ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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遅くなって申し訳ないので初投稿です。


決戦 2

 「どうする?」

 

 「よし!逝くか!」

 

 「早まらないで」

 

 シオンちゃんとこれからのことについて話し合っていたはずが、衝動的に死にたくなってきた。

 

 「無理だよ。これから生きたまま内臓を食われるくらいなら、自ら死を選ぶよ」

 

 やはり(タン)から食べてお腹を起こしていくタイプだろうか。それとも心臓(ハツ)を食べてそいつの人生を奪ったことを楽しむタイプだろうか。どちらしろ勘弁願いたい。

 見ろよ。後ろでワクワクを抑えきれていないぞ。朝食抜いてきたのか?

 

 「とりあえずアンタがあやめちゃんを勘違いしていることは理解したかな……」

 

 当てもなく学校内を歩き回る。どうにか百鬼あやめを仕留める作戦とその条件に合う場を探すが見つからないし思いつかない。

 当然だ。そんなすぐに鬼退治できる能力が手に入るわけでもないし、名案を思い付くわけでもない。

 むしろどれだけ考えても八方塞がりであることが明確になっていくのを感じる。

 

 これは腕も内臓も持っていかれる覚悟をしないとダメかなぁ。

 

 「まぁこっちには魔法使いがいるんだし怪我しても大丈夫か」

 

 最悪死ぬような目にあっても蘇生してもらおう。

 

 「は?何言っているの?」

 

 「え……?だから怪我しても死んでもシオンちゃんに治してもらえばいいっていう……」

 

 「??シオンは回復魔法なんて使えないけど」

 

 「は?」

 

 「ん?」

 

 何か大きな齟齬というか勘違いがるような

 

 「使えないの……?回復魔法……?」

 

 「回復魔法って、そんな超々高等魔法使える人なんて現代では数人程度だと思うけど」

 

 「え!?」

 

 回復魔法が超々高等魔法だって?それはおかしい。

 だって現にちょこ先生はホイホイ使っていた。

 

 「それに回復魔法って言うのはRPGでいうところの初期魔法じゃないのか?そんな難しいとは思えないんだが」

 

 「ゲームと現実がごっちゃじゃん。そもそも回復魔法のことを勘違いしてない?」

 

 回復魔法を勘違い?傷を治すだけの魔法じゃないのか?

 

 「そもそも魔法とは等価交換。自身の魔力と決められたこの世界のルール。そして自身の決めた縛りによって威力が上がっていくもの」

 

 それは知っている。ちょこ先生が前に教えてくれた魔法のルール。

 魔法とは自身の魔力を消費してこの世界に語り掛ける魔界の法。その威力は等価交換であり、消費した魔力と比例して上がっていく。

 また自身の決めた縛りに殉ずることでその威力を引き上げるとも。

 

 「でも魔法とはあくまでかつて魔の祖がこの世界に敷いたルールというだけで、世界本来のルールから逸脱しすぎた行為は出来ないの」

 

 「世界本来のルール?」

 

 「無から有機物を作ってはならないとか色々。で、……」

 

 シオンちゃんは二の腕をさすりながら解説を続ける。

 

 「例えば腕が切り離された場合、その腕を魔法で癒着しているように見せることはできる。でもその腕を元の様にくっつけることも、ましてや腕をはやすなんてことは無理」

 

 「それは……無い細胞を生み出すことになるから?」

 

 「それもあるけど、それ以上に同じ細胞を生み出すことはとても難しいから」

 

 なんとなくだけど……分かる気がする。

 自身の細胞はこの世界の70億いる人間の中でも同一のものはない。それは親兄弟でも同じだ。

 生物の設計図たるDNAはほんの少し違うだけで大きく変わってしまう。猿と人間のDNAの違いが2%しかないと言えばどれほどのことかわかるだろうか。

 

 その一人一人違う細胞を、全く同じものを生み出すなんてことは確かに難しいように思える。腕をくっつける細胞を生み出すだけでも膨大な設計図からピンポイントで見つけるような苦行なのに、腕を生み出すとなると……。

 

 「ん?」

 

 そこで何かが引っ掛かった。まるで平坦な布の中にしこりがあるような違和感。

 そう。ケガを治すのが難しいのは理解した。

 

 「じゃあ実際に回復魔法を使える人はどうやって回復させているんだ?無から有機物を作れないんだろ」

 

