ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート 作:かとしょう
「ああああああ!ぁあぁあああぁあぁあぁぁぁ!」
『星本颯太!お前は呪われている!お前は生きていることそのものが間違いなんだよ!』
逃げた。ただひたすらに逃げた。あの場に居ることが怖くて、現実を受け止めることが嫌で、ガキのように脇目も振らず駄々をこねて。
あの場に居ると自分が壊れてしまうから。自分が起こした未曽有の災害なのに、それを受け止めることなんて到底できなかった。
なぜかインキュバスの言葉がリフレインする。俺を責め立てる。
「違う!違!違う!違う!!!違う!!!!!!」
壊れたスピーカーよりもひどいしゃがれた声を血を吐きながら繰り返す。
「うわ!」
でこぼこと露出した木の根に足を取られ、無様に顔から転んでしまう。
信じられなかった。信じることなどどうしてできようか。後ろを振り向けばきっとまだ紅蓮がたぎる炎が俺の背中を追いかけてくるのだろう。
痛い。胸の奥の奥。俺の根幹をなす心根が締め付けられ、枯れようとしている。どこまでもリアルな想像が現実に起こったことだと教えてくる。
「いやだ。違う。俺は……。俺はまだインキュバスの術中なんだ……!頼むから……。そうであってくれ……」
ありえないことを願い、現実を否定し、逃げる。それしか出来ることはないのだ。
「落ち着いたかい?」
ビクッ、と体を大きく震わせた。どこまでも優しい声が今は怖くて仕方がなかった。そして────起こったことが事実だと思い知らされた。
この月の章は俺のすべてが書かれているのかもしれない。悔恨と慚愧。
いつもミスを怠らない俺が罪を犯す話。罪を知る話
俺の罪をしたためる為に先に書いておこう。この話は誰もが不幸になり、そして俺が何も成し遂げられない、中途半端な話だ。
「くぁ……。眠いなあ」
大きなあくびと共に独り言を一つ。
インキュバスとの決闘から3日が過ぎ6月になった。世間は新生活に慣れ、学校の雰囲気も固まってきた頃合いだ。
アレからあくあは検査入院という事で二日間病院で過ごし、昨日我が家に帰ってきた。それはいいのだが……。
『ご主人!お茶入れるね!』
『ご主人!あーん!』
『ご主人ってさ……もしかしなくてもあてぃしのことす……好き?』
という感じでいつもの百倍ベタベタと構おうとしてくる。インキュバスの件で恨まれて家を出ていくと考えていただけにうれしい誤算だ。
いや家を出ていかれたほうが個人的には嬉しい……なんて皮肉ももう言えないな。それくらいには俺も彼女に絆された。
「……」
少し心境に変化があるくらいには。
学校につくと鞄を席に置き保健室に向かう。
「失礼しマウンテンビュー!」
「何それ?」
「挨拶と同時に相手を笑わせて気持ちのいい会話を始められるギャグです。使っていいですよ」
「嫌いな相手に使うわ」
「俺の渾身のギャグが煽り代わりだと……?」
ちょこ先生は今日もお菓子を食べながらその長い脚を組んでいた。えっちだぁ。
こんな色気むんむんな人が保険医なんてやっていていいのか?青少年の性倫理が歪んでしまうのではないだろうか?さすが悪魔、存在が罪作りだぜ。
閑話休題。
俺は気になっていることを問うた。
「せんせー。あくあが昨日からすごくめんどくさいです。何か後遺症とかあるんじゃないですかね?」
「爆発しなさい」
「なんで!?」
いきなり暴言が飛んできて僕びっくり。
「記憶と感情をもう半分手に入れたんでしょ?それならもう鈍感キャラでいるのも限界じゃないかしら」
「???」
「……どうやら本当にまだ理解できないみたいねぇ」
どうもちょこ先生の言いたいことが理解できない。別に察しが悪いタイプじゃないと思うのだが、どうも言葉の裏を読めない。
「そうねぇ。私から女の子の恋心を暴露することはできないし、でも二人を見ているとやきもきするし」
先生は棒状のお菓子を食べ終えると「ま、いいわ」と話題を強制的に終わらせた。
「それで颯太様はそれだけ言いに来たの?」
「いえ、それだけではないんですが……。なんというか相談に来ました」
俺はベッドに腰かけると、加湿器代わりのやかんからお湯を拝借する。一口白湯を口に含むと心の内を吐露した。
「しばらくの間、記憶を集めるのを止めようかと思うんです」
俺の一言にちょこ先生は意外だったのか眉をひそめた。
「それはまたどうして?」
「……怖くなったんです。インキュバスの一件は運がよかっただけで天秤はあっちに傾いていた」
インキュバスに勝てたのは百鬼あやめというワイルドカードがたまたま手元に配られただけだ。それが無かったら俺は間違いなく死んでいた。
それは構わない。それは俺が背負うべき業なのだから。
「でも奴らは俺を土俵に上げるために大事な人を人質に取った。もし俺が負けて大事な人が俺のせいでひどい目に合うと考えたら、……死ぬよりも怖くなりました」
今の『星本颯太』にも大事な人ができてしまった。それは記憶を失い、魔王軍と戦うことを宿命づけられた俺にとって日常の象徴でかけがえのないものだ。ならば絶対に守りたい。
「魔王軍共は俺を欲しがっていました。だからいずれまた奴らのほうから俺にコンタクトを取ってくるでしょう。ならばその時幹部どもに勝てるように準備しなければならない」
別に戦うのを止めるというわけではない。ただ自ら蜂の巣をつつくのを止めるだけだ。自分の身と、大切な人を守るため。
「そうなのね」
ちょこ先生は少し寂しそうな、でも安心した顔をしていた。
「颯太様がそれでいいなら私から言うことはないわ。短刀の奥義も修練に努めているのでしょう?なら大丈夫ね」
「はい」
ん?俺短刀の奥義のことちょこ先生にしゃべったけ?
