トレーナーになれない新人トレーナー 作:おぶなむ
さておき、最終話なので初投稿です。
『――全ウマ娘の憧れ、日本ダービー……今スタート!
各ウマ娘、きれいなスタートとなりました。
ポンと飛び出したのは11番ジャラジャラ、それを追うようにして12番デュオスヴェル。
先行争いはこの二人か。
7番サンセットグルーム、9番ラピッドビルダーがその後ろに続いています。
一番人気、3番アグネスタキオンは現在先頭から5番手から6番手。
並びかけるように10番フォローザサン。2バ身ほど離れて1番チャタリングチーク……』
『――さぁ第一コーナー回って第二コーナーに入っていく。
3番手集団は7番ブラックグリモア。8番ピンクシュシュその隣。
やや後ろに18番バーチューマインドが続いている。
向こう正面に入っていきます。先頭はデュオスヴェルに変わっている。
先頭はデュオスヴェル。その差は2バ身から3バ身。
ジャラジャラが続いて3番手はラピッドビルダー。
サンセットグルーム、その後ろにフォローザサン。アグネスタキオンはここにいた。
内を突いてチャタリングチーク。ブラックグリモアが距離を詰めてきた。
ピンクシュシュ、バーチューマインドと続き14番ミニラベンダー、13番マンハッタンカフェの姿もここにあります。
向こう正面中間を過ぎた辺り、後方に控えていたウマ娘たちが徐々に差を詰めていく。
外からするすると17番ツールジボワールが上がっていった。その後を追って2番バードアンドクリフ。
5番ブリーズドローン、16番イッツコーリング、6番フリルドグレープ、その内を通って4番クラースナヤも動いた。
最後方には15番リボンスノレディ。先頭から後方までおよそ10~15バ身といったところで三コーナーに入っていきました……』
『――デュオスヴェル先頭。その差は3バ身から4バ身。
残り1000メートルを通過した。このまま逃げ切ることができるか。後続が徐々に迫ってくる。
2番手は11番ジャラジャラ、ちょっと脚色が苦しいか。
9番ラピッドビルダーが3番手。サンセットグルームは位置を落としています。
変わって内をすくうように1番チャタリングチークが4番手に上がっていました。
1バ身ほど開いて10番フォローザサン。すぐ後ろにアグネスタキオン。
3番手集団が一気に迫ってきた。
ブラックグリモア、ピンクシュシュ、バーチューマインドがひとかたまりとなる中を割って、マンハッタンカフェが位置を押し上げている。
大外からはツールジボワールが良い気配だ。
残り600を切ってさぁ最後の直線に差し掛かってきた。
先頭は変わらずデュオスヴェル。だがもう一杯か。チャタリングチークが並びかけてくる。
大きく横に広がった展開で最後の直線!
ここでチャタリングチークが先頭に立った。アグネスタキオンはまだか。
バ群を割ってマンハッタンカフェが迫ってくる。
その後ろからフリルドグレープが続くが届くかどうか。
残り400!
さぁアグネスタキオンが来た!
チャタリングチーク粘っている!
最後の坂をツールジボワールが凄い脚だ!
内からマンハッタンカフェも伸びている!
だがアグネスタキオンだ!
チャタリングチークを交わしてアグネスタキオンが先頭! 脚色は衰えない!
残り200!
マンハッタンカフェ! ツールジボワールも迫る!
アグネスタキオン! 後続との差はどうか!
アグネスタキオン! マンハッタンカフェ! ツールジボワール!
三人の争いとなった! しかしアグネスタキオンが抜け出した!