 「そこは魔法の真骨頂。等価交換として差し出せばできないことは()()()()()()()()ほぼ無いの」

 

 「ほえー。さすが魔法。不可能はほぼ無いんだな。それで差し出すものとは?」

 

 「決まっているでしょ。人を治すならそれ相応の対価が必要になる。つまり対価は人その者」

 

 「ッ!?」

 

 「他の人の肉でも寿命でも運命力でもいいけど。等価交換するなら人そのものが必要なの」

 

 回復魔法。

 ヒトの細胞を生み出すという知識と、重い対価を必要とする魔法。確かに使うのは難しい。

 

 じゃあ。

 じゃあちょこ先生は一体どんな対価を払ったというのだ……?

 

 「そうそう。さっき言った魔法でできないことなんだけど……」

 

 シオンちゃんは少し砕けた口調で、当然の様に、りんごは地に堕ちるのが当たり前だというように、俺の価値観を壊した。

 

 「()()()()()()()()()()。もしそれができるとしたら神話の時代、魔の祖たる魔神だけだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ八方塞がりだわこれ」

 

 バトルロワイヤルが始まる3分前。結局名案は思い浮かぶことはなくフラフラととりあえず戦いやすそうな校庭に来てしまった。

 

 「シオンちゃん、鬼を今すぐ倒せるようになる魔法とかない?」

 

 「あったらもう使っているかな」

 

 「デスヨネー」

 

 人生はそんなに甘くない。種族の差を超えるにはやはり知恵と努力しかないだろう。

 が、やはりどうしても気分が乗らない。

 

 そんな俺とは対照的にシオンちゃんはいそいそと準備している。

 

 「ずいぶんとやる気だね?アレに勝てる算段でもあるの?」

 

 「ない!」

 

 「元気に返事することではないな!」

 

 そこまで正々堂々と断言されると責められないな!

 その楽観さと自信は見習うべきかもしれないけど、今回ばかりは相手が鬼である以上本気でいかないといけない。

 

 魔法で空に浮かび始めたシオンちゃんは少し諦めたような、それでいてワクワクしているような顔をしていた。

 

 「そりゃデカい壁が立ちふさがったらあきらめたくなるかもだけどさ。結局突撃してみればどうにかできることもあるよ」

 

 「それはまた含蓄のある言葉だこと」

 

 頭の片隅にとどめておくことにするよ。

 

 俺は腰から短刀を引き抜くと逆手に持ち替えて構える。

 ここまで来てしまったからには腹をくくるしかない。

 

 目の前で呑気にラジオ体操している鬼をここで倒すしかない。

 そのために必要なのは火力と手数。これをシオンちゃんと分担してコンビネーションを合わせるしかない。

 

 ブーーー!

 

 バトルロワイヤルの開始の合図が校内に響き渡る。

 

 さて、相手の出方を伺おうと腰を落としたところで気が付いた。

 

 「あれ?刀は?」

 

 百鬼あやめがいつも差している二対の刀を構えるどころか、見つけられない。

 

 「羅刹と阿修羅のことか?」

 

 「そうそう」

 

 いつも黒と赤の刀を下げていたはずだ。あの大ぶりの刀たちの間合いを抜けて短刀の射程距離内に入るのか考えていたのだが。

 

 「うーんとね、羅刹と阿修羅はあれからまだ帰ってこなくて……」

 

 「まだ行方不明なの!?」

 

 1か月以上手元にないじゃん!

 

 「警察に捜索届だしなよ!」

 

 「え~……、面倒くさいし……」

 

 しかめっ面で露骨に嫌な顔をするあやめさん。

 

 「それにどうせ他人が探しても意味ないしな」

 

 「意味がない?」

 

 それはいったいどういう……?

 

 「曲がりなりにも鬼神が使っていたといわれている妖刀たちだからな!刀自身の意思で行動するから余ももうわからん!」

 

 適当だなぁ。この大雑把な精神性が鬼の強さの根幹なのかもしれないが。

 

 だがチャンスだ。

 

 厄介な武器がないのならば戦力は半減しているにも等しい。

 できる限り接近戦に持ち込みつつシオンちゃんの遠距離からの援護で攻め切りたい。

 

 「しゃあ!行くぜ!『絶影』!」

 

 先手必勝。短刀の一の技にして最速、『絶影』をあやめさんの首元に滑り込ませる。

 銀色の軌跡を流麗に残しながら放たれた其れは────

 

 「あら余っと」

 

 人差し指と中指で挟んで止められた。

 

 「…………。あの……曲がりなりにも十八番で最速の技を指二本で止めるのやめてもらっていいっすか?」

 

 早速リザインしたくなってきた。

 これ人間がどうにかできる存在なの?化け物には化け物理論でほかの魔族ぶつけたほうがいいんじゃないのか?

