ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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 連日投稿なので初投稿です。


夢の陰り 終

 少し夢を見た。

 

 怒りだ。ただ怒りに飲み込まれた男が憎しみの果てに成した。

 

 黒く焦げた大地しか見えない荒野の中、一人天を睨む。黒く濁り乾いた瞳でひたすらに世界を、神を睨みつける。

 

 覚悟しろ。この業を振るったとき────

 

 神話はお前の敵となる。

 

 

 

 

 「天津神」

 

 天津神とは曰く天に住み地上に降りてきた神。天上の存在を表す言葉にして神の位階を示す言葉。国津神とは違うソラの神。

 それは(自身)へと攻め入る逆賊を堕とすカウンターの防御技。

 

 転じて天掴(アマツカ)み。

 

 

 インキュバスが俺に触れる瞬間、秋の小川の様に静かな、気取らせない足払いが体勢を崩させる。

 そのスピードのエネルギーは体勢を崩したことで、大きく宙に浮かせる方へとシフトする。

 

 だがまだだ。まだ終わりじゃない。

 天へ向かうものはその光で焼き尽くされ地に堕ちる。

 

 跳躍と同時にインキュバスの上を取る。狙うは体の中心である心臓。

 逆手に短刀を握る拳にありったけの魔力をまとわせる。白く光るそれは雲の隙間から覗く天使の階段の様に温かく、されど力強く示した。

 

 「堕ちろ!」

 

 拳がインキュバスに吸い込まれる。光は衝突と同時に衝撃を生み出しすべてを白く染める。

 ただ力を。ありったけの力を一つの個に重力と共に叩き堕とす。

 

 相手を天へ昇らせ地に伏せさせる。これこそが『天津神』。短刀の最強のカウンター(ワザ)

 

 「ガアアアアアア!!」

 

 獣のような咆哮を上げるインキュバスにさらに魔力を込める。この業はただの魔力と拳を込める技ではない。

 その真価は『対魔』にして『退魔』。魔族に成功しやすく、決まったとき魔族に致命傷を与えられる。

 

 光が収まると同時に距離をできるだけ取る。業を終えた今、夢幻心操を受ける可能性を下げたい。

 

 「う……あ……」

 

 かくして成功した。インキュバスの右胸は抉れ砂とも灰とも取れない物体となって崩れている。間違いなく致命傷だ。

 だがまだだ。致命傷ではまだ足りない。インキュバスの目はまだ死んでいない。

 

 胸を手で押さえ、口から黒く変色した血を吐き出しながらインキュバスは言った。

 

 「ハァ……ハァ……。やっぱりボク達は間違っていなかった。その思想だけでなく御業まで受け継いでいたとは。一番恐れていたことがついに…………。いや、数百年よく持ちこたえたというほうが正しいか」

 

 おぼつかない脚でなんとか立つその姿は敵ながら見事だ。

 

 なによりもあれは覚悟を決めたモノの目だ。一つの物事に筋道を決めて、その道を走りきるためにすべてを捨ててもいいという覚悟。

 

 「残念だ。残念だがキミには死んでもらう」

 

 風が吹いた。黒く禍々しく触れるだけでも痛い魔力の風がインキュバスに集まる。暖かい光で満たされた空間が黒に塗りつぶされていく。

 これが夢の世界ではなく、現実におけるインキュバスの最上の技か。

 

 脇腹を抉られてもなお溢れでるその奔流に気取られる。さすが魔王軍幹部にまで登り詰めた男。一筋縄ではいかないというわけか。

 

 だが、残念かな。

 勝負はもうついているんだ。

 

 3……2……1……

 

 「颯太君。一緒に死んでもらおう!『黒・夢幻劫──』

 

 ……0。

 

 ちょうど10分前にな。

 

 

 

 それは突然だった。

 

 黒い奔流は行き場を失い、霧散していく。同時に右胸を抑えていた手が腹部に移動している。

 汗が吹き出し歩幅は数cm程度のヨチヨチ歩きになっている。

 

 これは間違いない。

 

 「お、お腹が痛い……」

 

 抉れた胸すら霞む腹痛だ。

 

 

 

 「はははははっははっははははwww!腹!腹痛いって!はははは!」

 

 俺は苦しむインキュバスの姿を見て爆笑していた。

 

 「バ、バカな。高位魔族である僕がなんでこんな」

 

 ありえないことが起きてさらに爆笑している者が一人。さすがに原因が分かったのだろう。

 

 「颯太君!キミか!いったい何をした!?」

 

 若干キレ気味のインキュバスに対してあっけからんと俺はイタズラが成功した子供の様に楽しげにバラす。

 

 「もちろん魔法をかけただけだよ」

 

 「魔法?魔法だって!?だがそんなそぶりは全く────。そもそも何の魔法を!?」

 

 「教えてやろう!これこそかの大魔導士が作りたもうた最新にして禁忌の魔法!その名も────」

 

 高らかにその魔法の名前を叫ぶ!