ま、いいか。
「でも自分から動かないのならことさらに気を配りなさい。新しい魔族だけでなく、昔からの顔なじみにもね。どこから手が伸びるて来るかわからないわ」
「裏切り……とかですか?」
「ええ。どうする?私があなたにとっての裏切り者だったら?」
「そんなの決まっているじゃないですか」
俺はあっけからんと答えた。
「すべての恩を忘れて殺し合い、ですね」
でもまぁ、……そうは絶対にならないけどな。
キーンコーンカーンコーン。
独白していると予鈴が学校の始まりを告げる。早くクラスに戻らなければ。
そういえば今日は面倒くさいことに毎月恒例のバトルロワイヤルだ。さっさと準備しなければ。
……毎月恒例のバトルロワイヤルって文字にしたら訳わかんなくなってきたな。考えるのはやめよう。
「それではちょこ先生、失礼します」
「失礼しマウンテンビュ~」
「ちょこ先生俺のこと嫌いなの!?」
クラスに帰るとざわついていた。耳を澄ますとどうもこの後に控えているバトロワについて話題に上がっているようだ。月一で行われる学校行事というのは、まだ3回という事もあってか熱を帯びるには十分らしい。
「今日こそ全員ぶっ倒しておれが一位になるぜ!」
「いやいや私こそ上位に行くわ。見てよこれ。新しい毒を調合したの」
「団長、全員、殺す」
熱気と共におよそ日常生活では聞けない単語がバンバン飛んでくる。やっぱり月一のバトルロワイヤルと個性豊かな生徒たちが織り成す地獄のハーモニーはいつも寒気がする。
この学校は5文字で『終わってる』。明日から名前を『私立モラルハザード学園』に改名し、地域住民にそのイカれ具合を周知するべきだろう。
「はよーす」
「お、颯太君!おはよー」
とりあえずバーサク状態に入っているノエルに声をかける。
「気合入っているじゃん」
「そりゃもちろん!だって団長前回、前々回は結果が振るわなかったからね。今日こそ勝ち上がってみせるぞー」
「気合入っているなぁ」
個人的にはこんな行事によくもまぁそんなに気合を出せるなぁと思う。俺は別に戦うのが好きではないから適当に戦い、成績に影響がない程度で終わらせるつもりだ。
「と、ところで颯太君は組む人は決まっているのかな?よかったら団長たちと組まない?」
「え、やだ」
「一言!?」
繰り返すが俺は上位に行くつもりはない。いい所で自主的にリタイアして帰るつもりだ。その場合強いノエルはバトルジャンキーに目を引きつけ過ぎる。何よりやる気がある人と組めばリタイアを言い出しにくい。
理想はそこそこの強さがあって、そこそこのやる気の奴と組むことだ。
「やめときなってノエル。そいつと組むと碌なことが無いよ」
「フレア!」
二人の間の凛としつつもかわいいらしい声が響く。褐色の肌と後頭部でまとめた金髪が印象的なエルフ、不知火ノエルだ。
「出たな、ダエロ」
「ふん!」
「痛い!」
こいつこっちに視線もくれずに殴りやがった。ちょっとからかっただけなのに。
頬を赤く腫らしながらノエルに泣きつく。
「騎士団の団長さん見ました!?この人殴りましたよ!?ぼーりょくだ、はんざいだっ!」
「うーん、かわいいから無罪」
「おい警察機構」
お前が捕まれ。
「でも少し意外だったな。前回はあんなにボロボロになるまで頑張っていたのに今日は抜くんだ?」
「あぁ。ちょっと心境の変化というか……、戦うことを止めようかなって」
俺は二人に心境の変化やこれからについて話した。
「え……。それは自分の記憶を諦めちゃうの?」
俺の説明に対して、ノエルが見て取れるくらい慌てだした。それに俺は慌てて訂正する。
「記憶を取り戻すのをあきらめるわけじゃないさ。ただもう少し慎重に立ち回ろうかなって思っただけ」
自分のために。大切な人のために。関係のない無辜の人のために。
俺は自分の目的のために誰かを犠牲にするつもりはないし、可能性を少しでも下げたい。もう二度とノエルやあくあみたいな人は出したくない。
「ふーん。いいんじゃね?颯太の人生なんだし好きなようにすれば」