 ちょっと勝てるビジョンが見つからない。

 

 「!!」

 

 視覚ギリギリからのありえない攻撃をなんとか避ける。

 頬を焦がしながら火の玉が飛んでいく。あれはいわゆる鬼火というやつか。まさかこんな飛び道具があるなんて。

 

 「意識が外に向きすぎだゾ!」

 

 「ッグオ!」

 

 刀の切っ先を二本の指で挟んだまま俺を天空に投げ飛ばす。指と腕の力で青年男性を投げ飛ばすな。

 

 「キャ!」

 

 投げ飛ばされた先にはシオンちゃんがおり、予想外だったのか俺とぶつかって地面に落とされてしまう。

 

 「ちょっとぉ!シオンの邪魔しないでよ!」

 

 「しょうがないだろ!言っとくけどなぁ!俺はもうあきらめかけているからな!」

 

 「早い!」

 

 こちとら最速の技を見切られたんだぞ!もうほとんどのカードがブタに変わったようなもんだ。

 なんとか立ち上がってみるがとんと考えがまとまらない。

 

 「『マジックアロー!』」

 

 今度はシオンちゃんが仕掛ける。手を空に向けると巨大な魔方陣が宙に浮かび上がる。魔法陣はゆっくりと回転すると加速を早め紫色の針の雨をあたりに降らせた。

 

 「場所をわきまえろぉ!」

 

 なんとか魔法陣の対角にある木の陰に隠れてやり過ごす。遅れていたらハリセンボンができているところだった。

 

 木陰から敵の様子を探る。一つ一つは大したダメージにはなっていないとしてもこの量が蓄積していけば痛手になるだろう。

 

 「余いしょおぅ!」

 

 ……すべて避けていた。

 

 文字通り雨あられと降る魔法のすべての隙間を縫い、軽い顔で通り抜けていた。

 もうなんなのあいつ怖いわ。

 

 無理やり体を通り抜けさせる体の柔らかさと身体能力が化け物じみている。だがそれ以上に……。

 

 「ホイッ」

 

 最後の雨を両手でつかむと一つをシオンちゃんに、もう一つを死角になっている着物の裏から飛ばしてきた。

 反応が遅れて、足をもつれさせて重心を大きく崩してしまう。

 

 その隙を逃さず右からの蹴りが迫る。

 

 「そう易々と食らい続けるかよッ!」

 

 蹴りに合わせて短刀を入れて、威力の減少とカウンターを狙う。しかして成功したそれは、

 

 

 ギャリィィン!

 

 なんで素肌を切っているのに火花と金属音が舞うんだよ!

 

 心の中で悪態をつきながら空中で体をひねり着地をする。少し水分を含んだ土が衝撃を吸収し、負荷が消える。

 

 昔抱き着かれたことあったけど、普通に肌の感触していたような気がするのは私だけでしょうか。

 あれ鬼族じゃなくて機械族じゃないか?ロボ子さんの親戚でしょ絶対。

 

 しかしこうなったら本当に手はなくなった。

 いや……。ひとつだけあるにはある。

 

 短刀奥義『天津神』

 魔王幹部の高位魔族すら焼き切る俺のリーサルウェポン。決まれば勝負の流れを一気にこちらに持ってくることができるだろう。

 

 しかしもし外した場合は。

 流れはもう二度と俺たちへ来ないだろう。

 

 「よそ見している暇あるのかぁ!?」

 

「いちいちはっっやい……!」

 

 フェイントも駆け引きもない直線で詰めてきているのに、見切るだけで精いっぱいだ。

 赤い着物の袖が残像としてしか捉えられない突き。コンマ01秒前の俺の空間を削り、空気の壁を超える音を轟かす。

 

 隙とも言えない僅か。

 

 突きの返しの腕を読み切り、二の腕をつかむことに成功する。

 

