ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート   作:かとしょう

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8000字を超えたので初投稿です


疑問

 痛む体に鞭を打ちよろめきながらもなんとかエルフの森に帰還することができた。

 

 「ゲホッ!ゲホ!」

 

 思いのほかダメージが深かった。まさか飛んでくる花火の筒があれほどの威力とは思わなかった。できれば二度とやりたくない。

 しかしそれ以上に到来する半身を失ったかと思えるほどの喪失感。

 手放してしまった。顔も声も名前も思い出せないあの子の最後の繋がりを。無意識に。すぐに拾いに行こうとしたが体が動かなかった。まるで世界からそれだけは許さないという強大な意思の手で押さえつけられているかのような圧迫感。結局取りに行くことはせず戻ってきてしまった。

 よたよたと体を前へ進める。森は相変わらず静かで何事もなく時間は進んでいた。鳥は歌い草木は風と踊り、一面の緑は生命の力強さを物語っていた。俺はひときわ大きく生命を感じさせる木に寄りかかると大きく溜息を吐いた。

 

 「ふぅぅぅぅ、ッグ」

 息を大きく吐くだけでも鈍痛が体を支配する。腹で受け止めたため内臓が傷んでしまったのかもしれない。服をめくると肌が赤くにじんでおり目を細めてしまう。全快までにはいくらかの日数を要するであろう。

 

 本当はうずくまり、この大自然の開放感を味わいながら一眠りしてしまいたかった。ここで緑に囲まれ太陽を浴びながら寝るのは5月の適温の中、窓を開けながら昼寝をするように快適な休息となるだろう。

 しかしそうもいかない。俺には時間がない。なぜ急いでいるのかは俺自身もわからない。ただそうしないといけない気がするだけだ。あの日から俺の人生は焦燥感と罪悪感に支配され、ただひたすらに走りだした。

 

 「……なんでだっけかなぁ」

 

 まずい……瞼が落ちてきた。このままでは一晩でも眠りこけてしまうかもしれない。重傷を負いながら体を動かし続けたのが相当堪えたらしい。かかとで踏ん張りながら背中の木を支点にずるずるとこすりつけながら立ち上がる。ここで休んでいても何の生産性もない。体の悲鳴に聞こえないふりをして膝を叩き活を入れ、一歩踏み出した。

 

 「貴様ら家畜ごときにぃぃぃぃぃぃ!!安息があると思うなぁぁぁぁ!!呪われていけぇぇぇ!」

 

 紫のヴァンパイアの最後の言葉がリフレインする。

 

 痛みが走ることは承知だがまた冷えて澄んだ空気を肺いっぱいに入れて覚悟を決める。この先どれだけケガを負ってもいいようになろう。体そのものをこれから先の運命に適応させよう。怪我も体力もそして良心の呵責でさえ無視していけるような人形になってしまえばいい。心に茨を張って近づく人を傷つけ、大のために小を見捨てられるような人間になってしまえ。そして世界から呪われ最後は消えてしまおうか。

 

 

 できるだろうか。俺にそんなことが。力も知識も、なにより勇気がない俺に。生きながら死に続けることなんて本当にできるのか?一瞬即身仏と頭に浮かぶが小さく頭を振った。ついに宗教まで思考が回っているようでは話にならない。そもそも思考がネガティブになっている。やはり今日は休もう。そして明日からまた頑張ろうか。

 

 

 通常の5倍以上の時間をかけて集落への道のりの半分についたころには、太陽が落ちて森には夜の帳が降り空には幾星霜の輝きが舞っていた。エルフの森は人間の町と違い人口の明かりがほとんどないため星はよく見える。思わず眺めてしまう。空に浮かぶあの光は小さくただ銀色に輝いているだけなのにどうしてこうも美しいのだろうか。俺もいつかあんな風に綺麗な銀色の――――

 

 「おおーい!君大丈夫かー?」

 

 声が聞こえ視線を降ろすと俺に調査を依頼した浅黒いおっさんが走り寄ってくるのが見えた。後方にもう一人エルフが見える。表情から察するに帰ってこないのを心配して探しに来てくれたらしい。優しいことだ。まぁ、そもそも集落や異種族の人間のために依頼を出そうという人だ。当たり前か。

 我ながらゲスいと思うがそのやさしさに全力で漬け込むとしますか。

 

 「グッ!ううううぅぅぅぅ!ゲホ!ゲホ!ゲホ!」

 

 わざとらしく声を上げながら急に倒れこむとおっさんたちは目を見開き声色を固くした。

 

