じ学校に通ってるのだからあっちが探せば簡単に遭遇してしまう。さっき逃げたことに思うところがあるから────とかありえそうな話だ。
「とりあえず今日から便所飯だな」
「人間様捕まえたー♪」
「ぎゃああああああああああああああああああ!?!?!!?!!?!?!?!?!?」
背後から逃げてきた存在に抱き着かれる。しっかりとしたホラー作品である。
「いきなり逃げるなんてズルいぞ!今度はしっかりとルールを決めてじゃんけんしてから鬼ごっこしような!」
鬼ごっこがここまで殺伐としていてたまるか。それとも人間が鬼ごっこで遊ぶように、鬼は人間を見立て遊ぶのだろうか。
ふふふ怖い。
百鬼あやめ。この学校の生徒で化け物。
主食はおそらく人間で三時のおやつは3歳から6歳児の薬指。腰にぶら下げている刀は国宝級の名刀らしく日夜血を吸わせている。……らしい。
その力は凄まじく地震を拳で止めたとか、角から雷が降ってきたとか、隕石が百鬼あやめを見て泣いて帰ったとか、一人称が『我』だとか片足上げて滑るように移動していたとか背中に『天』の一文字が刻まれているとか一瞬で千撃だとか。噂が絶えない。
ちなみにクラスメイトは「角の生えた女性が昇〇拳打ってた」と証言している。
ふふふ怖い。
何より校門側ではなく学校側から入ってきていたのが一番怖い。俺の全力を軽く超えているという事だ。
つまりこれがどういうことかわかるか?お前なんてその気になればいつでも殺せるというメッセージだ。
ふふふ怖い。
「何をそんなに震えているんだ?もう五月だぞ?」
「『恐怖』とは『怖さ』を知ることなんですよ」
「……ほえ?」
これから俺はどんな死にざまを送ることにあるんだろうか?踊り食いはやめて欲しいな。せめてその大太刀でひと思いに首を────おん?
「あの……いつも腰にある大太刀はどうしたんですか?」
百鬼あやめがいつも腰に下げている大太刀が見当たらなかった。
大太刀『妖刀羅刹』 と太刀『鬼神刀阿修羅』。鬼の秘宝だかで鬼界でも扱えるものが限られているという強さの原初。なんだかんだ大事にしていたと思うのだが、持ち歩いていないのは珍しい。
「どっかいった」
「あ、そう……」
なんでも二つの太刀は自我のようなものが存在するらしく、度々どこかに行ってはふらっと帰って来るとのこと。
なんでも幽世の秘宝にはよくあるとかなんとか。
しかし消えてからもう1週間がたっており、さすがに百鬼さんも心配になってきたのだとか。朝から町にいたのは登校するためではなく、太刀を探すためだとか。
「余が公園で近所のちびっこと鬼ごっこしている時にいつの間にか消えてたんだ余。人間様何か知らない?」
「我が人生と身命をかけて探させていただきます!」
早く離れたくて、遠回りの脅しに耐えられなくて思わず請け負ってしまった。俺って本当にバカ。
「はぁぁぁ」
お昼時。学生にとって大事な憩いの時間。だが俺の心はどんよりと鉛の様に重く浮かない。
なんか大変なことになってしまった。探すと言ってしまった手前、行動に移さないのはまずいだろう。
それはまだいい。問題なのは探した後だ。もし見つけられなかったらどうしようか。制裁が待っていないかな。
そもそも意思のある刀なんてどうやって探せばいいんだ。持ち主が探しても見つからないんだったら他人の俺が見つけられるとは到底思えない。まだ誰かに持ち去られて古物商に売り飛ばされたとかならば、やり様があるのだが。
ひとりでに消える刀の行き先なんて分かるわけない。
これだけでも滅入るというのに……。
目線を横に向ける。
俺の席の横ではもそもそと一層元気なくお弁当をたべるあくあ。急に悲しそうな、何かを決めかねているような顔でやってきた。ただでさえ変な噂が流れているのだから学校での接触を避けろと言ってきたのに。
取り柄と言えばその元気さだけのくせに何を黙りこくっているのか。なんていうか、こう……普段一緒にいる奴が急に元気がないとこっちの気持ちも落ち込むからやめて欲しい。
ここはやはり話を聞いてあげるべきなんだろうか?しかしこの駄メイドが落ち込むという事象がまずよくわからない。キッチンを泡で封鎖しても「やっちゃった♡」で済ますような能天気。「ごしゅじ~ん」なんて泣きついてくることの99%がくだらないことばかり。
そんな女がガチで落ち込むことってなんだろう。想像がつかない。それこそ家族に不幸があったとか────。
そこまで考えてからかぶりをふる。
やめとけ俺。もし
そうだ。何を心配しているんだ。俺とあくあは所詮────────
所詮他人だ。家族でも親しい友達じゃあない。あくまで住まわせているだけ。雇用契約によって結ばれた繋がり。
それどころかことあるごとに不良債権なんて罵っていたじゃないか。
今まで近すぎただけだろう。別に俺は彼女にとって必要な存在ではない。彼女には家族がいる。十分だろう?
それに俺だって────
ズキン。
あぁまただ。一カ月前もあった頭痛。脳が、俺を形成する大事なナニカが警鐘を鳴らすようなこの感覚。大事なものを無くしたような喪失感。
これに今の百鬼とあくあによる憂鬱感が合わさると全てがどうでもよくなるようなだ。痛くて怖くて悲しくてキモチワルイ……。
保健室に行ってちょこ先生に早退の許可を貰おう。
俺がそそくさと弁当を風呂敷で包んでいるとあくあが慌てだした。
「え?ご主人食べ終わってないのにもう行っちゃうの?」
小声で「ど、どうしようまだ覚悟が」とか「どうにかして引き留めなくちゃ」とか聞こえてきた。
わざわざ教室に来た時点で何かあると思っていたが、どうせそれほど大事なことではない。
「そ、そうだ!実は今日あてぃしのクラスに転校生が来たの!そ、それでね?なんかあてぃしにご主人を紹介してほしいって」
「はぁ?俺を紹介って……なんで?」
訳が分からない。今日転校してきた奴がなんで俺に会いたっがっているんだよ。別にこの学校での有名人ではない。
いくらなんでも胡散臭すぎる。もしかしたら俺が俺になる前、記憶があるときの俺の知り合いの可能性も無くはないが……。それでも怪しすぎる。転校初日からいきなり俺の名前を出すのも、あくあ経由で会おうとしているのも。
ここは様子見だな。そもそも今日の俺は頭痛が酷くて何もやる気が起きない。もしそいつが俺に害意をもって近づことうとしているとしても今日は無理だ。対処するにも明日からだ。
今日は隕石が降ろうともやる気が起きない。
「なんか変な人だったよ。ご主人に『魔王軍幹部』が会いたがっていると言えって」
「早く案内しろ。そいつを殺しに行くぞ」
今宵の俺は血に飢えているのじゃ。