ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
クソ!クソクソクソ────!
こんなこと予想できるはずがない。つーか予想できても対応できるはずがねぇ!
あの化け物をもう一度倒せだと?それもこちらのカードが全くない状態で!?
ふざけるな出来るはずがない。
デュラハンは全てがうまくハマったおかげで倒すことができただけで、俺の実力は全く関係していない。
倒すにはノエルかロボ子さんクラスの大火力がいる。それに比べて俺ができるのは精々一対一を想定した技の数々。破壊は得意としていないのに。
さらにあちらにはインキュバスがいる。
幹部が二人。どうあがいても倒すことなどできるわけがない。
さりとてここは夢の世界で逃げることは出来っこない。
故に────
「クソが…………!」
こうなる。
どこまでも無様な姿がそこにあった。
地面に打ち蹴られ呼吸もままならずのたうち回り。
最強の鎧に阻まれ刃こぼれした短刀を何とか握っている状態。
服をめくれば数か所の打撲痕が青くなっていることだろう。
立ち上がろうともがいたが、地面が起き上がる。
あぁ、違う。俺が倒れたのか。
「立て。貴様に与えらえた痛みと恥辱はこんなものではないぞ」
「ハァ……。ハァ……」
鎧の擦れ合う音が絶望の足音に聞こえる。
脳が揺れて直立することができない。視界が水面に揺蕩う蓮の様に安定してくれない。
攻撃を避けるためだけに全力を出し切ってもう体を動かせない。出来ることは下から不敵に睨め付け、まだ手札が残っていると勘違いしてくれるのを願うばかり。
「立て!」
「うぐあぁぁぁぁ!」
デュラハンに無理やり首を掴まれ持ち上げられる。2mはある巨体に持たれると足を付かず体重が首にかかる。
「離……せ……!『絶影』!」
腕の力だけで突きを放つ。
白く輝く刀身は、鋭くそれでいて流麗にデュラハンの兜と鎧の隙間に滑り込む。
狙いは喉。当たればこれだけで絶命させることが得できる人体の急所のひとつ。
「無駄だ。我が肉体はすでに空なり。鎧と一体化した我が身すなわち無敵」
そうだった。こいつの鎧の中は何もないカラッポだった。
「油断もせん。隙も与えん。勝の目をすべて上からたたき伏せよう」
「そいつはどうだろうな?俺にはまだ隠し玉が残っているぜ?」
「どれだけ惑わせようとしても無駄だ。余計な思考を回さずただ貴様に注視する。策があるなら発動と同時に壊すまで」
クソ。本当に鬱陶しいことこの上ないな。
俺に嵌められたことを目の敵にして本気で殺しに来やがる。
「うげぇぁ……!」
首を絞める力がどんどん強くなってきた。こいつこのまま窒息死させるつもりか?
視界が白くなり意識が薄くなっていく。
「待つんだデュラハン!殺すな!」
デュラハンの殺気を察してインキュバスが叫ぶ。
荒げた声が通るとデュラハンは一瞬ためらうように力を強めた後、俺の首を離した。
咳き込みながら即座に二人から距離を取って構えを取る。
時間だ。とにかく時間を稼がなければ、勝ちの目は0のままだ。
めくまらし、はったり何でもいい。とにかく意識を外し時間を稼いで態勢を整えなければ。
「颯太君。降参するんだ」
さっきよりも力強く俺に降参を求める。
「こっちにはデュラハンと、……自慢じゃないが魔王軍の幹部の二人が組んでるんだ」
「言ってるだろ。俺は絶対に自分から降参はしないと」
俺の降参もしくは死はそれ即ちあくあに対する裏切りになる。
それにこいつらが俺を手に入れてやることは想像がつかなくきな臭い。ここまで大掛かりな仕掛けを施してまでやりたいことはきっと人類にとってプラスにはならない。
「わからないな。なぜそこまであの少女にこだわるんだい?精々数週間の付き合いである少女だろう」
どうしてって……。
……どうしてだろう?