 「大丈夫かい!?いったい何が!?」

 

 「ハァハァ……。魔界との境目に二体のヴァンパイアがいて、戦いました。」

 

 「魔界の上位種族であるヴァンパイア二体と戦ったのかい?なんて無茶を……」

 

 「そうか、それでここまでの傷を負うことになったのか……。なんて痛ましい……」

 

 「調査してヴァンパイアがいる証拠を持って帰るだけでよかったのになんで戦いを?」

 

 「ゲホ!ゲホ!やつらは口にするのも恐ろしい計画を進めており、成就は間近でした。人間と深い友好の歴史のあるエルフの皆様のために!今ここで!二体のヴァンパイアを!人間である私が!倒しておかなければならなかったのです」

 

 「なんと……。二体のヴァンパイアを相手取り勝ったというのか!」

 

 「人間の君が我々エルフのために満身創痍になってまで戦ってくれるなんて、どうやって感謝を言葉にすればいいかわからないよ」

 

 「あぁ、君は我々の救世主だよ!」

 

 ……なんかちょっとお礼を少し豪華にしようと思って話を盛ったのだが、どんどん肥大化しているような気がする。大丈夫かこれ?

 

 「きっとこの傷もヴァンパイアからもらってしまったのだろう」

 

 「あぁ。奴らはただ腕を振るうだけで木を薙ぎ、泉を割る。一撃でも食らうとアウトだからな。」

 

 「ってことは彼は一撃も食らわず最後の威力の低い悪あがきに当たってしまったんだんだろう。だから致命傷とまではいかなくても重傷を負ったんだ」

 

 「ゲホ!あ、あのー……」

 

 「思えば初めて会った時からただ者ではないと感じていたんだ。エルフの森の何もない端っこ側から来ていたんだ。あそこは許可がないと入れないはずなのに」

 

 空をすっ飛んできただけなんです。

 

 「ここまでフラフラになりながら魔物に後れを取らないことからそれが分かるな!」

 

 世界の裏側から抜けてきただけなんです。

 

 

 「あのー!すみませーん!」

 

 「なんだい?ヴァンパイアハンター?」

 

 「どうしたんだい?英雄の証(シンボルオブヒーロー)?」

 

 「なんでもう二つ名的なのつけてるんですか!お願いする立場でアレなんですが病院に連れてってくれません!?」

 

 「おぉ、そうだった!立って歩くのはキツイかい?」

 

 「できれば担いでくれると嬉しいですねぇ!」

 

 「なんと……君ほどn――」

 

 「もういいって!!俺をヨイショするのはもういいって!!お願いですから病院連れてってください!」

 

 「エルフの森で治療を受けないかい?君なら歓迎するが」

 

 「いいですー!あなたたちに根掘り葉掘り聞かれるのが面倒くさいので遠慮しますー!」

 

 

 俺が一段と声を張り上げるとそうか……と悲しそうにつぶやき動き出した。

 木に巻き付けられた蔓と長い枝を拾い集めると慣れた手つきで組み立て始める。5分もしないうちに即席の担架ができた。そこに地面から葉を拾い敷き詰められる。

 

 「これに横たわってくれ」

 

 寝てみると葉が体を優しく押し返し、木の枝のごつごつを感じない。安定感もあり思いのほか気持ちがよい。

 

 「どうだい?意外といけるだろう?」

 

 「えぇ、まぁ。すごいですねこれ」

 

 「森に住むもののたしなみさ。じゃあ行くぞ。せーの!」

 

 俺の前後に二人が立つと担架を持ち上げる。一瞬の浮遊感のあとまた背中を葉っぱが優しく支えてくれる。

 

 そのまま小走りで駆け始めた。風を切る音と虫の鳴き声のバランス。そして冷えた空気が頬を撫でる感触がどうもくすぐったく気持ちよかった。

 

 それにしてもさすがエルフだ。脳死で人に中二設定を押し付けてくる割にはしっかりとしている。

 夜の明かりのない森を口笛を吹きながら軽やかに進んでいる。地面には腐葉土や泥、木の根などバランスを崩すものが多いのに均したコンクリートを歩くようだ。

 

 「どうしてこの夜道を何事もないように走れるんですか?」

 

 おれは聞かずにはいられなかった。そこに俺が目指しているものの一つがあるような気がして。

 

 「そうだなぁ。まぁ、一番はやっぱり慣れだよな。500年もやっていたら嫌でも慣れる。」

 

 「俺たちではまねできないスケールですね」

 