フレアは安定してさらっとしているな。もっとこう『えぇ!?そんなの悲しいよう!』という反応が欲しかった。ダークエルフに求めるほうが酷か。
「ダークエルフじゃない!」
「痛い!」
なんで思考を読めるんだよこいつ。
とりあえず仲間探しに校内をぶらぶら歩く。いないものか。そこそこのやる気でそこそこの強さの人は。獅白ぼたんさんとか乗ってくれそうな気がするが、あまり面識ないからなぁ。
「はぁ~!?このシオンちゃんと組みたいとかなめているのぉ!?」
耳にキンキン響く罵倒が脳髄を揺らす。この小学生みたいな声は聞き覚えがある。
「青緑シオンちゃん」
「誰が青緑だ。紫咲ね」
そうだそうだ、紫咲シオン。
4月のバトルロワイヤルでロボ子さんと共に最初に戦った魔法使いの女の子。なんで小学生がいるんだとビックリしたけど魔族の子だったか。とゆうことは見た目に対して中身はBBAなのかな。
「うん?アンタはこの前シオンをロボ子さんと一緒にいじめた犯人じゃん」
「その言い方止めろ」
ロリに言われると犯罪臭が濃くなる。
「名前は星本颯太だっけ?どうしたん?」
「これからのバトロワが始まる前に、仲間見つけをしているんだけどなかなかお眼鏡に叶う人がいなくて」
「なるほどなるほど。それでこのスーパー魔法使いであるシオンちゃんに組んでほしいというわけね?」
「いや別に」
「あれ!?」
「だって2か月前の俺に負けるような人はちょっと……」
「はああああぁぁぁぁ!?あれはアンタの力じゃなくてロボ子さんのおかげでしょ!」
確かに4月にはホロライブ学園のターミネーターことロボ子さんの力が大きい。でもそれを抜いてもこの赤緑シオンちゃんが上に行けたかと考えると首をかしげざるを得ない。
「じゃあそういうことで……」
「ちょっと待って!」
去ろうとしたのに襟首を掴まれて、気管が詰まる。
「なんか下に見られているのはムカつく。本来なら釣り合わないけどこのシオンちゃんと組ませて上げる」
「えぇ~?」
面倒くさいことになった。まさか誘う前から付きまとわれることになるとは思いもしなかった。
しかし、と考える。
よくよく考えればこ赤青シオンはそこら辺のモブと違い、出来るヤツなのは確かである。戦闘力は申し分ないし、上に行きたいという欲も無さそうだ。
俺の欲しい人材に当てはまっているように思える。
意外と組んでしまうのもありなのでは?
「それじゃあ天才魔法使いの実力見せてもらおうかな」
「いいでしょう!例え悪魔が出ようが鬼が出ようが蹴散らしてあげます」
「へぇ~。シオンちゃんは人間様と組むんだ」
……なんだろう。今絶対に聞こえて欲しくない声が聞こえたような。疲れているのかな?
「人間様~!今日こそ余と
「アイエエエエエエエエエエ!?」
百鬼あやめ!?百鬼あやめナンデ!?
あっ!シオンちゃんと百鬼あやめ同じクラスなんだ!俺としたことが鬼のいる教室に近づくとかバカ!死ね!死ぬ!
「この前は余待っていたのに人間様来てくれなかったからさぁ~。今回は始まるまでずっとついて行くぞ!」
ロックオン&絶殺宣言いただきました。命日はどうやら今日になりそうです。
「あはははは颯太はあやめちゃんとするんだ!それじゃあシオンはさっき言った通り他の人と組むから頑張ってねよろしく」
「逃がすかぁ!」
空を飛び逃げようとするシオンちゃんの髪を掴む。
「痛たたたた!離せぇ!離してぇ!」
「ぜぇぇぇぇったい!離さない!さっき組むって言ったよね!?言 っ た よ ね !」
「やだやだやだ!あやめちゃんに目をつけられているとか聞いてない!詐欺だ!」
「うるせぇ!こっちだって疫病神が家にいて毎日大変なんだ!そうしたらこんな特級呪霊のこと忘れるだろぉ!?」
「あー!今のあくあちゃんに言うからね!」
「お前を道連れにできるならすべての犠牲を払っても本望よ!」
「なら今ここで殺してあげる!」
「上等だコラァ!」
同盟破棄RTAしているんじゃねぇんだぞ。
どこまでも醜く言い争い、擦り付け合う姿がそこにあった。
「俺と一緒に死ねぇぇぇ!」