魚の骨が喉につっかえる気持ち悪さで言い返すことができなかった。
そりゃ人が死ぬべきではないからで……。いやいや、これは俺の意志ではなくこの社会で培われた俺の常識だ。
俺が今闘っているのはあくあを人質に取られているからで、あくあには死んでほしくない思いが────
────え!?ごはんで洗剤で洗うんじゃないの?
────今日はオムライスの気分だったのにー!
────ゲームしたい!ゲームしたい!ゲームしたい!ゲームしたい!
────あてぃしはマリンメイドだから陸で家事しなくてもいいと思うの…………。
ねぇな。家にお金を入れて家事をする代わりに住ませているのに全然やってくれないし。フラストレーションがたまる出来事のほうが多かった気がする。
どうしてだろう?どうして今俺はここに立って、命を懸けて戦っているんだろう。
知り合いが死ぬのが嫌だから、人として助けなければいけないという社会的常識にまみれた正義で剣を握っているのか?
それとも彼女の人となりに絆され失うのが怖いから戦っているのか?
どれもズレてる気がする。
脳が痛む。癒着した細胞を無理やりはがしているように痛くて痛くて、それなのに暖かい涙が出てきた。
なぜこんなにも心地い良い涙が頬を伝わるのか、知っている気がする。
酸欠で碌に働かない脳を、深呼吸をしてたたき起こす。
砂煙の匂いを嗅ぎながらただひたすらに覚悟の元をとらえようと手探る。
朝。あくあが目覚めなかったとき俺はどうしてあそこまで狼狽したのだろう。
「俺は……」
『ねぇご主人?』
『んー?どうした?』
『記憶をなくしたと知ったときどう思った?』
『うーん難しいな』
『難しい?』
『色々あったからなぁ。驚いたし、悲しかったし、死にたくなった。覚えてないけどさ、とても大切な……命よりも大切なものを亡くしてしまった気分だった』
『ふーん。記憶をどうしても取り返したいってこと?』
『あぁ。それが今の俺の人生の目標だ』
『…………』
『どうした?急にだまって?』
『じゃあもしさ?
『怒るしシバく』
『ヒェ……』
『でも、まぁ……。フフッ……』
『???』
『いいのかもな、それでも。俺は全てを犠牲にしてでも取り戻すと決めたけど、それは俺の範囲内での話。俺の為に誰かが犠牲になるなんて、そんなのごめんだ』
『ご主人は記憶のために他者を巻き込まないってこと?』
『ああ。これはきっと亡くした記憶から続く俺自身の根幹をなす矜持だから。俺が俺であるために、────になるためにそれを曲げない』
『えー?ご主人ったら子供っぽい!』
『……あれ?俺今なんて言った?』
「そうだ、なんで忘れていたんだよ俺」
あの日あくあ本人に話したじゃないか。
自分の中に熱が戻ってくるのを感じる。
自分が払えるのならば眼だろうと、腕だろうと、心臓でも捨てる覚悟がある。その先に俺の成し遂げたいことがあるのならば。
でもそれだけだ。それだけなんだよ。俺が払うことができるのは俺の範囲内だけだ。
肌の一欠けらだって他者を自分のために犠牲にするものか。自分のせいで傷つかせるものか。
人は────。
そうだ人とは────。
「
「だから救いたいと?」
「違ぇよバカ」
だから救いたいんじゃない。
だから
『――――それは、とても美しいと思わないかい?』
あぁ、そうだ。なんとなくだけど思い出した。人とは美しいんだ。
「例え世界のすべてを敵に回すことになっても、俺は俺であるために────俺の人生を悔いのないモノにするために誰かを犠牲になんてしない。あるがままの美しいものを残す。それが俺が『俺』から託されたものだから」
理由なんて一つだ。俺は俺の誇りのために、幸せのために神であろうとも悪魔であろうとも剣を突きつけてやる。
「…………」
「…………」
シンと、夜の雪国の様に音が掻き消えた。