 「ははは!確かに君たちは数十年で命を燃やし尽くしてしまうからな!それに老いによる低下もあって、全盛期は20年から30年。人間では難しいかもな」

 

 「うらやましい限りですよ、まったく」

 

 「……」

 

 急に会話が止まった。おしゃべりがすきそうだったのだが実はコミュ障だったのだろうか。それとも嫌味に聞こえたのだろうか。

 

 「……それは君の本心ではないだろう?」

 

 優しい目を向けながら見透かすように顔を覗いてきた。なんだかそれに耐えられず視線を外してしまった。

 

 「たしかに君たち人間はエルフのように長寿ではない。獣人のように素早くない。魔族のように強くない。それは変えようのないこの世界のルールだ」

 

 「改めて言われると傷つくなぁ」

 

 「そうかい?」

 

 そこで、また会話が途切れる。気が付けばもう森は抜けて草の茂ったあぜ道になっていた。目を凝らすと人工の光がぽつぽつと浮き出てきたのが視認できる。

 なんだか恥ずかしくなってきた。聞いたところでマネなんてできないのは理解していたはずなのに。俺たち人間は可能性の少ない劣化種族だ。力が無く、寿命が無く。強みはその数と知恵による文明社会の画一化だけだ。

 その数も自分たちで数十年おきに減らしている。考えれば考えるほど理解に苦しむ。なぜ人間は他の種族に滅ぼされずあまつさえ友好関係を結べているのだろうか。そんな独白のことなど露知らず、俺に愉快でたまらないと言葉を弾ませながら語る。

 

 「実はこう見えておしゃべりなんだがね――」

 

 「知っていますよ、この短時間でそれは見抜けますって」

 

 「おっとそうだったか。それで私はおしゃべりなんだがね、500年様々な種族と様々な会話をしてきてね。その経験談から言わせてもらうが――――」

 

 一呼吸、二呼吸ほど間をおいてから少年のようにキラキラと顔を無邪気な様相にすると

 

 「君たち人間ほど面白い奴らはいないよ」

 

 そう言い放った。

 

 「……」

 

 意味が分からなかった。なぜこんな話をするのかもその内容も。

 

 「それは上位種族(エルフ)としての発言なのですか?」

 

 「もちろん個人の感想さ」

 

 楽しそうな笑顔で走る姿にどうも嘘をついているようには見えない。

 

 すると二人は突然、

 「おい」「ああ」

 と短くアイコンタクトを取り、後ろのエルフのおっさんが何やら魔法の詠唱をしだした。

 

 そして浅黒いエルフのおっさんはニヤニヤしながら俺に問う。

 

 「君は人間がほかの種族に比べて劣っていると思っているね?」

 

 「……だってそうでしょう。我々は何か一つが抜きんでているわけではない」

 

 「しかし君はヴァンパイアを打倒して見せたじゃないか」

 

 「……それは!……ごめんなさい」

 

 「何の謝罪かなそれは。もしかして怪我がヴァンパイアからのモノだって嘘をついたことかい?」

 

 「ッ!!」

 

 ばれていたのか!?いつから!?もしや最初からか!?

 一気に血の気が引くがそれを相変わらずのにやけ顔で見つめてくる。

 

 「知っていたよ最初からね。ヴァンパイアから受けにしては爪の切り傷でも魔法でもなく打撃だ。それも内出血をしている範囲から見てこぶしより少し大きいものが当たったことから何らかの飛来物が当たったんじゃないかと推測しているんだが。正解かな?」

 

 「……」

 

 「沈黙は肯定だと受け取るよ」

 

 どうも手の上で踊っていただけだった。最初から俺が演技していることがばれていた。それを見越して茶番に付き合っていてくれただけみたいだ。人間ほど面白い奴はいないというのはそういうことだろうか。

 

 「おいおい拗ねないでくれよ。それに怒ってなんかいないよ?だってヴァンパイアを打倒したことは本当なんだろう?」

 

 本当に一から十までお見通しだった。だからこそ気分は最悪だ。この人の思考が全く読み取れないから。理解できない恐怖とでもいえばよいのだろうか。

 乾いた唇をかみながら俺はぽつりとつぶやいた。

 

 「わかりません」

 

 「ん?なにがだい?」

 

 「なぜ嘘をついた俺にこうまでするのか」

 

 「そうか。伝わっていたと思っていたが悲しぃなぁ」

 