 短刀の強み。空いた片方の手による戦略の肥大。

 これを生かさない手はない。

 

 取った手を左手でつかみながら顎と肩で挟み、重心を下へ下へとずらす。百鬼あやめの重心が乗っている足と反対の脚を引っ掛け宙に浮かす。

 舞う赤と白のコントラスト。

 

 短刀体術『(ヒヨドリ)投げ』

 

 手ごたえあり。

 

 手の先の物体が飛んでいく感触を感じ取った。

 

 このまま彼女は受け身もできずに地面にたたきつけられるだろう。

 とりあえず距離をとってからて……。

 

 瞬間。視界が反転した。

 

 「はぇ?」

 

 重力に逆らうように服を引っ張られる感触がする。

 いや、そうか。

 

 百鬼あやめが下駄を脱ぎ、足先だけで俺の服をつかんでいる。

 そのまま慣性ごと俺と一緒に移動してやがる。

 

 「ふっざけっ……!」

 

 言葉は続かなかった。

 そのまま足先の上下の動きだけで高く空中に放り投げられる。

 これじゃあ距離をとることも着地際に追撃をとることもできない。

 

 それどころか立場が逆転した。

 空中を動くすべなんてない。それどころかこの高さはしっかり受け身をとらないとケガを負う。だがそんな悠長を許されるわけない。確実に狩られる。

 

 シオンは駆けつけてくれているけど間に合わない。

 

 仕方ないけどここまで追い詰められたからにはもう安定は捨てるしかない。

 ここからは思考も戦略もない。反射と技に頼った生物らしい暴力性だけに頼らざるを得ない。

 

 

 

 

 ―――空に風。地には枯れ土。

 

 「天津神!!」

 

 天津神は本来地対地、もしくは地対空を想定したものだ。こんな体の安定が効かない空で、タイミングが命のカウンター体術を狙うなんてどうかしている。

 

 成功確率はよくて20%てところだろうか?少ないがこのまま何もせず負けるよりはよっぽどいい。

 

 世界がスローモーションになるほどの集中力。見える。

 

 百鬼あやめは右足を屈ませながら左手を突き出して迎撃を狙い―――

 

 「右足だろ!?」

 

 「お余ッ!?」

 

 初めて百鬼あやめの顔に驚きの表情が浮かんだ。体をその異常なバネと柔らかさで無理やり繰り出した足を空中で体を捻りながら紙一重で避ける。

 懐に入ると同時に固めた拳に気合も力も魔力もすべて込めた、破神の一撃を放つ。

 

 走れ。奔れ。趨れ。

 

 ハシ―――!

 

 違和感が感覚を支配した。

 天津神すべての要である、右腕が止まった空気の分子に囲まれたようにピクリとも動かない。

 

 違う。そうじゃない。

 

 百鬼あやめの鬼の握力が、万力のピンチ力が俺の右手を動かすのを許さない。

 コイツ……その勘の良さで、今できるすべてをもって止めてきやがった。

 

 俺の切り札を、絶対に失敗できないものを的確についてきやがる。

 パワー、スピード、そして溢れ出る戦闘センス。何もかもが一級品だ。

 

 鬼とか種族とかそんな広い枠組みではない。百鬼あやめは百鬼あやめだから強いのだ。

 見誤った。そして失敗した。

 

 ここで決めたいとう気持ちが先行しすぎて、残存する全てをつぎ込んでしまった。

 

 掴みあったまま地面に激突する。下にいた百鬼あやめをクッションにできたおかげで事なきを得た。が、事態は最悪に振り切れた。

 

 「あははは!ここまで強い人間様は会ったこと無い余!」

 

 ほらもう狂気的な笑い始めちゃったじゃん。薬でもやってらっしゃいます?

 

 笑い続ける百鬼あやめの周りに一つ、二つと鬼火が灯る。地面を赤く照らす火の玉は倍々にその体を分けて空間を業火で埋め尽くす。

 一つ一つが陽炎を作るほどの熱量。それが幾何学的な紋様を作りながら範囲を拡大していく。

 

 「人間様!死なないでね!」

 

 熱はより力を増し、ついには太陽すらも超えて―――。

 

 「百鬼襲(ひゃっきしゅう)

 

 百の鬼火が焼き尽くさんと襲ってきた。

 

 「ちょ―――」

 

 死ぬって。

 

 

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