インキュバスは絶対にありえないものを見たとでも言いたげな顔で止まっている。デュラハンも顔は分からないがそんな気配がする。
突如その場から消えてしまったのではないかと錯覚するほどに、存在がはかなげになった。
「……そ、颯太君。君は…………キミなのか?」
インキュバスはかすれて蚊の鳴くような声で問いかけてきた。
「いや、しかし……。そんなことは────」
震える手で顎に手を置いて思考の海に潜るインキュバスに怪訝な目を向けずにはいられない。
どうしたというのだろうか?そこまでおかしいことを言ったつもりはないのだが。
「颯太君…………。もしや……」
「インキュバス!!星本颯太はここで殺すぞ!!」
魔法使いの才能が欠片も無い俺にも肌で感じ取れるヒリついた魔力がデュラハンの大剣に集まる。剣は大気の
不自然な黒、光を反射しない闇がそこにとびきりの暴力をため込んでいる。
「おいおいおい。いきなり何だってんだよ!」
本気の殺意に慌てずにはいられない。どうしてこんなことになった。
俺のセリフを聞いた途端二人の態度がおかしい。慌て、驚愕し殺意が溢れた。
神経を逆なでするような挑発をしたわけではなく、自身の決意を言葉にしただけだ。
「待ってくれデュラハン!まだ────」
「インキュバス!貴様のプランが一番手っ取り早く確実であるのは百も承知だ!だがあの言葉を口にする者は生かしてはおけん!最悪の場合もうすでに
「────ッ!?颯太君が継いでいる!?バカな!」
分からない。目の前で起こっていることが分からない。
インキュバスとデュラハンが仲間割れに近い言い争いを始めた。それも俺を殺すという方向に傾き始めているのは一体どういうことなんだ?
「しかし待ってくれないかデュラハン。颯太君が死ねば次彼のような逸材がいつ現れるか…………!」
「ダメだ!その星本颯太が全てを壊す可能性がある!我らの数百年を無為にするつもりか!?」
その恫喝ともとれる言葉の壁にインキュバスは口ごもり、伸ばした手を力なく降ろした。
「……分かった」
分かったじゃねぇよ!そこは頑張れよ!しっかり説得してその物騒なもの下げさせろ!
なんだよなんだよ!俺が何を言ったんだよ!
ゆらりと、漆黒が上段に構えられ死があたりに充満する。
デュラハンが構えた剣を遠目からでも見て取れる握力でさらに力を込める。
その禍々しく美しい所作からアレこそがデュラハンの最終奥義だと直感で知った。
とんでもねぇ。
黒く変色したデュラハンの周りの空間は、その一点に集められた「力」の重力で空間が捻じれている。アイツは……あいつはただの魔力と剣技でブラックホールにも匹敵するナニカを作っている。まさに根源的な恐怖としか表せない。
改めて痛感させられる。俺がデュラハンを倒すことができたのはただの偶然で、その彼我の差は人生を数回繰り返した程度ではとてもじゃないが足りない。
だめだ。死ぬ。殺される。
あの「黒」が解放されたとき俺は骨も、細胞の一片すらもこの世界から蒸発して消える。
あの質量の範囲外へはどこまで逃げればいい?100m?1000m?無理だ。間に合わねぇ。発動前に潰す事も俺の手持ちの札じゃ不可能だ。
「さらばだ星本颯太。我が肉体を屠った不退めの仇敵よ」
なにかしなきゃ!死ぬ!行動しなきゃ!殺される!防ぐ方法!逃げる方法!やめさせる方法!はったり!地中に潜る!インキュバスを盾に!技で受ける!交渉!
────どれも間に合わねぇ!
「破天!!!」
デュラハンが剣を振り降ろす瞬間。すべてがスローモーションになっていくのを確かに見た。
多分これが走馬灯ってやつなんだろう。自身が助かる記憶を探す為に意識だけが乖離するらしい。
「黒」が顔に触れるほど視界に覆いつくされるというのに。
俺の目には白しか映っていなかった。
「───、か──り────」
轟音が夢の世界を支配した。