 笑顔のまま何をうそぶいているんだよ、なんて突っ込むことすら億劫だ。

 すると頃合いを図っていたのだろう。後ろで魔法を詠唱していたエルフが一言「準備できたぞ」と声を出す。

 

 「そうか!じゃあいつものいきますか」

 

 「なに、うおぉぉぉぉ!?」

 一瞬すさまじいGを感じ目を閉じる。そして瞬きを繰り返すとそこは――――空だった。

 星はより近く、しかし大地は雲の海に代わっていた。そこは十数年の人生で飛び切りの一番だった。どんな思い出もこれを見た後では書き換わってしまうだろう。おそらく気温は数度未満だろうが自然と体は熱く火照る。

 目の前には北斗七星が並び春の大三角を空に写し出されている。星の一つ一つが研磨された宝石が浮かんでいるようだ。

 強い風が髪を逆立てるのも、耳元で喚く風音も今は目の前の光景を引き立てるスパイスだ。

 

 

 「少年!!先ほどの問いに対する答えだがね!!単純さ!!」

 風切り音に遮られないために大声で教唆した。

 

 

 「私はねただ人間が好きなんだよ!!羨ましく思うほどにね!!」

 

 なんだって?今なんて言ったんだこのひとは?

 

 「羨ましいんだよ人間が!!いや尊敬しているといっても過言じゃない!!」

 

 風に負けないよう痛む体を酷使して腹から声を出す。

 

 「なぜですか!!?私たち人間はこれほど脆く愚かじゃないですか!!!」

 

 声は上ずりまるで怒っているかのように聞こえたかもしれない。いや事実怒っていた。長年の疑問。10年間この疑問は怒りとセットで俺の体を蝕んでいた。人は脆く愚かだ。だから両親は――――

 

 ずん!

 体が雲海に沈み思考が中断される。

 

 「そうだ。人間は弱い、他の種族と比べて圧倒的に。でもね。だからこそ可能性があるんだ」

 

 いつの間にか風は止まり囁くように小さい言葉も自然と聞き取れた。

 

 「もし我々があのヴァンパイアに挑めば甚大な被害を出していた。それを恐れて放っておけばさらに被害は広がっていた。我々には死人を出すしか道はなかったんだよ。被害を抑えられても0にはできない、絶対にね。でも君にはできた。それは君が弱いからこそ様々な可能性を模索するからだ。生まれながら苦労もせず強者であれば視点は固定され、視野は狭まり考えは石化する。しかし君たちは必ずどのような状況でもあきらめない。どれほど絶望的な状況だろうと最後には打開して見せる。弱いからこそ強いんだ。」

 

 矢継ぎ早におっさんは口にする。人間()へ祝福の言葉を。

 

 「なぜ他の種族は人間に好意的かって?歴史を紐解けば分かることさ。世界に危機が起きると必ず最後まであきらめず努力し、解決してきた種族がいる。あの時の魔界との戦争でもそうさ。ある時は最前線で、またある時は他の種族を率いてリーダーとして。無理だと言われようとも、どれだけ(ほそ)(こま)かい可能性でも目指して走る。それは――――」

 

 永遠とも思える雲の海を脱出し思わず息を大きく吸い込んだ。息苦しさも凍えるほどの肌寒さもいつの間にか消えていた。そしてその代わりに現れたのは――――

 

 「――――それは、とても美しいと思わないかい?」

 

 「……ええ、そうかもしれません」

 

 空の宝石に劣らない人の明かり(生活)だった。

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 「本当にここでいいのかい?」

 

 「はい、送っていただきありがとうございました」

 

 結局、俺は病院ではなく家の近くに送ってもらうことにした。近場の病院はもう閉まっているからだ。24時間やっている大きな病院まで連れて行くと言ってくれたがさすがに悪いので遠慮をした。それでも心配だったようで明日の朝一に病院で診察をしてもらうことを条件に開放してもらった。

 

 少し雑談をすると帰り支度を始めたので俺は思わず胸の内を、両親のことを話した。

 

 「別に何か壮大な物語の末に~とかそういうのではありません。俺の両親は探検家で世界中の未知への解明を生業としていました。その隊は人間も獣人もエルフも魔族もいて親父は隊長をしていたと聞いています。

 ある日無茶がたたって隊が全滅の危機に瀕したとき、両親は他を生かすためにそこに残ったそうです。『リーダーの俺が一番非力では示しがつかない』と言って。そのおかげで唯一の人間だった両親は行方不明となり、他の種族の人は生き残った。