 

 

 

 「腹痛の魔法」

 

 

 

 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 ふざけなどいない。これが俺が対インキュバスのために使った魔法『腹痛の魔法』だ。相手に「腹痛(はらいた)」と言いながら手を握ることで相手に一定時間後腹痛を起こさせる魔法。もっとも最新で最もくだらなくそれでいて最低の魔法だ。

 

 「いや待て!手を握ったときにといったな!それはいつ!?」

 

 「お前が決闘の最初。握手を求めて来た時だよ」

 

 「握手……?しかしその時『はらいた』なんて言って……」

 

 「いや言ったぜ?俺は確かに言った」

 

 そう俺は言った。握手と同時に確かに『いと(たけ)きさまなる神に申す、此の命()べる暁には千万(ちよろづ)(いくさ)なりとも勝を結び、その御霊(みたま)(はら)(たま)え』、と。

 

 「何を……?」

 

 「分からないか?」

 

 

いと(たけ)きさまなる神に申す、此の命()べる暁には千万(ちよろづ)(いくさ)なりとも勝を結び、その御霊(みたま)(はら)(たま)

 

 

 

 

その御霊(みたま)(はら)(たま)

 

 

 

 

 

 

腹痛(はらいた)まえ

 

 

 

 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 今度こそインキュバスがブチギレた。

 まぁ気持ちは分かる。誰だってそうする。俺だってそうする。

 

 「ふざッ!ふざけ!こんな!」

 

 「お~ん?罠にかかった獣がブヒブヒうるせぇなぁ?」

 

 ここからは俺の時間だ。おもいっきり煽るぞ!

 

 「ねぇねぇねぇねぇ今どんな気持ち!?ねぇどんな気持ち!?自分から求めた握手のせいでハマるのどんな気持ち?」

 

 「汚いぞ!それは決闘前だろう!」

 

 「自分だって夢幻心操を使ってきたじゃないっすか!アレアレ?数分前のことお忘れですか?」

 

 「グッ……」

 

 俺の舌戦に負けたインキュバスは這いながらどこかへ行こうとする。

 

 「オイオイオイどこに行くんですかぁ?」

 

 「ト、トイレ……。トイレに……」

 

 「この公園のトイレ、前デュラハンが木っ端みじんに壊したよ」

 

 「あの木偶ァ!」

 

 そう、ここは俺とデュラハンが出会った場所でもある。まさか力の差を教え込まれたアレがこんな形で役に立つとは思わなかった。

 

 「さてと」

 

 俺はおもむろにポケットからスマホを取り出す。そして背面をインキュバスにしっかりと向ける。

 

 

 「なんだそれは?いったい何をするつもりなんだ……?」

 

 「決まっているだろう?ここに芋虫の如く這いずり回っている弱った魔王軍幹部(笑)がいるんだ」

 

 俺は悪魔的な笑み浮かべる。

 

 「貴様の公開脱糞ショーを撮ってネットの海にばら撒く」

 

 「やめろろぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁあぁぁぁああああぁぁぁ!!??」

 

 魔王軍の決闘に脅しで勝とうとするヒーローがいた。

 

 「さぁさぁどうする?明日から脱糞マスターの名を得るか?それとも大人しく負けを認めて魔界(トイレ)に籠るか?」

 

 「うぐぐぐ……」

 

 「10……9……8……」

 

 「待て!それは何のカウントダウンなんだ!?」

 

 「7……6……」

 

 カウントダウンと共に一歩。また一歩と歩を進める。

 

 「5、4、3」

 

 「カウントダウンが早く……!」

 

 「2、1……」

 

 そしてついに天津神の構えを取る。

 

 「負けだ。負けでいい!」

 

 インキュバスはついに折れた。もう一度天津神を食らうという恐怖と脱糞という羞恥に。

 

 

 それは突然だった。インキュバスが負けを認めた瞬間、無数の鎖が奴に絡みつき始めた。

 

 「グオ!?これは!?」

 

 「ちょこ先生か!?」

 

 鎖はインキュバスの四肢を縛り上げ空中で磔の形をとる。さながらゴルゴダの丘のキリストのようだ。

 

 「颯太様。ずいぶんと無茶というか無茶苦茶というか、……まぁいいわ」

 

 俺を優しげだけど、すこし軽蔑したような目で見る。なんでぇ?

 

 「さてインキュバス様?あなたの契約は人間界に立ち入らないこと。その契約は今より始まります」

 

 インキュバスはもがき苦しむがその鎖はびくともしない。それどころかインキュバスの姿がどんどん変わっていく。

 高かった身長とすらりと伸びた手足は縮み。毛根はどんどん少なくなっていく。肌はしわがれていき数十年の歳をとったようだ。

 

 「あぁ……。『夢鎧』が崩れていく……。理想がはがれていく……」

 

 鎖には相手のすべてを封じる力があるのだろうか?インキュバスの姿がみるみる醜く変わっていく。

 

 「クソ……!クソクソクソ!星本颯太ァ!お前が死ねぇ!」

 

 鈴の鳴るような美しい声はどこかへ消え、だみ声だけが残る。どうやらその紳士然とした態度すら偽りの理想だったらしい。

 

 「化けの皮がはがれた……。いや夢から覚めた……か」

 

 こいつは夢という理想に逃げ込み現実すらも投影していたのだろう。まるで明晰夢の様に、それが偽りと知りながら。

 

 「星本颯太!お前は呪われている!お前は生きていることそのものが間違いなんだよ!お前の────お前の存在そのものが世界を破滅に導く!」

 

 「ッ!?契約────」

 

 奴の戯言にちょこ先生は顔を強張らせて手をインキュバスに向ける。

 

 「俺を倒して英雄気取りか!?いーや違うねぇ!?お前はまた一歩世界を破滅に導いた。他ならぬお前がだ。無辜の民は知らないだけで()()を知れば全てがお前に指を向けるだろう!星本颯太ァ!お前は────」

 

 「────履行!」

 

 ちょこ先生が中指と人差し指を上に向ける。するとインキュバスは目で負えないスピードで空に飛んで行った。断末魔に近い叫び声をあげながら。恐らく魔界に行ったのだろう。もうあいつは人間界に来れない。

 

 ただ一つ────

 

 『お前は────呪われている』

 

 呪詛を残して。

 

 まったく、勝ったというのに気持ちよくないない。最後の最後に戯言を残していきやがって。

 あぁ本当に。

 

 「()まらねぇなぁ」

 

 オチも(ケツ)も、な。

 

 

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