追撃を振り払ってアグネスタキオンだ! ……』
「おーすトレーナー! ……って、まーたそのレース観てんのー?」
トレーナー室に入ってきたツールジボワールが、不満げに口を尖らせた。
トゥインクルシリーズU18クラス、日本ダービー。
彼女はそこでアグネスタキオンと見事に渡り合い、堂々の戦績を残した。
着順だけを見れば負けだったろうが、そこに恥じるものは何もない……と、パートナーである彼はそう思っている。
「まぁ、そう言うな。俺にとっては、大事なレースなんだ」
「せっかくなら勝ったレースにしてよー。ほら、青葉賞とか、年明けのAJCCとかさぁ」
不貞腐れる彼女を宥めながら、男は少しだけ振り返る。
彼にとって最後の軛を破壊したのは、間違いなくこの日本ダービーだった。
ツールジボワールは、皐月賞こそ間に合わなかったが、青葉賞での勝利を引っ提げての挑戦。
対するアグネスタキオンは、メイクデビュー、ホープフルS、弥生賞、皐月賞と4戦4勝。
彼の知る歴史を乗り越え、ダービーにおける最大のライバルとして立ちはだかった彼女に対し――もしやと思わせる三着。
「あーもう、思い出したらウズウズしてきた! 次の宝塚こそは勝つんだから! トレーナー! トレーニングトレーニング!」
「まぁ待て、そろそろ他の奴らも来る頃だ」
「あれ、今日からだっけ?」
彼がトレセン学園のトレーナーとなってから、三度目の夏を迎えようとしている。
この間に、彼の評価も随分と改まったが……それ以上に、その心境に大きな変化があった。
「ミホノブルボンとライスシャワー、だっけ」
「お、よく覚えてたじゃないか」
新たに彼が担当することになったウマ娘。
いずれも、U15クラスのトゥインクルシリーズに挑戦する予定……となっている。
この事を、少し前の彼が知ったら酷く動揺することだろう。
実際のところ、彼自身かなりの英断だったと思っている。
「そうだ、前から聞こうと思ってたんだけど、何でその二人を担当しようと思ったの?」
「……んー、そうだな。ようやく、向き合う勇気が出てきた……ってことでどうだ?」
口には出さないが、それはツールジボワールのおかげだと彼は思っている。
彼の知る名馬だろうと、そうでなかろうと、『ウマ娘』であることに違いはないのだと、彼女はダービーで身を以て証明してくれたからだ。
そんな彼の内心など知る由もなく、ツールジボワールは怪訝な顔をした。
「中等部の子だと気後れしてたってこと? そういや昔、ダイワスカーレットって子に説教されたとか」
「ちょっとやめないか」
妙なところで過去の恥が掘り返されたな、と男はうなだれる。
そのダイワスカーレットも、今はU15クラスで暴れ回っているようだ。ウオッカとの二強と称され、秋の直接対決に向けて火花を散らしていると聞く。
まさかダービーに出走するとは思わなかったが……風邪は引かなかったようなので、一応、彼の助言は効果があったのかもしれない。
「ま、お前たちはウマ娘だってことが、『言葉』でなく『心』で理解できたってところか」
「はーん? 確かにウマ娘ですが?」
はてな顔のパートナーに、トレーナーはひらひらと手を振った。
と、トレーナー室の扉がノックされる。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
「し、失礼しましゅ……」
入ってきたのは、二人のウマ娘。
一人はミホノブルボン。栗毛の長髪をたなびかせ、どこか超然とした雰囲気をまとっている。
もう一人はライスシャワー。小柄な体を震わせながらも、漆黒の長髪から覗く目には確かな意志を感じさせる。
「おっ、噂の後輩コンビだ! 私はツールジボワールだよ!」
「俺のスカウトを受け入れてくれて、まずは礼を言わせてほしい。ありがとう。今日から、俺が君たちのトレーナーになる――」
自らがトレーナーなのだと名乗ること。
新人だった彼は、たったそれだけのことをこなすために、随分と遠い回り道をしてきた。
多くの人々とウマ娘に迷惑をかけ、それでも手を取ってくれたパートナーに支えられて、ようやく――彼はトレーナーになれたのだ。
工事完了です……。
ブルボンが高等部なのにライスが中等部っておかしいよなァ!? と勝手にキレてどっちも中等部にしました。(5/4 20:23追記)ライスも高等部やん! どうしてくれんのこれ? この宇宙では中等部です。(ここまで)
今回は実況部分を書こう、と思って挑戦したんですがスゲー大変でした(小波)。
ウイポとかウマ娘とかもっと実況バリエーション増やせとか思っててスンマセンでした!
後書きで補足するのもカッコつかないんですが、トレーナー君が怖がっていたものの一つは、『あの馬の未来を自分が台無しにしてしまうんじゃないか?』というのがありました。
本来なら桜花賞と秋華賞の二冠を達成するダスカが、自分が担当したが故に桜花賞すら勝てないのではないか……みたいな。おう作者の最初のウマ娘プレイ晒すのやめろ。
ただ、一方でそれは競馬ファンの想像するIF、例えば『故障をしないブルボンやライス』とかにも繋がるわけで、彼はその未来を掴む可能性に目を向けられるようになった、と。
何でか、タキオンは自力で掴み取ってましたが……。
で。
感想を思った以上にたくさん頂いており、本当にありがとうございます。ビビりました。
この人僕よりトレーナー君のことを考察してるな、と思うことも多く、このラストが果たしてどう受け取ってもらえるかを考えると、やっぱりビビっています。
最初は、ゴールドシップ出してコメディ書いたろ! よーし主人公は転生チートなのに担当がいない残念な奴だゾ!
と気軽に書き始めたら、思った以上にウジウジしてしまったというのが二話以降でした。
こりゃいかん、とゴルシに無理やり軌道修正してもらったんですが、アレがなければまだウジってたかもしれない。
やゴ神。
長々と僕の感想を書いても仕方ないので、この辺で。
拙作にお付き合いいただき、ありがとうございました。
もし別の機会があれば、またどうぞよろしくお願いします。