 別に他種族が嫌いになったわけではありません。それよりも俺は一番力が無いのにかっこつけた両親が、そしてそれを美談のように語る人間そのものが嫌いになった。

 

 死んだら終わりなのに、何も残らないのに……。

 

 でも!親父たちが勇気を持ったことで他の命が救われた!それを語り継ぐから同じ失敗が世界から消えた!今はそう思えるんです。これもまた人間の強さなんでしょうか……?」

 

 風のない水面のように静かに澄んだ瞳で俺を見つめていたおっさんは何度もうなずくと、反対にしっかりと力強さを感じられる表情を見せた。

 

 「君のご両親が行ったことが正しいのか正しくないのか断じることはできない。他人を、それも亡くなった方を自分の価値観で当てはめるのは、決してやってはいけないことの一つだ。でもこれだけは言える」

 

 おっさんは俺の肩に手を置くと言い放った。

 「誇りなさい。俺の親はこんなにすごいんだと。その誇りは急拵えの力とは比類がない武器となるだろう」

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 「待たせたな、それじゃあ森へ帰るか」

 

 「おせっかいなのもほどほどにしておけよ。なんでわざわざここまで、それも空を飛んで移動したんだ」

 

 「若い芽が花開く前に摘まれるのは嫌だろう?」

 

 「……??」

 

 「まぁ、いいじゃないか、彼がエルフを含めて多くの人を救ったのは事実だ。これくらいはな」

 

 「いつからだっけか、お前がそこまで人間に肩入れするようになったのは」

 

 「忘れたのか?あの時だよ。雲の上へ星を見に行った帰りに人の街の明かりを写真に収めた、あの」

 

 「あぁそうだっけか……て、その写真肌身離さず持っているのか」

 

 「まあね。しかし久しぶりに面白い子を見つけたな」

 

 「お前ほどの奴が気にかけるのか?」

 

 「そうだよ、あの子はきっとこれから世界を変えるぞ。娘を貰って欲しいくらいだ」

 

 「世界を変えるって器じゃなさそうだし、あの娘が人間に嫁ぐわけないだろ。世迷言を並べるのもいい加減にしとけよ――――不知火」

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 長年のコリが取れたかのように体が軽い。痛みも今はマシになってきた。諦めないこと、勇気を持つことこそが人だけが持てる強さ。そうかもしれない。

 一回実家に帰ろう。そして両親についていろいろな人から話を聞こう。そして多くの人とかかわりを持とう。今まで避けてきた分を取り返すために。

 きっと今日が俺にとって人生で一番のターニングポイントだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは不運なだけかそれとも世界が整合性を保つためにやったのかはわからない。ただ星本 颯太にとって今日が人生で一番のターニングポイントなのは間違いないだろう。

 

 

 ヴァンパイアは老齢であればあるほど死から遠ざかっていく。それは当人の実力もそうだが何より狡猾になるからだ。

 

 

 自分が死なないようにある仕掛けを施す。それは呪いだ。もし自分が殺されたら殺した相手に特大の呪いをかけるようにしておく。そうすれば自分の命を狙う相手がいても簡単に手出しできなくなる。――覚悟を持った特攻か、そもそもそれを知らなければ意味を持たないが。

 

 

 さて討伐されたカースドヴァンパイアとロブヴァンパイアは古から生きる魔族だ。特にカースドヴァンパイアは呪いの専門家だった。そして奴等は当然のごとく保険として自信を呪いでコーティングしていた。たとえ魔法の専門家である魔族でさえ気づかないものを。

 

 

 本当に不運なだけだったかも知れない。

 

 

 もし依頼を受けていなかったら。もしエルフの誰かが呪いに気が付いたら。もし家まで送ってもらったら。ここまでのことにはならなかっただろう。

 

 

 

 ファァァァァァァァァァァァァァァン

 

 

 

 

 「……え?」

 

 

 即座に気持ちのスイッチを切り替える。着地した足に力を込め、バネを最大限に生かそうとする。かかとからつま先へしなるように足を動かす。だが――

 

 迫るトラックに痛む体では反応しきれなかった。

 

「……無理か」

 

 一瞬の衝撃と浮遊感。地面に落ちた時に見えたのは闇夜に右足が飲まれる光景だった。

 

 ボキン!!ゴキン!!

 

 「あ、あ、あ、あ」

 

 そして自分を形成する何かが壊れる音がした。体以上に大切な何かが今壊れた。

 

 その正体を知ることなく目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、星本 颯太は死んだ。

 

 

 

 




 アンケート結果横並びで困った……。
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